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【特集】改憲ムードは誰のために作られるのか                   読売新聞・正力CIA人脈・高市政権・スパイ防止法                そして「第二の戦前」をめぐる危機

(さくらフィナンシャルニュース編集部)

2026年3月、読売新聞は、自民党内の人事が「改憲シフト」になっていると報じ、高市首相が「かなり熟してきた」と語り、周辺では「完全に改憲を狙いにいく態勢だ」との見方が出ていることを伝えた。つまり、政権と与党中枢が、選挙での勢いを背景に、憲法改正の発議へ向けて本格的に動こうとしている、ということである。これは単なる一記事ではない。いま日本の政治空間で、何が“国民的課題”として押し上げられようとしているのかを示す象徴的なシグナルである。

しかし、ここで立ち止まらなければならない。

いま本当に、日本社会が最優先で議論すべきなのは改憲なのか。

物価高が続き、食料価格は上がり、実質賃金は弱い。家計は重くなり、可処分所得は圧迫され、若い世代は結婚や出産や住宅取得に希望を持ちにくくなっている。こうしたときに政治が最優先で向き合うべきは、消費税を含む税負担の見直し、社会保険料の軽減、教育費・住宅費・子育て費用の圧縮、そして賃上げを可能にする経済環境の整備であるはずだ。ところが現実には、生活再建より先に改憲と軍拡が語られている。そこに、現在の日本政治の歪みがある。

改憲ムードを後押しする読売新聞をどう見るべきか

新聞が改憲を論じること自体は自由である。だが問題は、その議論がどのような歴史的系譜の上に置かれ、どのような国家像と接続しているかである。

読売新聞を考えるとき、避けて通れないのが正力松太郎という存在だ。米国公文書館の公開資料では、CIAのコードネーム「PODAM」が正力松太郎を指していたことが確認されている。正力は、読売新聞を率い、日本テレビを育て、戦後日本における原子力推進や対米協調の空気づくりに大きな役割を果たした人物である。ここから直ちに「現在の読売はCIAの機関紙だ」と断定するのは飛躍だ。だが、少なくとも読売グループの源流に、戦後日本の対米情報戦や世論形成と深く結びついた歴史があることは否定できない。

重要なのは、新聞が単に出来事を報じるだけではなく、何を“時代の要請”として位置づけるかを通じて、政治の優先順位そのものを演出する力を持っているという点だ。読売が改憲を「熟してきた課題」として報じるとき、それは単なる観測記事ではない。国民生活の危機よりも先に、国家体制の再設計を前面化させる一種の世論誘導として読む必要がある。

いま進んでいるのは「生活再建」ではなく「軍事優先」である

2026年度の防衛予算は過去最大規模となり、9兆円台に乗ったと報じられている。無人機、ミサイル、統合防空、対中抑止、南西シフト――こうした言葉が“現実的対応”として繰り返されている。だが、ここで考えなければならないのは、国家の限られた資源をどこへ優先配分するのかという問題である。生活困窮と少子化が同時進行する社会において、軍事費の急膨張を最優先する政治は、本当に「国民を守る政治」と呼べるのか。

「中国の脅威があるから仕方ない」と言う人もいるだろう。たしかに中国の軍事動向や影響工作は現実の課題である。だが、その現実の課題を理由に、あらゆる軍拡・改憲・監視強化を一括で正当化するのは危険である。脅威が存在することと、それを口実に国家権力を肥大化させることは別問題だからだ。

本来、安全保障とは戦争を避けるための技術である。ところが、現在の日本で広がっているのは、戦争を避ける外交努力よりも、戦争に備える制度と装備の整備ばかりを“現実主義”とする空気である。その空気は、国民生活の苦しさを後景に追いやる。

1941年改正治安維持法と大政翼賛会が教えるもの

戦前日本が破局へ向かった過程を振り返るとき、私たちはしばしば「開戦」や「真珠湾」だけを思い浮かべる。だが、本当に重要なのはその前段である。

1940年には大政翼賛会が発足した。建前は「国民的統合」だったが、結果として生まれたのは、反対や異論を表明しにくい政治空間だった。与野党の境界は曖昧になり、“国家のための一致”が美徳とされる空気が形成された。民主主義の形式が完全に消える前に、まず中身が痩せ細ったのである。

そして1941年には、治安維持法が全面改正され、重罰化され、思想・準備行為・予防拘禁を含む形で統制が強化された。さらに同年には新聞紙等掲載制限令も出され、政府が「国策に支障がある」と判断した情報の掲載が制限された。ここで見なければならないのは、単に昔は弾圧がひどかったという話ではない。

国家が“危機”を理由に異論を嫌い、メディアが国策の合理性を説明し、反対することが非国民的に見え始めたとき、戦争への道は急速に開かれるという構造そのものである。

現在の日本に治安維持法はない。複数政党制も選挙もある。だから単純に「今は戦前と同じだ」と言うのは正確ではない。だが、危機を強調し、異論を“甘い”と切り捨て、国家権力の強化を当然視する空気は、紛れもなく戦前と重なる部分がある。

日本会議・高市政権・改憲路線の重なり

高市首相は、日本会議と近い関係にある政治家として知られてきた。実際、高市氏は日本会議国会議員懇談会の発足当初からのメンバーであり、同団体の公開文書でも、憲法改正への期待を担う政治家として位置づけられてきた。日本会議自身も、憲法改正を中心課題の一つとして掲げている。つまり、高市政権の改憲路線は偶発的なものではなく、長年の保守運動・改憲運動の延長線上にある。

問題は、それが単に憲法論にとどまらず、国家観・家族観・歴史観・安全保障観を一体のものとして押し出してくることである。改憲だけではない。教育、皇室、家族制度、安全保障、歴史認識を一つのパッケージとして再編しようとする運動が、政治の中心へ近づいている。

この流れの中で、「改憲」は単なる法技術的な議論ではなくなる。

それは、国家を先に置き、個人の自由や生活を後ろに置く発想と接続しやすくなるのである。

統一教会・勝共連合と「スパイ防止法」の悲願

ここでさらに見逃せないのが、スパイ防止法である。

国際勝共連合は、長年にわたり、スパイ防止法制定を重要課題として訴えてきた。近年も同団体会長が「日本を守るためスパイ防止法を一刻も早く実現する」と講演で主張している。日本会議の近年の発信でも、自民・維新の連立合意に盛り込まれた「インテリジェンス・スパイ防止関連法制」について歓迎する論調が示されている。

つまり、スパイ防止法は、統一教会系・勝共連合系の反共右派にとって、いまなお“悲願”と呼べるテーマであり続けている。

この点は、歴史的にも連続性がある。1980年代の「国家秘密法案」「スパイ防止法案」をめぐっては、岸信介系の保守政治家、人脈、反共右派、そして勝共連合が制定運動を後押ししていたことが、複数の報道・調査で示されている。日弁連が当時の法案について、国家秘密の範囲が広範で恣意的運用を許し、取材・言論・日常会話まで処罰の対象となり得ると強く反対したのは象徴的である。

つまり、スパイ防止法は単なる治安立法ではない。

国家が秘密を広く指定し、情報の流れを管理し、言論や取材や市民活動に萎縮効果を与える可能性を持つ制度として、歴史的に批判されてきたものでもある。

高市自民党はどこへ向かっているのか

高市氏自身は、自民党の治安・テロ・サイバー犯罪対策調査会の会長として、「治安力」の強化に関する提言をまとめている。そこでは海外発の偽情報や影響工作への対策、インテリジェンス機能の強化などが打ち出されている。さらに、高市政権下で自民党と維新の連立合意には、国家情報局、対外情報庁、スパイ防止関連法制の検討が盛り込まれたと報じられている。高市政権が、改憲と並んで「情報・治安国家」的な制度整備を重視しているのは、もはや偶然ではない。

ここで問われるのは、その制度が本当に対外スパイ対策にとどまるのかということだ。

歴史を振り返れば、国家が「安全保障」「機密」「秩序維持」の名で作った制度は、しばしば内向きに使われてきた。対外的脅威への対応として始まったはずの仕組みが、国内の異論、取材、運動、内部告発、批判言論を萎縮させる方向へ拡張される。そこが最大の問題なのである。

神谷宗幣・参政党もまた同じ方向を向いている

参政党と神谷宗幣氏も、この流れの外にはいない。

むしろ、かなり前からスパイ防止法制定を前面に掲げてきた。神谷氏は以前から、日本には「スパイ防止法」がないために無防備だと主張しており、2025年以降、参政党は公式にスパイ防止関連法案の提出を打ち出している。党の記者会見や公式発信でも、「スパイ防止法の制定」が主要プロジェクトの一つとして位置づけられている。

この点で、高市自民党と参政党は、表面的には別勢力に見えても、改憲・対中脅威の強調・情報戦対応・スパイ防止法・国家主義的価値観という領域で重なりが大きい。神谷氏や参政党は反グローバリズム、減税、ワクチン批判などを織り交ぜながら支持を集めているが、その一方で、国家による情報統制・監視強化と親和的な法制度を推進している点は見逃せない。

ここにこそ、今日的な危うさがある。

「既成政党批判」「庶民感覚」「反グローバリズム」を掲げながら、制度の中身を見ると、国家の監視能力と秘密管理能力を大幅に強化する方向へ向かっている。これは、戦前のような露骨な弾圧と同じ形ではなくとも、結果として「異論が言いにくい国家」を作る条件を整えることになりかねない。

スパイ防止法は「現代版・治安維持法」の入口になりうるのか

もちろん、現在議論されているスパイ防止法案が、そのまま1941年改正治安維持法と同一だと言うことはできない。法体系も社会条件も異なる。だが、ここで大事なのは条文の一致ではなく、世界観の一致である。

その世界観とは何か。

それは、国家が「危機」を理由に情報を広く管理し、国民に協力を求め、異論や内部告発や批判報道を“国益を損なうもの”と見なしやすくなる発想である。

実際、1985年の国家秘密法案に対して日弁連は、取材・報道活動や市民の日常生活にまで刑罰による統制が波及しうると強く批判した。これは、まさに「現代版の治安立法」に対する警戒だった。

いま高市自民党や参政党が推すスパイ防止法が、対外工作対策に限定されず、国家情報局、秘密保護、影響工作対策、偽情報対策と結びついていくならどうなるか。そこでは、国家が「何が真実で、何が危険な情報か」を選別する力を強めていくことになる。しかも、その判断主体は国家権力そのものだ。

この構図は、戦前の治安維持法と同じ条文ではなくとも、改正治安維持法的な世界観への接近と見ることができる。

だからこそ、「スパイ防止法が必要か不要か」という単純な二択ではなく、

それがどのような国家観の上で、どこまで広く秘密を指定し、どこまで市民社会を萎縮させるのかを厳しく問わなければならない。

中国との緊張が得をするのか

こうした改憲・軍拡・スパイ防止法の議論は、多くの場合「中国の脅威」を背景に正当化される。だが、ここでも冷静な視点が必要である。

中国との緊張が高まれば、まず利益を得るのは防衛産業であり、軍需契約を受ける企業群であり、地政学的危機をビジネス化できるプレイヤーたちである。アメリカでは、アイゼンハワー大統領がすでに退任演説で「軍産複合体」の影響力に警鐘を鳴らしていた。

さらに近年の研究でも、米国防総省の巨額契約が少数の大手企業に集中していることが示されている。戦争や緊張が“市場”になる構造は、決して陰謀論ではなく、近代国家が抱える現実の一側面である。

中国との無用な緊張を煽り、日本を前線国家化し、軍拡とスパイ防止法を急ぎ、改憲で

国家権力の枠組みを変える。

その先で得をするのは誰か。

少なくとも、日々の生活に苦しむ庶民ではない。

アメリカの武力行使には沈黙し、中国には強硬姿勢を取る矛盾

高市政権の危うさは、対米姿勢にも表れている。

イラン攻撃をめぐって、高市首相は国会で「法的評価を差し控える」と答弁したと報じられている。一方で、ロシアや中国に対しては国際秩序や法の支配を強調する。

この二重基準は何を意味するのか。

結局のところ、日本は対米従属の枠を越えられていないということである。

米国の軍事行動や地政学戦略には口をつぐみ、中国との対立は前面に出す。

その中で、日本国内では改憲とスパイ防止法が進み、国民には負担増と監視強化がやってくる。

これでは、主権国家としての自立ではなく、同盟国の戦略に沿った国内体制整備に近い。

いま重なりつつあるのは「法の戦前」ではなく「空気の戦前」

現在の日本に、1941年の治安維持法そのものは存在しない。

しかし、いま重なりつつあるのは、法文としての戦前ではなく、空気としての戦前である。

改憲に慎重なら「現実が分かっていない」。

軍拡に反対すれば「中国の脅威を見ていない」。

スパイ防止法に疑問を呈すれば「日本を守る気がない」。

こうした単純化されたラベリングが広がるとき、民主主義は形式を残したまま中身を失っていく。

大政翼賛会の本質は、党が一つになったことそのものではなかった。

反対することが空気の上で難しくなることこそが本質だった。

そして1941年改正治安維持法の本質も、国家が危機を理由に思想・言論・行為の予防的統制へ踏み込んだ点にあった。

いま高市自民党と神谷・参政党が前へ進めようとしている改憲、軍拡、国家情報局、スパイ防止法の流れは、そのままではないにせよ、確かにその世界観へ接近しているのではないか。

その疑問は、十分に提起されるべきである。

結論――必要なのは改憲でも監視強化でもなく、生活再建と外交自立である

いま日本に必要なのは、改憲ムードの演出ではない。

軍拡の既成事実化でもない。

スパイ防止法の名の下に国家の情報統制能力を肥大化させることでもない。

必要なのは、

国民生活の再建である。

消費税を含む税負担の見直し、社会保険料の軽減、教育・医療・住宅の負担軽減、子育て支援の拡充、実質賃金を底上げする経済政策――まずそこに力を注ぐべきだ。

同時に必要なのは、

外交の自立である。

アメリカの違法な武力行使には沈黙し、中国との対立だけを煽るような外交では、真の主権国家とは言えない。日本が目指すべきは、軍産複合体の利益に沿った緊張拡大ではなく、偶発衝突を避けるための外交努力と地域安定の構築である。

そして必要なのは、

空気に抗う言論である。

改憲、軍拡、スパイ防止法、国家情報局――こうしたものが「当然の備え」として一括で受け入れられるとき、民主主義は静かにやせ細っていく。

だからこそ、いま問うべきなのだ。

この流れは、本当に国民のためなのか。

それとも、日本会議、統一教会、勝共連合が長年求めてきた国家像、すなわち国家が強く、異論が弱く、監視と統制が正当化されやすい体制へ向かう流れなのではないか。

もし後者であるなら、それは単なる保守化ではない。

それは、「第二の戦前」への危険な接近である。

参考資料

読売政治部による改憲シフト報道関連発信
自由民主党「『治安力』の強化に関する提言」
日本会議「高市政権の衆院選大勝利の意義と展望」
日本会議「自民・維新連立、国家情報局創設、対外情報庁設置で連立合意」
日本会議「令和8年度を迎えるにあたって」
参政党「スパイ防止法案を提出」
参政党「臨時記者会見報告 10月1日」
神谷宗幣公式サイト「国政政党の2年間の活動を振り返って」
神谷宗幣公式サイト「そろそろインテリジェンスを考えよう!」
国際勝共連合関係発信「直ちにスパイ防止法を制定せよ」
世界日報「スパイ防止法の早期制定を 勝共連合・渡邊会長が講演」
国立国会図書館「大政翼賛会」関連解説
国立公文書館「治安維持法改正法律・昭和16年」
日本弁護士連合会「国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案に反対する意見」
JBpress「『スパイ防止法』、高市政権発足で追い風に…」
毎日新聞「政府、スパイ防止法を夏以降に議論へ」

米国公文書館公開資料(正力松太郎とCIA関連史料)



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