芸能ライター・山本武彦
東京・豊島区が、区内で民泊を運営する15事業者、23施設に対し、1年間の業務停止命令を出した。
処分の理由は、住宅宿泊事業法で求められている定期報告を怠り、業務改善命令を受けた後も改善しなかったことにある。
一見すると、行政手続きの不履行に見える。
だが、これは単なる書類上の問題ではない。
定期報告すら守れない事業者が、宿泊者の管理、騒音対策、ごみ出しの指導、近隣住民への対応を適切にできるのか。
答えは明らかである。
できない。
民泊問題は、いまや一部の迷惑施設だけの話ではなく東京の住宅地に、観光ビジネスが無理やり入り込んだ結果として起きている構造的な問題だ。
豊島区の今回の処分は、その矛盾が限界に近づいていることを示している。
民泊は、もともと空き家や空き部屋を活用し、増え続ける宿泊需要を受け止める仕組みとして広がった。
インバウンド需要が伸びる東京において、ホテル不足を補う役割を果たした面はたしかにある。
地域に観光客を呼び込み、消費を生むという理屈もあるだろう。
しかし、その裏側で、住民は静かに負担を押しつけられてきた。
深夜の話し声、早朝のスーツケース音、分別されないごみ、共用部での喫煙、見知らぬ旅行者の出入り。
ひとつひとつは小さく見える。
だが、それが毎週、毎月、日常の中で繰り返されれば、住宅地の平穏は確実に壊れる。
ここで避けて通れないのが、外国人観光客のマナー問題だ。
もちろん、外国人観光客全体を乱暴にひとくくりにして批判するのは間違いだ。
日本のルールを守り、地域に配慮して滞在する旅行者は多い。
問題は、短期滞在者の一部が、日本の住宅地の細かな生活ルールを理解しないまま、生活空間の中に入り込んでいることにある。
ごみの分別、収集日の厳格さ、夜間の静けさ、マンション共用部の使い方、住宅街での声量。
これらは、日本人であっても地域差に戸惑うことがある。
まして、数日だけ滞在する外国人観光客が、何も説明されずに正確に理解できるはずがない。
だからこそ、本当の責任は旅行者だけにあるのではない。
最大の責任は、ルールを理解していない宿泊者を住宅地に入れながら、十分な説明も、監視も、対応もしない民泊事業者にある。
外国人観光客のマナー問題とは、突き詰めれば「管理されていない観光ビジネスの問題」である。
多言語でのごみ出しルールの説明。
夜間騒音の禁止。
緊急連絡先の明示。
違反があった場合の即時対応。
近隣住民への事前説明。
こうした基本動作を徹底できない事業者に、住宅地で民泊を営業する資格はない。
部屋を貸して金を取るなら、地域にかかる負荷まで引き受けるべきではないか。
民泊問題の本質は、利益を得る者と負担を受ける者が分かれている点にある。
収益はオーナーや運営代行会社に入る。
一方で、騒音、ごみ、不安感、治安への懸念を背負うのは近隣住民である。
これは典型的な外部不経済だ。
事業者が管理コストを削れば、そのツケは地域に回る。
「観光立国だから仕方ない」という言い方は、住民に犠牲を求める口実でしかない。
観光客を受け入れることと、住民の平穏な生活を守ることは、両立させなければならない。
だが、両立は自然には実現しない。
事業者に厳しい責任を負わせ、行政が監督し、違反には営業停止で臨む。
その実効性があって初めて、共存は成り立つ。
東京都が民泊コールセンターを開設することは、
一定の前進である。
これまで、住民が騒音やごみ、違法営業の疑いを訴えようとしても、どこに相談すればよいのか分かりにくかった。相談窓口の一本化は必要だ。
ただし、窓口を作るだけでは不十分である。
苦情を受けた後に、現地確認を行い、事業者に改善を求め、改善されなければ処分する。
その流れがなければ、コールセンターは単なるガス抜きで終わる。
行政は「聞いた」で終わってはならない。
「止めるべき民泊は止める」と示さなければ、住民の不信は消えない。
豊島区の業務停止命令は、民泊規制の転換点である。民泊は便利な観光インフラである前に、住宅地に入り込む営利事業である。住宅地の主役は旅行者ではない。そこに暮らす住民である。
外国人観光客のマナー問題を直視し、民泊事業者の管理責任を明確にし、悪質な違反には厳しく処分する。これを曖昧にすれば、東京の住宅地は静かな生活の場ではなく、無秩序な簡易宿泊施設の集合体になっていく。
観光で街を潤すことは否定しない。だが、住民の暮らしを削ってまで守るべき観光などない。豊島区の処分が突きつけたのは、その当たり前の現実であった。
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