9月12日に告示された自民党総裁選での争点の1つが経済と財政政策です。
日本経済は、物価と賃金がともに上がる経済の好循環を実現できるか、正念場となっています。
デフレから完全に脱却し、力強い日本経済を実現していくための政策、とりわけ賃上げなど所得の向上に向けた政策を中心に論戦が交わされる見通しです。
岸田首相は物価高への対応として秋に経済対策の策定を目指すとしていました。
各候補者がどのような対策を重視して政策を打ち出すのかが焦点となります。
一方、国債の発行残高が1000兆円を超え、来年度=2025年度は政府の財政健全化の目標年度を迎える中で、財政に対するスタンスも論点となります。
また、日銀が経済や物価の状況をみてさらなる利上げを検討していく姿勢を示す中、政府と日銀の連携のあり方についても注目されます。
税のあり方も焦点です。
政府・与党は防衛力強化に必要な財源として法人税・所得税・たばこ税の増税を決めていますが、開始時期は結論を持ち越しています。
具体的な増税の時期などについてどのような議論が交わされるかが注目されます。
このほか、株式の売却益などに課税する「金融所得課税」をめぐっては、富裕層に対する姿勢のほか、貯蓄から投資へのシフトといった観点から、課税のあり方も議論の焦点となりそうです。
9氏の経済、財政政策をまとめました。【届出順:参考資料9氏の主な政見】
高市早苗・経済安保相 経済成長し日本を世界のてっぺんに
高市氏は、9月9日の立候補会見で、「総合的な国力の強化が必要だ。それは外交力、防衛力、経済力、技術力、情報力であり、すべてに共通する人材力だ。何よりも経済成長が必要だ」と述べ、総合的な国力の強化が必要だとしました。
その上で「何よりも経済成長が必要だ。経済成長をどこまでも追い求め、日本をもう一度世界のてっぺんに押し上げたい」と強調しました。
そして、危機管理分野への投資によって国民の安心と安全を確保し、成長分野などに戦略的な財政出動を行って強い経済を実現すると説明しました。
小林鷹之・前経済安保相 全国に半導体や自動車などの戦略産業の集積地を
小林氏は、8月19日の立候補会見で、政策面では経済政策を最初に挙げ「『経済は財政に優先する』というのが基本的な考え方で、世界をリードする戦略産業を育成する。あわせて物価高への対策パッケージをことし中に打ち出す」と説明しました。
9月4日、「総理・総裁になって特に急ぐのが経済力の強化だ。新たな産業政策として地方に投資をして産業のかたまりをつくるほか、国家プロジェクトに挑戦し企業の意欲を駆り立てる新たな仕組みを導入する。経済が財政に優先するのが基本で、経済成長で税収を増やしていく」と述べました。
9月10日、政策発表では、経済政策では、国が地方に大胆な投資を行い、全国に半導体や自動車などの戦略産業の集積地をつくるとしています。
林芳正・内閣官房長官 最低賃金引き上げなどで格差是正を
林氏は、9月10日、総裁選挙で掲げる政策を発表し、最低賃金の引き上げなどで格差の是正を図るとともに成長戦略として漫画やアニメなどコンテンツ産業の強化に取り組み日本の稼ぐ力を高めることなどを盛り込んでいます。
9月4日、林氏は、民放の番組で経済政策では何を重視するか問われたのに対し「経済あっての財政であり、財政規律あっての経済ではない。やっと賃金の上昇が物価を上回ったところでありこれを確実にしたい。賃金が物価より上がることが当たり前だと皆が実感するまで手を緩めてはならず、必要な財政出動はためらわない」と述べました。
その上で「可処分所得を上げるためにも経済を成長させないといけない。日本の人口が減る中、大量生産ではなく付加価値を付けるべきで、コンテンツ産業などを基幹産業としてしっかり後押しし稼いでもらうことを考えたい」と述べました。
小泉進次郎・元環境相 労働市場改革を 聖域なき規制改革を進める
小泉氏は、9月6日、立候補会見で、経済政策をめぐっては、聖域なき規制改革を進めるとして成長分野のスタートアップや中小企業に人材が流れる仕組みをつくるために解雇規制を見直し、リスキリングや学び直しの環境整備を進めると説明しました。
9月7日の東京・銀座での街頭演説では、「賃上げの加速や人手不足の解消それに正規・非正規の収入の格差を解消するために労働市場改革を抜本的にやっていきたい。業界団体や既得権益が認める範囲内でしか政策や改革が進められない自民党を変えていかなければいけない」と訴えました。
上川陽子・外相 物価高対策や賃上げ 地域産業の活性化など
上川外務大臣は、9月11日、立候補会見で、政策面では、物価高対策や賃上げ、農林水産業の抜本強化や地域産業の活性化などに取り組む考えを示しました。
強力な物価高対策を通じて、実質賃金アップを実現するとともに、最低賃金を引き上げ、女性の所得向上を進めるとしているほか、半導体やAI、ヘルスケアなど、新たな領域の成長に向け、「令和版産業構造ビジョン」を策定し、科学技術イノベーションと社会実装を飛躍させるほか、漫画やアニメなどに代表されるソフトパワーの海外展開も加速させるとしています。
加藤勝信・元内閣官房長官「国民の所得倍増」が最重要政策
加藤氏は、9月10日、立候補会見で、国民の所得倍増を最も重要な政策と位置づけ強い覚悟を持って取り組む決意を示しました。
この中で「最優先で推し進めたいことは国民の所得倍増だ。これ以上に重要な政策はない。待ったなしで強い覚悟で取り組み、国民の豊かな生活を実現し、短期間で必ず成果を出す」と述べました。
また、加藤氏は、9月7日、都内で女性のITエンジニアの育成に取り組んでいる企業を訪れたあと、記者団に対し「ITエンジニアとして給与が2割近く上がり自由な働き方もできるという話を聞いた。スキルをつけて自信をつけ、キャリアアップをしていくことが大事であり、それによって男女間の賃金格差を縮めていくことができる。リスキリング=学び直しによって給与を上げるなど、所得の向上ではなく倍増していく施策を打っていきたい」と述べました。
河野太郎・デジタル相 規制改革進め 民間主導で投資の好循環を
河野デジタル相は、8月26日の立候補会見で、経済政策については「民間主導で経済を発展させるための妨げになっているような規制は大胆に改革をしていかなければならない」と述べ、デジタルの活用や規制改革を推進して経済発展につなげていく考えを強調しました。
また、河野氏は、9月5日、総裁選挙で掲げる政策を発表し、この中では経済・財政政策として、規制改革を進め、民間主導で投資の好循環をつくり出すこと、財政や社会保障の見直しに向けた推計を行う「独立財政機関」を設置することを掲げています。
そして、躍動感のある労働市場をつくるとして、みずからの意思で働きたいと思う人が健康の確保を前提に思う存分働けるよう選択肢を広げるとしています。
石破茂・元幹事長 地方創生が「日本経済の起爆剤」
石破氏は、9月10日、総裁選挙で掲げる政策を発表し、地方創生を「日本経済の起爆剤」と位置づけて大規模な対策を講じる方針を打ち出し、企業が地方に進出するのを後押しするほか、デジタル化によって都市との情報格差を解消し地方に人材を確保するとしています。
9月9日には、大阪市で「日本を守り、国民を守り、地方を守る。地方の発展なくして日本の発展はない。農業、漁業、林業などの力を十分に発揮することで、地方から新しい日本をつくりたい」と訴えました。
9月4日、経済政策をめぐり「とにかくデフレを完全に止める。そのためには個人消費が拡大しなければならず、実質賃金が上がらなければならない。『賃金が上がったけど物価がもっと上がりました』ではどうにもならない」と述べ、総裁選挙で物価上昇を上回る賃上げの必要性を訴えていく考えを示しました。
茂木敏充・幹事長 増税ゼロの政策を推進 半年以内のデフレ脱却
茂木氏は、9月5日、政策を発表し、国民の所得向上を最優先の目標とする経済政策や、地方活性化策などを盛り込み、このうち経済政策では、国民の所得向上を最優先目標に「増税ゼロ」の政策を推進するとしています。
また、9月6日、東京証券取引所を訪れたあと記者団に対し、半年以内のデフレ脱却宣言を掲げていることについて「実現すれば株価は間違いなく4万円は超えていく。30年間続いてきたデフレを終え、新しい経済のステージに上がっていくプロセスを始めたい」と述べました。
今後の日程
15日に福島市、16日に金沢市、17日に那覇市、18日に松山市と大阪市、19日に東京、20日に松江市でそれぞれ開催されます。
また、22日から3日間、憲法改正や政治改革、経済財政などをテーマに事前に国民から寄せられた質問に答える政策討論会を行い、オンラインでも配信されます。
そして、27日の午後1時から党本部で「国会議員票」の投開票や「党員票」の開票が行われ、新しい総裁が選出されます。
以 上
筆者 平木雅己(ひらきまさみ)選挙アナリスト
元NHK社会部記者。選挙報道事務局を長く勤め情勢分析や出口調査導入に尽力。小選挙区
制度が導入された初めての衆議院議員選挙報道ではNHK会長賞を受賞。ゼネコン汚職事
件、政治資金の不正など政治家が関わる多くの事件・疑惑も取材。
その後、連合(日本労働組合総連合会)事務局にて会長秘書(笹森清氏)として選挙戦略の企画立案・候補者指導を担当、多くの議員の当選に尽力した。
政策担当秘書資格取得後、法務大臣/自民党幹事長代理はじめ外務大臣政務官、衆参国会議員政策秘書として、外交・安全保障、都市計画、防災、司法、治安、雇用・消費者、地方自治などの委員会や本会議質問を作成、政策立案に携わる。
☆出稿資料☆
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