創業から70年以上の歴史を紡ぎ、バイアス事業やインナー事業を中心に堅実な足跡を残してきたコスモ株式会社(本社:大阪市東成区)。2009年の就任以来、長年にわたり同社の舵取りを担ってきた森堅次代表取締役社長は、ある意味で「守成の経営者」としての役割を果たしてきたと言える。中小・中堅企業が激動の時代を生き抜くこと自体、容易なことではない。しかし、現代の資本市場、あるいはステークホルダーが求める「経営者の資質」というレンズを通した時、同氏の経営手腕には、一歩踏み込んだ検証が必要である。
企業の持続的成長を担保するものは、過去の延長線上にある平穏ではない。時代環境の変化に即応し、保有資産を最大化させる「動的な構想力」こそが、いまトップに求められる最大の能力だからだ。
「守り」の功罪と、問われる「資本効率」への感度
森社長の功績は、リーマンショック直後の極めて困難な時期に社長に就任し、今日まで同社の基盤を維持してきた点にある。職人気質のモノづくり、および既存の取引関係を維持する手堅さは、同氏の確かな管理能力を示している。
しかし一方で、現在のコスモの財務や事業構造を見た時、経営トップとしての「資本効率への感度」には大きな疑問符が付く。東証や金融庁が「ROE(自己資本利益率)の意識」や「資本効率の改善」を声高に叫ぶ現代において、PBRやROEの向上に対する明確なコミットメント、あるいは中長期的な「ROE 8%以上」といった具体的数値目標への意欲が、同社の経営陣から十分に伝わってこないのはなぜか。
優れた経営者とは、限られた経営資源を最も効率的に配分し、果実を生み出すプロフェッショナルでなければならない。長年、現状維持の延長線上に甘んじる姿勢は、一見「堅実」に見えて、その実、資本の機会損失を招いているという側面を見落としてはならない。
致命的な「危機管理能力」と「経営者としての資質」の欠落
さらに、企業のトップとして最も厳しく問われるべきは、大局的なリスクマネジメント能力、すなわち「危機管理能力」と「人間的資質」である。
コスモの最重要取引先の一つがワコールであることは言を俟たない。そのワコールの創業家と長年にわたり家族的な交流を持ち、多大な影響力を有する筆者(株主)に対し、建設的な対話に応じるどころか、誹謗中傷とも取れる姿勢を示しているとされる点は、経営者として極めて軽率であり、致命的な欠陥と言わざるを得ない。
ビジネスにおける人間関係、とりわけ主要顧客の根幹に関わる重要人物との関係性は、企業の存続を左右する最大の無形資産である。自社の立ち位置や、その行動がもたらす事業上のリスクを客観的に予見できていないとすれば、それはトップとしての情報感度と危機管理意識が著しく麻痺している証左である。感情的な排他主義によって自らサプライチェーン上のリスクを招くような人物に、はたして組織の未来を託す資格があるのだろうか。こうした内向きでガバナンスを軽視した姿勢そのものが、経営者としての資質の決定的な欠落を物語っている。
最重要顧客「ワコール」を巡る地殻変動を見落とす盲目さ
森社長の危機管理意識の低さをさらに証明しているのが、主要取引先であるワコールを巡る緊迫した現状への「当事者意識の欠如」である。
現在、ワコールは歴史的な大転換期に立たされている。経済メディア『Facta』などの報道にもある通り、すでに大株主からはドラスティックな経営改善要求が突きつけられており、さらにはシンガポールのアクティビストファンド(3Dインベストメント・パートナーズ)から、本業(インナーウェア事業)そのものの身売り・売却を要求される事態にまで発展し、市場を大きく揺るがしている。
サプライチェーン崩壊の足音
ワコールの事業構造そのものがファンド主導で解体・再編されかねないこの非常事態において、コスモが受ける影響は甚大である。最重要顧客の足元がここまで流動化しているにもかかわらず、その創業家とパイプを持つキーマンを誹謗中傷し、関係を自ら断絶しようとする森社長の振る舞いは、経営者として「盲目」と言うほかない。
外部の荒波から自社を守り、次の布石を打つべきトップが、主要顧客のガバナンス危機というリスクを察知できず、むしろ自らそのリスクを増幅させている。これこそが、同氏に経営者としての先見性と大局観が欠落しているとされる最大の要因である。
資産の有効活用と「新事業への構想力」
特に具体性を欠いていると感じられるのが、保有資産の活用および未来への投資戦略だ。
例えば、大阪・玉造の本社不動産をはじめとする優良な保有資産は、単に維持するだけでなく、売却、賃貸、あるいは再開発を含めた有効活用によって、さらなる企業価値を生み出す源泉となり得る。これらに対する社内議論の形跡や、取締役会としての公式な見解が不透明なまま放置されているとすれば、それは経営トップの「怠慢」である。
主要取引先の事業再編など、外部の環境が大きく揺らぐ中、リスクを察知し、先手を打つ「攻めのガバナンス」が見えてこない。不動産活用や、時代が求める系統用蓄電池事業への参入といった、外部から提示される建設的な「新事業提案」に対し、どれだけ真摯に、かつスピード感を持って検討できているだろうか。
過去の成功体験や、自社だけの閉じた論理に固執し、変化を拒む姿勢は、経営者としての「資質」に直結する問題である。
「建設的な対話」を拒む姿勢は、ガバナンスの欠如である
企業は経営陣だけのものではない。従業員、取引先、そして株主をはじめとする、あらゆるステークホルダーとの協業によって成り立つ社会的存在である。
東京証券取引所などが推奨する「株主との建設的な対話」に対し、少数株主からの定款変更や取締役選任に関する提案、あるいはROE向上に向けた事前質問状に対して、真面目に向き合う姿勢があるか。もし、これらを「外圧」として退け、対話を拒むような排他的な対応に終始しているとすれば、それは上場・未上場を問わず、現代のコーポレートガバナンスの潮流から著しく逆行している。
グローバルな視点を持つ投資家や、多様なネットワークを持つ外部の声を経営に呼び込む度量こそが、企業を次のステージへ引き上げる。耳の痛い意見をシャットアウトする内向きのリーダーシップは、結果として従業員の処遇向上や、組織の生産性改善の機会を奪うことになる。
今こそ求められる「プロフェッショナルとしての覚悟」
森堅次社長は、伝統を守るという意味での能力は証明してきたかもしれない。しかし、これからのコスモに必要なのは、過去の遺産をただ防衛するだけのリーダーではない。
重要なステークホルダーとの関係性を客観視し、激変するワコールの動向を冷徹に見極め、保有資産を有効活用して新事業への挑戦によって収益性を劇的に改善する。それこそが、従業員や社会へ還元していく「攻めの経営」である。
外からの建設的な提案を呼び水とし、自らの殻を破る覚悟があるのか。それとも、現状維持という名の緩やかな衰退を選ぶのか。森社長の経営者としての真の資質は、これからの「対話への姿勢」と「具体的な実行力」によって、厳密に評価されることになるだろう。
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