9月27日、自民党は新しい総裁に石破茂氏を選出しました。石破氏は、10月1日に召集される臨時国会で衆議院、参議院で首班指名を受け、第102代内閣総理大臣に就任します。
石破氏は、新たな政権が発足したことを受け「できるだけ早く国民の審判を受けたい」と述べていて、23日に立憲民主党の代表に選出された野田佳彦氏と政権交代を争う衆議院選挙を早晩行うことが見込まれます。
石破氏、野田氏とも1957年生まれの67歳ですが、出身大学は慶應義塾大学と早稲田大学です。「政界慶早戦」を控え、それぞれの政見を比較、整理しました。
【参考資料 石破氏と野田氏の経歴と政見比較票】
■総裁選/代表選立候補の決意
石破氏は、8月24日地元の鳥取県八頭町の神社で記者会見を行い、「38年間の政治生活の集大成として、これを最後の戦いとして原点に戻り、全身全霊で支持を求めていく」と述べています。
その上で「党よりも国民一人ひとりを見るのが私の政治生活の原点だ。子どものころ、この神社で夏祭りがあり本当ににぎやかだった。日本は今ほど豊かではなかったが、若い人も、子どもたちも、高齢者も皆、笑顔だった。もう一度にぎやかで皆が笑顔で暮らせる日本を取り戻していく」と述べ、地方の再生に全力を挙げる考えを話しています。
野田氏は、代表選挙への立候補理由について「先の通常国会で『裏金問題』の解明は進まず、改正政治資金規正法は『ざる法』になってしまった。『信なくば立たず』という深刻な状況で、汚れた政治の『うみ』を出し尽くしていかなければいけない」と述べています。
■政治とカネをめぐる問題
石破氏は、「政治不信の中、国民に対して説明責任を果たし、国民が納得するまで総裁として全力を尽くす。国民から信頼される自民党、未来を切りひらく自民党でありたい」と
訴えています。
野田氏は「『裏金事件』は脱税であり、何もけじめがついていない。世襲議員も多すぎて、民主主義の国家と言えるのか。弊害が多いと思っている。被選挙権年齢を引き下げ、女性のチャンスを拡大し、世襲を制限することで有為な人材にチャンスをつくる被選挙権改革をしたい」と訴えています。
■石破:自民党改革/野田:野党連携のあり方
石破氏は、裏金事件に端を発した自民党への不信払拭について「有権者は決して納得しておらず、国民への説明責任は総裁も負う。政党がどうカネを集めて使うのかなど政党のガバナンスを律する法律の制定が急務だ」と述べています。
野田氏は、他の野党との連携について「野党の議席の最大化こそ自公政権を過半数割れに追い込むことになり、対話の中で政権を一緒に担う野党も出てくる。いちばん近いところにいる国民民主党は代表選挙が終わったら協議しなければならない。日本維新の会とも一致できるか探っていきたい」と述べています。
■経済・財政政策
石破氏は、「『すべての人に安心と安全を』と掲げた。災害や人口減少などで大勢が不安の中にいる。今さえよければいいという話ではなく、将来どうなるか、そうならないためにどうするかを示すのが政治の役割だ」と述べています。
その上で、経済対策として「物価高を超える賃金上昇の実現には労働分配率を上げて賃金を上げることが一番即効性がある。みんな苦しんでいるのだから経済対策は秋にもやらな
いといけない」と訴えています。
野田氏は、「自民党は大企業優先だが、われわれは個人の家計を重視することが決定的な違いだ。税の再分配としての消費税の還付や、ベーシックサービスの拡充、それに教育の無償化など家計が元気になるような政策を打ち出すことが大事だ」と訴えています。
■社会保障政策、人口減少社会への対応
石破氏は、健康維持のための医療制度を構築し医療費を適正化するとしています。
また、人口減少への対策として「国の政策を根本的に変え若い人が来てくれる地方を考え
なければならない。地方に魅力的な仕事がなければだめで、どうしたら農業、漁業、林業、サービス業の生産性を上げ、収入が増えるかは考える余地があり、そこに集中するべきだ」と述べています。
野田氏は、「今の公的年金制度の『財政検証』の内容を検証する。給付水準を物価や賃金の上昇率より低く抑える『マクロ経済スライド』の妥当性も含めて検討し、持続可能な年金制度を構築していきたい」と述べています。
■教育無償化・格差是正
石破氏は、「『親ガチャ』という言葉が一番嫌いだ。親の経済力に余裕がないと教育を受けられないということになれば格差の拡大再生産につながる。教育を受ける機会は1回し
かないので早急に改善しなければならず可能なかぎり無償化したい」と訴えています。
野田氏は、「一番大きなテーマが教育の無償化だ。大学に行きたいと思う人なら誰もがチャンスをつかめる国にしたい。学ぶチャンスを与え、将来世代に投資する世の中をつくることを誓いたい」と訴えています。
■労働規制改革
石破氏は、「同一労働同一賃金の観点から、非正規はなるべく減らさなければならない。非正規の人にも社会保障が提供される機会を作らなければならず、段階的にやっていきたい」と述べています。
野田氏は、「自民党は人を雇う側の論理で物事を決めるが、われわれは働く人の立場で政策を考えていく。解雇しやすいように規制を緩和する動きが出ているが『何を言っているのか』と言うのがわれわれの役割だ」と述べています。
■選択的夫婦別姓
石破氏は、「選択的に姓を選べることはあるべきだ。男性であれ女性であれ姓が選べないことでつらい思いをし、不利益を受けていることは解消されなければならない」と述べています。
野田氏は、「多様性を認め合う共生社会をつくり、ジェンダー平等を実現するため選択的
夫婦別姓を速やかに実現する。自民党が反対する状況が続いてきたが、経団連も早期実現を主張するようになった。チャンスを逃してはいけない」と述べています。
■地方創生/農政
石破氏は、「私がやりたいのは地方創生だ。農業、漁業、林業、サービス業、中小企業など伸びる余地が一番残っているのは地方で、その可能性を最大限に引き出すことで日本はさらに伸びていく」と訴えています。
野田氏は、「政府・自民党の農業政策には農業者を増やす政策が全くなくこれでは農業立国はありえない。令和版の国立農業公社をつくることを提唱しており、担い手に5年間研修しながら給料も出し中山間地で働いてもらう」と訴えています。
■防災・災害対応
石破氏は、「避難所で被災者が雑魚寝するのは先進国では日本だけだ。自分や家族が被災してどうなるかも分からない中で町の職員に復旧復興の事務をやらせることがあってはならない」と述べ、防災庁・省を設置する意義を訴えています。
野田氏は、「東日本大震災の時にグループ補助金などの創設に関わったが、それぞれの災害に対応できるよう運用を修正しなければならない。雇用調整助成金の延長などは政治として実現したい」と訴えています。
■原発・エネルギー政策
石破氏は、「原発限りなくゼロに近づける」と述べています。
野田氏は、「『原発に依存しない社会』を実現すべきでそれは現実的な対応だ。理想を掲げながらどう現実政策を進めるかという立場だ」と述べています。
■外交・安全保障/沖縄の基地負担軽減や産業振興
石破氏は、新たな大統領が日本に防衛上のさらなる負担を求めた場合の対応を問われ「正当性を持つとは思わない。アメリカの戦略を担っているのは日本にあるアメリカ軍基地であり、それを論理的に説明すれば誰が大統領でも日本の主張の正当性は認められる」と述べています。
沖縄の基地負担軽減や産業振興について石破氏は、「日米地位協定の見直しに着手する。どれほど難しいことかは承知しているが運用の改善だけで済むとは思わない。アメリカ軍基地は自衛隊と共同管理にする。日本の責任は重くなるが主権国家としての責任を果たさなければならない」と訴えています。
野田氏は、「総理大臣だった時に、日本とアメリカを軸にルールづくりをして、地域が繁栄し平和を確保する『太平洋憲章』を思い描いていた。ダイナミックな構想の中で現実的な外交戦略を描いていく」と述べた上で、「日米同盟こそが外交・安全保障の基軸であるのは間違いなく、深化させなければならない。アメリカをアジアの問題に関与させることは日本の役割だ。外交は一定の経験値が必要で私には経験値があると強調したい」と訴えています。
■憲法改正
石破氏は、「衆参いずれかの議員の4分の1以上から要求があれば臨時国会を開かなければならないが『何日以内』と書いていない。20日以内なら20日以内と書かなければ国民の権利を担保できない」と訴えています。
野田氏は、「憲法は不磨の大典ではなく、一字一句変えてはいけないという立場ではない。議論はあってしかるべきで、立憲主義にもとづく『論憲』が基本的な立場だ」と訴えています。
■石破茂・自民党総裁の経歴
石破氏は、衆議院鳥取1区選出の当選12回で、67歳です。
鳥取県知事や自治大臣を務めた石破二朗氏の長男として生まれました。
慶応大学を卒業後、銀行に勤めていましたが、田中角栄・元首相の勧めで政治の世界に入りました。
旧田中派の事務局職員を経て1986年の衆議院選挙に立候補し、当時、全国最年少となる29歳で初当選します。
そして、リクルート事件をきっかけに党内の若手議員が結成した研究会に参加し、小選挙
区制の導入など政治改革を訴えました。
1993年には、政治改革法案の取り扱いをめぐって、野党が提出した宮沢内閣に対する不信任決議案に賛成して自民党を離党。新生党、新進党を経て、1997年に自民党に復党しました。
2002年に小泉内閣で防衛庁長官として初入閣し、防衛大臣、農林水産大臣を歴任しました。
自民党が野党だった2012年の総裁選挙では最も多くの党員票を獲得しましたが、決選投票で安倍元総理大臣に敗れました。
第2次安倍政権発足後は、党の幹事長や地方創生担当大臣として政権を支えましたが、退任したあとは、安倍氏と距離を置きます。
4回目の挑戦となった2020年の総裁選挙では菅前首相に敗れ、前回・2021年の総裁選挙には立候補せず河野デジタル相を支援しました。
2015年に当時の安倍首相の後継を目指したいとして立ち上げた派閥は、所属議員の減少などを受けて2021年に事実上解散しています。
ここ数年は、近い議員と政策勉強会を重ね、全国各地を回って講演するなど活動を続けてきました。
■野田佳彦・立憲民主党代表の経歴
野田氏は、衆議院千葉4区選出の当選9回で、現在67歳です。
松下政経塾出身で、千葉県議会議員を経て1993年の衆議院選挙に当時の日本新党から立候補して初当選しました。
2011年に民主党政権として3人目となる総理大臣に就任し、2012年には、消費税率の引き上げを含む社会保障と税の一体改革の関連法を成立させましたが、直後の衆議院選挙で敗北し、政権を失いました。その後、無所属などを経て、4年前の2020年に立憲民主党に参加しました。
今回の代表選挙では、当初は「『昔の名前で出てます』ではいけない」などとして立候補
に慎重な姿勢を示していましたが、ベテランの小沢一郎・衆議院議員からの期待に加え、中堅・若手議員などから要請が相次いだことを踏まえ、立候補を決断しました。
座右の銘は松下政経塾を設立した故・松下幸之助氏のことばで成功まで志を貫くという意味の「素志貫徹」です。
以 上
筆者 平木雅己(ひらきまさみ)選挙アナリスト
元NHK社会部記者。選挙報道事務局を長く勤め情勢分析や出口調査導入に尽力。小選挙区制度が導入された初めての衆議院議員選挙報道ではNHK会長賞を受賞。ゼネコン汚職事件、政治資金の不正など政治家が関わる多くの事件・疑惑も取材。その後、連合(日本
労働組合総連合会)事務局にて会長秘書(笹森清氏)として選挙戦略の企画立案・候補者指導を担当、多くの議員の当選に尽力した。
政策担当秘書資格取得後、法務大臣/自民党幹事長代理はじめ外務大臣政務官、衆参国会
議員政策秘書として、外交・安全保障、都市計画、防災、司法、治安、雇用・消費者、地方自治などの委員会や本会議質問を作成、政策立案に携わる。
☆出稿資料☆
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