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終身雇用を終わらせる覚悟があるか

――デンマーク型労働ビッグバンという国家選択

日本の労働制度は、いま大きな岐路に立たされている。
終身雇用、年功序列、解雇規制——かつては「安定」を象徴した仕組みが、いまや若者や中高年の首を静かに絞めているとの指摘も多い。
そんな中、投資家であり制度設計の実務を熟知する山中裕氏は、あえてこう問いかける。
「終身雇用を、終わらせる覚悟があるか」
その真意を、編集部が聞いた。

「解雇自由=弱者切り捨て、ではありません」

——山中さんは、日本の労働制度について「すでに厳しい国だ」と指摘されています。
山中裕氏
はい。日本は解雇規制が厳しいと言われますが、現場を見ていると、必ずしもそうではありません。
正社員は守られているようで、その実、非正規雇用への押し出しや、中高年の事実上の戦力外通告が横行している。
つまり、「解雇されない代わりに、やり直せない社会」になっているんです。
——終身雇用が、人を守れていないと。
山中裕氏
ええ。会社にしがみつくしかない制度は、人を守るどころか、身動きを取れなくします。
一度レールを外れたら戻れない。これが一番残酷です。

デンマークは「切る国」ではなく「放置しない国」

——山中さんが注目されているのが、デンマーク型の労働モデルですね。
山中裕氏
いわゆる「フレキシキュリティ」です。
企業は比較的自由に解雇できる。その代わり、国は失業者を絶対に放置しない。
失業給付、職業訓練、再就職支援。
これらがセットで、しかも迅速に提供される。
——日本では「解雇自由」という言葉だけが一人歩きしがちです。
山中裕氏
そこが最大の誤解です。
重要なのは解雇の自由ではなく、解雇後の設計です。
デンマークでは、失業者は「可哀想な存在」ではありません。
「次に稼ぐための準備期間に入った人間」として扱われる。
これは、相当な思想の違いです。

生活保護と職業訓練は、切り離してはいけない

——山中さんは、生活保護者への職業訓練を「原則強制」にすべきだと主張されています。
山中裕氏
誤解を恐れず言えば、それが一番人間を信じた制度だからです。
生活できない人を支えるのは当然です。
ただし、生活保護が「居場所」になってしまう設計は、人の力を奪う。
デンマークでは、生活保障と訓練は一体です。
訓練は選択ではなく、原則義務。
社会は、「あなたは、まだ稼げる」と前提する。
——冷たい、という声も出そうです。
山中裕氏
むしろ逆です。
何も期待されないことほど、人を壊すものはありません。

守るべきは会社か、人の「稼ぐ力」か

——終身雇用を続けることの限界について、どう見ていますか。
山中裕氏
産業の寿命が短くなり、技術が急速に変わる時代に、
同じ会社に居続けることが安全だとは言えません。
それでも日本では、「会社を守る=人を守る」という発想が残っている。
私はそこに、強い違和感があります。
守るべきなのは、会社ではない。
人の稼ぐ力そのものです。

職業訓練は「福祉」ではなく「投資」

——再教育や職業訓練にはコストもかかります。
山中裕氏
ええ。でも、最もリターンの高い投資の一つです。
スイスや北欧諸国は、人への投資は必ず回収できると知っている。
失業者を放置することこそ、最大の無駄です。

労働ビッグバンとは、破壊ではない

——最後に、日本は何を選ぶべきでしょうか。
山中裕氏
デンマーク型労働ビッグバンは、何かを壊す改革ではありません。
「切られない社会」を作る話でもない。
何度でも稼ぎ直せる社会を作る話です。
終身雇用を守るかどうか、ではない。
再挑戦を制度として保証する覚悟があるかどうか。
私は、その覚悟が、いま日本に問われていると思っています。

関連リンク

Home | Philippe Aghionwww.philippeaghion.com

フィリップ・アギヨン – Wikipediaja.wikipedia.org

【ノーベル経済学賞受賞】書籍『創造的破壊の力』の主著者フィリップ・アギヨン教授が2025年ノーベル経済学賞を受賞株式会社東洋経済新報社のプレスリリース(2025年10月16日 09時00分)【ノーベル経済学賞受賞】書籍『創造的破壊の力prtimes.jp

Sveriges Riksbank Prize in Economic Sciences in Memory of Alfred Nobel 2025The Sveriges Riksbank Prize in Economic Sciences in Memory ofwww.nobelprize.org

コラム・寄稿「アギオン=ホーウィットの創造的破壊理論によせて」「Special Report」では研究員の方々の書き下ろしレポートやRIETIの研究活動に関連する編集部オリジナルのインwww.rieti.go.jp

2025年ノーベル経済学賞アギヨン氏インタビュー「自動化しない企業が雇用を奪われる」2025年のノーベル経済学賞を共同授賞するフィリップ・アギヨン氏。「創造的破壊」の過程における、政府・企業・市民社会の力がbusiness.nikkei.com

2025年ノーベル経済学賞アギヨン氏インタビュー「自動化しない企業が雇用を奪われる」2025年のノーベル経済学賞を共同授賞するフィリップ・アギヨン氏。「創造的破壊」の過程における、政府・企業・市民社会の力がbusiness.nikkei.com

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Howitt, Petervivo.brown.edu

ピーター・ホーウィット – Wikipediaja.wikipedia.org

なぜデンマークは幸福度が高いのか?北欧に学ぶ社会の仕組み | フィーノリッケペダゴー資格認定講座


プロフィール
山中 裕(やまなか・ゆたか)
1976年東京都生まれ。HOYA株式会社の前身・保谷硝子創業家の孫。私立武蔵中高を経て、東京大学経済学部を総代卒業。 コロンビア大学大学院(金融工学専攻)修了。 ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス・アンド・ポリティカル・サイエンス(LSE)などに留学。
2007年以降、HOYAに対する株主提案を通じて、役員報酬開示や社外取締役強化などのガバナンス改革を主導。ISS・Glass Lewisから賛成推奨を獲得し、日本の株主運動の先駆者として評価される。
現在は国内外企業へ投資するアクティビスト投資家。企業統治・株主権保護に取り組んでいる。
関連リンク

HOYAで骨肉の争い創業家が異例の株主提案光学機器大手のHOYAに対し、創業家の山中裕氏が経営の世襲禁止を求める異例の株主提案に踏み切った。鈴木洋…facta.co.jp

聞き手・構成:さくらフィナンシャルニュース編集部


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