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「セキュリティークリアランス」制度とは?制度創設の背景と課題を考える

重要な経済インフラや軍事転用可能な技術などに関する政府の秘匿事項にアクセスできる「セキュリティークリアランス」制度を創設するための法律が、今年5月成立しました。

「セキュリティークリアランス」制度とは、漏えいすると日本の安全保障に支障をきたす恐れがあるものを「重要経済安保情報」に指定し、これらの情報へのアクセスを民間企業従業員も含め、国が信頼性を確認した人に限定するものです。

一方、「セキュリティークリアランス」制度をめぐっては、個人のプライバシーや、国民の知る権利をめぐる懸念の声も出ています。

今回は、「セキュリティークリアランス」制度創設の背景と課題について考えます。

「セキュリティークリアランス」制度創設の背景

まず、制度創設に向けた背景を整理します。

日本や欧米各国と中国やロシアなどの対立が先鋭化し、ロシアによるウクライナ侵攻という事態も発生しています。

国際情勢の変化が大きな要因となっています。

電力や通信といった経済活動を支える基幹インフラが海外からのサイバー攻撃の対象になる、AI人工知能や宇宙関連など軍事にも転用が可能な最先端の技術が流出して悪用されるのではないかという脅威が高まっているといわれます。

こうした脅威への備えが「経済安全保障」と位置付けられています。

「経済安全保障」を強化するためには、関係する各省庁と最先端の技術をもつ民間企業の間で緊密な協力が欠かせず、政府が秘匿する情報についても共有する必要が出てきます。このため、重要な秘密が漏れぬよう新たな制度創設が求められてきました。

さらに、軍事転用できる民間の技術が増えるなど、経済安全保障のために秘匿が必要な情報の範囲が広がったこと、日本を除くG7各国では、こうした情報についてもアクセスできる人を限定する制度が整備されていて、経済界などからは、各国と同様の制度を求める声が上がっていたことも制度創設を後押ししました。

「セキュリティークリアランス」制度とは?

サイバー攻撃の脅威や対策、軍事転用も可能な技術をめぐる国際共同研究などに関連する情報など、外部に漏洩すると安全保障に支障を与えるおそれのある情報について「重要

経済安保情報」に指定します。

法律では「重要経済安保情報」の定義として、①インフラやサプライチェーンといった重要な経済基盤の脆弱性、弱みがどこにあるかなど、②それらの施設を狙うテロ行為などへの対策の内容、③そうした対策のために、外国政府などから収集した情報、④情報の分析方法や能力という4つの分野を挙げています。

こうした分野のプロジェクトに参入を望む企業に対し、政府は、担当者が「セキィリティークリアランス」を取得するよう求めます。

対象となるのは、行政機関職員の他、国から重要情報の提供を受ける民間企業の従業員も含まれます。

内閣府に設置される調査機関が適性評価を行って、問題なしとなれば認められます。

国が行う調査は、本人の同意を前提に、家族や同居人の氏名や国籍、犯罪や懲戒に関する経歴、薬物の使用や飲酒の状況、経済状況などについて、人事情報の確認や本人への面接、質問票の提出などによって行われる予定です。

一度、「問題なし」と認められると、重要情報にアクセスできる期間は10年で、調査の結果、アクセスが認められなかった人に対しては、本人が希望しなかった場合を除いて、その理由を含め、通知されるとしています。

調査で得られた個人情報や調査結果は、重要経済安保情報の保護以外の目的で、利用したり、提供したりしてはならないと定められています。

また、法律の適用にあたっては「拡張して解釈して、国民の基本的人権を不当に侵害するようなことがあってはならない」としています。

その人が情報を漏らした場合には、5年以下の拘禁刑や500万円以下の罰金が科されることになっており、勤務先の企業も処罰されます。

守られるか個人のプライバシーとキャリア

一方、課題も指摘されています。一つは個人のプライバシーや企業内でのキャリアに関わる問題です。

「セキュリティークリアランス」を認めるかどうか審査する際には、家族や同居人の氏名や国籍を含む情報、犯罪や懲戒に関する経歴、精神疾患に関する情報、ローンの滞納の有無など経済的な信用状況などについて細かく聞かれることになります。

こうした調査はあくまで本人の同意が前提だとしていますが、組織内の必要上、上司から命じられたら、本人の意思以前の問題として断ることができないケースが出てくるかもしれません。

プライバシーの侵害が、本人だけでなく関係者に及ぶ恐れもあるだけに、プライバシー保護の規定を明文化すべきだという指摘も出ています。

さらに、審査の結果、資格が認められなかった時の懸念も残ります。

社内でそのことを理由に不合理な配置転換など人事上不利な扱いを受けるおそれです。

こうした事態について、法律は禁じていますが罰則は設けられていません。政府は、そうした状況が発生すれば、その企業との事業契約を打ち切るとしています。

秘匿事項の拡大 求められる歯止め

もう一つの懸念が、国家が秘密とする情報を増やし、国民の知る権利を制限する恐れがあるという点です。

特定秘密保護法の対象とならない情報を、新たに秘匿が必要だと指定することから、政府の秘密が増えるという見方も広がっています。

この点については国会でも議論となり「重要経済安保情報については合理的で最小限の範囲において行われなければならない」とする附帯決議が付けられました。

また、法律には「国民の知る権利の保障に資する報道または取材の自由に十分に配慮しなければならない」といった条文も付け加えられました。

「セキュリティークリアランス」制度をめぐっては、1年後の施行に向けて、秘匿する情報をどう規定するか、適格性の審査をめぐる懸念にどうこたえるかなど様々な課題が積み残しになっています。

今後、細則や運用ルールについて各方面からの指摘を受け止めながら決めてく必要があると同時に、逐一、国民に説明し、理解を得る努力を続けていくことが求められています。以 上

筆者 平木雅己(ひらきまさみ)選挙アナリスト

元NHK社会部記者。選挙報道事務局を長く勤め情勢分析や出口調査導入に尽力。小選挙区制度が導入された初めての衆議院議員選挙報道ではNHK会長賞を受賞。ゼネ

コン汚職事件、政治資金の不正など政治家が関わる多くの事件・疑惑も取材。

その後、連合(日本労働組合総連合会)事務局にて会長秘書(笹森清氏)として選挙

戦略の企画立案・候補者指導を担当、多くの議員の当選に尽力した。 

政策担当秘書資格取得後、法務大臣/自民党幹事長代理はじめ外務大臣政務官、衆参国会議員政策秘書として、外交・安全保障、都市計画、防災、司法、治安、雇用・消費者、地方自治などの委員会や本会議質問を作成、政策立案に携わる。

☆出稿資料☆

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