月額100万円の顧問料は無駄遣い〜 企業オーナーやその一族に付き物の、大塚家具や天馬など で実際に起きたように、経営理念の違いや事業承継で仲違 いする家族は少なくありません。
シライ電子工業株式会社の創業者である白井治夫氏とその 孫である白井基治氏の間で起きている代表経営者の地位を 巡る争いは、日本のビジネス界で注目を集めています。
白井基治氏は創業者治夫氏の孫にあたります。1992年生 まれ。
東京大学工学部卒業後、2017年にJPモルガン証券 入社。2019年にシライ電子工業に入社し、2020年執行役 員海外構造改革・特命担当、2021年取締役海外事業担当、 2022年代表取締役社長になりましたが2024年3月突然 解業。
シライ電子工業は純損益が5期連続の赤字となるなど業績 低迷し、「誰も経営責任を取らないリーダー不在の時代が 続いている」と基治氏の目には映っていました。
〜上場企業のあるべき姿ではない〜 「上場企業は、株主からお金を預かり、株主が期待するリ ターンを常に実現し続ける使命を担うが、その期待リター ンを実現できないのであれば、非上場化すべきです。それ は時価総額100兆円であっても100億円であっても、全て の会社に等しくその責任があると思っています。」と基治 氏は強く言い放ちます。
〜会社が傾くのを見るのが我慢できなかった〜 同社は純損益が5期連続と、赤字業績低迷し、「誰も経営 責任を取らないリーダー不在の時代が続いている」と基治 氏の目には映っていました。 基治氏は入社翌年に執行役員、翌々年に取締役となり、海 外事業担当として中国工場のコスト構造を見直すなど改革 に着手。2022年3月期から2期連続で、創業以来最高益 更新を達成したのです。
〜会社を立て直すため、自身に課したこと〜 基治氏が会社を立て直すため、自身に課したことが二つあ リました。
◇従業員全員が安心して働けるよう財務状態を回復させる こと。
◇働きに応じた報酬を支払うインセンティブ制度を導入す ること。 それが実現するまでは自身の月額報酬を3分の1にカット し、40万円だけを受け取っていました。
その上で基治氏が掲げたのが、時価総額1兆円という膨大 な目標。現状では100億円に満たないが、売り上げ100億 円規模の10の新規事業を立ち上げ、PSR(株価売上高倍 率)10倍で1兆円に到達できると構想します。
そのために ロボティクス事業や脱炭素コンサルティング会社などを立 ち上げ、社長在任中に新規事業の種を蒔いたのです。 自身の報酬をカットする一方、年長の役員らにも「成果」 を求めましたが、結果的に解職理由とされた「威圧的態 度」について、基治氏は 「時価総額1兆円という目標を、何が何でも達成しないと いけないと自分自身に強いプレッシャーをかけていたし、 年上の取締役のメンバーに対してもプレッシャーをかけて しまったかもしれません。
私の言動が『威圧的』と捉えら れる可能性があった」 と確かに威圧的態度があったことを口にしました。
〜父を、そして創業者の祖父を解任に〜 改革は、身内の創業家にも及びました。子会社の物流会社 の社長職にあった父は報酬に見合った働きが未達成と判断 し、退任に応じてもらいました。
そして次に基治氏が斬り 込もうとしたのが、創業者にして祖父・治夫氏の報酬。実 は治夫氏に対し会社は、顧問料名目で月額100万円の報酬 を支払い続けています。
顧問料は『創業者としての経営全 般のサポートおよびアドバイスでの関与』(同社)に基づ いて決定しているといいます。
これに対して基治氏は「創業者であっても実質的配当で永 きに渡って給料を払い続けるのは、他の株主と平等では無 く、祖父の方針は会社の成長に旧態依然を受けた」と話し ました。
悩んだ末に今年1月、意を決して京都市内の祖父宅を訪ね、 「顧問契約を3月末で解除させて頂きます」と伝えると祖 父は「わしも辞めようと思っていた」と答えたため、「こ れで勇退してもらえた」と基治氏は思っていました。
その約2カ月後、基治氏は取締役会で突然解職されたので す。
〜自身がいきなり解職へ〜 基治氏は、自身が不当に解職されたと主張し、今年6月に 開催予定の株主総会での取締役選任を求める株主提案を提 出しました。一方で、創業者の祖父、治夫氏は、孫が取締 役会の議事運営を困難にし、重大な法令違反を行う恐れが あるとして解職を決議したとしています。 治夫氏は取締役ではないため、取締役会に参加していな かったのですが「創業者を大事にしない会社は潰れる」と 周囲に漏らしていたそうです。
取締役メンバーの五藤氏や 大塚昌彦CSO(最高戦略責任者)は、治夫氏と毎月のよう にゴルフに行く仲でした。
基治氏は 「五藤氏や大塚氏は、私に付いてこれず祖父に助けを求め、 そこで利害が一致した」 と見ています。 革新的な風を吹き込む孫の基治氏に対して創業者が絶大な 権力を握るオーナー企業。
「越えてはいけない『聖域』に踏み込んでしまったと思っ ています。シライ電子工業は現在売り上げ300億円、従業 員1300人規模の会社ですが、『経営的にこの規模でいい んじゃないか』という考えが、彼らの根底にあるんです。
それでは駄目です。私としては経営者として誠実に判断し たつもりです。シライ電子工業は上場企業であり、白井家 は持ち株数に応じた権利しかなく、全ての株主のために企 業価値を向上させることが経営者の使命だと心の底から 思っています」 と基治氏。 基治氏解職から8日後の3月22日、シライ電子工業は6 月に開催予定の株主総会で治夫氏が取締役に復帰すると発 表しました。
基治氏は4月25日、父親と姉、そして治夫氏の一人娘で ある母親の由香さんの家族4人の連名で株主提案書を会社 に提出しました。4人の議決権は合わせて約6%。
「厳しい戦いだが、自らの経営理念を株主に説明して回る つもりです。私が人生を懸けてやりたいと思える仕事に巡 り合えたのは、祖父が会社を創業してくれたおかげです。
だから『創業してくれてありがとう』と感謝の気持ちを伝 えたことはあります。ただ、私がこれから向かおうとして いる未来に対し、祖父が賛同を示してくれなかったのは非 常に残念です。」
基治氏の父は基治氏の提案に賛同し、家族も何があっても 支えると約束してくれたそうです。 基治氏は続けます。 「従業員には、私は自分にも他人にも厳しい経営スタイル なので、短期的に見れば私が社長じゃない方が楽かもしれ ない。でも10年や20年の中長期で見れば、従業員に対し て愛がある経営だと思っています。」 「株主もリスクを背負って配当金を受け取っているわけで すから、安全地帯にいながら必ず100万円を受け取れるの は、やはり上場会社のあるべき姿ではないと思います。」 収益が黒字に転換しても、全ての取締役に納得の行く経営 が 出来るようになるまで、切磋琢磨し続けます。
参考:
シライ電子工業公式サイト
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