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多数決はどこまで許されるのか―英米会社法が築いた少数株主保護の思想―

会社は多数決によって運営される。

株主総会では議決権の多い株主が経営方針を決定し、取締役を選任し、重要な意思決定を行う。これは会社法の基本原則であり、企業活動を円滑に進めるために欠かすことのできない仕組みである。

しかし、会社法の歴史を振り返ると、常に一つの問題が存在していた。

多数決は、本当に万能なのだろうか。

多数決によって会社を運営する以上、少数意見が採用されないこと自体は避けられない。しかし問題となるのは、多数株主がその支配力を利用して少数株主の利益や権利を不当に侵害する場合である。

英米の会社法は長い年月をかけて、この問題と向き合ってきた。

特に問題となったのは、非公開会社である。

上場企業であれば、経営方針に納得できない株主は市場で株式を売却して会社から離脱することができる。しかし非公開会社では株式を自由に売却することが難しく、一度株主になると容易に資金を回収できないことも少なくない。

その結果、少数株主が会社に残されたまま、支配株主によって経営から排除されたり、利益配分から取り残されたりする問題が各国で繰り返し発生してきた。

英国では、このような問題に対応するため、「少数株主への抑圧」という考え方が発展した。

現在の英国会社法では、「不公正な不利益(Unfair Prejudice)」という制度が設けられている。これは会社の運営が少数株主に対して不公正な不利益を与えている場合、裁判所に救済を求めることができる制度である。

英国の裁判所は長年にわたり、少数株主保護に関する判断を積み重ねてきた。その中で重視されるようになったのが、単なる法律上の権利だけではなく、株主同士の信頼関係や合理的な期待である。

例えば、共同で会社を設立したにもかかわらず、一方の株主が突然経営から排除される。あるいは、利益が出ているにもかかわらず支配株主だけが利益を享受し、少数株主には何も還元されない。そのような状況では、形式的には法律違反がなくても、公平性の観点から問題があると考えられるようになった。

有名なEbrahimi事件では、会社という形式をとっていても、実質的には共同経営者同士の信頼関係によって成り立っている場合があることが示された。裁判所は、そのような関係を一方的に破壊する行為に対して救済を認めている。

また、O’Neill事件では、単なる不満や期待外れだけでは足りず、株主間の合意や合理的な期待に反する不公正な行為が存在するかどうかが重要な判断基準になることが示された。

一方、米国でも同様の問題は長年議論されてきた。

米国の場合は州ごとに法制度が異なるため、英国のような統一的な制度は存在しない。しかし、多くの州では少数株主が投資時に抱いていた合理的な期待を重視する傾向がみられる。

例えば、会社設立時に経営へ参加することを前提として出資した株主が、後になって一方的に排除されるケースである。あるいは、支配株主によって雇用を打ち切られ、配当も受けられず、情報も与えられなくなるようなケースである。

米国の裁判所は、このような状況を単なる経営判断として片付けるのではなく、支配株主による少数株主への抑圧として検討してきた。

英米の制度には違いがあるものの、その根底に流れる考え方は共通している。

それは、会社法は多数決を認める一方で、多数株主に無制限の権力を与えているわけではないということである。

会社は民主主義のようでいて、完全な民主主義ではない。

株式の保有割合によって発言力が決まり、多数株主が強い影響力を持つ。しかし、その力が濫用されるならば、会社という組織そのものへの信頼が失われてしまう。

だからこそ英米会社法は、多数決を認めながらも、その行使に一定の限界を設けようとしてきた。

企業統治とは、単に経営者を監督する仕組みではない。

支配株主と少数株主の利益をどのように調整するのか。会社という組織の中で、公平性をどのように確保するのか。そのための知恵と工夫の積み重ねでもある。

少数株主保護の歴史は、多数決の否定ではない。

むしろ、多数決という仕組みを正当なものとして維持するために発展してきた制度なのである。

英米会社法が築いてきた少数株主保護の思想は、企業統治の本質が単なる支配ではなく、公平性と信頼の維持にあることを示している。

関連リンク

・英国会社法(Companies Act 2006)
 https://www.legislation.gov.uk/ukpga/2006/46/contents
・Companies Act 2006 Section 994(Unfair Prejudice)
 https://www.legislation.gov.uk/ukpga/2006/46/section/994
・英国最高裁判例 O’Neill v Phillips [1999]
 https://publications.parliament.uk/pa/ld199899/ldjudgmt/jd990624/oneill.htm
・英国貴族院判例 Ebrahimi v Westbourne Galleries Ltd [1973]
 https://www.bailii.org/uk/cases/UKHL/1972/3.html
・American Bar Association(ABA)
 https://www.americanbar.org/
・Model Business Corporation Act(MBCA)
 https://www.americanbar.org/groups/business_law/resources/business-corporation-act/

関連資料

・英国会社法における「Unfair Prejudice」は、少数株主が不公正な不利益を受けた場合に裁判所へ救済を求めることができる制度として発展してきた。
・O’Neill v Phillips事件では、単なる不満ではなく、株主間の合理的期待や合意に反する不公正な行為が重要な判断基準であることが示された。
・Ebrahimi事件では、会社であっても実質的には共同経営者間の信頼関係によって成立する「準パートナー会社」という考え方が示された。
・米国では州ごとに制度が異なるものの、多くの州で少数株主の合理的期待(Reasonable Expectations)を保護する考え方が発展している。
・少数株主保護の法理は、多数決を否定するためではなく、多数決を正当な制度として維持するために発展してきたと考えられている。

さくらフィナンシャルニュース

会社は多数決によって運営される。

株主総会では議決権の多い株主が経営方針を決定し、取締役を選任し、重要な意思決定を行う。これは会社法の基本原則であり、企業活動を円滑に進めるために欠かすことのできない仕組みである。

しかし、会社法の歴史を振り返ると、常に一つの問題が存在していた。

多数決は、本当に万能なのだろうか。

多数決によって会社を運営する以上、少数意見が採用されないこと自体は避けられない。しかし問題となるのは、多数株主がその支配力を利用して少数株主の利益や権利を不当に侵害する場合である。

英米の会社法は長い年月をかけて、この問題と向き合ってきた。

特に問題となったのは、非公開会社である。

上場企業であれば、経営方針に納得できない株主は市場で株式を売却して会社から離脱することができる。しかし非公開会社では株式を自由に売却することが難しく、一度株主になると容易に資金を回収できないことも少なくない。

その結果、少数株主が会社に残されたまま、支配株主によって経営から排除されたり、利益配分から取り残されたりする問題が各国で繰り返し発生してきた。

英国では、このような問題に対応するため、「少数株主への抑圧」という考え方が発展した。

現在の英国会社法では、「不公正な不利益(Unfair Prejudice)」という制度が設けられている。これは会社の運営が少数株主に対して不公正な不利益を与えている場合、裁判所に救済を求めることができる制度である。

英国の裁判所は長年にわたり、少数株主保護に関する判断を積み重ねてきた。その中で重視されるようになったのが、単なる法律上の権利だけではなく、株主同士の信頼関係や合理的な期待である。

例えば、共同で会社を設立したにもかかわらず、一方の株主が突然経営から排除される。あるいは、利益が出ているにもかかわらず支配株主だけが利益を享受し、少数株主には何も還元されない。そのような状況では、形式的には法律違反がなくても、公平性の観点から問題があると考えられるようになった。

有名なEbrahimi事件では、会社という形式をとっていても、実質的には共同経営者同士の信頼関係によって成り立っている場合があることが示された。裁判所は、そのような関係を一方的に破壊する行為に対して救済を認めている。

また、O’Neill事件では、単なる不満や期待外れだけでは足りず、株主間の合意や合理的な期待に反する不公正な行為が存在するかどうかが重要な判断基準になることが示された。

一方、米国でも同様の問題は長年議論されてきた。

米国の場合は州ごとに法制度が異なるため、英国のような統一的な制度は存在しない。しかし、多くの州では少数株主が投資時に抱いていた合理的な期待を重視する傾向がみられる。

例えば、会社設立時に経営へ参加することを前提として出資した株主が、後になって一方的に排除されるケースである。あるいは、支配株主によって雇用を打ち切られ、配当も受けられず、情報も与えられなくなるようなケースである。

米国の裁判所は、このような状況を単なる経営判断として片付けるのではなく、支配株主による少数株主への抑圧として検討してきた。

英米の制度には違いがあるものの、その根底に流れる考え方は共通している。

それは、会社法は多数決を認める一方で、多数株主に無制限の権力を与えているわけではないということである。

会社は民主主義のようでいて、完全な民主主義ではない。

株式の保有割合によって発言力が決まり、多数株主が強い影響力を持つ。しかし、その力が濫用されるならば、会社という組織そのものへの信頼が失われてしまう。

だからこそ英米会社法は、多数決を認めながらも、その行使に一定の限界を設けようとしてきた。

企業統治とは、単に経営者を監督する仕組みではない。

支配株主と少数株主の利益をどのように調整するのか。会社という組織の中で、公平性をどのように確保するのか。そのための知恵と工夫の積み重ねでもある。

少数株主保護の歴史は、多数決の否定ではない。

むしろ、多数決という仕組みを正当なものとして維持するために発展してきた制度なのである。

英米会社法が築いてきた少数株主保護の思想は、企業統治の本質が単なる支配ではなく、公平性と信頼の維持にあることを示している。

関連リンク

・英国会社法(Companies Act 2006)
 https://www.legislation.gov.uk/ukpga/2006/46/contents
・Companies Act 2006 Section 994(Unfair Prejudice)
 https://www.legislation.gov.uk/ukpga/2006/46/section/994
・英国最高裁判例 O’Neill v Phillips [1999]
 https://publications.parliament.uk/pa/ld199899/ldjudgmt/jd990624/oneill.htm
・英国貴族院判例 Ebrahimi v Westbourne Galleries Ltd [1973]
 https://www.bailii.org/uk/cases/UKHL/1972/3.html
・American Bar Association(ABA)
 https://www.americanbar.org/
・Model Business Corporation Act(MBCA)
 https://www.americanbar.org/groups/business_law/resources/business-corporation-act/

関連資料

・英国会社法における「Unfair Prejudice」は、少数株主が不公正な不利益を受けた場合に裁判所へ救済を求めることができる制度として発展してきた。
・O’Neill v Phillips事件では、単なる不満ではなく、株主間の合理的期待や合意に反する不公正な行為が重要な判断基準であることが示された。
・Ebrahimi事件では、会社であっても実質的には共同経営者間の信頼関係によって成立する「準パートナー会社」という考え方が示された。
・米国では州ごとに制度が異なるものの、多くの州で少数株主の合理的期待(Reasonable Expectations)を保護する考え方が発展している。
・少数株主保護の法理は、多数決を否定するためではなく、多数決を正当な制度として維持するために発展してきたと考えられている。

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