裁判所から破産手続きの開始決定を受けた大阪の家電メーカー船井電機株式会社は、2024年10月24日、東京地方裁判所から破産手続きの開始決定を受けた。
関連会社への多額の貸し付けが原因で資金が流出し、最終的に117億円以上の債務超過に陥ったことが明らかになった。
また親会社の船井電機・ホールディングスも実質214億円の債務超過である。
〈世界のOEM FUNAIからの転落〉
かつて『世界のFUNAI』とも呼ばれた船井電機は1951年に創業し、トランジスタラジオの製造から始まり音響機器や映像機器、情報通信機器の製造・販売を行い、OEMで特に北米市場で大きく事業を展開。しかし、リーマン・ショックや中国メーカーとの競争、液晶パネル価格の高騰などで経営が悪化し、さらに子会社での不適切会計が発覚するなどしていた。
主力であった液晶テレビの事業で中国メーカーとの販売競争が激化する中、経営に行き詰まり、2024年10月24日に取締役の1人が準自己破産を東京地方裁判所に申し立て、同じ日に破産手続きの開始決定を受けた。
裁判所への申し立てによると、業績の低迷を受けて2021年に出版などを手がける東京の会社、秀和システムホールディングスの傘下となったが、関連会社への多額の貸し付けや買収した会社への資金支援などによって、およそ300億円が流出していた。ちなみに秀和システムホールディングスは、船井電機買収完了後、両社は合併し、船井電機が存続会社となり(秀和システムホールディングスは消滅)船井電機の名称も本社もブランド(FUNAI)も継続するとのことだったのだが、うまくいかなかった。
2024年4月からは、毎月およそ3億円から8億円の営業赤字の状態が続くなどして、資金繰りが急速に悪化、秀和システムの傘下に入る前には347億円あった現預金がほぼ尽きた。
10月24日時点の債権者は524人、負債総額は469億円余りに上る。
会社の従業員およそ2,000人は、破産手続きの開始が決まった日に突然、解雇を言い渡され混乱している。そして給料日にもかかわらず、給与が支払われていない状況である。
〈液晶テレビ業界も価格競争に苦しめられる〉
船井電機は2017年から株式会社ヤマダデンキと提携し、ヤマダオリジナルブランドのテレビを生産していた。当初、両社は国内シェア5%、さらには20%も可能と意気込んでいたが、低価格OEM元としての需要が減少する中で、船井電機は明確な対策を打てていなかったことが明らかとなった。
今年2月末には株式会社カインズともオリジナル家電の共同開発で提携を発表したばかり。
しかし倒産を決定付けたのはテレビの販売価格競争に負けたわけではなかった!
〈船井倒産の裏にミュゼプラチナムの影あり 通称『ミュゼ転がし』〉
この度の倒産を『ミュゼ転がし』とネーミング付けた情報誌『FACTA』2024年8月21日号によれば、船井電機・ホールディングスは2023年4月に完全子会社化した脱毛サロンチェーン ミュゼプラチナムによる「資産切り売り」の被害を受けた可能性があるとした。
船井電機は2024年3月にミュゼプラチナムを売却したにもかかわらず、2023年4月から1年の間に、ミュゼプラチナムのせいで株式を仮差し押さえられてしまう。
2022年12月、丁度買収の4カ月前に、船井電機が所有する本社ビルに対して、横浜市内の合同会社ミュゼプラチナシステムズを債務者として、横浜幸銀信用組合が39億6000万円の根抵当権を設定していた。
実際、ミュゼプラチナムはネット広告の請求に対して、約22億円の未払いがあった。しかし請求してもミュゼプラチナム側は支払わず、連帯保証を付けていた親会社の船井電機に請求が行った。これに対して船井電機側も支払わず、最終的に2024年東京地裁で株式の仮差押えが認められた。
船井電機が経営を放棄したミュゼプラチナムは、ミュゼプラチナシステムズ合同会社を経て、MITと社名を変更する。会社周辺にはクーポン販売業者や貸金業者など、脱毛エステとは無関係な仕手が横行していく。
船井電機は2024年3月から4月にかけて取締役9人のうち3人が途中辞任して、2023年6月に会長に就任したパナソニック出身の柴田雅久氏も代表権が外れた。そして5月7日付、外部から一挙5人が取締役に加わった。いずれも本業とはあまり関係のない貸金業関係者などであった。
このような不可解な状況を判断すると、まるで誰かがミュゼプラチナムを利用して船井電機の資産を「浸食」しているかのようだ。
朝日新聞 10月26日によると船井電機は社員向けの破産説明会の場で幹部が
「いろんな人が会社のお金を抜く行為も起こっていた。それは止めるべきで、伝統ある会社をぐちゃぐちゃなまま閉めてはいけない」
と、こう述べた。
船井電機の破産は、主に本業の低迷と外部への資産流出、特にミュゼプラチナムへの資金支援などによる多額の資金流出が大きな要因となったと、東京商工リサーチの「TSR情報全国版」(2024年10月30日号)で分析されている。
ミュゼプラチナムを完全子会社化した際、船井電機の親会社、船井電機・ホールディングスは「船井電機は主力のテレビ事業以外に美容機器を製造販売しているから」と説明したそうである。
ミュゼプラチナムを買収できれば、家庭用脱毛機器や美顔器など新商品を共同開発することで『シナジー効果』が得られると幹部は宣言したが、船井電機が扱う得意の美容機器は2019年に開発した『ネイルアートプリンター』くらいで、社員たちは、これまで長い歴史で培ってきた得意分野とは全く関係のない分野で、ゼロから脱毛器や美顔器を開発していかなければならない。
もちろん、M&Aをした会社を短期間で手放してキャピタルゲインを得るという目的もあったとは思うが、実際には焦げ付いたミュゼプラチナムを手放す事に失敗した。
もともとミュゼプラチナムはかつて『Foresight』(フォーサイト、新潮社)という情報誌で医師法違反疑惑や前受金商法の問題点や経営危機が指摘され、2015年に一度、経営破綻している。
さらに、2016年には広告事業やシステム開発を手掛ける「RVH」(東京都港区)が「株式交換」という形でキャッシュを使わない形で完全子会社化。
2020年には売上高や契約獲得が鈍化しているとして、「たかの友梨ビューティクリニック」創業者として知られる高野友梨社長が経営する「G.Pホールディング」に21億円で譲渡されている。
☆参考サイト☆
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