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デール・T・モーテンセン—雇用は「出会い」の学である

景気が悪くなると求人は減り、失業は増える――それ自体は誰でも知っている。しかし、なぜ求人と失業が同時に存在し、賃金・雇用・離職がどのような動学法則で決まるのかを 、明快な数理モデルで示した人は多くない。デール・T・モーテンセン ( Dale T.Mortensen, 1939–2014)は、検索(サーチ)とマッチングの摩擦を核に、企業の求人投資と賃金交渉 、職の 創出と消滅を統合した枠組み今日「― ― DMP ( Diamond–Mortensen–Pissarides)モデル」として知られる理論 ――を築いた。

2010 年、モーテンセンはピーター・A・ダイアモンド、クリストファー・A・ピサリデスとともにノーベル経済学賞を受賞(探索摩擦のある市場の分析)。

本稿は、経歴→ 主要理論( DMP、賃金分散、オン・ザ・ジョブ・サーチ、解雇・採用の動学)→受賞理由と時代背景→世界・日本への影響→批判と限界→今日的意義→( AI・プラットフォーム・グリーン移行・高齢化)まで、図解と実務チェックリストを添えて立体的に解説する。

1. 受賞者の経歴整理(出生地・学歴・主要ポスト)

出生:1939 年、米国ワシントン州エンタープライズ。2014 年逝去。

学歴:

ウィラメット大学 B.A.(1961)

カーネギー工科大学(現カーネギーメロン大学)Ph.D. 経済学(1967)

主要ポスト:

ノースウェスタン大学(ケロッグ経営大学院)教授(長年在籍)

オーフス大学(デンマーク)客員教授 ――デンマーク雇用制度の分析と関わりが深い

主な業績(抜粋):

DMP モデル(Diamond–Mortensen–Pissarides)による均衡失業と雇用動学の理論化

賃金分散の理論(同質労働でも交渉・情報・求人条件の違いで賃金がばらつく)

オン・ザ・ジョブ・サーチ(就業中の転職探索)と賃金上昇のメカニズム

創出と消滅(Job Creation & Destruction)、解雇・採用の調整コストの定式化

小結:「出会い」の摩擦を中核に、求人・賃金・離職を連動させた雇用動学の標準理論を確立した。

2. 主要理論・研究内容

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3. 受賞理由と当時の経済状況(課題と答え)
3-1. 課題(1970–2000 年代)

完全競争・摩擦ゼロの教科書では、持続的な失業や賃金の粘着、求人・離職フローの同時決定が説明しにくかった。

オイルショックや IT 化で創出と消滅がダイナミックに生じ、政策評価に理論的基礎が必要だった。

3-2. モーテンセンの答え

検索・交渉・投資を一体化した**雇用動学の一般理論(DMP)**を構築。

ベバレッジ曲線や失業の推移を、求人投資・交渉・分離の相互作用として説明可能にした。

受賞の核:“ 雇用は出会いの産物”という当たり前を、政策に使える方程式へ落とし込んだ点にある。

4. 世界・日本への影響(政策・学問・日常)
4-1. 政策・実務

職業紹介・訓練・移動支援を成長政策として位置づけ。

失業保険の設計(期間、給付水準、再就職ボーナス)を均衡モデルで評価。

最低賃金・雇用保護の効果を、求人投資と分離率への作用で分析。

4-2. 学問

労働マクロの標準作法に。推定・定量政策分析の基盤を提供。

産業・地域のヘテロ、OJS、家計金融制約などへの拡張が進展。

4-3. 日本の射程

正規・非正規、地域ミスマッチ、育児・介護による離職。A の引き上げと分離の“痛み最小化”が鍵。

職業情報の標準化、ジョブ型の可視化、学び直し、移住・住宅支援が実効的。

5. 批判と限界

ボラティリティ問題(Shimer Puzzle):基本 DMP は失業の変動幅を過小に説明しがち。賃金の硬直性・雇用関税・在庫等の拡張で改善。

交渉・契約の単純化:実際には組合・内部労働市場・多段交渉が絡む。

マッチ品質の学習:採用後にわかる品質(試用期間等)の動学は単純化されがち。

異質性:年齢・技能・家計制約・企業生産性の分布を十分に扱うには拡張が要る。

政策執行の摩擦:情報連携・執行能力・評価の遅れはモデル外に置かれがち。

位置づけ:DMP は第一近似の骨格。異質性・行動・制度の筋肉を重ねて現実に近づける。

6. 今日的意義(AI・プラットフォーム・グリーン移行・高齢化)
6-1. AI によるマッチング効率の再設計

レコメンド・スキル推定・適職診断で A↑。ただし囲い込みやアルゴ差別は**A↓**を招く面も。説明可能性・監査が重要。

6-2. プラットフォーム労働とタスク経済

業務が細切れ(ギグ)になると、求人投資と分離が高速化。安全網・評価制度・保険の制度設計が雇用動学を左右。

6-3. グリーン移行の労働再配置

炭素制約で産業内外の再配置が進み、技能ミスマッチが**A↓**を通じ失業 ↑に。訓練・移行支援が不可欠。

6-4. 高齢化とリスキリング

定年延長・再就職・学び直しを、OJS と組み合わせて賃金・雇用の滑らかな移行へ。

7. 図解でつかむ DMP

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8. ケーススタディ(応用)

8-1. 失業保険:再就職ボーナスと訓練の組み合わせ

給付の手厚さは探索余裕を与えるが、改善就職に結びつけるには訓練・マッチング支援とセットで。

8-2. ジョブディスクリプションの標準化

職務記述とスキルタグの全国標準で A↑。企業間移動の取引コストを削減。

8-3. 地域モビリティと住宅政策

移住支援・住宅手当で地理摩擦を緩和。地方の求人はあるが人が来ない問題に効く。

9. 研究の広がりと後継

DMP 拡張:賃金硬直、金融制約、家計ヘテロ、OJS、二重労働市場、産業連関ショック。

実証:オンライン求人・履歴データを用いたマッチング関数の推定、政策評価。

10. FAQ(誤解の整理)

「完全競争なのに失業?」→摩擦があれば失業と求人が併存。

「賃金一本で説明できない?」→求人投資・分離・交渉が同時に効く。

「訓練は福祉?」→ A を上げる成長投資でもある。

11. 実務者チェックリスト(政府・自治体・企業)

A(効率)可視化:職種×地域の充足率・滞留日数を公開。

求人投資の誘因:採用補助、規制の予見可能性、マッチング支援。

分離の設計:解雇手続の明確化、再就職支援、セーフティネット。

OJS の促進:在職者向け転職支援、社外学習の評価。

移動コスト低減:保育・住宅・交通・移住支援。

評価→更新:ダッシュボードで PDCA、ベバレッジ曲線の内側化を KPI に。

12. まとめ—出会いの設計学としてのモーテンセン

モーテンセンの遺した要諦は単純だ。雇用は出会いの確率論であり、求人投資・交渉・分離が織りなす動学で決まる。だからこそ政策は、情報と移動の摩擦を減らし、訓練と保護で A を押し上げることに集中すべきだ。AI・プラットフォーム・グリーン移行の時代に、彼の羅針盤はますます必要になっている。

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