この記事では、具体的な事例を取り上げつつ、本書の内容をまとめてお届けします。全15回を予定しています。
『自由の命運:国家、社会、そして狭い回廊』は、2024年ノーベル経済学賞を受賞したダロン・アセモグルとジェイムズ・A・ロビンソンが共著した、「自由」の本質を多角的に探究する一冊です。
著者たちは、歴史的事例や現代の問題を取り上げながら、社会がどのように自由を獲得し、それを維持してきたのか、あるいは失ったのかを分析しています。
本書では、国家の力と社会の力がバランスを保ちながら進化することで初めて自由が維持されるという「狭い回廊」という枠組みを提唱し、自由は自然に成立するものではなく、国家の専横を抑え、社会を結束させる絶え間ない努力の中で築かれるものだと説いています。
さらに、著者たちは自由の脆弱性を強調し、その維持には国家と社会の力が互いに均衡を保ち続ける必要があることを示しています。
自由が失われるリスクや、その影響が繁栄に与える影響についても深く掘り下げられています。
本書は、自由が人類の発展と繁栄にどのように寄与してきたかを歴史的視点から解き明かすとともに、現代社会における自由の意義とその維持の重要性について新たな洞察を提供するものです。
序章
著者たちは、自由をイギリスの哲学者ジョン・ロックの定義に基づいて論じています。
ロックは自由を「他人に許可を求めることなく、自らの判断で行動し、自身の所有物や身体を管理できる完全な自由」と定義し、これを人間の基本的欲求と位置づけました。
また、自由の行使においては「他人の生命、健康、自由、財産を害してはならない」と強調しています。
しかし、自由は歴史的にも現代においても稀なものであり、毎年多くの人々が暴力や恐怖から逃れるために故郷を離れている現状がその稀少性を示しています。
暴力の抑制や紛争の解決には国家が不可欠であり、ロックは「法が無いところに自由は無い」と述べています。
著者たちは、自由が成立するためには「強い国家と結束した社会」が必要だと主張しています。
国家は暴力の抑制や法の執行、公共サービスの提供を担いますが、その権力を制御するためには強い社会の存在が不可欠であり、自由は国家やエリート層によって与えられるものではなく、一般市民が自ら獲得し守るべきものであると提唱しています。
本書は、自由の実現には国家と社会の双方が強く、バランスを保つ必要があると主張しています。
暴力を抑制し、法を執行し、公共サービスを提供するには強い国家が必要です。
しかし、その国家が専横化しないよう制御するには、結束した強い社会が必要です。
この両者の均衡が「自由への狭い回廊」を形作り、自由を可能にします。
自由の実現は一瞬で達成できるものではなく、国家が社会の足枷を受け入れ、社会が相違を超えて協力し合う過程を必要とします。
回廊が狭いのは、国家の強大な権力を制御し、市民社会の分裂を防ぎ協力を促すことが非常に困難だからです。
また、自由は計画的に創出できるものではなく、指導者によるトップダウン型の改革では実現しにくいのです。
たとえば、女性解放の歴史は自由の起源を示す一例です。中東の一部地域では、首長が一方的に改革を押し付けた結果、社会を巻き込むことなく表面的な平等にとどまっています。
一方、イギリスなどでは、女性が組織化し、権利を自ら勝ち取ることで実質的な進展が達成されました。
自由の実現は、社会が結束し、国家やエリート層に主体的に立ち向かえるかどうかにかかっており、それが自由を獲得し維持する鍵であると提唱しています。
次:第1章 歴史はどのように終わるのか
参考サイト:さくらフィナンシャルニュースnote
2024年のノーベル経済学賞に、社会制度と国家の繁栄の関係を研究したアメリカの大学の研究者ら3人
ノーベル賞で「アセモグル」ブーム到来? 品切れ、重版…書店も期待
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