岸田文雄首相は、14日、午前11時30分から首相官邸で記者会見を開き、来月の自民党総裁選挙について「自民党が変わることを国民の前にしっかりと示すことが必要だ。変わることを示す最も分かりやすい最初の一歩は私が身を引くことだ。来たる総裁選挙には立候補しない」と述べました。
【参考資料 岸田首相会見と記者との質疑 全文】
これによって、新総裁が選出されたあと、岸田首相は退任することになります。今回は、岸田首相の立候補断念の理由を掘り下げます。
記者会見で、岸田首相は、「30年続いたデフレ経済に終止符を打つための賃上げや投資の促進、電力需要の大幅な増加などに対応するためのエネルギー政策の転換のほか、大規模な少子化対策の実行や防衛力の抜本強化、それに、強固な日米関係を基礎にしたG7広島サミットの開催や、分断が進む国際社会で協調に向けた国際的な議論をリードし、外交を多角的に展開することなど、大きな成果をあげることができたと自負している」と政策面での取り組みを振り返りました。
そして、「旧統一教会をめぐる問題や派閥の政治資金パーティーをめぐる政治とカネの問題など、国民の政治不信を招く事態が相次いで生じた。被害者救済法の成立や政治資金規正法の改正など課題への対応や、再発防止策を講じることが総理・総裁としての私の責任だという思いで国民を裏切ることがないよう信念を持って臨んできた」と党内で発生した事案への対応について述べたうえで、「特に政治とカネの問題をめぐっては批判もいただいたが、国民の信頼あってこその政治であり、政治改革を前に進めるという強い思いを持って国民のほうを向いて重い決断をした」と述べました。
また、「日本が直面する難局は、本当に厳しい状況だ。総裁選挙では、われこそはと積極的に手を挙げて、真剣勝負の議論を戦わせてほしい。そして、新総裁が選ばれたあとはノーサイド。主流派も反主流派もなく、新総裁のもとで一致団結、政策力・実行力に基づいた真のドリームチームを作ってもらいたい。そして、大切なことは、国民の共感を得られる政治を実現することだ。それができる総裁かどうか、私自身も自分の1票をしっかり見定めて投じていきたい」と総裁選挙への要望を述べました。
さらに、「政治資金規正法改正で残された検討項目について早期に結論を得ていかなければならない。党の政治刷新本部に新たなワーキンググループを設けるよう指示を出したところだ。私の政治人生、政治生命をかけて一兵卒として引き続きこうした課題に取り組んでいく。まずは来月までの任期中、総理・総裁としての私の責任で、できるところまで最大限、進めていく」と述べました。
岸田首相は、自民党の派閥の政治資金パーティーをめぐる問題を受けて、政治の信頼回復を図る必要があるとして派閥の解消などの党改革や関係議員の処分に加え、政治資金規正法の改正などに取り組んできました。
しかし、政権への世論の批判が強まり、内閣支持率が低迷する中、自民党内からは「今の政権では次の衆議院選挙を戦えない」という厳しい意見も出ていました。
総裁選挙に立候補しないという判断に至った経緯を問われ、岸田首相は「いろいろな方の考え方は伺った。これから先を考えた場合、自民党の信頼回復のために身をひかなければならないと決断した。最後は自分で決定するのは当然のことだ。私が決定した」と述べました。
与野党幹部の反応をまとめます。
自民党・茂木敏充幹事長はコメントを発表し「岸田政権はわが国が内外の困難な課題に直面する中、内政、外交両面で確かな実績を残してきた。政治資金や物価高の問題などで厳しい状況に置かれていたことは事実だが、岸田総理大臣が総裁選挙への不出馬を表明されたことは極めて残念だ。総理大臣を退任するという大変重い決断であり、重く受け止めたい」としています。
公明党・山口那津男代表は「電話で連絡を受けて正直、驚いた。岸田首相の強い意思と重い決断を受け止めることにした」と述べました。
また、衆議院の解散・総選挙について「新しい総理大臣のもとで判断されるが『いつあってもおかしくない』という心構えで党としても準備を進めていきたい」と述べました。
立憲民主党・泉健太代表は記者会見で「自民党は生命維持のため、党が危機になると総理・総裁を変えて心機一転、過去を忘れてもらうという手法を繰り返してきた。そういう手法にいつまでも国民がひっかかってはいけない。」と述べました。
一方、来月行われる立憲民主党の代表選挙への影響について「自民党に代わる政権をつくるという強い志が見えてくる代表選挙にしなければならない」と述べました。
日本維新の会・藤田文武幹事長は、「次期自民党総裁には、『調査研究広報滞在費』の改革をはじめ、有言実行で改革を実現することを強く求める。総裁選挙では、憲法改正や社会保障改革などの議論が進むかどうか注視する」と述べました。
共産党・小池晃書記局長は記者会見で「国民の怒りに追い詰められた結果だ。岸田総理大臣は数々の成果をあげてきたと言っているが、『裏金問題』の対応や経済の無策、外交不在の大軍拡、そして改憲と、やってきたことはどれもこれも最悪のものばかりだった。自
民党政権をいかに延命させるかしか考えていないのではないか。自民党内の政権のたらい回しでは何も変わらず、自民党政治そのものを終わらせなければならない」と述べました。
国民民主党・玉木雄一郎代表は、「政治とカネの問題に組織の長としてけじめをつけたことは評価したい。また『賃上げ対策』に積極的に取り組み、一定の成果を出したことも率直に評価できる」と述べました。
そのうえで「自民党の『裏金問題』で政治に対する信頼が著しく失われ、自民党の危機ではなく日本の危機と言っても過言ではない。日本再生のために政治の刷新が必要であり、同時に野党も変わらなければならない」と述べました。
市場の反応
岸田首相が、自民党総裁選挙に立候補しない意向を表明したことに対して、14日の東京株式市場は、政権が新しくなることへの期待感が出る一方、先行きの不透明感も根強く、株価は売りと買いが交錯して方向感が定まらない展開となりました。
14日の東京株式市場は、午前中に岸田首相が来月の自民党総裁選挙に立候補しない意向を固めたと伝わると買い注文が増え、日経平均株価は一時400円を超える上昇となりましたが、その後は値下がりに転じて一時150円を超える下落となるなど、不安定な値動きとなりました。
午後に入ってからも、日経平均株価は小幅ながら上昇と下落を繰り返し、結局、日経平均株価の14日の終値は、13日より209円92銭、高い3万6442円43銭でした。
東証株価指数、トピックスは28.35上がって2581.90でした。1日の出来高は19億7924万株でした。
市場関係者は「きょうの時点では、自民党の新総裁が誰になるかや今後の経済政策、財政政策が見通しにくく、売りと買いが交錯する形となった。一方、アメリカでは日本時間の今夜、重要な経済指標のひとつである消費者物価指数の先月(7月)の結果が発表されるとあって、この内容を見極めようと様子見の投資家も多かった」と話しています。
岸田首相が、来月9月の自民党総裁選挙に立候補をしないことを表明したことで、自民党内では、早くも立候補が取り沙汰されている議員たちが、会合を重ねるなどの動きが出ています。
今年10月で衆議院議員の任期が残り1年になることから、「いつ解散・総選挙があってもおかしくない政治状況」であり、来年夏には東京都議会議員選挙、参議院議員選挙が行われます。
国政・大型選挙の指揮を執る新総裁、総理は誰になるのか?編集部では、自民党総裁選挙の動きを随時、お伝えしていきます。以 上
筆者 平木雅己(ひらきまさみ)選挙アナリスト
元NHK社会部記者。選挙報道事務局を長く勤め情勢分析や出口調査導入に尽力。小選挙区制度が導入された初めての衆議院議員選挙報道ではNHK会長賞を受賞。ゼネコン汚職事
件、政治資金の不正など政治家が関わる多くの事件・疑惑も取材。
その後、連合(日本労働組合総連合会)事務局にて会長秘書(笹森清氏)として選挙戦略の企画立案・候補者指導を担当、多くの議員の当選に尽力した。
政策担当秘書資格取得後、法務大臣/自民党幹事長代理はじめ外務大臣政務官、衆参国会議員政策秘書として、外交・安全保障、都市計画、防災、司法、治安、雇用・消費者、地方自治などの委員会や本会議質問を作成、政策立案に携わる。
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