今回は、岸田文雄政権の3年間のあゆみをまとめました。
岸田首相は、3年前の2021年9月、菅義偉・前首相の辞任に伴う自民党総裁選挙で当選し、10月に第100代の総理大臣に就任しました。
21年9月29日@岸田首相
「私、岸田文雄の特技は人の話をよく聞くということであります。丁寧でそして寛容な政治を行い、国民の一体感をしっかりと取り戻していきたい」
21年10月8日@岸田首相
「新しい資本主義の実現。成長の果実をしっかりと分配することで初めて次の成長が実現します」
池田勇人・元首相の流れをくむ「宏池会」からの総理大臣就任は30年ぶりでした。
就任直後に衆議院を解散し、総選挙に臨み、自民党単独でも安定して国会を運営できる「絶対安定多数」の261議席を獲得しました。
最重要政策に掲げたのは社会課題の解決を図りながら経済成長を目指す「新しい資本主義」の実現でした。
政府、連合そして経団連による「政労使会議」の開催なども通じて賃上げや投資拡大などに取り組み、今年は33年ぶりの水準となる5%の賃上げを実現しました。
一昨年22年7月の参議院選挙では自民党単独で改選過半数を確保しました。
一方、この選挙期間中、安倍元首相が銃撃され、その後の「国葬」をめぐって世論の賛否が分かれました。
事件をきっかけに閣僚や自民党議員らと旧統一教会の関係が次々と発覚し政権運営に影を落としました。
その後、国は教団の解散命令を請求。現在も裁判所で審理が続いています。
また、23年4月には岸田首相が選挙応援で訪れた和歌山市で、爆発物を投げ込まれ、選挙活動の安全確保が改めて課題となりました。
外交面ではロシアのウクライナ侵攻開始以降G7などと連携し、対ロ制裁とウクライナ支援を継続してきました。
NPT=核拡散防止条約の再検討会議では、日本の総理大臣として初めて演説を行い、核保有国に戦力の透明化を促すことを明記した行動計画、「ヒロシマ・アクション・プラン」を発表しました。
22年12月16日@岸田首相
「防衛力を抜本強化していく、そのための裏付けとなる安定財源は、今を生きるわれわれが将来世代への責任として対応すべきもの」
一方、戦後の安全保障政策は大きく転換しました。安全保障関連の3つの文書を改定し「反撃能力」の保有を決めたほか防衛費を増額する方針を打ち出しました。
22年3月には電撃的にウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領に支援を伝達しました。
韓国のユン・ソンニョル大統領との間ではシャトル外交が再開し「戦後最悪」とまで言われた日韓関係は改善しました。
5月のG7広島サミットでは、ゼレンスキー大統領も出席する中、自由で開かれた国際秩序の維持・強化の重要性を国内外に発信しました。
23年5月21日@岸田首相
「『核兵器のない世界』に向けて取り組んでいく決意を改めて共有し、核軍縮に関するG7首脳広島ビジョンを発出することができました」
新型コロナについては、感染状況が落ち着いたことなどから、平時の社会経済活動を取り戻していく必要があるとして感染症法上の位置づけを5類に移行しました。
エネルギー政策では、原発の新規建設や運転期間の延長を認める方針を決定し、東京電力福島第一原発にたまる処理水の海への放出も開始しました。
「次元の異なる少子化対策」の実現も掲げ、児童手当の拡充や「多子世帯」の大学授業料の実質無償化などを盛り込んだ「こども未来戦略」を策定しました。
物価高対策としては、所得税と住民税の定額減税なども実施し、政策面で実績を重ね、政権浮揚につなげる狙いがありました。
しかし、23年秋以降、自民党の派閥の政治資金パーティーをめぐる問題が相次いで明らかになりました。
安倍派(清和会)と二階派(志帥会)、それに岸田派(宏池会)の会計責任者や現職の国会議員が立件されました。
安倍派の閣僚4人を交代させ、みずからが率いていた派閥、「宏池会」の解散を打ち出すなど党改革や関係議員の処分などに取り組みました。
23年12月13日@岸田首相
「国民の信頼回復のために火の玉となって自民党の先頭に立ち取り組んでまいります」
24年1月19日@岸田首相
「宏池会を解散する」
衆議院政治倫理審査会では、説明責任を果たしたいとして、現職総理大臣として初めて出席し、報道機関にも公開しました。
政治資金規正法改正の議論では、公明党・山口那津男代表、日本維新の会・馬場伸幸代表と党首会談を行い、両党の主張を踏まえた修正案をまとめ、通常国会で成立させました。
しかし、パーティー券の購入者の公開基準額を公明党に譲歩する形で、引き下げを決断したことをめぐり自民党内からは「譲りすぎだ」との批判が噴出しました。
政策面でも所得税などの減税をめぐって、自治体や企業の負担が重くなることへの批判も出るなど政権浮揚にはつながらず、内閣支持率は20%台に低迷が続きました。
24年4月に行われた衆議院の3つの補欠選挙では、いずれも敗北するなど、自民党内からは「次の衆議院選挙は岸田総理では戦えない」との声があがるなど、政権運営はいっそう厳しさを増していました。
岸田首相が、来月9月の自民党総裁選挙に立候補をしないことを表明したことで、自民党内では、早くも立候補が取り沙汰されている議員たちが、会合を重ねるなどの動きが出ています。
今年10月で衆議院議員の任期が残り1年になることから、「いつ解散・総選挙があってもおかしくない政治状況」であり、来年夏には東京都議会議員選挙、参議院議員選挙が行われます。
国政・大型選挙の指揮を執る新総裁、総理は誰になるのか?編集部では、自民党総裁選挙の動きを随時、お伝えしていきます。以 上
筆者 平木雅己(ひらきまさみ)選挙アナリスト
元NHK社会部記者。選挙報道事務局を長く勤め情勢分析や出口調査導入に尽力。小選挙区制度が導入された初めての衆議院議員選挙報道ではNHK会長賞を受賞。ゼネコン汚職事
件、政治資金の不正など政治家が関わる多くの事件・疑惑も取材。
その後、連合(日本労働組合総連合会)事務局にて会長秘書(笹森清氏)として選挙戦略の企画立案・候補者指導を担当、多くの議員の当選に尽力した。
政策担当秘書資格取得後、法務大臣/自民党幹事長代理はじめ外務大臣政務官、衆参国会議員政策秘書として、外交・安全保障、都市計画、防災、司法、治安、雇用・消費者、地方自治などの委員会や本会議質問を作成、政策立案に携わる。
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