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ロバート・C・マートン—— 連続時間で金融を解き、リスクを設計する

株価は揺れ、将来は不確実だ。では、今日のオプションは、いくらが「公正」なのか?
ロバート・C・マートン(Robert C. Merton, 1944–)は、ブラック ショールズ マートン(BSM)に連なる連続時間金融の言語で、自己複製戦略と裁定不可能性からデリバティブの理論価格を導いた。さらに、企業価値 負債をオプションで表すマートン・モデル、消費ー投資の動学的最適化、ICAPM(間接的資産価格モデル)などを通じ、現代金融経済学の骨格を築き上げた。

1997 年、マートンはマイロン・ショールズとともにノーベル経済学賞を受賞(共同研究者のフィッシャー・ブラックは受賞前年に逝去)。本稿はフローに沿って、経歴、主要理論、受賞理由と時代背景、世界・日本への影響、批判と限界、今日的意義(AI・気候・高齢化)までを、実務にも効く視点で立体的に解説する。

1. 受賞者の経歴整理(出生地・学歴・主要ポスト)
出生:1944 年 7 月 31 日、米国ニューヨーク州。父は著名な社会学者ロバート・ K・マートン。

学歴:コロンビア大学(数学)、カリフォルニア工科大学(Ph.D. 数理経済)。指導にはポール・サミュエルソンらの影響が色濃い。

主要ポスト:
MIT スローン経営大学院(1970–1988)で教鞭。連続時間金融の基礎を体系化。

ハーバード・ビジネス・スクール(1988–)教授としてリタイアメント金融や金融工学の応用を拡張。

プライベートセクターでの活動(LTCM のプリンシパルなど)。

主な著作・論文:
“Theory of Rational Option Pricing”(1973)——BSM の連続時間・一般均衡的基礎付け

“Option Pricing when Underlying Stock Returns Are Discontinuous” ( 1976 )——ジャンプ拡張

“On the Pricing of Corporate Debt: The Risk Structure of Interest
Rates”(1974)—— マートン・モデル

“An Intertemporal Capital Asset Pricing Model”(1973)
——ICAPM

“Lifetime Portfolio Selection under Uncertainty”(1969)
—— 消費‐投資の動的最
適化
“Financial Innovation and the Management and Regulation of Financial
Institutions”(1995) ほか多数

受賞:1997 年ノーベル経済学賞(ショールズと共同)。

小結:マートンは、金融を連続時間の最適化と裁定条件で読み解き、デリバティブ価格付け・信用リスク・資産配分を同一の言語で接続した。

2. 主要理論・研究内容

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2-3. ジャンプ拡張と現実のテール

BSM の限界:連続的なブラウン運動だけでは、突発的ショック(急落・急騰)が表現しづらい。

マートン(1976):基礎過程にポアソンジャンプを重ねたジャンプ拡散モデルを提示。
結果:厚いテールやボラ微笑の一部を説明。

2-4. ICAPM(間接的 CAPM)とヘッジ需要

発想:投資家は、単に現在のリスクだけでなく、将来の投資機会集合の変動にも関心がある。
ICAPM は、伝統的 CAPM に状態変数(インフレ、金利、成長機会)を加え、ヘッジポートフォリオの需要を理論化。

2-5. 生涯最適化(消費・ポートフォリオ・年金)

終身で効用を最大化するよう、人的資本と金融資産、年金・保険を連続時間で統合。
ライフサイクル投資:若年はリスク許容度↑、高齢は長寿リスクやインフレリスクをヘッジする設計が要諦。

3. 受賞理由と当時の経済状況(課題と答え)
3-1. 課題:不確実性の価格付けを “制度化”せよ

1960 年代までの金融は、経験則と規制に依存。急成長するオプション市場、企業財務の複雑化に対し、理論価格とヘッジの標準が求められた。

3-2. マートンの答え:裁定と自己複製の一般言語

連続時間と確率過程で、デリバティブを自己複製可能な証券として表現。

裁定不可能性⇔リスク中立評価で価格付けの共通基準を与えた。

企業負債=オプションの視点で信用リスクを統一的に説明。

受賞の核:価格付け・リスク管理・企業財務をひとつの地図でつないだ。

4. 世界・日本への影響(政策・学問・日常)
4-1. 市場・規制・実務

オプション市場の標準化:マーケットメイク、グリークス管理、ボラティリティ面などの実務が確立。

リスク管理:VaR、ストレステスト、デルタ–ガンマ近似などの計量化が普及。

信用リスク:距離 to デフォルト、構造型モデル、のちの縮約形( Jarrow–Turnbull、Duffie–Singleton)へ接続。

規制:取引所の証拠金、清算、内部モデル法などの設計に理論が反映。

4-2. 学問・教育

金融工学・数量ファイナンスの学科・大学院の定着。
連続時間最適化(HJB 方程式)と測度変換が金融の常識に。

4-3. 日本の現場

個人年金・退職制度のライフサイクル設計、ターゲットデート型商品の普及。

企業の統合リスク管理:為替・金利・原材料ヘッジのグリークス連動 KPI 化。

国債市場:金利デリバティブ(スワップ・オプション)のリスク管理標準。

5. 批判と限界(肯定一辺倒にしない)

仮定の強さ:完全市場・連続ヘッジ・定常ボラは近似。流動性危機では複製が崩れる。

テールと相関の過小評価:危機時の共倒れ相関、ジャンプ、ボラ・クラスタリングはBSM の外。

LTCM 問題:理論を実装するレバレッジと資金調達リスクの管理が不十分だと、破綻リスクが顕在化。モデルの適用範囲と限界の教訓。

モデル依存:インプライド・ボラ面の歪みは、微分感応度の誤差や供給需給・制度に影響。

位置づけ:マートンの理論は基準線。実務では、テール・流動性・制度を重ねて運用する。

6. 今日的意義(格差・AI・環境・地政学)
6-1. AI×リスク管理

ボラ面の非線形・時変を機械学習で近似し、ヘッジ誤差の分布を学習。だが過学習と説明可能性に注意。

6-2. 気候・移行リスクの価格付け

炭素価格の不確実性、政策ジャンプ、自然災害のテールをジャンプ拡散や確率ボラで組み込み、カーボン連動債・キャットボンドの設計へ。

6-3. 高齢化と年金工学

長寿リスク・インフレリスク・市場リスクを統合するライフサイクル設計。共有年金や可変給付の工学。

6-4. サイバー・地政リスク

突発ショックのジャンプを前提に、保険 資本市場連携(– ILS)で分散。

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8. ケーススタディ(応用)
8-1. 製造業の原材料ヘッジ(日本)

バニラ・オプションで価格上限(コール買い)、コスト抑制にゼロコスト・コラ ー。ガンマとベガをモニター。

8-2. 銀行の与信ポートフォリオ

距離 to デフォルトで早期警戒。ジャンプや相関を踏まえたストレステストを併走。

8-3. 年金基金のライフサイクル運用

人的資本を考慮し、若年は株式ウェイト↑、高齢はインフレ連動債・長寿保険でヘッジ。

8-4. 気候関連金融商品

炭素価格連動スワップ、災害連動債、天候デリバティブで実体経済のリスクを移転。

9. 研究の広がりと後継

確率ボラ(Heston 等)、ローカルボラ(Dupire)、ジャンプ–確率ボラの統合。

信用リスク:構造型↔縮約型のハイブリッド、ネットワーク化、清算機関の安定性。

最適執行・市場流動性:Kyle、Almgren–Chriss 系の動学最適化。

行動ファイナンス:ボラ面の歪み・バリア付近の価格形成を行動で解釈。

10. FAQ(誤解の整理)

「BSM は現実離れ?」
近似だが基準線。テール・流動性・制度を足して運用するのが実務。

「オプションは投機の道具?」
保険であり価格発見の装置。実体の投資判断を改善する。

「LTCM=理論の失敗?」
理論というよりレバレッジと流動性の管理失敗。資金調達リスクは別レイヤーの問題。

11. 実務者チェックリスト(企業・金融機関・年金)

ヘッジ目的の明確化:会計・税務・キャッシュ重視か。

グリークス KPI:Δ/Γ/V/Θ を限度管理に組み込む。

テール耐性:ジャンプ・相関急変を含むストレスシナリオ。

流動性ライン:マージン・資金繰りの余裕設計。

説明可能性:モデルと限界の社内教育・経営説明。

12. まとめ 「不確実性を設計する」技術

マートンの貢献は、不確実性を価格に変換し、リスクを設計する技術を与えたことに尽きる。BSM の自己複製、マートン・モデルのオプション視点、ICAPM やライフサイクルの最適化は、いまも市場・企業・年金の意思決定の背骨である。AI と気候の時代、ジャンプと制度を重ねながら、この地図を使いこなすことが、持続的な金融の鍵になる。

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