
日本経済の構造問題として、長年指摘されてきたテーマがある。
それは、中小企業の生産性の低迷である。
日本には、独自の技術、優良な取引先、厚い内部留保、不動産などの資産を持ちながら、資本効率を十分に意識せず、同族的・閉鎖的な経営を続けている非上場企業が少なくない。
もちろん、非上場企業には上場企業とは異なる事情がある。地域雇用、取引先との信頼関係、創業家の歴史、長期的な経営判断など、短期的な資本市場の論理だけでは測れない価値もある。
しかし、それが少数株主の権利を軽視してよい理由にはならない。
配当は乏しい。
情報開示も限られる。
株式を売却しようとしても買い手がいない。
会社や支配株主は適正な価格での買い取りに応じない。
経営陣に意見を言っても、実質的に相手にされない。
こうした状況に置かれた少数株主にとって、非上場株式は「財産」でありながら、実質的には出口のない資産になってしまう。
この「非上場株式の暗箱」をどう開くか。
それは、日本の中小企業ガバナンスと資本市場の成熟にとって、極めて重要なテーマである。
その文脈で注目されるのが、少数株式の買い取り、流動化、マッチング、あるいはアドバイザリーを行う事業である。
少数株主にとって、保有株式に出口を与える。
閉鎖会社の資本関係に市場原理を持ち込む。
経営陣に対して、資本効率と少数株主保護を意識させる。
眠っていた株式に価格をつけ、流動性を与える。
このような事業には、社会的意義がある。
ところが一方で、少数株式買取ビジネスをめぐっては、「弁護士法第72条違反」、いわゆる非弁行為ではないかという主張も出ている。近時は、少数株式買取業者のスキームが弁護士法72条・73条との関係で問題となり得るとする法律家の解説や、株式買取業者の行為を非弁行為として違法・無効と評価した裁判例に関する発信も確認される。
この論点は、感情論で処理すべきではない。
本当に非弁行為に当たるのか。
それとも、経営陣側が少数株主の流動化を阻むために、弁護士法を「防御用の武器」として使っているだけなのか。
裁判所には、この本質を見誤らない判断が求められる。
非上場株式は「幽閉資産」になりやすい
非上場株式の最大の問題は、流動性が乏しいことである。
上場株式であれば、株主は市場で売却できる。経営陣に不満があれば、株式を売るという選択肢がある。もちろん株価下落という不利益はあるが、少なくとも市場という出口は存在する。
しかし、非上場株式はそうはいかない。
買い手を探すのが難しい。
譲渡制限があることも多い。
会社側が買い取りに応じない場合もある。
価格の算定をめぐって争いになる。
少数株主は情報も交渉力も乏しい。
その結果、少数株主は、価値ある株式を持っていながら、現金化できない状態に追い込まれる。
これは、単なる個人の困りごとではない。
資本市場全体の問題である。
株式に流動性がなければ、資本は適切に再配分されない。
少数株主が声を上げられなければ、経営陣は緊張感を失う。
配当も資本効率も意識されなければ、会社の内部に資産が眠り続ける。
結果として、企業の生産性は上がらない。
少数株式の流動化は、この構造に風穴を開ける可能性を持つ。
少数株主が株式を売却できるようになれば、会社側も株主との関係を無視できなくなる。
外部の買い手が現れれば、非上場企業の株式にも価格がつく。
価格がつけば、経営陣の資本効率や配当政策も問われる。
株主が閉じ込められている状態から抜け出せれば、資本の流動性が高まる。
つまり、少数株式買取・マッチング事業には、閉鎖的な未上場企業ガバナンスを変えるインフラとしての意味がある。
弁護士法72条とは何を禁じているのか
では、弁護士法72条は何を禁じているのか。
同条は、弁護士でない者が、報酬を得る目的で、訴訟事件その他一般の法律事件に関して、鑑定、代理、仲裁、和解その他の法律事務を取り扱うことなどを禁止している。東京弁護士会の資料でも、非弁行為とは、弁護士でない者が報酬目的で法律事務の取扱い又は周旋を行うことだと説明されている。
この規定の趣旨は明確である。
法的知識や倫理的規律を持たない者が、他人の法律紛争に介入し、依頼者を食い物にすることを防ぐ。
事件屋のような存在が紛争を利用して利益を得ることを防ぐ。
弁護士制度と司法秩序を守る。
この目的自体は当然に重要である。
しかし、問題は、その射程をどこまで広げるかである。
少数株式を買い取ること自体は、財産権の売買である。
株式を取得し、自ら株主となって権利を行使することは、経済取引である。
非上場株式に価格をつけ、売却の出口を提供することは、金融・M&A・資本市場に関わる事業である。
これらを一律に「非弁行為」と決めつけるなら、M&A仲介、不動産取引、債権流動化、事業再生ファンド、アクティビスト投資など、多くの経済活動との境界が極めて曖昧になる。
もちろん、形式上は株式買取でも、実態として他人の紛争に介入し、法律事務を代理し、報酬を得ているなら問題になり得る。
実際、少数株式買取業者について、場合によっては非弁行為として問題になるとする見解や、違法・無効とされた裁判例も紹介されている。
だからこそ、重要なのは実態判断である。
株式という財産権を自らリスクを取って取得しているのか。
単に他人の法的紛争を代理しているのか。
利益の源泉は株式取得後の経済的リスクなのか、それとも法律事務の報酬なのか。
少数株主の権利行使を支援するアドバイザリーなのか、弁護士でなければ扱えない代理・交渉なのか。
この線引きをせず、「少数株式買取=非弁」と短絡することは、法の趣旨を取り違える危険がある。
経営者側の「保身の抗弁」になっていないか
本稿が最も警戒するのは、弁護士法72条が、本来の趣旨を離れて、経営者側の保身の道具として使われることである。
少数株主が株式を売却したい。
外部の買い手が現れる。
その買い手が株主となり、経営に質問する。
配当政策や資本効率を問う。
不動産や内部留保の活用を求める。
取締役会の説明責任を追及する。
この流れは、閉鎖的な非上場企業にとって不都合かもしれない。
経営陣は、これまでのように少数株主を無視できなくなる。
資産を眠らせている理由を説明しなければならなくなる。
低配当や低ROEを問われる。
同族的な経営慣行が外部から見られる。
そのとき、経営陣側が「株式買取業者は非弁だ」と主張することで、本質的なガバナンス論点から目をそらそうとする可能性がある。
これは、裁判所が最も慎重に見極めるべき点である。
本当に問題なのは、非弁行為なのか。
それとも、少数株主の流動化を妨げたい経営陣の抵抗なのか。
会社のための主張なのか。
経営トップの地位や既得権益を守るための主張なのか。
もし後者であれば、弁護士法72条は、少数株主保護を妨げる武器に転化してしまう。
弁護士法は、法的弱者を守るための制度である。
経営陣が少数株主を閉じ込めるための盾ではない。
裁判所が見るべきは「形式」ではなく「実質」である
裁判所が果たすべき役割は、形式的なラベルに引きずられないことである。
「株式買取業者だから違法」
「少数株主を支援しているから非弁」
「会社との対立があるから法律事件」
このような単純化は危険である。
弁護士法72条をめぐっては、「法律事件」の解釈や、どのような行為が法律事務の取扱いに当たるかについて、裁判例・学説上も議論がある。近時の解説でも、最高裁平成22年7月20日判決などを踏まえ、将来法的紛議が予測される状況での助言・交渉等が問題となる一方、新規ビジネスとの関係では線引きが重要であるとされている。
したがって、裁判所は次の点を丁寧に見るべきである。
当該事業者は、自ら株式を取得して経済的リスクを負っているのか。
単に他人の紛争を代理しているのか。
株主として自らの権利を行使しているのか。
他人の法律事務を報酬目的で扱っているのか。
少数株主の財産権に流動性を与える経済取引なのか。
それとも、紛争処理の代理業務なのか。
ここを見誤れば、少数株主の出口を提供する正当な経済活動まで萎縮させてしまう。
裁判所が守るべきは、経営者の快適さではない。
少数株主の財産権であり、市場の公正性であり、法の本来の趣旨である。
少数株式流動化は中小企業改革の入口である
日本の中小企業改革において、非上場株式の流動化は避けて通れない。
なぜなら、株式が動かなければ、ガバナンスも動かないからである。
閉鎖的な会社では、支配株主や経営陣が事実上の権力を握る。
少数株主は情報も出口も乏しい。
資産は会社の中に眠り、配当も低く抑えられる。
経営陣に不満があっても、株式を売れない。
この構造が続く限り、企業の生産性は上がりにくい。
株式に価格がつく。
買い手が現れる。
外部株主が入る。
経営陣が説明を求められる。
資本効率が問われる。
配当政策が見直される。
不動産や内部留保の活用が議論される。
この流れが生まれて初めて、非上場企業にも市場の緊張感が入る。
少数株ドットコムのような事業が注目される理由は、ここにある。
それは単に株を買うビジネスではない。
閉鎖的な資本関係に流動性を与え、少数株主の出口を作り、経営陣に説明責任を迫る仕組みである。
もちろん、その過程で法令遵守は不可欠である。
弁護士法、会社法、金融商品取引法、個人情報保護、広告表示、交渉実務。
すべてについて慎重な設計が求められる。
しかし、法的論点があるからといって、事業全体を不当に否定してはならない。
「非弁」論争の背後にある本当の対立
この問題の背後には、より大きな対立がある。
それは、閉鎖的な非上場企業の現状維持か、少数株主の権利と流動性を認める市場化か、という対立である。
経営陣側は、従来の関係を守りたい。
少数株主側は、財産権を実現したい。
外部投資家は、企業価値を掘り起こしたい。
弁護士は、法秩序と職域を守りたい。
裁判所は、法の趣旨と経済実態を調整しなければならない。
この複雑な構図を、単純に「非弁か否か」だけに押し込めてはならない。
もし実態として非弁行為があるなら、当然それは排除されるべきである。
しかし、実態が財産権の取得と経済的リスクを伴う投資行為であるなら、それを非弁として潰すことは、少数株主の出口を奪うことになりかねない。
裁判所は、経営陣側の主張が本当に法秩序の維持を目的とするものなのか、それとも少数株主の流動化を封じるための防衛戦術なのかを見極める必要がある。
結論 暗箱を解体し、開かれた未上場株式市場へ
日本経済を本当に強くするには、上場企業だけを改革しても足りない。
むしろ、日本経済の厚みを支えている中小企業、非上場企業、同族会社のガバナンスをどう変えるかが重要である。
そのためには、少数株主を閉じ込めてきた「非上場株式の暗箱」を開かなければならない。
少数株式に流動性を与える。
少数株主に出口を与える。
経営陣に資本効率を意識させる。
会社の眠れる資産を可視化する。
閉鎖的な資本関係に市場原理を入れる。
これらは、日本の中小企業の生産性向上にとって不可欠な課題である。
もちろん、少数株式買取・マッチング事業は、法令に適合した形で行われなければならない。弁護士法72条に抵触するような実態があれば、それは是正されるべきである。
しかし、経営者側が弁護士法を持ち出すたびに、少数株主の財産権流動化を封じるような判断がなされるなら、日本の未上場株式市場は永遠に閉ざされたままとなる。
裁判所に求められるのは、形式論に流されない実質判断である。
これは本当に非弁行為なのか。
それとも、少数株主の出口を作る正当な経済活動なのか。
会社法の名を借りた経営者の保身なのか。
それとも、法秩序を守るために必要な規制なのか。
この問いを正面から見極めることこそ、日本の司法に課された試金石である。
さくらフィナンシャルニュースは、非上場株式市場の透明化、少数株主の権利保護、そして中小企業ガバナンス改革の観点から、この問題を今後も継続的に検証していく。






















































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































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