衆議院は、10月9日午後開かれた本会議で額賀福志郎・衆議院議長が解散詔書を読み上げ、解散されました。各党は、15日公示、27日投開票の衆議院選挙に向けて事実上の選挙戦に入りました。
第214臨時国会は会期末の9日、参議院本会議で閉会に向けた手続きがとられました。
その後、立憲民主党、日本維新の会、共産党、国民民主党の野党4党は、今の政権は国会審議よりも党利党略を優先させているなどとして石破内閣に対する不信任決議案を提出しました。このため、午後3時半から予定されていた衆議院本会議は開始がずれ込み、午後4時から開かれました。
衆議院本会議では、林芳正・官房長官から、紫のふくさに包まれた解散詔書が額賀衆議院議長に伝達されました。続いて額賀議長が「日本国憲法第7条により衆議院を解散する」と解散詔書を読み上げ、衆議院は解散されました。
政府は衆議院の解散を受けて臨時閣議を開き、衆議院選挙の日程を今月15日公示、27日投開票とすることを決めました。
解散時の衆議院の勢力は、定数465のうち、自民党が258議席、立憲民主党が98議席、日本維新の会が41議席、公明党が32議席、共産党が10議席、国民民主党が7議席、教育無償化を実現する会が4議席、れいわ新選組が3議席、社民党が1議席、無所属が11議席となっています。
衆議院の解散を受けて石破茂・首相は、9日夜、総理大臣官邸で記者会見し、国民の納得と共感がなければ政治を前に進めることはできないとして、信任を得た上で地方創生など新政権が掲げる政策を力強く推進していきたいという考えを示しました。
冒頭、石破首相は「国民の納得と共感なくして政治を前に進めることはできない。国民に信を問い、信任を得て新政権の掲げる政策に力強い後押しをお願いしたい」と述べました。
その上で、政治とカネの問題を受けた自民党の対応について、収支報告書に不記載があった議員の一部を選挙で公認しないなどとする方針を説明し「所属議員が一人一人の有権者に真摯に(しんし)向き合い、説明を尽くし理解を得なければ国民の信頼を取り戻すことはできない」と強調しました。
また、防災対策をめぐり、就任直後に石川県能登地方を視察したことに触れた上で「悲痛な叫びが今も鮮明に耳に強く残っておりこうした声に最大限応えるべく大雨災害を激甚災害に指定し、あわせて予備費での措置を講じる」と述べました。
さらに、能登半島地震の被災者が大雨の被害も受けた場合、新たに中小企業の設備などを復旧する「なりわい再建支援補助金」や、農業用機械や施設を復旧する交付金の対象とする考えを示しました。
その上で、災害発生時の体制強化に向けて、コンテナトイレやキッチンカー、テントなどが発災から数時間で被災地に届く体制を整えるとともに、専任の大臣を置く「防災庁」の設置に向けた検討を加速すると強調しました。
地方創生をめぐっては「この政権は地方を守る政権だ。都市対地方という二項対立ではなく、日本全体を創生させるべくこの取り組みを必ず成功させる」と述べ、今週にも新たな本部を設置し、年末に向けて基本的な考え方を取りまとめる考えを示しました。
そして地方創生の交付金を当初予算ベースで倍増させることや、地方の成長に向けて、農林水産業や観光業などの振興を図る決意を示しました。
その上で「『新たな地方創生』は日本の社会のあり方を大きく変える日本創生の試みだ。この大変革を思い切って実行するためには国民の信任が必要であり、この解散は『日本創生解散』だ」と述べました。
経済政策をめぐっては「デフレからの脱却に向けた歩みは確かなものとなりつつあるが、国民が物価上昇に直面していることも事実であり当面の物価高対策とともに実質賃金の上昇を実現していかなければならない」と述べました。
その上で最低賃金を2020年代に全国平均で1500円まで引き上げるための支援の強化や中小企業が適切な価格転嫁を行えるよう下請け法の改正などに取り組む考えを示しました。
そして「国民の目線に立って『生活がよくなった』『安心して暮らせるようになった』と実感してもらえるよう政策パッケージを速やかに練り上げ、実現していく」と述べました。
外交・安全保障政策をめぐっては「日本は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面しており、安全保障の世界に長く身を置いた者として、今こそ、この国のために持てる力のすべてを使っていく」と強調しました。
その上で、地域の安全と安定を一層確保する取り組みを主導するため、アジアの安全保障のあり方を検討するよう、9日に自民党に指示したことを明らかにしました。
さらに、防衛力の抜本的な強化の基盤となる自衛官の処遇や勤務環境の改善に向けてみずからが議長を務める関係閣僚会議を9日に設置したと説明しました。
そして「われわれの政権は、日本を守り、国民を守り、都市の安全安心を確保し、地方の暮らしを守る。若者・女性の機会を守る。われわれに政権を託してほしい」と訴えました。
衆議院選挙の勝敗ラインとそれを下回った場合の対応を問われ「今回の選挙が非常に厳しいということはよく承知している。勝敗ラインについては自民党と公明党で過半数を目指したいと考えている。すべての同志が当選できるよう全身全霊を尽くしていく。勝敗ラインを割り込んだ場合の対応についてはコメントは差し控えたい」と述べました。
「衆議院選挙に向けて有権者に判断材料を提示できたのか」と質問されたのに対し「国会の所信表明でも代表質問でも、可能なかぎり自分の言葉で国民に理解をいただけるように語り、判断たる材料を提供してきた。これから選挙に入り、党首間の議論もある。全国津々浦々で私なりの考え方を誠心誠意述べて、信任を得たい」と述べました。
政党から議員に支給される「政策活動費」をめぐって「全部公開すべきだという意見もあるが、個人のプライバシーや企業・団体の営業秘密の侵害につながるという懸念もある。外国との関係に触れる場合もあるだろう。そういうことを勘案しながら国民の不信を招くことがないよう努め、使い方は抑制的でなければならない。これから先、廃止も含めて自民党として検討していきたい」と述べました。
「就任後『石破らしさ』を阻んでいるものは何か」と問われたのに対し、「総裁選挙で主張したアジアでのNATO的なシステムや、日米地位協定の見直しがどうなったのかという指摘をいただくが、これから党内できちんと議論してコンセンサスを得なければならない。総裁になったからすべて実現するというのは民主主義政党のやることではない。党内で地道に議論し、公明党との協議も経て、政府の政策として提案をするという丁寧なプロセスを踏み、国民の信任を得て一つ一つ実行していく」と述べました。
その上で日米地位協定の見直しをめぐり「日本に駐留するアメリカ軍に対する法的な地位と、アメリカにおける自衛隊の地位が対等でなければ、対等な関係とは言わないが、そういうことが可能かどうか、それが日米同盟の強化に資するかどうかも含めて、現実的に議論していかなければ前に進まない」と述べました。
公明党・石井啓一代表は「内外に山積する課題に対応できる政党や連立はどこか。自民・公明両党の連立政権しかない」と述べました。
これに対し、野党側は、今の政権では、政治とカネの問題で損なわれた信頼回復は望めず、格差を拡大させてきた経済政策からの転換もできないと訴え、政権交代が必要だと主張す
ることにしています。
立憲民主党・野田佳彦代表は「石破総理大臣なら政治を変えてくれると期待を持っていたがそうはならなかった。政権交代こそが最大の政治改革だ」と述べました。
日本維新の会・馬場伸幸代表は「今の政治は信用できないと感じている人が多いと思う。常に改革を進め、有言実行しているのはわれわれだけだ」と述べました。
共産党・田村智子委員長は「自民党政治は全体的に行き詰まっている。大企業・大富豪優遇の経済政策から暮らしの応援により経済を立て直す」と述べました。
国民民主党・玉木雄一郎代表は「『対決より解決』と『政策本位』で、国民や子どもたちに誇れる政治を回復し、取り戻す戦いを挑んでいく」と述べました。
一方、経団連(日本経済団体連合会)は、7日、「政治との連携強化に関する見解」を発表し、主な政党の政策に対する評価、政治への国民の信頼回復に向けて、政治との連携強化に向けた経団連の取り組みについて述べています。
とりわけ、「政治資金収支報告書の不記載問題については、国民の政治不信の高まりを真摯に受け止め、再発防止に向けて全力で取り組む必要」があり、「政治資金については、透明性の向上が不可欠である」と述べた上で、「政党のガバナンスの強化などを通じて、政治に対する国民の信頼回復に努めることを強く求める」としています。
【参考資料1 経団連「政治との連携強化に関する見解」】
【参考資料2 主要政党の政策評価2024】
また、連合(日本労働組合総連合会)は、「石破首相は言行不一致で、政治とカネの真相解明はたなざらしのまま、有権者の政治不信に真正面から応えるものではない。選挙日程も自民党の党利党略のそしりは免れない」との談話を発表しました。
【参考資料3 連合事務局長談話】
筆者 平木雅己(ひらきまさみ)選挙アナリスト
元NHK社会部記者。選挙報道事務局を長く勤め情勢分析や出口調査導入に尽力。小選挙区制度が導入された初めての衆議院議員選挙報道ではNHK会長賞を受賞。ゼネコン汚職
事件、政治資金の不正など政治家が関わる多くの事件・疑惑も取材。
その後、連合(日本労働組合総連合会)事務局にて会長秘書(笹森清氏)として選挙戦略の企画立案・候補者指導を担当、多くの議員の当選に尽力した。
政策担当秘書資格取得後、法務大臣/自民党幹事長代理はじめ外務大臣政務官、衆参国会議員政策秘書として、外交・安全保障、都市計画、防災、司法、治安、雇用・消費者、地方自治などの委員会や本会議質問を作成、政策立案に携わる。
☆出稿資料☆
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