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【さくらフィナンシャル人物研究】石田浩とは何者か                学歴・階層・社会移動をデータで読み解いた日本社会学の第一人者            日本社会は、本当に「努力すれば報われる社会」なのか。

親の職業、家庭の経済力、学歴、出身階層は、子どもの人生にどこまで影響するのか。戦後日本は長く「一億総中流」と呼ばれ、欧米に比べて格差が小さく、教育を通じて誰でも上に行ける社会だと語られてきた。

しかし、そのイメージは本当に正しかったのか。

この問いに、感覚論ではなく、社会調査と統計分析、そして国際比較によって向き合ってきたのが、社会学者・石田浩である。

石田浩は、日本の社会階層研究、社会移動研究、教育と労働市場の研究を代表する研究者である。東京大学名誉教授であり、元東京大学社会科学研究所所長。ハーバード大学で博士号を取得し、コロンビア大学で教員を務めた後、東京大学社会科学研究所で長く研究と教育に携わった。

その研究の中心にあるのは、きわめて根本的な問いである。

人は、生まれによってどこまで人生を左右されるのか。

学歴は、社会的上昇の手段なのか、それとも格差を再生産する装置なのか。

日本社会は、欧米と比べて開かれた社会なのか。

それとも、見えにくい形で階層が固定化している社会なのか。

石田浩の功績は、日本社会の「階層」と「移動」を、データによって可視化した点にある。

 1 社会階層研究とは何か

石田浩の専門である社会階層研究とは、社会の中で人々がどのような地位に置かれ、その地位がどのように決まり、世代を超えてどのように受け継がれるのかを分析する学問である。

たとえば、親が医師、弁護士、大学教授、大企業管理職である家庭の子どもは、高い教育を受けやすい。大学進学率も高く、専門職や大企業に就く可能性も高い。

一方、親が低所得で、学歴も高くなく、教育費に余裕がない家庭の子どもは、進学や就職の選択肢が制限されやすい。

この差は、単なる個人の努力だけで説明できるのか。

それとも、家庭環境や社会構造が人生の出発点を大きく左右しているのか。

社会階層研究は、この問題を扱う。

日本社会では長らく、「努力すれば何とかなる」「学歴は本人の努力で手に入れるもの」「日本は階級社会ではない」という感覚が強かった。しかし、社会学はそこにデータで問いを投げかける。

誰が大学に進学しやすいのか。

誰が安定した職業に就きやすいのか。

誰が親より上の階層に移動できるのか。

誰が親と同じ階層にとどまりやすいのか。

こうした問いを、統計的に分析する。

石田浩は、この分野において、日本を代表する研究者の一人である。

2 ハーバード、オックスフォード、コロンビアを経た国際派社会学者

石田浩の経歴は、日本の社会学者の中でも非常に国際的である。

1954年生まれ。東京都出身。1979年に上智大学文学部社会学科を卒業した後、ハーバード大学大学院社会学部に進学し、1983年にM.A.、1986年にPh.D.を取得している。

その間、1985年から1988年にかけては、オックスフォード大学セント・アントニーズ・カレッジ、ナッフィールド・カレッジで研究員を務めた。その後、1989年にコロンビア大学社会学部助教授、1991年には准教授となっている。

この経歴は重要である。

日本社会を研究するにしても、日本国内だけを見ていては、その特徴は見えにくい。欧米の社会学、特に社会階層論、社会移動論、教育社会学、労働市場研究の蓄積と比較することで、日本社会の構造がより鮮明になる。

石田浩の研究には、常に国際比較の視点がある。

日本は本当に平等な社会なのか。

欧米と比べて、階層移動は大きいのか小さいのか。

学歴が職業達成に与える影響は、他国と比べてどう違うのか。

日本型雇用慣行は、社会移動にどのような影響を与えてきたのか。

こうした問いは、海外で研究経験を積んだ石田浩だからこそ、より鋭く分析できたと言える。

3 代表作『Social Mobility in Contemporary Japan』の意義

石田浩の代表的業績の一つが、1993年に刊行された英語著作『Social Mobility in Contemporary Japan: Educational Credentials, Class, and the Labour Market in a Cross-national Perspective』である。

この本のテーマは、現代日本における社会移動である。

社会移動とは、親の世代と子どもの世代で、社会的地位がどのように変化するかを意味する。たとえば、親が農業従事者で子どもが大企業管理職になれば、上昇移動が起きたと言える。逆に、親が専門職で子どもが不安定雇用に置かれれば、下降移動が起きたと言える。

戦後日本では、高度経済成長によって、多くの人が農村から都市へ移り、工場、企業、官公庁、サービス業へと職業を変えた。教育機会も拡大し、高校進学率、大学進学率は上昇した。

そのため、日本社会は「開かれた社会」「努力すれば上に行ける社会」と見られがちだった。

しかし、石田浩は、そうした単純な見方をデータで検証した。

学歴は、社会移動の重要な手段である。

しかし、学歴取得そのものが、家庭の階層によって左右される。

そして、労働市場における職業達成もまた、学歴や出身階層の影響を受ける。

つまり、学歴は一方では上昇移動の手段でありながら、他方では階層を再生産する装置にもなり得る。

この二面性を明らかにした点に、石田浩の研究の重要性がある。

4 SSM調査と日本社会の階層構造

石田浩の功績を語るうえで欠かせないのが、SSM調査である。

SSMとは、「社会階層と社会移動」調査のことであり、日本社会における階層構造、職業移動、教育達成、所得、意識などを継続的に調べてきた大規模社会調査である。

日本で格差を論じるとき、感情的な議論になりやすい。

「昔はみんな中流だった」

「今は格差社会になった」

「親ガチャで人生が決まる」

「努力すればまだ何とかなる」

こうした言葉は社会の実感を表しているが、実感だけでは政策は作れない。必要なのは、長期的なデータである。

SSM調査は、日本社会の階層構造を長期的に把握するための重要な基盤となってきた。石田浩は、この調査研究に深く関わり、日本社会の階層と移動の実態を明らかにしてきた。

たとえば、親の職業階層が子どもの教育達成にどの程度影響するのか。

教育達成が職業達成にどの程度つながるのか。

高度成長期と低成長期で、社会移動の構造はどう変わったのか。

男性と女性で、階層移動の機会はどう違うのか。

若年世代では、非正規雇用や不安定就労が階層形成にどう影響しているのか。

こうした問いを、石田浩は実証的に分析してきた。

5 「一億総中流」神話をデータで問い直す

戦後日本には、「一億総中流」という強い自己イメージがあった。

多くの人が自分を中流だと感じ、極端な貧富の差は少なく、欧米のような階級社会ではない。そうした認識が、長く日本社会を支えてきた。

しかし、石田浩の研究が示してきたのは、日本社会も決して階層から自由ではないという現実である。

たしかに、戦後の高度成長期には、産業構造の変化によって多くの上昇移動が起きた。農業から工業・サービス業へ、地方から都市へ、中卒・高卒から大卒へという大きな変化があった。社会全体が拡大していたため、多くの人が親世代よりも高い職業的地位を得ることができた。

しかし、それは社会構造全体が上向きに変化していたからでもある。

経済成長が鈍化し、雇用が不安定化し、教育費が上がり、家庭の経済力が進学機会を左右するようになると、階層の固定化が見えやすくなる。

つまり、日本社会が平等だったのではなく、成長によって不平等が見えにくくなっていただけではないか。

この問いは、現在の日本にとって非常に重要である。

少子化、教育費負担、非正規雇用、奨学金返済、地方と都市の格差、親の所得による進学格差。こうした問題は、すべて社会階層研究のテーマである。

石田浩の研究は、現在の「親ガチャ」論や教育格差論を考えるうえでも、重要な基礎を提供している。

 6 学歴は社会を開くのか、閉じるのか

石田浩の研究で特に重要なのが、学歴の役割である。

学歴は、近代社会において、身分や家柄に代わる公平な選抜装置とされてきた。生まれではなく、努力して勉強し、試験に合格し、大学へ進学すれば、良い職業に就ける。これは、近代社会の重要な理念である。

しかし、実際には、学歴の取得自体が家庭環境に左右される。

親の所得が高い家庭ほど、塾、私立学校、家庭教師、海外留学、大学進学に投資できる。親の学歴が高い家庭ほど、進学に関する情報や文化資本を持っている。家庭の中に本があり、勉強する習慣があり、大学進学が当然とされている環境では、子どもも自然に高学歴を目指しやすい。

一方、経済的に厳しい家庭では、進学費用が重くのしかかる。大学進学より早く働くことが求められる場合もある。親が大学進学を経験していない場合、受験や進路選択の情報が不足しやすい。

つまり、学歴は公平な競争の結果であると同時に、家庭の階層差を反映するものでもある。

この点を見落とすと、社会は「学歴で選抜しているから公平だ」と誤解してしまう。

石田浩の研究は、学歴を単なる個人の努力の結果としてではなく、家庭、階層、労働市場と結びついた社会制度として分析した点に大きな意義がある。

7 労働市場と階層形成

石田浩の研究は、教育だけでなく、労働市場にも向けられている。

どのような学歴を持つ人が、どのような職業に就くのか。

新卒一括採用、終身雇用、年功序列といった日本型雇用慣行は、社会移動にどのような影響を与えたのか。

正社員と非正規雇用の分断は、階層構造をどう変えたのか。

戦後日本では、大企業正社員になることが、安定した中流生活への道だった。企業内で賃金が上がり、住宅ローンを組み、家族を養い、子どもを進学させる。このモデルが、戦後の中流社会を支えてきた。

しかし、このモデルは誰にでも開かれていたわけではない。

学歴、性別、出身地域、家庭背景によって、大企業正社員への入り口は大きく違った。女性は長く補助的な雇用に置かれ、出産・育児によってキャリアを中断しやすかった。低学歴層や地方出身者は、職業選択の幅が狭くなりやすかった。

さらに、1990年代以降の雇用の流動化と非正規化は、若年層の階層形成に大きな影響を与えた。

最初の就職で不安定な雇用に入ると、その後のキャリア形成が難しくなる。所得が低ければ、結婚、出産、住宅取得、子どもの教育にも影響する。こうして階層的不利は、次世代に引き継がれていく可能性がある。

石田浩の研究は、教育と労働市場を切り離さず、人生のチャンスの連鎖として分析している点に特徴がある。

 8 さくらフィナンシャルの視点 格差は金融と経済の根本問題である

さくらフィナンシャルの視点から見ると、石田浩の研究は、単なる社会学の研究にとどまらない。

格差や階層は、金融、資本市場、労働市場、教育投資、人的資本、少子化、地域経済に直結する問題である。

親の所得が高い家庭ほど、子どもに教育投資できる。

高学歴の子どもほど、高所得職に就きやすい。

高所得職に就いた人ほど、資産形成がしやすい。

資産を持つ家庭ほど、次世代に教育と資本を引き継げる。

この循環が強まれば、社会は固定化する。

一方、家庭環境に恵まれない子どもが、教育機会を得られず、不安定雇用に入り、資産形成ができず、次世代にも不利が引き継がれるなら、社会全体の活力は失われる。

格差は、道徳の問題だけではない。

経済成長の問題である。

人的資本の問題である。

少子化の問題である。

民主主義の問題である。

石田浩の研究は、こうした問題を考えるための基礎データと分析視角を提供している。

 結論 石田浩は「日本社会の見えない階層」を可視化した研究者である

石田浩の功績を一言で言えば、日本社会の見えにくい階層構造を、データによって可視化したことである。

日本は平等な社会なのか。

努力すれば上に行ける社会なのか。

学歴は公平な競争の結果なのか。

親の階層は子どもの人生をどこまで左右するのか。

労働市場は人々に開かれているのか。

戦後日本の「一億総中流」はどこまで実態を伴っていたのか。

石田浩は、こうした問いに対し、印象論ではなく、社会調査と統計分析、国際比較によって迫ってきた。

彼の研究が重要なのは、日本社会に対して不都合な問いを投げかけるからである。

「努力不足」で片付けてよいのか。

「自己責任」で済ませてよいのか。

「日本は平等な国だ」という神話に甘えてよいのか。

石田浩の研究は、そうした安易な物語を許さない。

家庭の階層、教育機会、学歴、労働市場、職業達成、所得、資産形成。これらはすべてつながっている。そして、そのつながりを正確に見なければ、格差対策も教育政策も雇用政策も誤る。

日本社会が本当に開かれた社会であるためには、まず階層構造を直視しなければならない。

石田浩は、そのための知的基盤を築いた社会学者である。

少子化、教育格差、非正規雇用、地方衰退、親ガチャ、資産格差。現代日本が抱える問題の多くは、石田浩が研究してきた社会階層と社会移動の問題に深く関わっている。

だからこそ、石田浩の研究は、過去の社会学ではない。

これからの日本を考えるための、極めて実践的な知の体系なのである。

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