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【経済評論】「国民は株を買え、経営者には口を出すな」

アクティビスト規制に潜む重大な矛盾

芸能ライター 山本武彦

さくらフィナンシャルニュース 編集部

政府は国民に対し、「貯蓄から投資へ」と繰り返してきた。

新NISAを恒久化し、年間投資枠を最大360万円に拡大。

家計の現預金を株式市場へ誘導し、企業価値向上の果実を国民に還元する「資産運用立国」を国家戦略として掲げている。

ところが、その政府・自民党が今、株主の声を弱める方向へ動いている。

法務省の法制審議会で検討されている会社法改正構想では、株主提案権について、現行の「議決権300個以上」という基準を廃止し、総議決権の1%以上を保有する株主に限定する案が示されている。

まだ国会提出済みの法案ではないが、実現すれば、時価総額1兆円の企業では単純計算で約100億円分の保有が必要になる。

個人投資家はもちろん、分散投資を行う中小の運用会社にとっても、株主提案は現実的ではなくなる。

これは、アクティビストだけの問題ではない。

株主提案権は、増配を迫るためだけの制度ではない。

役員報酬の透明化、政策保有株式の縮減、不採算事業の整理、不公正なMBOへの異議、経営陣と支配株主の利益相反など、経営者が自ら改めにくい問題を株主総会で議論させる機能を持つ。

政府が2026年7月に改訂したコーポレートガバナンス・コードは、少数株主や外国人株主の権利を実質的に確保し、経営陣の保身を目的とした買収防衛策や、既存株主を不当に害するMBOに注意すべきだと明記している。

株主との対話は、企業の持続的成長に有益だとも説明している。

一方で会社法では、株主が正式に議案を提出する入口を狭くする。

片方では「少数株主の声を聞け」と企業に要求し、もう片方では少数株主が声を上げる法的手段を奪う。

政策として支離滅裂ではないか?

また、国民の年金との矛盾だ。

GPIFは、運用会社が企業と建設的な対話を行い、経営改善を促すことで企業価値を高め、最終的に年金加入者の長期的な投資収益を拡大するという考えを明確にしている。株主による監視や対話は、一部の富裕なファンドのためではない。年金を受け取る国民自身の利益につながる仕組みでもある。

東京証券取引所も、資本コストや株価を意識した経営を企業に求め、投資家に対して企業との積極的な対話を呼びかけている。株主還元だけでなく、成長投資、不採算事業の改善、経営資源の適切な配分を進めるためだ。

それにもかかわらず、経団連など経営者側の要望を受けて株主権を狭めれば、企業統治改革のアクセルとブレーキを同時に踏むことになる。

財界は、短期的な増配や自社株買いを要求するアクティビストが、研究開発や設備投資を妨げると主張する。

しかし、株主の圧力を弱めれば企業が成長投資を始めるという保証はない。

むしろ日本企業が長年抱えてきた問題は、現金不足ではなく、余剰資金を抱えたまま経営陣がリスクを取らず、低収益事業を温存してきたことにある。

経営者に自由を与えれば成長するという発想は、あまりに楽観的だ。

監視されない経営者が行うのは、革新的な投資ではなく、失敗の責任を問われない範囲での現状維持かもしれない。

もちろん、虚偽の大量保有報告、秘密裏の共同買い付け、利益相反の隠蔽などは厳しく取り締まるべきだ。

しかし、それは違反行為への規制で対応できる。適法に株式を保有する少数株主の提案権まで奪う理由にはならない。

政府は国民に株式投資のリスクを負わせながら、投資先企業の経営を監視する権利は弱めようとしている。

「老後は自助努力で投資してください。しかし経営者の判断には口を出さないでください」

これが資産運用立国の実態なら、国民にとって都合が良い制度ではない。

株価が下がったときに損失を負うのは経営者でも財界団体でもなく、新NISAの投資家と年金受給者である。

守るべきは経営者の地位ではない。

資金を拠出し、リスクを負っている株主の権利だ。

株主の監視を恐れる企業に、国民の資産を振り向けさせる政策は、根本から間違っている。

 参考資料・関連リンク

 会社法改正と株主提案権

・法務省「会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する中間試案」

株主提案権の議決権数要件について、「300個以上」の要件を廃止する案などが示されている。https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900001_00333.html

・法制審議会「会社法制(株式・株主総会等関係)部会 第10回会議資料」

300個要件の廃止や株主提案権の見直しをめぐる具体的な議論を確認できる。
https://www.moj.go.jp/content/001459690.pdf

・e-Gov法令検索「会社法」

株主提案権については、会社法第303条から第305条などを参照。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC0000000086

【経団連の意見】

・日本経済団体連合会「会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する中間試案に対する意見」

経団連は、株主提案権の「300個要件」を廃止する案に賛成している。https://www.keidanren.or.jp/policy/2026/027_honbun.html

・週刊経団連タイムス「会社法制の見直しに関する中間試案に対する意見」

経団連の主張を簡潔にまとめた解説記事。
https://www.keidanren.or.jp/journal/times/2026/0521_05.html

 新NISA・資産運用立国

・金融庁「NISAを知る」

新NISAの年間投資枠は、つみたて投資枠120万円と成長投資枠240万円の合計で最大360万円。非課税保有期間は無期限となっている。
https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/know

・金融庁「令和6年以降のNISA制度について」

新NISAの恒久化、年間投資枠、非課税保有限度額などを解説している。
https://www.fsa.go.jp/frtc/kikou/2023/Zeimu_3761-P24-33.pdf

・内閣官房「資産運用立国実現プラン」

家計の金融資産を投資へ振り向け、資産運用業や企業の成長につなげる政府方針。https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/bunkakai/sisanunyou_dai4/index.html

・内閣官房「成長投資を促進するための金融戦略―資産運用立国のアップグレード―」

2026年7月21日に公表された、政府の最新の資産運用・成長投資戦略。https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/nipponseichosenryaku/kinyu/index.html

コーポレートガバナンス・コード

・日本取引所グループ「コーポレートガバナンス・コード(2026年7月版)の公表について」

改訂コードは2026年7月21日から施行されている。
https://www.jpx.co.jp/corporate/news/news-releases/1020/20260721-01.html

・東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード(2026年7月版)」

少数株主や外国人株主の権利確保、株主との対話、買収防衛策、MBOなどに関する原則を確認できる。https://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg

### 東京証券取引所の企業統治改革

・日本取引所グループ「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」

上場会社に対し、資本コストや資本収益性を分析し、成長投資、人的資本投資、研究開発投資、設備投資、事業ポートフォリオの見直しなどを進めるよう求めている。
https://www.jpx.co.jp/equities/follow-up/02.html

・東京証券取引所「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応に関する開示企業一覧表の公表等について」

機関投資家にも、上場会社の持続的成長と中長期的な企業価値向上に向けた建設的な対話を求めている。https://www.jpx.co.jp/news/1020/20231026-01.html

 GPIF・国民年金と企業との対話

・年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)「スチュワードシップ活動」

GPIFによる投資先企業との対話、運用会社への評価、議決権行使などの取り組みを紹介している。
https://www.gpif.go.jp/esg-stw/stewardship

・GPIF「運用受託機関インタビュー結果概要―資本コストや株価を意識した経営―」

GPIFは、被保険者の利益のために長期的な投資収益の拡大を図る観点から、スチュワードシップ活動を行うとしている。https://www.gpif.go.jp/esg-stw/202606-asset-manager-interview.pdf

・GPIF「第11回 機関投資家のスチュワードシップ活動に関する上場企業向けアンケート」

機関投資家と企業との建設的な対話や、成長投資、既存事業の収益性向上、経営資源配分などを取り上げている。
https://www.gpif.go.jp/esg-stw/stewardship/stewardship_questionnaire_11.html

 用語解説・Wikipedia

・株主提案権
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A0%AA%E4%B8%BB%E6%8F%90%E6%A1%88%E6%A8%A9

・物言う株主(アクティビスト)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%89%A9%E8%A8%80%E3%81%86%E6%A0%AA%E4%B8%BB

・コーポレート・ガバナンス
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%9D%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%AC%E3%83%90%E3%83%8A%E3%83%B3%E3%82%B9

・NISA
https://ja.wikipedia.org/wiki/NISA

・年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B9%B4%E9%87%91%E7%A9%8D%E7%AB%8B%E9%87%91%E7%AE%A1%E7%90%86%E9%81%8B%E7%94%A8%E7%8B%AC%E7%AB%8B%E8%A1%8C%E6%94%BF%E6%B3%95%E4%BA%BA

・スチュワードシップ・コードhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%81%E3%83%A5%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%83%89%E3%82%B7%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%BB%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%89

・株主総会
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A0%AA%E4%B8%BB%E7%B7%8F%E4%BC%9A

・少数株主
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%91%E6%95%B0%E6%A0%AA%E4%B8%BB

・政策保有株式https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%94%BF%E7%AD%96%E4%BF%9D%E6%9C%89%E6%A0%AA%E5%BC%8F

・マネジメント・バイアウト(MBO)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%8D%E3%82%B8%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%90%E3%82%A4%E3%82%A2%E3%82%A6%E3%83%88

・株主資本コスト
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B3%87%E6%9C%AC%E3%82%B3%E3%82%B9%E3%83%88

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