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公的年金の「財政検証」を「検証する」(中)

今月3日、公的年金の財政状況をチェックし、将来の給付水準の見通しを示す「財政検証」の結果が公表され、私たちが将来どれだけ受け取ることができるのか最新の試算が明らかになりました。

今回の「財政検証」では世代や性別ごとに65歳になった時点での平均の年金額の見通しも初めて示されました。

長く働き続けると年金給付が増えるという方向性が見えたもので、男性も女性も特に若い人は働き方の選択肢が広がるかどうかも今後の課題となります。

まず、男女別、世代別の平均年金額を見ていきましょう。

若い世代ほど、厚生年金の加入期間が長くなる傾向があることから平均額が高くなり、女性の年金額の上昇も顕著になっています。

例えば、年金額が月額7万円未満の人の割合は、今年度65歳になる女性の25.3%に上るのに対し、今年度20歳になる女性では、過去30年の経済状況が続いた場合でも、12.8%と半分近くに減る見通しです。

具体的に比較しますと、今年度65歳になる1959年度生まれの男性の平均年金額が149000円、女性が93000円なのに対し、経済が順調で長期の実質経済成長率が1.1%のケースでは、◆今年度50歳になる男性は156000円、女性は109000円、◆40歳になる男性は18万円、女性は132000円、◆30歳になる男性は216000円、女性は164000円、◆20歳になる男性は252000円、女性は198000となりました。

また、過去30年間と同じ程度の経済成長率がマイナス0.1%のケースでは、今年度50歳になる男性は141000円、女性は98000円、◆40歳になる男性は141000円、女性は99000円、◆30歳になる男性は147000円、女性は107000円、◆20歳になる男性は155000円、女性は116000でした。

一方、「財政検証」では、今後、どのような制度改正が必要かを検討するため、実際に改正した場合の給付水準や財政への影響を示す「オプション試算」も行われました。

オプション試算(1) 基礎年金の充実

制度改正で焦点となっているが、基礎年金の充実です。今回の検証では、「マクロ経済スライド」による給付の抑制が、厚生年金では早期に終了する一方、基礎年金では長引く見通しが明らかになりました。

給付の抑制が続けばそれだけ水準は低下することになり、例えば、過去30年間と同じ程度の経済状況が続いた場合、57年度の基礎年金は満額で、現役世代の手取り収入の25.5%となり、今の36.2%から10ポイント以上、低下することになります。

このため、基礎年金の底上げを図る2つの制度改正について、オプション試算が行われました。

1つは、国民年金の保険料の納付期間を今より5年延長して、65歳になるまでの45年間とした場合の試算です。

長期の実質経済成長率が1.1%のケースでは、基礎年金の給付抑制は、38年度まで続き、モデル年金の所得代替率は、納付期間を延長しない場合と比べて7.1ポイント改善して、64.7になるとしています。

また、成長率がマイナス0.1%のケースでは給付抑制は55年度までで、所得代替率が6.9ポイント改善し、57.3になるとされました。

ただ、今回の検証では前回より将来の見通しが改善したことを踏まえ、厚生労働省はこの納付期間の延長については見送る方向です。

もう1つは、厚生年金財政から基礎年金財政への拠出を増やし、基礎年金と厚生年金の給付抑制の期間を一致させた場合の試算です。

成長率が1.1%のケースでは、給付抑制の期間が13年短縮されて、来年度以降必要なくなり、所得代替率は今年度と同じ61.2%が維持されます。

また、成長率がマイナス0.1%のケースでは給付抑制の期間が21年短縮されて36年度に終わり、所得代替率は56.2と、5.8ポイント改善されました。

ただ、基礎年金の半分は国費で賄われることから、水準が改善された分、国庫負担も増えることになり、今後、必要となる年間1兆から2兆円程度の財源をどう確保するかが課題となります。

オプション試算(2)厚生年金の適用拡大

「オプション試算」では、厚生年金に加入できる要件を緩和した場合の影響も示されました。

パートなどで働く短時間労働者の厚生年金への加入は、◆従業員が101人以上の企業で、◆週20時間以上働き、◆月額8万8000円以上の賃金を受け取っていることが要件となっていますが、ことし10月からは企業規模の要件がさらに緩和され、51人以上の企業で働く人も対象となります。

試算では、短時間労働者の企業規模の要件を撤廃するとともに、5人以上の従業員がいる個人事業所のうち、フルタイムでも厚生年金が適用されない飲食業や理容・美容業なども適用の対象とした場合の影響が示されました。

この場合、90万人が新たに厚生年金に加入することになり、◆長期の実質経済成長率が1.1%のケースでは、35年度に給付抑制が終わり、「モデル年金」の所得代替率が1ポイント改善し、58.6になるとされました。

また、成長率がマイナス0.1%のケースでは2054年度に給付抑制が終わり、所得代替率は0.9ポイント改善し、51.3になるとしています。

一方、企業などで週10時間以上働く人すべてを厚生年金の適用対象とした場合には、新たに860万人が厚生年金に加入することになり、◆成長率が1.1%のケースでは給付抑制が来年度以降、必要なくなり、所得代替率は今年度と同じ61.2で維持されます。

◆マイナス0.1%のケースでは 給付の抑制期間が19年短縮され、2038年度時点の所得代替率が56.3%と5.9ポイント改善するとしています。

オプション試算(3)在職老齢年金廃止

「オプション試算」では、働いて一定の収入がある65歳以上の人の厚生年金を減らす「在職老齢年金制度」を撤廃した場合の影響も示されました。

この制度では、給与と年金の月額の合計が一定水準を超えると、徐々に年金が減らされることになっています。

制度を撤廃した場合、1年間の年金の給付総額は、今の制度を続けた場合と比べて、30年度には5200億円、40年度には6400億円増加します。このため、所得代替率が0.5ポイント低下することになります。

「在職老齢年金制度」をめぐっては、高齢者の働く意欲をそぐことにつながるとして撤廃を求める意見がある一方、所得の多い高齢者を優遇することになるとして、慎重な意見もあります。

オプション試算(4)標準報酬月額引き上げ

「オプション試算」では、収入の多い人により多くの保険料を求めた場合の試算も行われました。

厚生年金の保険料は、給与に応じた「標準報酬月額」に保険料率をかけて算定されますが、上限は平均的な給与の2倍程度を目安に設定されることになっていて、現在は65万円となっています。

それ以上、収入があっても保険料は上がらない仕組みですが、この65万円を基準に保険料を支払っている人は、男性では1割近くに上っています。

このため、上限を75万円、83万円、98万円に引き上げた場合に、年金財政にどのような影響が及ぶかが、それぞれ示されました。

◆75万円に引き上げた場合は、本人や事業者からの保険料収入があわせて4300億円増加し、所得代替率が0.2%上昇します。

◆また、83万円では6600億円増えて0.4%、◆98万円では9700億円増えて0.5%、それぞれ上昇します。また、保険料負担の増加に応じて、本人が将来受け取る厚生年金も増えることになります。

厚生労働省は、「前回の結果と比べて、将来の給付水準が上昇し、公的年金制度の持続可能性が確保されていることが改めて確認できた。年末までに丁寧に制度改正の議論をしていきたい」としています。以 上

筆者 平木雅己(ひらきまさみ)選挙アナリスト

元NHK社会部記者。選挙報道事務局を長く勤め情勢分析や出口調査導入に尽力。小選挙区制度が導入された初めての衆議院議員選挙報道ではNHK会長賞を受賞。ゼネ

コン汚職事件、政治資金の不正など政治家が関わる多くの事件・疑惑も取材。

その後、連合(日本労働組合総連合会)事務局にて会長秘書(笹森清氏)として選挙

戦略の企画立案・候補者指導を担当、多くの議員の当選に尽力した。 

政策担当秘書資格取得後、法務大臣/自民党幹事長代理はじめ外務大臣政務官、衆参国会議員政策秘書として、外交・安全保障、都市計画、防災、司法、治安、雇用・消費者、地方自治などの委員会や本会議質問を作成、政策立案に携わる。

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