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【司法不祥事】訴訟を放置し「偽の判決文」を依頼者へ交付か 愛知県弁護士会所属の弁護士を在宅起訴 司法への信頼を揺るがす深刻な疑惑

さくらフィナンシャルニュース編集部

依頼した裁判は、本当に行われていたのか。

専門家への信頼を逆手に取ったとされる事件が、弁護士自治と依頼者保護のあり方を問い直している。

名古屋地検特捜部は2026年6月25日、依頼を受けた民事事件の処理を放置し、その事実を隠すために裁判所の判決書などを偽造したほか、依頼者から預かった金銭を着服したとして、愛知県弁護士会所属の松下典弘弁護士(43)を在宅起訴した。

起訴された罪名は、有印公文書偽造・同行使、業務上横領などである。

今回の事件は、単に弁護士が事務処理を怠ったという問題ではない。

検察側の起訴内容によれば、弁護士が依頼者から受任した訴訟などを処理しないまま放置し、それを隠す目的で、裁判所が作成したように見せかけた判決書の写しなどを偽造したとされている。

さらに、依頼者のために保管していた預かり金、合計約1120万円を着服したとして、
業務上横領罪にも問われている。

事実であれば、弁護士業務の根幹を揺るがす極めて深刻な事件である。

■訴訟を放置し、偽造書類で発覚を免れようとした疑い

報道によると、松下弁護士は2021年10月下旬ごろから2025年3月11日ごろまでの間、遺産相続を巡る訴訟などに関する判決書の写しをはじめ、通信事業会社名義の通知書や和解契約書などを偽造したとされている。

名古屋地検特捜部によれば、複数の依頼者から訴訟などを受任していたものの、必要な処理を行わずに放置していたという。

その放置が依頼者に発覚することを免れるため、実際には存在しない判決書や契約書類を作成し、あたかも裁判や交渉が進んでいるかのように装った疑いが持たれている。

弁護士に事件を依頼した一般の市民が、裁判所の判決書や法律文書の真偽を自力で見分けることは容易ではない。

裁判所名、事件番号、裁判官名、主文などが整えられていれば、多くの依頼者は本物だと信じるだろう。

弁護士は法律と司法手続きの専門家である。その専門性を信頼して事件を任せた依頼者に対し、専門知識の差を利用して虚偽の説明をしていたとすれば、その悪質性は極めて高い。

■偽の判決文が奪う「権利救済の機会」

判決書の偽造は、単なる書類上の不正ではない。

訴訟が実際には提起されていなかった場合、依頼者が本来行使できたはずの請求権について、消滅時効や申立期限が経過する可能性がある。

依頼者が「勝訴した」と信じ込まされていた場合には、相手方に対する支払い請求や強制執行など、判決後に必要となる手続きを取る機会も失われる。

遺産相続の事件であれば、遺産分割、相続財産の管理、不動産処分などに重大な影響が生じる可能性もある。

つまり、訴訟放置と判決書の偽造は、依頼者を欺くだけでなく、依頼者が裁判を受け、権利を回復する機会そのものを奪いかねない。

被害は金銭だけではない。

依頼者は長期間にわたり、「裁判が進んでいる」「判決が出た」と信じていた可能性がある。その間に受けた精神的負担や時間的損失は、簡単に回復できるものではない。

■依頼者3人の預かり金、計約1120万円を着服か

松下弁護士は、依頼者3人のために預かっていた50万円から570万円の金銭、合計約1120万円を着服したとして、業務上横領罪にも問われている。

弁護士は業務上、依頼者の和解金、示談金、損害賠償金、相続財産などを一時的に預かることがある。

これらは弁護士自身の金銭ではない。

法律事務所の運転資金や個人的な支出とは厳格に区別し、適切に管理しなければならない。

依頼者にとって、預かり金は長年争ってようやく得た賠償金や、生活の再建に必要な資金である場合も少なくない。

弁護士による預かり金の着服は、依頼者の財産を直接侵害するだけでなく、弁護士制度全体の信用を破壊する行為である。

今回の起訴内容では、書類偽造と預かり金の着服が同時に問題となっている。

仮に偽造した判決書や和解契約書が、預かり金の所在や事件処理の状況を隠すためにも使われていたとすれば、事件の全体像はさらに深刻なものとなる。

ただし、この点を含む具体的な経緯については、今後の刑事裁判で明らかにされる必要がある。

■本人の認否は明らかにされず

報道によると、名古屋地検特捜部は松下弁護士の認否を明らかにしていない。

松下弁護士は報道機関の取材に対し、起訴状を受け取っていないためコメントを差し控えるとの趣旨の回答をしたと伝えられている。

今回の手続きは「在宅起訴」である。

在宅起訴とは、被告人の身柄を拘束せず、自宅などで生活している状態のまま刑事裁判にかける手続きを指す。

在宅起訴だからといって、直ちに事件が軽微であることを意味するものではない。

逃亡や証拠隠滅の可能性、身柄拘束の必要性などを踏まえて判断されるものであり、起訴された罪の重さとは別の問題である。

また、現時点では起訴された段階であり、有罪判決が確定したわけではない。

今後、検察側が起訴事実を立証し、被告側がどのような認否や反論を示すのか、刑事裁判の推移を慎重に見守る必要がある。

■愛知県弁護士会「仮に事実であれば極めて遺憾」

松下弁護士が所属する愛知県弁護士会は、起訴が報じられた6月25日、長谷川龍伸会長名で会長談話を公表した。

談話では、所属会員が公文書である民事裁判の判決書などを偽造して依頼者に交付し、依頼者からの預かり金を着服したとして在宅起訴されたとの報道に接したと説明している。

そのうえで、事実関係については今後の刑事裁判で明らかにされるとしながらも、仮に事実であれば、弁護士と弁護士会に対する信頼を著しく損なうものであり、「極めて遺憾」と表明した。

愛知県弁護士会は今後、倫理研修をはじめとする不祥事根絶に向けた施策を拡充するとともに、弁護士会に与えられた権限を適切に行使し、再発防止と信頼回復に努めるとしている。

■倫理研修だけで防ぐことができるのか

しかし、今回問われている行為は、知識不足や単純なミスとは性質が異なる。

訴訟を放置したうえで、その事実を隠すために判決書などを意図的に作成したとすれば、倫理研修を受講すれば防げるという問題ではない。

預かり金についても、弁護士個人の良心や自主的な管理だけに依存する仕組みには限界がある。

依頼者から預かった金銭を個別口座で管理しているのか。

入出金の記録を第三者が確認できる仕組みがあるのか。

一定額以上の預かり金について、弁護士会などへの報告制度を設ける必要はないのか。

長期間動きのない受任事件について、弁護士会が把握できる制度を構築できないのか。

こうした制度的な検証が必要である。

不祥事が起きるたびに「倫理研修を徹底する」と表明するだけでは、依頼者の不安を解消することは難しい。

■依頼者が事件の進捗を確認できる仕組みも必要

弁護士に事件を依頼した後、依頼者が確認できる情報は限られている。

訴状を裁判所に提出したのか。

事件番号は付されたのか。

次回期日はいつなのか。

相手方から答弁書が提出されたのか。

判決書の原本はどこにあるのか。

こうした情報について、弁護士からの報告だけに依存するのではなく、依頼者が裁判所の正式な記録などを通じて確認できる仕組みを分かりやすく整備する必要がある。

依頼者側も、事件番号、担当裁判所、期日、提出書面の写しなどについて、定期的に確認することが重要だ。

判決が出たと説明された場合には、判決書の原本や正本、事件番号、判決言渡日を確認することも、被害防止につながる。

もちろん、依頼者に過度な自己防衛を求めることは本末転倒である。

本来は、弁護士と弁護士会、司法制度の側が、依頼者を保護する仕組みを整えなければならない。

■個人の犯罪として終わらせてはならない

今回の事件は、起訴内容が事実と認定されれば、弁護士個人による重大な犯罪である。

しかし、個人の資質だけに問題を還元すれば、同様の不祥事が繰り返される可能性がある。

弁護士には、高度な専門性と広い裁量が与えられている。

一方で、依頼者は訴訟手続きや預かり金管理の実態を日常的に監視することができない。

この情報格差と権限の集中こそが、不祥事を長期化させる土壌になり得る。

弁護士自治は、国家権力から独立した法律家を守るために重要な制度である。

しかし、自治とは、外部の監視を受けないことではない。

自ら厳格に不祥事を調査し、依頼者を救済し、透明性のある処分を行う責任と表裏一体である。

今回の事件を一人の弁護士の異常な行為として処理するのか。

それとも、預かり金管理、受任事件の進捗確認、懲戒制度、被害救済制度を見直す契機とするのか。

問われているのは、弁護士会が自らに与えられた自治権を、依頼者保護のためにどこまで実効的に行使できるかである。

今後の焦点は、刑事裁判の結果だけではない。

被害を受けたとされる依頼者がほかにも存在するのか。

放置された事件によって、依頼者の権利がどの程度失われたのか。

着服されたとされる預かり金は回収されるのか。

愛知県弁護士会は懲戒手続きを含め、どのような対応を取るのか。

そして、同様の事件を防ぐため、具体的にどのような制度改革を行うのか。

司法制度は、市民が「専門家に任せれば適正に手続きが進む」と信じられることで成り立っている。

その信頼が失われれば、被害を受けた市民が弁護士への相談そのものをためらい、法的救済から遠ざかることにもなりかねない。

偽造されたとされるのは判決書だが、この事件によって傷つけられたのは、司法制度そのものへの信頼である。

※本稿は2026年6月29日時点の報道および愛知県弁護士会の公表資料を基に作成しています。起訴された内容については、今後の刑事裁判で審理されるものであり、現時点で有罪が確定したものではありません。

参考資料

・朝日新聞「訴訟放置し、判決文の写しを偽造か 弁護士を在宅起訴 名古屋地検」

・共同通信「愛知の弁護士を在宅起訴 文書偽造罪など、名古屋地検」

・愛知県弁護士会「当会会員の在宅起訴報道に接しての会長談話」

・裁判所「民事事件について」

・日本弁護士連合会「弁護士および弁護士会について」

参考URL

愛知県弁護士会「当会会員の在宅起訴報道に接しての会長談話」
https://www.aiben.jp/opinion-statement/news/2026/06/post-150.html

2026年6月25日付の公式談話です。判決書等の偽造や預かり金着服の報道について、「仮に事実であれば極めて遺憾」と表明しています。

朝日新聞・NTTドコモニュース「訴訟放置し、判決文の写しを偽造か 弁護士を在宅起訴 名古屋地検」
https://topics.smt.docomo.ne.jp/article/asahi/nation/ASV6T2Q6GV6TOIPE00MM

今回の記事作成の基礎となった報道です。

裁判所「民事訴訟」
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_minzi/minzi_25_20/index.html

民事訴訟の流れや、判決、和解、控訴などの基本的な手続きを説明した裁判所の公式ページです。

裁判所「民事事件Q&A」
https://www.courts.go.jp/saiban/qa/qa_minzi/index.html

訴訟を起こす裁判所、地方裁判所と簡易裁判所の違いなど、民事裁判の基本事項を確認できます。

裁判所「民事裁判手続のデジタル化」
https://www.courts.go.jp/saiban/minjidejitaruka/index.html

民事訴訟のオンライン化や電子判決書、裁判書類の電子送達などに関する公式資料です。今回の事件を受け、依頼者が事件の進捗や裁判書類を確認できる仕組みを論じる際にも参考になります。

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