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渡邉元尋弁護士、元事務員の女性行政書士に対して当初解雇の無効と暴言で賠償命令

元事務員の行政書士の女性が、渡邉元尋弁護士を相手取って損害賠償を求めていた裁判で、東京地裁(内藤寿彦裁判官)は、3月11日、渡邉弁護士に、当初の解雇の無効と暴言について、損害賠償を命じる判決を下した。以下が、判決文の全文である。

平成27年3月11日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 米田祐佳

本訴平成25年(ワ)第25357号 地位確認等請求事件

反訴平成26年(ワ)第20897号 委任契約報酬請求事件

口頭弁論集結日 平成27年1月14日

判決

東京都武蔵野市************

原告(反訴被告)  佐古美菜子

同訴訟代理人弁護士  余郷 浩

同訴訟複代理人弁護士 近藤麻衣

東京都港区**************

被告(反訴原告) 渡邉 元尋

主文

1 被告(反訴原告)は、原告(反訴被告)に対し、平成25年3月から同年10月まで毎月末日限り20万円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年5%の割合による金員並びに9万3333円及びこれに対する同年12月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

2 被告(反訴原告)は、原告(反訴被告)に対し、5万5000円及びこれに対する平成25年3月14日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

3 原告(反訴被告)の原告(反訴被告)・被告(反訴原告)間の委任契約に基づく原告(反訴被告)の被告(反訴原告)に対する60万円の報酬支払債務が存在しないことの確認を求める訴えを却下し、原告(反訴被告)のその余の請求を棄却する。

4 被告(反訴原告)の反訴請求を棄却する。

5 訴訟費用は、本訴反訴を通じてこれを2分し、その1を原告(反訴被告)の負担とし、その余を被告(反訴原告)の負担とする。

6 この判決は、1、2校に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求

1 本訴

(1)原告(反訴被告)が被告(反訴原告)に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

(2)被告(反訴原告)は、原告(反訴被告)に対し、平成25年3月から本判決確定の日まで毎月末日限り20万円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

(3)被告(反訴原告)は、原告(反訴被告)に対し、495万円及びこれに対する平成25年3月14日から支払済みまでの年5%の割合による金員を支払え。

(4)原告(反訴被告)・被告(反訴原告)間の委任契約に基づく原告(反訴被告)の被告(反訴原告)に対する60万円の報酬支払債務が存在しないことを確認する。

2 反訴

原告(反訴被告)は、被告(反訴原告)に対し、60万円及びこれに対する平成25年3月14日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要等

以下、原告(反訴被告)佐古美菜子を「原告」、被告(反訴原告)渡邉元尋を「被告」という。

1 事案の概要

本件は、被告の経営する法律事務所の事務員として勤務していた原告が、①被告から解雇されたことについて、解雇が無効であるとして、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認及びバックペイの支払、②被告から不当解雇、セクシュアルハラスメント(以下「セクハラ」という。)及び侮辱的発言を受けたとして不法行為に基づく損害賠償の支払、③委任契約に基づく報酬支払債務が不存在であることの確認を求める本訴事案と、被告が原告に対し、委任契約に基づく報酬の支払いを求める反訴事案である。

2 前提事実(以下の事実は、当事者間に争いがないか、掲記の証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認めることができる。また、年月日については特に断りのない限り平成25年を指し、労働基準法については「労基法」という。)

(1)当事者

ア 原告は、被告から平成24年3月半ば、被告の経営する法律事務所の事務員として採用内定を受け、2月から雇用され、事務員として勤務していたが、3月14日、被告から解雇された。なお、原告は、被告に雇用されていた当時は「今泉」姓であったが、4月1日に結婚したことにより「佐古」姓に変わり、5月27日に現住所地に転居した。

イ 被告は元検察官で、現在は東京弁護士会所属の弁護士として、法律事務所を経営している。

(2)本件雇用契約

原告と被告は、以下のとおり雇用契約(以下「本件雇用契約」という。)を締結した。

期間の定め なし

出勤日 平日

勤務時間 8時から17時

賃金 月額20万円

支払方法 毎月末日締め同日払い

業務内容 法律事務所の事務

(3)解雇の意思表示

原告は、3月14日、被告から解雇された(以下「第1解雇」という。)。

原告は、10月3日、地位保全及び賃金仮払仮処分を申し立て(当庁平成25年(ヨ)第21122号 地位保全等仮処分命令申立事件 乙6の1 以下「本件仮処分事件」という。)、同事件において被告は、10月15日付け答弁書において解雇の意思表示をし(以下「第2解雇」という。乙12)、さらに11月8日付け第1準備書面において解雇の意思表示をしたが(以下「第3解雇

」という。乙13)、同事件は、11月29日、原告が申立を取り下げたことにより終了した(乙14の1、14の2)。

(4)本件訴訟に至る経緯

原告は、6月6日、労働審判を申し立て(当庁平成25年(労)第383号 地位確認等請求労働審判事件 以下「本件労働審判事件」という。)、9月11日、労働審判が行われたが、これを不服とする被告が9月25日異議を申し立て、本件訴訟に移行した。

被告は、平成26年8月12日受付の反訴状をもって、反訴を提起した。

(5)原告による本訴の一部取下げと被告の異議

原告は、平成26年9月29日付けの取下書(同年10月14日送達)をもって、上記第1の1(4)の請求を取り下げたが、被告が同年10月14日の本件弁論準備手続期日において異議を述べた。

3 争点

(1)本件雇用契約の終了の成否

ア 合意解約の成否

イ 試用期間の有無

ウ 第1解雇の有効性

エ 第2解雇の有効性

オ 第3解雇の有効性

(2)賃金支払方法に関する特約の有無

(3)不法行為の成否

ア 第1解雇

イ セクハラ

ウ 侮辱的発言

(4)報酬請求権の有無

第3 争点に対する当事者の主張

1 争点(1)(本件雇用契約の終了の成否)

【被告の主張】

(1)解雇理由の整理

ア 被告が原告を解雇した理由は以下の通りである(以下それぞれの理由について「解雇理由a」のようにいう。)。

a 原告が内定段階にさぼっていた課題をやることと引換えに与えた無給休暇中(2月1日から同月11日)に課題を行わず、最後の2日で当時交際中の佐古雅範(以下「雅範」という。)に手伝ってもらって2日間で徹夜の課題を行った結果、過労でろれつが回らなくなり、検査で2月13日、同月15日に欠勤したこと

b 原告が2月12日、被告の事務所内を盗撮し、インターネットに投稿したこと

c 原告が2月18日、被告とクライアントである櫛田裕子(以下「櫛田(くしだ)」という。)の会話を無断盗聴したこと

d 3月13日まで常習的に30分程度遅刻する等原告の勤務態度が不良であったこと

e 原告が2月中に貸与されていたPHSを無断で私的に有料通話していたこと

f  原告が3月1日無断でイラストレーターを募集したこと

g 原告が3月初旬、有料法律相談サイトに登録し、無責任な回答をしたこと

h 原告が3月13日被告のフェイスブックの内容を改ざんしたこと

i 原告が勤務中、被告に隠れて秘密録音、盗聴録音を行なったこと

j 原告が3月14日第1解雇に同意したこと

k 原告が5月16日解雇理由cの録音盗聴媒体をインターネット上に公開したこと

l 原告が5月16日から同月23日にかけて、秘密録音を一部改ざんの上、インターネット上に投稿したこと

イ 本件雇用契約は、解雇理由jに基づいて合意解約された。

ウ 仮に合意解約が認められなくても、被告は、解雇理由1aないしiにより、3月14日に第1解雇を行なっており、第1解雇は即時解雇(労基法20条1項ただし書きによる解雇)として、解雇予告手当を支払わずに解雇できる。仮に、第1解雇による即時解雇が認めれらないとしても、第1解雇は普通解雇として3月14日から30日経過したことによる有効である。

エ 仮に第1解雇が認められなかっとしても、解雇理由aないしlにより、本件仮処分事件における11月8日付け第一準備書面(乙13)により第3解雇を行なっており、即時解雇として有効である。

オ 仮に第3解雇が即時解雇として認められなかったとしても、解雇理由aないしlにより、本件仮処分事件における10月15日付け答弁書(乙12)により第2解雇を行なっており、普通解雇として有効である。

(2)試用期間の定めがあること

本件雇用契約には、3月末までの試用期間が定められていた。被告から試用期間を前提とするメールを送信されたにもかかわらず、原告が何らの異議も申し立てていないことからも明らかである。

(3)原告の主張に対する反論

ア 解雇理由aについて

原告は、2月12日が勤務開始日を主張している。しかし、原告は、同日1日からの勤務を目処として、東京への引っ越し予定を決めており(乙72、73)、原告の主張は信用できない。

被告は、原告が子供の慣らし保育のため内定段階にさぼっていた課題をやることと引き換えに無給休暇を与えた。しかし、原告は、その無給休暇中に丸一日美術館に遊びに行って課題を行わず、結局、当時交際中であった現在の夫の雅範に手伝ってもらい、最後の2日、徹夜で作業をこなし、過労でろれつが回らなくなり、結局検査等で、2月13日及び同月15日、欠勤した(乙33、65)。

イ 解雇理由bについて

原告は、インターネットに投稿する為に事務所内を盗撮した。かかる行為は怠業であり、かつ、被告の事務所の評判を落とす行為である。また、原告が、写真をフェースブックにアップロードした時点で、5人限定の公開であったことの証拠は全くない。むしろ、3月15日時点において、原告は、フェースブックの閲覧者の制限のやり方をわかっていなかったと主張しており、少なくとも同日までは全体公開であったと考えるのが自然である。加えて、閲覧者が何人であろうと、そもそも事務所内の状況を無断で撮影し、それをインターネット上に公開すること自体違法行為を構成するもので許されない。

ウ 解雇理由cについて

原告は会話の当事者でなく、被告とクライアントである櫛田との間の電話であることを認識して行った以上、原告の行為は盗聴行為であって、正当化できるものではない。

なお、被告が櫛田との電話が終わった後、原告に「すいません。」と行ったのは、櫛田との電話によって、原告の作業が中断したことに関して言ったにすぎない。

エ 解雇理由dについて

原告は、出勤時刻に関する証拠(乙48の2、65)が正確なものではないと主張している。しかしながら、2月11日、原告から「明日事務所に着き次第、出勤した連絡をメールします。」と送信してきたことをきっかけに(乙89)、被告が事務所に出向けない日に、原告と被告双方が直接電話で用件を伝える必要性がある場合を除いて、出勤及び退勤メールを送信することになったものであり、証拠(乙48の2、65)は正確なものである。

オ 解雇理由eについて

原告は、被告から貸与されていたPHSを5000円分通話利用したことについて、被告の依頼者である碓井加奈子(以下「碓井(うすい)」という。)との会話だと主張している。しかしながら、原告は2月に東京に引っ越しており、仕事で必要な話であるならば、依頼を受けた被告が連絡すればすむだけであり、被告の指示もなく、原告が業務用のPHSで超過通話してまで碓井と話す必要性はない。

カ 解雇理由fについて

原告が作成した募集広告(乙77の1)は3月1日10時54分に作成されている一方、被告は同日11時31分に田町駅から電車に乗車していること(乙77の2)からも明らかなように、原告は3月1日に被告が出勤する以前に無断で無料の法律相談と引換えにイラストレーターを募集し、その決定まで無断に行った。

また、原告と櫛田の電話(乙71の2、106)でも、原告がホームページ(以下「HP」という。)作成のため、グラフィックデザイナーのアポイントを取ったが、被告に反対され怒られたことを原告自身が認めている。

キ 解雇理由gについて

この点、原告は、被告の指示で有料サイトJust Answer(以下「J・A」という。)に登録したと主張する。しかし、少なくとも解雇時まで原告は行政書士登録を行っておらず、かかる立場の原告に、有料法律相談指示を出すことはありえない。

また、原告は、被告が口頭で回答したことをただ打ち込んだということもあったと主張する。しかし、原告の書き込みは、文体等から被告の発言とは全く異なる。また、原告の書き込みの時間帯は出勤前や退勤後及び深夜の時間帯のみであり、被告と原告と一緒にいない以上、口頭で回答することは絶対不可能である(乙78の1ないし78の8)。

なお、原告は相談料を受領するための口座を開設していたいとも主張している。しかし、弁護士でもない原告が有料であることを前提とする法律相談を受けること自体が違法で許されない。

ク 解雇理由hについて

この点、原告は、被告のフェースブックの表示を消したのは原告ではないと主張する。しかしながら、原告は、フェースブックの被告のアカウントにログインした上で、被告のフェースブックの画面の情報を変更及び追加しており、その機会はあった(乙29)。

また、原告は、被告のフェースブックをいじっていた際に消した可能性も否定できないと述べる。しかし、「交際中」の記載を消すことは偶然のなせる技ではなく(乙53)、いずれかの人間が故意に削除したことは明白である。そして、パスワードの関係で、それが可能だったのは、原告、被告、櫛田の3名しかいなかった。その中で、消去する動機を有していたのは、原告しかいない。ケ 解雇理由iについて

この点、原告は、何かあった時のために自己防衛を目的として録音したものであるから正当性を有すると主張している。しかし、原告がかかる必要性を感じているのであれば、就職を回避すればよいのであり、あえて就職した上で、勤務初日から盗撮、秘密録音を繰り返す行為は明らかな違法行為であって、正当化できるものではない。

また、原告は秘密録音した音声データをミクシィ用のボイスブログに誰でも閲覧できる状態で投稿していることや、勤務初日に被告に秘密裏に事務所内を盗撮したり、クライアントである櫛田との電話を盗聴録音し、これらの画像・音声データをインターネット上に投稿していることからも、自己防衛のためではなく公開目的で録音していたことは明らかである。

コ 解雇理由jについて

上記クのとおり、被告のフェースブックの記録を改ざんしたのは、原告以外に考えられず、原告は第1解雇に同意していた。

サ 解雇理由k、lについて

原告は、音声データを保存しておくためにボイスブログにデータをアップロードした旨を主張している。しかし、音声データを整理しておくためには、単に原告が所持するパソコン内で整理することが十分可能であり、原告の主張は信用できない。

また、ボイスブログ(ケロログ)は、管理者が投稿したい各データをパソコン等からアップロードすると、いったんボイスブログ内でデータが保存される仕組みになっており、データをボイスブログに取り込むと同時にインターネットでデータが公開されるものではない。そしてボイスブログ内で保存されているデータを公開する場合、改めて、公開するための工程を経る必要があり、ボイスブログに投稿が完了した場合、投稿した旨の表示が出る(乙74の1、74の2)。原告は、ここまでの工程を経て、ボイスブログに投稿している以上、全体公開するつもりがなかったとの主張は虚偽である。

さらに、原告は、管理画面(甲20)の表示からすると、全体公開となっていたことを原告が知らなかったとしてもやむを得ない旨を主張している。しかし、管理画面(甲20)の表示は、印字が極めて不鮮明で、原告のボイスブログの管理画面かどうかの判定すら不可能である。

また、原告は、音声データが公開されていることに気づいたのは平成26年10月30日頃、櫛田から訴訟提起されてからであると主張する。しかし、原告は、1月15日、被告との電話の会話を秘密録音した音声データを、「最後にプレゼント」というタイトルをつけたメール(乙84)を送信してきており、同メールに送付されているURLからも明らかなように、原告は被告との会話の音声データをボイスブログに投稿し、被告に送信してきており、原告はボイスブログの使用方法を熟知していたものであり、原告の主張は信用できない。

【原告の主張】

(1)第1解雇に至る経緯

ア 原告が、3月14日朝起きたところ、携帯電話に被告から多数の着信履歴とメールが入っていた(甲1、2)。原告は、被告に6時45分頃架電したところ、被告から「フェースブックで『[hiroko kushida]と交際中です。』という表示を消したのはお前だろ!!辞めろ!解雇だ。考えておけ。どう始末してやろうか。覚悟しておけ!」と一方的で事実無根の内容を告げられた。

イ 原告は、3月14日8時15分頃に通常どおり職場に出勤したところ、被告から「もう来なくていいって言ったはずだけど。」、「もう、そういうことを言っている限り、もう貴女、僕は雇いきれない。もう確実に貴女がやったとしか考えられない状況です。」、「君が嘘をついているということが僕には問題なんだ。だから、君がそれを認めないなら、僕は雇いきれない。信用できない。」と告げられ、第1解雇の意思表示を受けた。

ウ その際、原告は被告から胸ぐらをつかまれ、殴りかかられたため、身の危険を感じ、事務所を出て行こうとした。その際、被告から、玄関先でカバンを思い切り引っ張られ、原告は、雨の中傘もささずに走って逃げた。その直後、被告から、「事務所の鍵を返して下さい。」、「事務所の鍵を横領するつもりですか?」等というメールが届いた(甲3)ため、原告は、やむなく翌15日、郵送で事務所の鍵を返却した。

(2)第1解雇が無効であること

被告のフェースブック上の「[hiroko kushida]と交際中です。」という表示を消したのは原告ではないし、被告のフェースブックの表示は、事務所の業務と何ら無関係である。

なお、被告は自らのミクシィに「魔女を懲戒解雇したら、急にお客さんが来るようになった。」との書き込みを行い、第1解雇が懲戒解雇であると述べているようでもあるが(甲5)、被告に就業規則はなく、原告を懲戒解雇することはできない。

したがって、第1解雇は、客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当性も欠くものであり、無効であることは明白である。そして、原告の賃金は、第1解雇がなされる前の3月1日から同月13日の稼働分についても支払われていない。

(3)被告の主張に対する反論

ア 試用期間について

被告は、本件雇用契約に3月末までの試用期間が存在すると主張するが、そのような事実はない。採用内定後、被告から原告に対して、一方的に試用期間を定める旨のメールが送信されたとしても、そのことのみで試用期間の定めがあったことにはならない。原告は、1月27日18時34分、被告からのメールをスーパーで買い物していた際に受信したが(甲10)、返信をしなかったにすぎず、試用期間を定めることについて事後的に了解したものではない。

イ 解雇理由aについて

被告は、原告の勤務日が2月1日からであると主張する。しかし、原告は、1月30日頃、被告から、勤務開始日について、2月12日からでいいと言われている。

したがって、2月12日以前に原告がどのような行動を取ろうと、被告との雇用関係に入る前である以上、何ら解雇事由になるものではない、課題をさぼっていたと言われる理由もなければ、丸一日美術館に遊びに行くのも全く自由である。

被告が事務所に挨拶に来るように原告に指示されたため、2月5日、原告が事務所に挨拶に行った際、書籍を渡されると共に、行政書士としての営業方法について100個考えて来るようにとの課題を突然与えられた。2日間徹夜に近い形で課題をこなし、雅範に手伝ってもらったが、手伝ってもらうことは禁止されていなかった。過労でろれつが回らなくなり、検査等で2月13日及び同月15日欠勤したことは事実であるが、被告から与えられた課題をこなした結果であるし、そもそも、被告はこの2日間は公休扱いにしたことを認めている。

ウ 解雇理由bについて

原告は、原告の母親及び雅範の5名に限定したフェースブックで公開したにすぎず、原告が写真(乙21)を投稿したところで、被告の業務について何ら実害は生じていない。なお、被告が本来見ることができない写真(乙21)を所持しているのは、原告が被告に対する東京弁護士会への懲戒手続で書証として提出したからである。

原告は、平成24年11月11日、行政書士試験を受け、自己採点の結果合格が確実だったため、同年12月下旬、保育園やアパートなどを決め、1月24日に東京に引っ越すことが決まった、ところが引越し直前の1月13日、被告から突然「内定取消だ」「貴様、俺の人生をつぶす気か」などと何度も怒鳴り散らす電話があった。原告の母親は引越し直前の被告のこのような言動を憂慮し、何か会った時のために、ICレコーダーを原告に渡した。原告は、1月24日、東京に引っ越したが、被告から何度も毎日のように電話がかかってきた。被告は、原告が親元を離れ、完全な母子家庭であることを知りながら、子供が起きているような時間でも、土日でも電話に出るまで連続して何回も着信を鳴らし続けた。原告は、雅範からも、どんな小さなことでも証拠を残すように助言を受けた(乙15)。1月26日、雅範から告白されたということを原告が被告に対して言ったところ、被告は、雅範と別れないと内定取消にする等と、法律家でありながら理解不能な言動を繰り返すようになった(甲17)。原告としては何か会ったときのために、勤務開始時の勤務の様子を記録することにしたものである。

エ 解雇理由cについて

原告は、2月18日の勤務中、被告がクライアントと主張する櫛田との電話において、「ふざけた事を言うんじゃないよ」、「あなたの傲慢さ、自信過剰そこにも出ているよね、だから反省するなら人の話をきけよ!」、「不愉快でたまらないよ!」、「刑事告発にしようかしまいか随分迷って結局しなかったけど、しようかと思ったぐらいだよ。」、「馬鹿な事言うんじゃないよ!」等と突然大きい声を張り上げ、怒り出したため、上記ウのこともあり、何かあったときのため、その会話をとっさに録音した。

事実、被告は、櫛田との電話を終えた際に、原告に対して「すみません。」と謝罪し、自分の発言に問題があったことを認めている(乙23)。かかる録音の経緯からして、録音は正当性を有する行為である。

オ 解雇理由dについて

被告は、原告が2月に自己責任で2日間欠勤したと主張する。しかし、上記イのとおり、欠勤の理由は被告によって突然与えられた大量の課題をこなした結果であり、被告も公休扱いにしたことを認めている。

また、被告は、原告が平均毎日30分程度の遅刻をし、怠業をしていると主張する。しかし、原告が、平均毎日30分程度の遅刻をしているという主張は事実に反するものであり、被告が提出している証拠(乙48の2、65)は、原告の出勤状況について正確に示したものではない。なお、原告の子供の保育園が7時30分からであったため、原告の始業時刻及び終業時刻を10分遅らせることについて、被告は了承していた。

カ 解雇理由eについて

原告は、平成24年4月26日に被告が契約したPHSを貸与された、もっぱら被告からの着信用として貸与を受けたものであるが、5分以内の通話については無料のため、被告における勤務開始前に原告が通話に使用していたこともある。

被告における勤務開始後に5000円分利用していたことがあるとすれば、それは被告の依頼者である碓井の親権についての問題で業務上通話をしていたものであり、決して私用での利用ではない。

キ 解雇理由fについて

原告は、被告の指示で、被告が無償で法律相談を行う代わりに、無償でHP作成を行ってくれるイラストレーターを探した。メール(甲18)は、イラストレーター募集の広告(乙49)を見て、連絡してきた者に対する原告の返信メールである。原告は「現在ボス弁と二人で『この人やーー』!!と盛り上がっております」という内容のメールを送信しており、原告が被告の了解の下、イラストレーターを募集していたことは明らかである。

ク 解雇理由gについて

解雇理由fと同様、原告は被告の指示によって、有料相談サイトJ・Aに登録し、法律事務所事務補助員として回答しており、被告が口頭で回答したことを原告が打ち込んだこともあった。ただし、原告は、被告から、3月に事務所内でやらないように言われたため、以後は回答等の行為は一切行っていない。なお、事務所名は有料相談サイトJ・Aに記載されておらず、事務所の信用が毀損されることはない。

ケ 原告が被告のフェースブック上の「[hiroko kushida]と交際中です」というデータを改ざんした事実はない。仮に百歩譲って、原告が何らかの拍子に過失によってデータを削除してしまったとしても、かかるフェースブックの記載は被告の業務とは何ら関連性がないか、又は少なくとも関連性は著しく乏しく、そのことのみで到底解雇事由として相当性を有する事実ではない。

コ 解雇理由iについて

上記ウのとおりの経緯があり、原告は、 ICレコーダーで被告との会話を録音していたが、自己防衛を目的としたもので正当性を有する。実際、原告は、被告から何ら合理的理由なく解雇され、被告と係争となり、本件訴訟係属前の労働審判手続、本件訴訟、それから被告の弁護士会における懲戒請求手続において、各録音を証拠として提出しており、原告の録音行為の正当性は裏付けられている。

サ 解雇理由jについて

原告が、第1解雇にd方位したことはない。

シ 解雇理由k、lについて

原告は、ボイスブログの存在について、だいぶ昔に大学の後輩から聞いて知っていたが、3月14日、被告から解雇されたため、法的手段を採る前提で、5月中旬頃、証拠である各録音データを整理、保存しておくためにボイスブログにデータをアップロードした。その際、原告としては、全体公開されないと考えており、全体公開するつもりはなかった。

ボイスブログ管理画面によれば、公開されているものについては黒字で「公開」と表示されているが、本件訴訟で被告が問題としている各録音データについては白字で「公開」と記載されており(甲20)、このような表示のされ方をされていれば、一般に全体公開されていないと原告が考えたとしても無理からぬことである。

そして、原告が全体公開されていることに気がついたのは、平成26年10月30日頃、櫛田から訴訟提起されたことによる(乙22)。

よって、誰でもアクセスできる状態で、インターネット状に公開されていたというのは結果として事実であるが、あくまで過失によるものであり、原告が録音をアップロードした際には、全体公開する意思がなかったのであるから、解雇事由として相当性を有する事実ではない。

そもそも、これらの事実は、第1解雇(3月14日)後のジオ実であるから、第1解雇の効力の判断においては考慮されるべきではなく、第1解雇が無効と判断され、第2解雇(10月15日付け)の効力の判断において考慮されうるにすぎない。万が一、第2解雇が有効になるとしても、10月15日までの賃金請求権が発生することは言うまでもない。

第2解雇も第3解雇(11月8日付け)も意思表示として仮に存在したとしても、権利濫用であって無効である。

2 争点(2)(賃金支払方法に関する特約の有無)

【被告の主張】

本件雇用契約の賃金支払については、勤務満了日の退所時に事務所内で現金による手渡しにて支払うという約定があった。

被告としては、3月1日ないし同月13日までの賃金について、原告が事前に連絡した上で来訪すれば、支払う用意がある。しかし、原告は受領遅滞しているので、遅延損害金は発生していない。

【原告の主張】

被告は、本件雇用契約の賃金の支払について、勤務満了日の退所時において、事務所内で現金による手渡しにて支払うという約定があったと主張するが、そのような事実はない。なお、2月分(2月12日から2月末日まで)の賃金は、2月末日の退所時ではなく、同日の昼頃受け取っている。3 争点(3)(不法行為の成否)

【原告の主張】

(1)不当な第一解雇

第1解雇は客観的合理的理由を明確に欠くものである。被告は、プライベートで行っていたフェースブックの表示を原告が削除したという業務と全く無関係な理由で、しかも原告は削除について全く無関係であるにもかかわらず、感情をただ原告に対してぶつける形で行われた。被告は、法律専門家である弁護士であって、解雇権は濫用してはならないということについては十分熟知していたはずであり、第1解雇は、解雇権行使の相当性判断において少なくとも明白かつ重大な誤りがある。

そして、原告は、被告から3月14日に第1解雇の通告を受け、胸ぐらを捕まれ、殴りかかられ、身の危険を感じて出て行こうとした際、玄関先でカバンを思い切り引っ張られた。

以上のように、第1解雇を行なった際には、被告は、刑法上の暴行を含む行為を行なっており、非常に悪質である。第1解雇は相当性を欠き、無効との評価を超えて、不法行為を構成するというべきである。

(2)セクハラ

ア 被告は、2月14日10時頃、交際中の櫛田を連れて事務所に出勤してきた。被告は、「プライベートの愚痴を聞け。」と言い、原告が嫌がっているにもかかわらず、交際中の女性に関する愚痴を業務中、業務外を問わず、頻繁に述べてきた。

イ 原告は、2月15日、勤務を休み、首の動脈検査に行った。結果としては異常はなかったが、そのことを電話で被告に報告したところ、「誰と付き合ってもいいから俺とも付き合え。」、「俺のせいでしゃべれなくなった訳じゃない!」、「寒いからだろ?ガスファンヒーターを買ってやる。今から行くからな。」などと言い出し、原告が強く拒否したにもかかわらず、「家を見せろ!」、「雇用主だからいざという時に家を知っておく必要がある。」と言われ、休みの中、「吉祥寺のヨドバシカメラに来い。」と言われた。そして原告はフェースブックに状況を書き込んだところ、友人の一人が原告の母親に、「ボス弁が家に入ろうとしている。」とメールを送ってくれた。原告の母親からタイミングよく被告に電話がつながり、「雇用主が家に入るなんておかしいんじゃないか。」と言ったところ、被告はヨドバシカメラからそそくさと帰って行った。同日夜、被告は非常に感情的になり、原告に電話を掛けてきて、怒鳴り散らし、内定を取り消すなどといった脅迫をしてきた。

ウ 原告は、2月19日、通常どおり出勤したが、被告は休みであった。業務時間中に被告から「君がセックスしてくれるならノリノリで出勤するのに。」と電話があった。

エ 被告は、2月22日、珍しく午前中に出勤したものの、櫛田と口論し、長電話をしていた。被告は、電話が終わった後、非常に機嫌が悪く、原告に対し「この1年、女運が悪い。俺が悪いのか?」、「セックスしようよ」と言った。この日、原告は、被告に対し「今後好きになることはないし、好きと言われただけでも気分が悪い」と明確に拒絶した(甲11)。

オ 原告は、3月4日、勤務時間中の10時頃、被告からホテルにしつこく誘われた。被告は、雇用主であり、また、櫛田との度重なる口論を目の当たりにしていたため、原告は断りきれず、11時頃に池袋のホテルロンドンに到着し、そこで性行為をさせられた。「中出しだけはしないで」と原告は必死に懇願したにもかかわらず、被告により結局避妊具を使用しないまま性行為をされてしまった。

(3)侮辱的発言

被告は、3月14日に第1解雇を行なった際、原告がフェースブックの記載の削除について濡れ衣である旨を主張すると、「風俗嬢である事をね。自慢にしているよお前は心の中で。そんな事してたらね、うぅ、将来が見えるよ。言ってやろうか。澤口さんに聞いたよ。風俗嬢、5年、10年やった人間の末路を。病んで、まだね、貴女の年だからね、わからんだろうよ。40代、なったら、醜いことになるよ。」と語気を荒げて言った。このような被告による発言は、原告の名誉感情を著しく害するものであり侮辱的発言にあたる。また、使用者による労働者に対する発言として、何ら正当性を有する発言ではなく、不法行為に該当する。

(4)損害

上記(1)の不当な第1解雇によって原告の被った精神的苦痛を慰藉するとすれば、100万円は下らない。また、上記(2)のセクハラによって、原告の被った精神的苦痛を慰藉するとすれば、300万円は下らない。さらに、上記(3)の侮辱的発言によって原告の被った精神的苦痛を慰藉するとすれば、50万円は下らない。したがって、被告は原告に対する不法行為に基づく慰謝料として450万円を支払う義務を負う。

また、被告によるこれらの不法行為について要する弁護士費用は、上記450万円の1割である45万円が相当である。

以上より、被告は原告に対して、不法行為に基づく損害賠償として495万円を支払う義務を負う。

【被告の主張】

(1)不当な第1解雇について

第1解雇が不当なものではなく、有効であることは上記1【被告の主張】のとおりである。また、第1解雇の際、被告が原告の胸ぐらをつかんだとか、殴りかかったとか、カバンを思い切り引っ張るといった行為をしたことはない。さらに、原告が雨の中、傘もささずに事務所から走って逃げたという事実もない。

(2)セクハラについて

ア 被告が原告に嫌がっているにもかかわらず、交際中の女性に関する事を頻繁に述べた等という事実はない。

イ 被告が、2月15日、原告の住所に行き、原告と一緒にガスファンヒーターを購入しに行った事実はある。しかし、これは原告から体調不良の原因が住居の寒さなどにあると相談受けたため、原告の住居を訪問し、ガスファンヒーターの購入を勧め、共に買いに行ったにすぎない。

ウ 被告が、2月19日、原告が主張するような発言をした事実はないし、原告が援用する証拠(甲10)も何ら原告の主張を根拠付けるものではない。なお、原告は、被告に対し、性的な会話や用語を積極的に多用するような人物である(乙37ないし39)。

エ 被告が、2月22日、原告が主張するような発言をした事実はない。原告が援用する証拠(甲11)は、原告が一方的にインターネット上に書き込んだ内容にすぎない。

オ 3月4日に被告から性行為を強要されたとの原告の主張は否認する。かかる事実は存在しない。

(3)侮辱的発言について

被告が、3月14日、フェースブックの記載の削除について濡れ衣である旨虚偽の申立てをする原告に対し、風俗嬢であったことを心の中で自慢していること、そんな状態ではリセットどころではなく、将来的に40を過ぎたら精神を病んだりすることになる、今の年齢であれば間に合う等のことを言ったことは事実である。しかしながら、これは、被告が、行政書士試験を頑張ってきた原告に虚偽の申立てを認めさせ、最後のチャンスを与える意味で申し述べたものである。

また、原告は、かかるやりとりがあった後も、何ら動揺することなく、平然とやり取りを続いている。原告が名誉感情を著しく害されたことはない。なお、原告は自分の風俗嬢歴を何ら隠すことなくミクシィで公開するなど、風俗嬢歴に対して何ら引け目を感じていない。

(4)損害について

争う。

4 争点(4)報酬請求権の有無

【被告の主張】

(1)原告は、平成24年6月26日、弁護士である被告に対して、当時、原告が元夫である濱田和也(以下「濱田」という。)から申し立てられていた養育費減額請求調停事件について、その解決を委任する旨の申込みがあり、被告はそれを承諾した。

(2)その際、弁護士費用として、着手金30万円、成功報酬30万円の取決めがなされた。成功とは、月額3万円の養育費を確保することであった。

(3)また、平成24年6月27日、広島県尾道市への車中において、上記(2)の弁護士費用の支払方法について、原告が、被告の事務所で勤務するようになってから、賃金以外の行政書士業務から得る収入から支払うこと、その支払が完了するまでに同事務所を辞めることになった場合は、一括で支払う特約が付された。

(4)平成24年6月28日、被告が濱田の自宅で交渉し、結果として、養育費を月3万5000円をする合意を成立させた。

(5)原告は、上記(2)の弁護士費用を一切支払わないまま、3月14ひ、被告事務所を退職した。

【原告の主張】

(1)原告と被告との間において、原告が濱田から申し立てられた養育費減額調停申立事件の交渉において、交通費以外に弁護士費用の取決めをしたことは一切ない。

(2)なお、原告は、平成24年7月上旬、濱田から養育費減額調停を申し立てられた件について、被告から、濱田と交渉して5万円から3万5000円に減額した形で協議を成立させたとの説明を受けたが、その証拠として被告が提出する書面(乙70)は、濱田やその連帯保証人の署名押印もなく、協議が成立したこと自体明らかでない。

また、費用についての取り決めは、濱田の自宅のある広島市尾道市まで行く交通費以外は一切なく、受任契約書も作成されることはなかった。また、費用、報酬に関する何らの説明も合意を存しない。

第4 争点に対する判断

1 本訴請求の趣旨(4)の訴えの利益

同一債権について、債務者が原告となっている債務不存在確認の訴え(本訴)を提起している時に、債権者が給付の訴えを求める訴え(反訴)を提起した場合には、本訴については確認の利益を欠くことになると解される(最高裁平成16年3月25日判決民集58巻3号753頁)。

本件において原告は、元夫の濱田から申し立てられた養育費減額交渉に関し、原告・被告間の委任契約に基づく原告の被告に対する60万円の報酬支払債務のないことの確認を求めており(本訴請求の趣旨(4))、これに対して、被告は、原告に対し、同一内容の報酬支払債権の存在を主張して給付を求める反訴を提起しているところであるから、原告の本訴請求の趣旨(4)については訴えの利益を欠くことになる。

2 争点(1)(本件雇用契約の終了の成否)

(1)第1解雇に至る経緯

原告は、2月12日から被告の事務所において就労を開始したが、3月14日の深夜から早朝にかけて被告から複数の着信履歴が残されると共にメールが送信された(甲1、2)。原告が、同日6時45分頃、被告に電話したところ、被告は、原告が被告のフェイスブックの「[hiroko kushida]と交際中です。」という表示を消した(以下「フェイスブックの改ざん」という。)と問い詰めてきたが、原告は否定した(乙4)。

原告は、同日8時15分頃、被告の事務所に出勤したところ、被告は、原告にフェイスブックの改ざんをしたのではないかと問い詰めると共に、「もう来なくていいって言ったはずだけど。」「もう、そういうことを言っている限り、もう、あなた、僕は君を雇いきれない。もう完全にあなたがやったとしか考えられない状況です。」、「君が嘘をついているということが僕には問題なんだ。だから、君がそれを認めないなら、僕は雇いきれない。信用できない。」と告げ(乙2の2)、第1解雇の意思表示をした。

(2)合意解約の成否について

ア 被告は、3月14日、原告に対し、第1解雇を言い渡した際、原告は「こんなとこ働けんわ」と発言して立ち去ったことから、本件雇用契約は合意解約により終了したと主張する。

イ そもそも意思表示は、表意者が一定の効果を意欲する意思を表示し、法律がこの当事者の意欲した効果を認めてその達成に努力するものとされているから、合意解約の意思表示についても合意解約という法律効果を意欲する意思が表示されたものと評価できるかが問題となる。そして、労働者にとって雇用契約は、生活の糧を稼ぐために締結する契約であり、かつ、社会生活の中でかなりの時間を費やすことになる契約関係であることからすれば、かかる雇用契約を解消するというのは、労働者にとって極めて重要な意思表示となる。したがって、かかる雇用契約の重要性に照らせば、単に口頭で合意解約の意思表示がなされたとしても、それだけで直ちに合意解約の意思表示がなされたと評価することには慎重にならざるを得ない。特に労働者が書面による合意解約の意思表示を明示していない場合には、外形的にみて労働者が合意解約を前提とするかのような行動を取っていたとしても、労働者にかかる行動を取らさざるを得ない特段の事情があれば、合意解約の意思表示と評価することはできないものと解するのが相当である。

ウ これを本件についてみるに、原告は、被告から、もう来なくて良い、フェイスブックの改ざんをしたのだろうと問い詰められたのに対し、これを否定する中で、「(改ざんを)やっていないから、こんなとこ働けんわ。」との発言に及び、その後、被告の事務所から立ち去り就労していないことが認められる(乙2の2、原告本人)。

確かに、原告が「こんなとこ働けんわ。」と発言して、事務所から立ち去っていることについては、外形的にみれば原告が合意解約を前提とするかのような行動を取っていたと評価できない訳ではない。

しかしながら、原告の「こんなとこ働けんわ。」との発言は、被告から事務所にもう来なくて良いと言われた上、フェイスブックの改ざんを疑われ、これを否定する中で及んだものにすぎないし、雇用主である被告からもう来なくて良いと言われ、言い分も聞き入れてもらえなかった以上、原告としては事務所を立ち去るしか方法がなかったものにすぎない。

以上のような原告の言動の前後の経緯からすれば、原告が「こんなとこ働けんわ。」と発言し、事務所から立ち去ったことをもって、原告が本件子硫黄契約の合意契約に同意したと認めることはできない。その他、本件雇用契約が合意解約されたと認めるに足りる客観的な証拠はない。

(3)試用期間の有無について

ア 被告は、1月27日、試用期間を3月末までとする旨のメール(甲10)を送信し、特にそれに対する反論がなかったことから、本件雇用契約には3月末までの試用期間の定めがあったと主張する。

イ 確かに、被告が1月27日18時34分に送ったメールには「三月末までの試用期間の間に就職先を探してください。僕も探します。その期間は特別休暇にします。返信不要です。」と記載されており、同メールに対して、原告は特に返信をしていない(甲10)。

しかしながら、上記前提事実(1)アのとおり、原告は平成24年3月半ばに採用内定を受けており、その当時から仕様期間の定めがあったと認めるに足りる証拠はない。そして、試用期間も労働条件の一つとして本件雇用契約の内容となるところ、被告が内定から10ヶ月以上も経過した1月27日に、一方的に上記メールを送っただけで試用期間の定めが本件雇用契約の内容になったと評価することはできない。

また、そもそも、上記メールには、「返信不要です。」との記載されており、かかるメールに原告が返信しなかったことをもって、原告が本件雇用契約に試用期間を定めることについて同意したと認めることもできない。なお、原告は、原告が上記メールに返信しなかったのは、スーパーで買い物中に送られてきたため、返信しなかったものであって、試用期間を定めることについて了解したわけではない旨を述べている(甲24)。

以上からすれば、本件雇用契約において、3月末までの試用期間が定められていたと認めることはできない。

(4)解雇理由aについて

ア 認定事実

原告は、平成24年3月半ば、内定を受け、2月から被告の事務所で働くことになった(前提事実)。原告は、被告の事務所で働くため2月1日に愛知県から東京都に引っ越してきた(甲24、乙73)。

被告は、2月5日、事務所のあいさつに訪れた原告に対し、「行政書士の成功の秘訣」という書籍を渡すと共に行政書士としての営業方法を100個考えてくるようにとの課題を与えた(甲24)。原告は、2月9ひ17時22分の時点では、上記課題について12個しか考えておらず、残り88個もある状態であった(乙115)。原告は、同月9、10日の2日間徹夜し、交際相手の雅範に手伝ってもらい、上記課題をこなした(甲24)。

原告は、子供の慣らし保育があったため、2月12日から被告の事務所に出勤した(原告本人)。原告は、2月13日の朝、ろれつが回らなくなりしゃべれなくなったため、同日、同月15日、通院と検査のため欠勤した(甲24、乙48の1、65)。

原告は、2月28日、被告から2月分(2月12日から同月28日まで)の日割の賃金13万円と交通費約5000円の支給を受けた(甲24)。

イ 検討

(ア)被告は、原告の勤務開始日は、2月1日からであると主張している。しかしながら、原告が実際に被告の事務所で就労を開始したのは同月12日からであり、被告は、同月1日から同月11日までは、原告に対し、無給休暇という取扱いをしたと述べており(被告本人)、同月11日までの賃金は支払っていないことからすれば、原告の勤務開始日は同月12日からであったと認めるのが相当である。

この点、被告は、原告が2月1日に被告の事務所で勤務するために愛知県から東京都に引っ越してきたことをもって、同月から勤務開始する予定であったと主張するが、原告の引越日だけをもって、勤務開始日と解することはできない。そもそも、本件雇用契約の締結にあたっては契約書面なども全く作成されていないことからすれば、実際に原告が被告の事務所において勤務開始した日をもって勤務開始日と解するほかなく、被告の主張を認めることはできない。

(イ)被告は、原告が事前に与えられた課題をこなすにあたって、雅範の助力を得たことや、2日間徹夜したために、勤務開始後に体調を崩したことを解雇理由aに挙げている。

しかしながら、上記(ア)のとおり、本件雇用契約は2月12日をもって勤務開始日と見るべきであり、同日11日以前に原告が上記課題をこなしたことに対し、被告は何の対価も支払っていない。そうすると、同日以前に原告が課題をこなすにあたって、他人の助力を得たことや、課題を2日間徹夜でこなしたことについては、本件雇用契約における勤務開始日以前のことであるし、しかも使用者として対価を支払っていない以上、かかる段階における課題の履行方法に関して、被告が指摘するような問題があったとしても、これをもって客観的に合理的な解雇理由になるとは評価しがたい。

また、そもそも、被告が2月5日、原告に対し、同月12日までの間に行政書士としての営業方法を100個も考えてくるように課題を与えること自体、社会通念上、過大な課題を課したものといわざるをえず、かかる課題を貸すこと自体、使用者としての業務指揮権を濫用するもので、そもそも無効と解すべきでもある。そして、原告が、徹夜で河合をこなし、疲労のため、2月13日、同月15日、通院、検査のため欠勤したことについても、被告が過大な課題を課したことが原因である以上、解雇理由aが客観的に合理的な解雇理由になるとは評価しがたい。

(5)解雇理由bについて

ア 認定事実

原告は、2月12日、被告事務所内で写真を撮影し、「稼働していない弁護士事務所の実体...」と題して、フェイスブックで公開した(乙21)。

イ 検討

この点、原告は、上記写真を公開したフェイスブックは、原告の母親や雅範など5名に限定されており、被告の業務に何ら実害は生じていないと主張する。

しかし、公開されていたのが5名に限定されていたとしても、原告の母親と雅範以外の人物の名は定かではないこと、公開対象の5名からさらに他の不特定多数人に流布伝達される可能性がないとはいえないこと、そもそも、被告の許可はもとより、被告の推定的な許可があるとも認めがたい状況下において、無断で事務所内を撮影し、第三者に公開すること自体不適切な行為といわざるを得ない。なお、原告は、かかる写真を撮影し、母親や雅範に公開することについては正当な理由があったと主張するようであるが、わざわざ被告事務所内の写真を撮影する必要性は認められない。

以上からすれば、解雇理由bは、客観的に合理的な解雇理由になるといえ、解雇理由bの存在も認められる。

(6)解雇理由cについて

ア 認定事実

原告は、2月18日、被告に無断で、被告と被告のクライアントである櫛田との電話の会話を録音した(乙1の4、23)。

イ 検討

この点、原告は、2月18日の勤務中、被告が櫛田に対して、突然大きな声を出して、怒鳴り始めるなどしたため、原告も2月に働き始める以前に、被告から電話で怒鳴り散らされるなどしたため、何かあったときのことを考え、録音したと主張し、無断で録音したことについて正当性があると主張している。

しかしながら、原告が被告に電話で怒鳴り散らされることがあったとしても、被告はもちろん、櫛田からも録音することについて推定的な承諾が得られているとも認めがたい本件において、原告が、被告と櫛田との電話を無断で録音することについて正当性があるとは認めがたい。

もっとも、原告が被告と櫛田の電話での会話を無断で録音した行為は不適切ではあるが、第1解雇以前に、原告が無断録音した内容を必要性もなく第三者に公開するなどして、被告や櫛田の信用を侵害したというような事情もない。

以上からすれば、解雇理由cについては、客観的に合理的な解雇理由になるとはいえない。

(7)解雇理由dについて

ア 認定事実

原告は、被告に対し、被告事務所到着後に出勤した旨を知らせるメールを送信しており、原告の始業時間は8時からであるところ、送信されていない日や日によって多少のばらつきはあるものの、原告は概ね8時20分前後に出勤した旨のメールを送っている(乙48の1、48の2、65)。

イ 検討

この点、被告は、原告が毎日30分程度の遅刻をしていると主張するが、第1解雇が行われるまでの間に、被告が原告の遅刻を特に問題として、指導注意を行なった形跡は認められない。

また、原告が子供を保育園に預けてから出勤するため、10分程度遅れることについては、被告も了解していたことが認められる(乙32)。

また、被告も事務所にタイムカードを導入するなどして勤怠管理を行っておらず、原告からのメール送信という自己申告によってのみ勤怠管理を行っていたにすぎない。

さらに、原告の遅刻によって被告の業務に具体的に何らかの障害が生じたとも認めがたい。

以上からすれば、解雇理由dについては、客観的に合理的な解雇理由になるとは認めがたい。

(8)解雇理由eについて

ア 認定事実

原告は、平成24年4月26日、被告から、被告が契約しているPHSを貸与された。原告が2月に被告の事務所で働くようになってから、被告は、業務連絡用として原告が上記PHSを使用することを認めた(甲24)。

なお、被告は、原告が上記PHSを私的に利用して5000円分の通話料金を発生させたと主張しており、原告もかかる事実を否定しているわけではないが、仮に使用したとすれば被告の依頼者の碓井との通話で使用したと主張している。

イ 検討

確かに、被告から業務上使用することを前提に貸与されていたPHSを私的に利用して通話料金を発生される行為は一応解雇理由になり得るものである。しかしながら、2月に5000円分の通話料金が発生したのは、原告が、被告の依頼者である碓井と通話したためである可能性があり、原告が私的にPHSを利用して通話料金を発生させたと認めるに足りる客観的な証拠はない。

以上からすれば、解雇理由eについては、原告が私的にPHSを利用したという事実を認めることができす、解雇理由eの存在を認めることができない。

(9)解雇理由fについて

ア 認定事実

原告は、3月1日、被告に無断で、無償で法律相談を行う代わりに、無償で被告の事務所のHPを作成するイラストレーターを募集した(乙49、77の1)。

イ 検討

この点、原告は、無償で法律相談を行う代わりに無償で被告のHPを作成するイラストレーターを募集することについて、被告の了解を得ていたと主張するが、メール(甲18)は原告がイラストレーターに送ったものにすぎない。また、ツイッター(甲19)は、3月1日から半年以上も経過した9月27日に被告がイラストを描いてくれる人を募集しているにすぎない。これらの証拠から、原告が被告の了解を得てイラストレーターを募集していたと認めることはできない。

もっとも、被告も最終的には、応募してきたイラストレーターを契約をする話を進めていたこと、その後、原告を解雇したため、応募していたイラストレーターと契約しなかったことが認められる(乙33)。

以上からすると、原告のイラストレーター募集については最終的には被告の了解を得られていたとも評価できるし、仮に了解が得られていなかったとしても、契約に至っていないこと等から、被告が具体的に損害を被っていたとも認められず、客観的に合理的な解雇理由になるとは認めがたい。

(10)解雇理由gについて

ア 認定事実

原告は、3月6日、有料相談サイトJ・Aに法律事務所の事務補助者として登録し、質問に対する回答を行うなどしている(乙35の1ないし35の10)。もっとも、被告が解雇理由gの事実を知ったのは3月14日の第1解雇を行った後の3月25日のことであった(乙95)。

イ 検討

この点、原告は、被告の指示によって、J・Aに登録して、回答していたと主張しているが、かかる主張を裏付ける客観的な証拠はない。

しかしながら、原告がJ・Aに登録して回答したことによって、具体的に報酬を得ていたという事実までは証拠上認められない。また、原告がJ・Aに登録したのは3月6日で、同月14日の第1解雇が行われる以上、原告がJ・Aに登録し解凍していたのは短期間に留まる。さらに、原告がJ・Aに登録して回答したことにより被告の事務所の信用が具体的に毀損されたという事実も証拠上認められない。

以上からすれば、解雇理由gについては、客観的に合理的な解雇理由に該当するとは認めがたい。

(11)解雇理由hについて

ア 認定事実

被告は、3月13日16時過ぎ頃、被告がトイレに行った際、原告が被告のフェイスブックの改ざんを行なったと主張し、原告は、被告のフェイスブックの改ざんをしたことはないと否定しているところである。

この点、被告は、原告にはフェイスブックの改ざんを行う機会、能力、動機があった等と主張しているが、被告が過失で削除した可能性を否定できるものではない。なお、被告は過失で削除するはずがないとして、証拠(乙53)を提出しているが、かかる証拠から、被告の主張を認めることはできない。

イ 検討

なお、以上のとおり、原告が被告のフェイスブックの改ざんを行なったと認めるに足りる証拠はないが、仮に、原告が被告のフェイスブックの改ざんを行なったとしても、被告の業務とはおよそ関連のないと思われる被告のプライベートな情報(櫛田と交際中であること)を削除したからといって、本件雇用契約を継続することができないような障害が生じるとは考えがたい。

以上からすると、解雇理由hは、その存在自体証拠上認めることはできないし、仮に解雇理由hの事由が認められたとしても、客観的に合理的な解雇理由なるとは認めがたい。

(12)解雇理由iについて

ア 認定事実

原告は、被告に勤務していた際、被告の許可を得ずに被告との会話を秘密録音(会話の一方の当事者が他方当事者の許可を得ずに会話の内容を録音すること)したり(乙1の2、1の10、2の1、4)、被告と櫛田との会話を無断で録音したりしている(乙1の4、23)。

イ 検討

(ア)原告が被告との会話を秘密録音していたことについては、原告が被告からフェイスブックの改ざんをしたのではないかと問い詰められたり、第1解雇を告げられたりしている場面のことであり、秘密録音すること自体不相応といえるか疑問である。また、被告も原告との会話を秘密録音しているようであり(乙2の2)、原告の秘密録音のみを責めることはできない。また、上記(6)イのとおり、秘密録音することは相当ではないが、そのことだけから直ちに客観的に合理的な解雇理由になると認めがたく、原告が秘密録音した内容を必要性もなく第三者に公開するなどして被告の信用を侵害したというような事情がなければ、客観的に合理的な解雇理由になるとはいいがたい。

(イ)原告が、無断で被告と櫛田の会話を録音することについても、上記(6)イのとおり、正当性があるとは認めがたいが、無断で録音したことだけをもって、客観的に合理的な解雇理由になるとは認めがたく、原告が無断録音した内容を必要性もなく第三者に公開するなどして、被告の信用を侵害したというような事情がなければ、客観的に合理的な解雇理由になるとはいえない。(ウ)以上からすると、解雇理由iについては、客観的に合理的な解雇理由になるとは認めがたい。

(13)解雇理由jについて

そもそも解雇とは、使用者が一方的に労働者との間の雇用契約を解約する行為であり、かかる行為に対して、労働者が同意することはそもそも想定しがたい。雇用契約の終了に関して、労働者が同意することがあるとすれば、使用者の合意解約の申込みに対して、これを承諾することと解するのが相当である。したがって、原告が第1解雇に同意していたという被告の解雇理由jは、解雇理由になり得るのか疑問である。もっとも、この点をおくとしても、上記(2)のとおり、3月14日の時点において、原告が本件雇用契約を合意解約することに同意したと評価することはできないことと同様に、原告が第1解雇に同意したと評価することもできない。以上からすると、解雇理由jも客観的に合理的な解雇理由になるとは認めがたい。

(14)解雇理由k、lについて

ア 認定事実

原告は、5月16日午後10時35分頃、上記(12)のとおり被告と櫛田の会話を盗聴録音した音声データを、インターネット上で誰もがアクセスできる状態に置いた。また原告は、同日、同月17日、同月23日にかけて、上記(12)のとおり被告と原告の会話を秘密録音した音声データを、インターネット上の誰もがアクセスできる状態に置いた。(乙1の4、1の8、1の10、1の12、1の13、4、5、23、34の1、34の2、140)。

なお、原告も、上記各音声データをボイスブログ(音声によるブログのこと。ブログとはウェブログの略で自分の意見や感想を日記風に記して、それに対する感想等を閲覧者が自由にコメントできる形式のウェブサイトのこと)にアップロードしたことは認めている。

この点、被告は、原告が被告と原告の会話を秘密録音した音声データを一部改ざんした上でインターネット上で公開したと主張しているが、具体的な改ざん箇所も不明であり、改ざんの事実を認めるに足りる証拠はない。

イ 検討

原告は、3月14日に第1解雇されたため、法的手段を取る前提で5月中旬頃、証拠である上記アの各音声データを整理保存しておくためにボイスブログにアップロードしたが、全体公開はされていないと考えており、全体公開するつもりはなかったと主張し、ボイスブログの管理画面上、公開されているものは黒字で「公開」と表示されており、上記各音声データについては「公開」の文字は白地になっていると指摘する(甲20)。

しかしながら、原告の提出しているボイスブログの管理画面(甲20)は印刷が不鮮明であり、「公開」の文字が白地になっている音声データが上記各音声データなのかどうか定かではない。

また、仮に、「公開」の文字が白地になっているのが上記各音声データであったとしても、ボイスブログとは、上記アのとおり、本来的にウェブサイトにおいて第三者公開を想定しているものであることからすれば、上記各音声データをパソコンのハードディスクやUSB等の秘密録音が可能な記憶媒体に記憶するのではなく、ボイスブログにアップロードする必要はないし、かかるボイスブログにアップロードした行為はたとえ公開を意図していなかったとしても軽率な行為と言わざるを得ない。実際にも上記各音声データが第三者が閲覧できるような状態におかれていた以上、原告には重大な過失があったといわざるを得ない。

(15)第1解雇の有効性について

ア 被告は、3月14日、上記(1)のとおりの経緯で、原告が3月13日被告のフェイスブックの改ざんをした(解雇理由h)等と追及する中で第1解雇を行なった。

その後、原告は、3月30日到着の内容証明郵便をもって、被告に対し、解雇理由を具体的に明らかにするように求めた(甲6の1、6の2)が、被告から解雇理由が明らかにされずに、6月6日には本件労働審判を申し立てた。これに対し、被告は、第1解雇の解雇理由について、本件労働審判事件が終了し、その後、原告が10月3日に申し立てた本件仮処分事件において11月8日付け準備書面を提出し、その中で初めて第1解雇の解雇理由に該当する解雇理由aないしe、g、ないしlの存在を明らかにした(乙13)。

イ 確かに、普通解雇の場合、解雇の意思表示の際に明示した解雇理由以外の事実関係を、当該解雇が解雇権濫用に該当するのか否かの判断において評価障害事実として斟酌(しんしゃく)してはならないという法律上の規制は特にない。

もっとも、解雇を行なった当時、使用者が解雇理由として重視していたのであれば、当然に当該解雇理由を明らかにすることは容易であるところ、解雇理由の明示を求められてもすぐに明らかにしなかったような解雇理由は、解雇の際にも使用者がさほど重視しておらず、解雇の有効性を検討するに際しても重視されるべきではないということが一般的な経験則に合致するところである。したがって、一般的な経験則、あるいは事実、証拠評価の問題として、普通解雇の意思表示の際に明示しなかった解雇理由については、評価障害事実を評価する際には重視すべきではないというべきである。

これを本件についてみるに、被告は当初、解雇理由hのみを理由に第1解雇を行なっており、その他の解雇理由を直ちに明示していなかったことからすれば、第1解雇の有効性は、解雇理由hを重要な解雇理由として検討するのが相当である。

なお、被告は、6月12日大量の服薬を行う等し、7月29日当時うつ病と診断されていたことは認められるが(乙31の1、31の2)、原告が6月6日に申し立てた本件労働審判事件では弁護士を選任した上で第2回、第3回労働審判手続期日に被告自ら出頭し、労働審判が行われていることからすれば、3月14日に行った第1解雇の解雇理由を11月8日まで明らかにしなかったことについてやむを得ない事由があったとは認められがたい。

ウ 本件で原告が主張している第1解雇の解雇理由(解雇理由aないしj)についてみるに、上記(4)ないし(13)のとおり、客観的に合理的な解雇理由としてその存在が認められるのは、解雇理由bのみであり、その他の解雇理由は、いずれも客観的に合理的な解雇理由になるとは認めがたいか、仮に客観的に合理的な解雇理由になるとしてもその存在が証拠上認められない。

そして、第1解雇については、上記イのとおり、解雇理由hを中心に検討するべきところ、上記(11)のとおり、解雇理由hについてはそもそもその存在が証拠上認められないばかりではなく、仮に認められたとしても客観的に合理的な解雇理由になるとは評価しがたいものである。

以上からすると、第1解雇については、解雇理由aないしj農地、解雇理由bが客観的な解雇理由になりその存在が認められるものの、かかる解雇理由bのみを解雇理由として解雇することについては、上記イの見地枯らして、社会通念上相当とは認めがたい。したがって、第1解雇は権利を濫用したものとして無効であり、当然のことながら労基法20条1項ただし書きの解雇、すなわち即時解雇としても無効である。

(16)第2解雇の有効性について

ア 上記前提事実(3)のとおり、被告は、本件仮処分事件の10月15日づけ答弁書において、第2解雇を行っているところ、本件においてその理由としては解雇理由aないしlを主張している。

そして、第2解雇については、解雇理由bが客観的に合理的な解雇理由になることに加え、上記(14)のとおり、解雇理由k、lは、弁護士事務所での職員として働いている原告が、少なくとも重大な過失により、無断で録音した音声データを広くウェブサイトで公開したとしたというものであり、客観的な解雇理由になると共に、かかる解雇理由に基づいて行われた第2解雇は社会通念上も相当である。したがって、第2解雇については普通解雇として有効である。

イ なお、被告は、明確に主張していないが、第2解雇について、即時解雇として有効かどうかを検討するに、労基法20条1項ただし書きにいう「労働者の責に帰すべき事由」とは、当該労働者が予告期間を置かずに即時解雇されてもやむを得ないと認められるほどに重大な服務規律違反又は背信行為を意味するものと解するのが相当である。

これを本件についてみるに、解雇理由bの内容は上記(5)の通りであり、被告に回復不可能な損害が生じているとまでは認められない。また、解雇理由k、lの内容は上記(14)のとおりであり、原告の故意による行為とまでは認めがたいし、原告が第1解雇を受けて被告に対して法的措置を検討する中で行われた行為であることも考慮すれば、原告が即時解雇されてもやむを得ないと認められるほどに重大な服務規律違反又は背信行為であるとまでは評価しがたい。したがって、第2解雇は即時解雇としては行い得ないと解するのが相当である。

(17)第3解雇の有効性について

上記前提事実(3)のとおり、被告は、本件仮処分事件の11月8日付け第1準備書面において第3解雇を行なっており、即時解雇として行なったと主張している。

しかしながら、上記(16)イのとおり、解雇理由b、k、lは、原告が即時解雇されてもやむを得ないと認められるほどに重大な服務規律違反又は背信行為であるとまでは評価しがたく、第3解雇は即時解雇としては行い得ないと解するのが相当である。

(18)まとめ

以上のとおりであるから、3月14日に行われた第1解雇は、即時解雇としても普通解雇としても解雇権を濫用したものであり、無効である。また、被告が即時解雇として第3解雇を行うことも認められない。もっとも、本件仮処分事件における10月15日付け答弁書で行われた普通解雇としての第2解雇は有効である。そして、第2解雇の意思表示は、10月15日に原告に到達したと認めることができる(弁論の全趣旨)。したがって、同日から30日を経過した11月14日をもって本件雇用契約は終了した。なお、11月1日から11月14日までの賃金は、日割計算すると9万3333円である(20万円×14日÷30日=9万3333円)。

3 争点(2)(賃金支払方法に関する特約の有無)

(1)認定事実

原告は、2月28日の昼頃、被告から、2月分の日割賃金13万円と交通費約5000円を封筒入りで手渡された(甲24)。

被告は、原告に対し、3月21日、同月1日から同月13日までの賃金については、同月29日17時に被告事務所に受け取りに来るようにメールを送信したが(乙19)、原告は取りに行かなかった。

(2)検討

被告は、本件雇用契約の賃金の支払については、勤務満了日の退所時に事務所内において現金手渡しで支払うとの約定があったと主張する。

確かに、2月分の賃金については、事務所内で現金で手渡されていることが認められる。

しかしながら、本件雇用契約については、契約書面なども作られていないし、原告が賃金の支払を受けたのも2月の1回だけであることからすれば、本件雇用契約について、賃金の支払方法が被告の主張するとおりの約定出会ったと認めることはできない。

そして、雇用契約における賃金の支払については、債権者の現住所において行うのが原則であることからすれば(民法484条)、本件雇用契約においても、賃金の支払は、債権者である原告の現住所で行われるのが相当であり、被告が第1解雇後に原告に一方的に賃金を受け取りに来るように告げるだけで、被告が遅滞の責めを免れることはないと解すべきである。

4 争点(3)(不法行為の成否)

(1)第1解雇について

ア 第1解雇が解雇権を濫用したものであり、無効であることは上記2(15)のとおりであるが、第1解雇が無効であるとされ、その後の賃金の支払が認められることにより損害が補填されると解するのが相当であり、本件において、それ以上に、原告において損害が発生したと認めることはできない。したがって、第1解雇されたことについての不法行為に基づく損害賠償請求を認めることはできない。

イ 原告は、3月14日の第1解雇の際、被告から胸ぐらをつかまれ、殴りかかられ、身の危険を感じて出て行こうとした際、玄関先でカバンを思い切り引っ張られたと主張する。しかしながら、3月14日、被告が事務所内から出て行こうとする原告のカバンのひもを引っ張った事実は認められる(乙2の1、2の2)が、それ以上に、被告が原告の胸ぐらをつかんだとか、原告に殴りかかった事実を認めるに足りる証拠はない。

そして、被告が原告のカバンのひもを引っ張った事実については、確かに不法な有形力の行使と評価する余地がないではないが、3月14日当時、原告の被告もお互いに相当程度感情的に言い争っている最中に起きた出来事であるから、不法行為と評価しうる程度の違法性があるとはいいがたいし、原告が何らかの損害を被ったと認めることもできない。

(2)セクハラについて

ア 原告は、2月14日10時頃、櫛田を連れて事務所に出勤し、原告が嫌がっているにもかかわらず、交際中の女性に関する愚痴を頻繁に述べたと主張するが、原告の主張を認めるに足りる証拠はない。また、そもそも、原告が主張する事実をもって、セクハラとして不法行為が成立すると評価できるかも疑問である。

イ 原告は、2月15日、仕事を休んで病院に検査に行ったところ、被告から原告の自宅を見せろと言われたり、吉祥寺のヨドバシカメラに来るように言われ、さらに被告が原告の自宅に入ろうとした等と主張する。しかしながら、2月15日に原告と被告が吉祥寺のヨドバシカメラに行ったこと自体は認められるが、そもそも原告と被告は待ち合わせて同所に行っていること(乙47の1)からすれば、被告が原告を一方的に呼び出したとは認めがたい。また、被告が原告の自宅に入ったこと自体は認められるとしても、原告が自宅に入ることを明示的に拒否していたという事実も証拠上認められない。また、被告が原告の自宅に入ったことについて、何らかの不法行為が成立すると評価できるか疑問であるし、原告が何らかの損害を被ったと認めることもできない。

ウ 原告は、2月19日に、事務所を休んでいる被告から「君がセックスしてくれるならノリノリで出勤するのに。」と電話されたと主張するが、かかる主張を認めるに足りる証拠はない。

エ 原告は、2月22日に、被告から「セックスしようよ。」等と言われたと主張するが、かかる主張を認めるに足りる証拠はない。

オ 原告は、3月4日、被告からホテルにしつこく誘われ、11時頃池袋のホテルに連れて行かれ性行為を強要されたと主張するが、かかる主張を認めるに足りる証拠はない。

(3)侮辱的発言について

被告は、3月14日、第1解雇を行った際、原告に対し、「風俗嬢であることをねー、自慢しているよお前は!心の中で、そんなことしてたらねー、うー、将来が見えるよ。言ってやろうか?沢口さんに聞いたよ。風俗嬢を5年、10年やった人間の末路を。病んで、まだねー、あんた、あなたの年だからわからんだろうよ。40代、なったらー酷いことになるよ。」と発言したことが認められる(乙1の2、2の1)。

この点、被告は、フェイスブックの改ざんを認めない原告に嘘をついたことを認めさせ、最後のチャンスを与える意味で申し述べたものであると主張しているが、そもそも、上記2(11)のとおり原告が被告のフェイスブックの改ざんを行なったかどうかも定かではないし、被告の発言内容が、被告の主張するような趣旨で発言されたものと理解することはできない。

また、被告は、原告がかかる発言を受けても何ら動揺しておらず、平然とやり取りしている以上、名誉感情を著しく害されたことはない等と主張するが、被告の上記発言内容は、一般社会通念に照らして、他人の名誉を侵害することは明らかであり、不法行為が成立することは明らかである

その他、被告の上記発言内容を正当化するような事情は見あたらない以上、被告の行為は不法行為に該当する。

なお、原告は、その他にも、被告の原告代理人の能力についての発言が原告に対する侮辱的発言に該当すると主張するが、原告代理人に対する不法行為に該当する可能性があるとしても原告に対する不法行為と評価することはできない。

(4)損害について

原告が不法行為に基づいて請求する損害賠償については、上記(3)の原告に対する不法行為に対する侮辱的発言についてのみ、不法行為が成立するところ、かかる不法行為による原告が被る精神的苦痛を慰謝するに足りる金額としては金5万円と認めるのが相当であり、弁護士費用はその1割程度の5000円と認めるのが相当である。

5 争点(4)(報酬請求権の有無)

(1)認定事実

原告は、元夫の濱田との離婚時に養育費月額5万円の支払を受けることで合意していたが、平成24年3月から一方的に月額3万円に減額されたため、同年5月には原告自身が裁判所に履行勧告してもらっていた(甲24)。原告は、同年6月上旬、濱田から養育費減額調停の申立てを受けた(乙24)。原告は、被告に相談し、原告及び被告は同月28日、新幹線で広島県尾道市にある濱田の自宅に行き、濱田と会うことができなかったが、濱田の母親と養育費に関する話合いをした(甲24)。

被告は、養育費を月額3万5000円とすること等を内容とする「養育費用に関する契約書」と題する書面(乙70)を作成し、原告に交付したが、契約当事者である原告及び濱田、また濱田の連帯保証人である濱田の母親の押印はなされていなかった(甲24)。

(2)検討

この点、被告は、平成24年6月26日、原告から養育費減額調停の申立てについて解決を委任すること、弁護士費用として着手金30万円、成功報酬30万円の取決めがなされた等と主張する。

確かに、被告は、原告と共に、同月28日、濱田の自宅に行き、同人の母親と養育費について話し合い、その内容をまとめたとされる養育費に関する契約書(乙70)を作成した事実は認められる。

しかしながら、被告が主張するような弁護士費用を60万円にするといった委任契約書は作成されておらず、本件においてかかる委任契約書を作成することが困難であったような事情も特に認められない。また、被告が作成した養育費に関する話合いをまとめたとされる養育費用に関する契約書(乙70)についても当事者の押印がなされていない不完全なものであり、そもそも被告が主張するような内容で原告及び濱田との間で養育費に関する同意が成立し、濱田の債務を濱田の母親が連帯保証したという事実も認めることはできない。

以上からすれば、被告が主張するような内容の弁護士委任契約が締結されているのか疑問であることに加え、被告が主張するように、被告が同契約を履行したという事実も認めることはできない。

以上からすると、被告の原告に対する、60万円の報酬支払請求権の存在を認めることはできない。

6 まとめ

以上のとおりであるから、原告の本件請求については、報酬支払債務不存在の確認を求める訴えには訴えの利益がなく、普通解雇としての第2解雇が有効であるから、雇用契約上の権利を有する地位の確認を求める訴えは理由がないが、第2解雇が行われた10月15日から30日を経過した11月14日をもって本件雇用契約は終了しており、3月1日から11月14日までの賃金の支払と、不法行為に基づく損害賠償請求として5万5000円の支払を求める限度で理由がある。

また被告の反訴請求については上記5のとおり理由がない。

よって主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第19部 裁判官 内藤寿彦

画像引用:渡邉元尋弁護士/本人のTwitterより

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