昨年度、ふるさと納税で、全国の自治体に寄附された総額は1兆1100億円余で、初めて1兆円を超え、利用した人は1000万人で、これまでで最も多くなりました。
総務省は、2日、昨年度の「ふるさと納税に関する現況調査結果」を公表しました。
それによりますと、ふるさと納税で全国の自治体に寄附された総額は、昨年度1兆1175億円で、初めて1兆円を超え、前年度を1521億円上回り、4年連続で過去最高を更新しました。
また、去年1年間にふるさと納税を利用して今年度の住民税の控除を受けるのは1000万2000人で、前年度より107万人余増え、利用者もこれまでで最も多くなりました。
住民税を納めている人は、全国でおよそ6000万人になりますから、「6人に1人」がふるさと納税を利用したことになります。
また、能登半島地震で大きな被害を受けた輪島市などの6つの市や町に対する寄付額はあわせて54億8000万円で、前の年度の13億1400万円を41億円余り上回りました。
ふるさと納税制度とは
ふるさと納税は、2008年5月から開始されました。
人口が都市に集中し、人口と税収が減少する地方と都市の格差是正、地方創生を目的にした寄附金税制の一つです。
根拠となっている法律は、地方税法第37条2(寄附金税額控除)、第314条7(寄附金税額控除)および所得税法第78条(寄附金控除)で、これらの法律で定められた範囲で地方自治体への寄付金額が所得税や住民税から控除される仕組みです。
導入のきっかけ
第1次安倍晋三内閣が発足して間もない、2006年10月、当時の西川一誠・福井県知事が
「故郷寄付金控除」の導入を提言しました。
また、当時の田中康夫・長野県知事も「厳しい財政の中でも在宅福祉に力を注いでいる意欲的な自治体に税を納めたい」と県庁所在地の長野市から下伊那郡泰阜村に住居を構え、住民票を移した事例もありました。こうした経緯も重なり、当時の菅義偉総務相が「ふるさと納税」創設を表明しました。
昨年度の概要
寄付額が多かった自治体は、最も多いのが宮崎県都城市で193億8400万円、次いで、北海道紋別市の192億1300万円、大阪府泉佐野市の175億1400万円、北海道白糠町の167億7800万円、北海道別海町の139億300万円などとなっています。
一方、ふるさと納税を利用して住民がほかの自治体に寄付を行った影響で、今年度の住民税の税収が減る見通しとなっている事態も生じています。
減収額が最も多いのは、横浜市の304億6700万円、名古屋市の176億5400万円、大阪市の166億5500万円、川崎市の135億7800万円、東京都世田谷区の110億2800万円などとなっています。
減収が多くなったのは、前の年度と変わらず政令指定都市と東京の特別区で、すべての自治体で減収額が拡大しました。
課題を残す過度な返礼品や制度改正について
08年に始まったふるさと納税制度は、15年に控除を申請するための確定申告が不要になる「ワンストップ特例制度」が導入されたほか、住民税の控除額の上限が2倍に引き上げられ、寄附額が急増しました。
しかし、過度な返礼品など制度創設の趣旨にそぐわない寄附も目立つという弊害も出ています。
総務省は、生まれ育った自治体などを応援することが本来の趣旨で、過度な返礼品などが目的の寄附はそぐわないとして、ルールの厳格化を図ってきました。
17年には、返礼の割合を寄付額の3割以下とするよう大臣通知で要請しています。
しかし、基準を守らない自治体があったため、19年には法律を改正して、対象となる自治体を総務大臣が指定し、寄附額の3割以下の地場産品とする基準を守らない自治体は対
象から外すことなどを定めました。
また、法律に基づいて、返礼品の調達費用や送料など自治体が寄附を募る経費の総額を寄附額の5割以下とする基準も設けましたが、昨年、寄附を証明する書類の発送費用などもすべて経費に計上するよう基準を厳格化しました。
しかし、その後も仲介サイトが寄付に伴って付与するポイントの競争が過熱しているとして、総務省はさらに基準を見直しました。
今年10月からは、返礼品を強調した宣伝を行わないよう、自治体が仲介サイト側に要請しなければならなくなります。
さらに、来年10月からは、ポイントを付与するサイトを通じた寄附の募集が禁止されます。
また、1人1泊5万円を超える宿泊施設の利用券を返礼品にする場合は、原則同じ都道府県内で営業する施設に限定するよう見直されます。
利用者が多い大都市部で失われた税収の補填をどうするのか?高所得者ほど利用できる枠が大きく「体の良い節税」の手段となっている点も課題です。
所得再分配機能を弱め、社会の公正さを損なっている点を早急に改正し、「ふるさとへの貢献を促す」という制度創設の原点に立ち返ることが必要です。以 上
筆者 平木雅己(ひらきまさみ)選挙アナリスト
元NHK社会部記者。選挙報道事務局を長く勤め情勢分析や出口調査導入に尽力。小選挙区制度が導入された初めての衆議院議員選挙報道ではNHK会長賞を受賞。ゼネコン汚職事件、政治資金の不正など政治家が関わる多くの事件・疑惑も取材。
その後、連合(日本労働組合総連合会)事務局にて会長秘書(笹森清氏)として選挙戦略の企画立案・候補者指導を担当、多くの議員の当選に尽力した。
政策担当秘書資格取得後、法務大臣/自民党幹事長代理はじめ外務大臣政務官、衆参国会議員政策秘書として、外交・安全保障、都市計画、防災、司法、治安、雇用・消費者、地方自治などの委員会や本会議質問を作成、政策立案に携わる。
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