今年度の最低賃金について議論を続けていた労働者側、使用者側そして学識経験者で作る審議会は、時給で50円引き上げる目安・全国平均の時給は1054円などの内容をまとめ、今月25日、厚生労働省に答申しました。全国平均の時給はこれまでで最も高くなります。春闘において33年ぶりの高い賃上げを獲得した背景がある一方で、企業側の支払い環境の整備など課題も残ります。今回は最低賃金について解説します。
最低賃金とは
まず、「最低賃金」とは何かを確認します。
厚生労働省ホームーページでの説明によりますと、「最低賃金制度とは、最低賃金法に基づき国が賃金の最低限度を定め、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないとする制度です。仮に最低賃金額より低い賃金を労働者、使用者双方の合意の上で定めても、それは法律によって無効とされ、最低賃金額と同額の定めをしたものとされます。」と定められています。
さらに「したがって、最低賃金未満の賃金しか支払わなかった場合には、最低賃金額との差額を支払わなくてはなりません。また、地域別最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には、最低賃金法に罰則(50万円以下の罰金)が定められ、特定(産業別)最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には、労働基準法に罰則(30万円以下の罰金)が定められています。」と罰則の条文も明記されています。
最低賃金の議論とは
厚生労働省の審議会で労働者と経営側の代表それに労働関係に詳しい中立的な有識者が、物価の推移や、春闘を通じた賃上げの状況、企業の支払い能力などを参考に議論をして、目安を決めます。
そして、その後、都道府県ごとに地域の実情を踏まえて、それぞれで金額を決めていく仕組みとなっています。
今年度の議論のポイント
政府は、今年6月に決定した「骨太の方針」で、最低賃金を2030年代半ばまでに全国平均で1500円とする明記しました。
労働者側は、33年ぶりの高水準の賃上げを実現した今年の春闘の流れを非正規労働者や中小企業に波及させていくために、審議会では、現在1004円から67円の上げ幅を主張していました。
これに対して、使用者側は、「過度な引き上げは、倒産や廃業を招き、地域の雇用が失われかねない」との懸念が強い。政府には、中小企業が賃上げの原資を確保できるようにする環境を整える責任がある。」などとして、引き上げは23円とするように求めて、協議は難航していました。
協議の結果、物価の上昇が続いていることなどから過去最大となる時給で50円、率にして5%引き上げる目安でまとまりました。全国平均の時給は1054円となり、これまでで最も高くなります。
地域別では◆東京や大阪などのAランク、◆京都や静岡などのBランク、◆山形や鳥取などのCランクのいずれの地域も50円の引き上げとしました。
引き上げにあたっては、価格転嫁が十分にできていない企業があることを踏まえた上で、頻繁に購入する生活必需品の消費者物価指数が平均で5%を超えるなど物価の上昇が続く中で、最低賃金に近い水準で働く人の生活への影響に配慮しています。
また、5%を超える高い水準の賃上げとなった春闘の流れを維持し、非正規労働者や中小零細企業にも波及させることも重視したとしています。
今回の目安をもとに今後、都道府県ごとに審議会で労使の話し合いが行われ、来月には各地の最低賃金が決まり、10月以降、順次適用される予定です。
残された課題
使用者側は、「中小企業や小規模事業者の賃上げへの対応は二極化し、労務費を含む価格転嫁もいまだ十分進んでいない。政府には、最低賃金の大幅な引き上げが企業経営や地域の雇用に与える影響について、必要な調査や研究を行ってもらいたい」と指摘しています。
労働者側は、「今春闘の成果を波及させ、社会全体の賃金の底上げにつながるものだ。来年までにすべての都道府県で1000円超えを目指しているため今後の地方の審議にも期待したい」と述べました。
日本の最低賃金はまだ海外に比べて大きく見劣りしています。
今年1月時点で、英国とドイツは円換算で約2100円、オーストラリアは約2500円に達しています。
政府は、30年代半ばまでに全国平均で1500円とする目標を打ち出しましたが、国際水準に近づけるべく可能な限りの努力が必要になっています。
使用者側には「過度な引き上げは、倒産や廃業を招き、地域の雇用が失われかねない」との懸念が強いのが現状です。
中小企業が、人件費を含めたコスト上昇分を適切に価格転嫁できるよう監視を徹底するほか、企業の生産性を向上させるための有効な政策を作り、政府には、中小企業が賃上げの原資を確保できるようにする環境を整える責任もあります。
日本は、人件費や原材料費を削減して割安な製品を販売する「コストカット型経済」から脱却していく重要な局面にあります。
価格の安さを競うよりも、賃上げや投資を進め、魅力ある商品やサービスを提供する「成長型経済」へと早急に転換していくことが迫られています。
そのためには、企業規模を問わず、使用者側(経営者)と労働者側が、対立を乗り越えて
最低賃金を決定していくという意識変革も大切です。
エコノミストらが情勢分析に関わる英国の事例なども参考に、最低賃金決定の方策についてのより合理的な方策を見つける議論も必要になっています。以 上
筆者 平木雅己(ひらきまさみ)選挙アナリスト
元NHK社会部記者。選挙報道事務局を長く勤め情勢分析や出口調査導入に尽力。小選挙区制度が導入された初めての衆議院議員選挙報道ではNHK会長賞を受賞。ゼネ
コン汚職事件、政治資金の不正など政治家が関わる多くの事件・疑惑も取材。
その後、連合(日本労働組合総連合会)事務局にて会長秘書(笹森清氏)として選挙
戦略の企画立案・候補者指導を担当、多くの議員の当選に尽力した。
政策担当秘書資格取得後、法務大臣/自民党幹事長代理はじめ外務大臣政務官、衆参国会議員政策秘書として、外交・安全保障、都市計画、防災、司法、治安、雇用・消費者、地方自治などの委員会や本会議質問を作成、政策立案に携わる。
★出稿資料★
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