
アベノミクス以降、日本株市場は一定の再評価を受けてきた。だが、日本経済と株価を本質的に押し上げる力は、日銀の金融緩和や一時的な相場循環だけではない。
本命は、資本市場改革である。
企業が眠らせている資産を活用する。
少数株主の権利を守る。
経営陣の説明責任を徹底する。
株主総会を形骸化させず、実質的な対話の場にする。
買収、スクイーズアウト、株主提案、役員報酬、社外取締役制度を、国際水準の透明性で運用する。
こうしたガバナンス改革こそ、日本企業の資本効率を高め、海外投資家からの信頼を回復させる道である。
しかし、その前に大きく立ちはだかる壁がある。
それが、日本の会社法実務を取り巻く閉鎖的な人的ネットワーク、いわば「会社法ムラ」である。ここでいう会社法ムラとは、商法・会社法学者、法務省民事局の立法担当者、大手法律事務所、商事事件を扱う実務家らが形成する、専門性と人脈によって閉じた世界を指す。
もちろん、会社法学者や企業法務弁護士のすべてが問題だと言っているわけではない。日本の会社法実務を支えてきた知的蓄積は大きい。
問題は、その専門性が、少数株主の保護や市場の公正性ではなく、経営陣側の防衛と既得権益の温存に利用される構造があるのではないか、という点である。
会社法学者の「法律意見書ビジネス」
商事訴訟や株主総会関連紛争において、会社側が著名な会社法学者の法律意見書を提出することは珍しくない。
法律意見書そのものは、本来、裁判所に専門的な法解釈を提示するための有益な資料である。複雑な会社法上の論点について、学者や専門家の見解を示すことには意味がある。
しかし、現実の実務では、意見書が「学者の名前と印鑑を利用した権威付け」になっていないかという問題がある。
過去には、アムスク株主総会決議取消請求事件やHOYAの株主提案議題等掲載命令仮処分事件に関連して、会社側から会社法学者の意見書が提出されたと報じられている。財経新聞のコラムでは、アムスク事件で中東正文氏、福島洋尚氏、大谷禎男氏、HOYA事件で田中亘氏の意見書が出されたこと、また意見書費用の相場が数百万円とされることが指摘されている。
ここで問うべきは、意見書の存在自体ではない。
その費用は誰が負担しているのか。
会社側の経営陣を守るために、株主共同の財産である会社資金が使われていないか。
少数株主の正当な権利行使を封じるために、会社法学者の権威が利用されていないか。
意見書が実質的な法理論ではなく、会社側の訴訟戦術の補強資料になっていないか。
これらこそが問題である。
仮に、少数株主が株主提案権や議題等提案権を行使した際、会社側が高額な法律意見書を次々と投入して争うなら、その費用は最終的には会社の資産から出る。つまり、少数株主を含む株主全体の財産が、少数株主の権利行使を封じるために使われるという逆説が生じる。
これは、コーポレート・ガバナンス上、きわめて重大な論点である。
裁判所は必ずしも「権威ある意見書」に従っていない
もっとも、裁判所が常に会社側の学者意見書をそのまま採用しているわけではない。
HOYAの株主提案議題等掲載命令仮処分事件では、株主が会社に対して、招集通知や株主総会参考書類に提案議題、議案の要領、提案理由を記載するよう求め、一部認容された事例として紹介されている。
また、アムスクの事例についても、基準日公告を怠ったことを理由に株主総会決議取消請求が認容されたと報じられている。財経新聞は、種類株主総会の基準日公告を行わなかったことをめぐるアムスク事件で、会社側意見書が採用されなかったと報じている。
この点は重要である。
裁判所が、学者の肩書きや法律事務所のブランドだけで判断していないことは、日本司法にとって救いである。
しかし同時に、こうした意見書を使った争訟が長期化すれば、そのコストは会社価値を毀損する。
本来、株主提案や総会手続をめぐる紛争は、透明で迅速に解決されるべきである。にもかかわらず、会社側が高額な専門家意見書を投入し、手続論で長期化させるなら、企業価値のための会社法ではなく、経営陣防衛のための会社法になってしまう。
スクイーズアウト法制に潜む少数株主保護の穴
会社法ムラの問題は、訴訟実務だけではない。立法そのものにも表れる。
代表例が、特別支配株主による株式等売渡請求、いわゆるスクイーズアウト制度である。
特別支配株主が対象会社の総株主の議決権の90%以上を有する場合、少数株主から株式を強制的に取得することができる。この制度は、M&A後の完全子会社化を迅速に進めるための制度として意義がある。
しかし、少数株主保護の観点からは、制度設計に注意が必要である。
売渡株主は、売買価格に不服がある場合、取得日の20日前から取得日の前日までの間に、裁判所へ売買価格決定の申立てをすることができる。 また、少数株主は、法令違反や著しく不当な対価などにより不利益を受けるおそれがある場合、差止請求を行うこともできる。
一方で、株式等売渡請求には撤回の問題がある。実務解説では、特別支配株主は取得日の前日までに対象会社の承諾を得れば、株式等売渡請求を撤回できると説明されている。
この仕組みは、少数株主から見れば不安定性を生む。
価格決定申立てを行うには、弁護士費用、鑑定費用、時間的コストがかかる。もし手続の途中で売渡請求が撤回されれば、少数株主側の費用負担はどうなるのか。制度上、少数株主が救済を求めるほど不利益を受ける構造になっていないか。
さらに、取得日の設定についても、少数株主に不当な不安定性を与えない制度設計が必要である。取得日が過度に先延ばしされれば、少数株主は長期間、株式を奪われるかもしれない不安定な立場に置かれる。
スクイーズアウト制度は、企業再編を円滑にするためには必要である。
しかし、少数株主の権利を犠牲にしてよいわけではない。
欧米のようなクラスアクションやディスカバリー制度が十分に整っていない日本においては、少数株主保護の制度的手当ては、より慎重でなければならない。
「おかしな判決文」が資本市場を萎縮させる
問題は、立法だけではない。司法の現場にも、資本市場のロジックと距離のある判断が見られる。
たとえば、粉飾決算や不正会計が株主総会決議にどのような影響を与えるかという問題である。
企業の計算書類に重大な不正がある場合、それは役員選任の判断に影響しないのか。
粉飾決算を行った経営陣を、株主が再任するかどうかの判断に、財務情報は関係しないのか。
ファイナンスの観点から見れば、これは明らかに重大な情報である。株主は、会社の業績、財務状態、経営陣の信頼性を踏まえて議決権を行使する。計算書類に不正があるなら、役員選任の判断にも当然影響し得る。
それにもかかわらず、形式的に「計算書類は報告事項であり、役員選任議案とは別」と切り分けるような判断がなされれば、資本市場の感覚からは大きな違和感が生じる。
会社法の解釈は、条文だけでなく、市場の実態、投資家行動、情報開示の意味、議決権行使の現実を踏まえる必要がある。
司法がそこを理解しなければ、日本の資本市場はいつまでも形式論に縛られる。
立法担当者と大手法律事務所の「回転ドア」問題
さらに根深いのが、法務省民事局の立法担当者と大手法律事務所の関係である。
会社法の立法・改正に関わった人物が、その後、大手法律事務所に移り、企業側の代理人やアドバイザーとして活動すること自体は、直ちに違法ではない。専門知識を民間で活かすことには、一定の合理性もある。
しかし、制度設計を担った人物が、のちにその制度を使って経営陣防衛や多数派株主側の利益を支える立場に就く場合、利益相反的なインセンティブが疑われる。
立法時に、少数株主保護よりも企業側・多数派側に有利な制度設計をしていないか。
将来の転職先となり得る大手法律事務所や企業法務実務に配慮していないか。
国会議員やメディアが気づきにくい条文上の「バグ」が埋め込まれていないか。
これらは、陰謀論として片づけるべきではない。制度設計におけるインセンティブの問題として、正面から検証すべきである。
会社法は、誰のためにあるのか。
経営陣のためか。
大手法律事務所のためか。
商法学者のためか。
それとも、株主全体と市場の公正性のためか。
この問いが、いま改めて問われている。
会社法改革は「市場の言語」で語られなければならない
日本の会社法改革に欠けているのは、市場の言語である。
会社法の条文を整えること自体は重要である。
しかし、その条文が資本市場でどのように使われるのか、経営陣のインセンティブをどう変えるのか、少数株主にどのようなコストを課すのかを見なければならない。
株主提案権の制限。
臨時株主総会招集権の要件。
スクイーズアウト制度。
株式買取請求権。
価格決定申立て。
役員報酬開示。
社外取締役の独立性。
買収防衛策。
これらは、単なる会社法の技術論ではない。
日本市場の信頼を左右する制度インフラである。
もし会社法ムラの閉じた論理で制度が作られれば、日本市場は海外投資家から見て「経営陣に甘く、少数株主に冷たい市場」と映る。
その結果、資本コストは上がる。
株価は割り引かれる。
企業価値は伸び悩む。
国民の年金資産にも影響する。
だからこそ、会社法改革は、法務省、学者、大手法律事務所だけに任せてはならない。投資家、少数株主、上場会社の一般株主、海外機関投資家、中小企業の非上場株主、独立系アナリスト、メディアが関与する必要がある。
結論――「会社法ムラ」の暗箱を開けよ
アベノミクスを超えて日本の資本市場を成長させるには、金融緩和だけでは足りない。
必要なのは、会社法と資本市場制度の近代化である。
高額な法律意見書が、経営陣防衛の道具になっていないか。
少数株主を封じるために、会社資金が使われていないか。
裁判所は、形式論ではなく資本市場の実質を見ているか。
スクイーズアウト制度は、少数株主に過大な負担を課していないか。
立法担当者と大手法律事務所の回転ドアは、制度設計を歪めていないか。
会社法学者の意見書ビジネスは、透明性を持っているか。
これらの問いに答えない限り、日本市場は真の意味でグローバルスタンダードには近づけない。
会社法は、経営陣を守るための砦ではない。
会社法は、株主全体の利益と市場の公正性を守るための制度である。
その制度が、閉じた専門家集団の利害によって歪められているなら、そこに光を当てなければならない。
さくらフィナンシャルニュースは、日本の会社法ムラ、法律意見書ビジネス、スクイーズアウト制度、少数株主保護の問題を、今後も資本市場の視点から徹底的に検証していく。
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