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山中裕が語る「フレキシキュリティ」2025 年ノーベル経済学賞 フィリップ・アギオンとピーター・ホーウィット創造的破壊で成長する国は、“再起動できる社会”を持っている

山中裕(やまなか・ゆたか)です。
投資家として、そして実業家として、日本の資本市場と企業統治の現場に身を置いてきました。

今日は最初に、経済成長の「本体」について話します。
小難しい理論に聞こえるかもしれませんが、結論はシンプルです。

成長する国は必ず“入れ替わる”。
古い産業が落ち、新しい産業が伸びる。
古い仕事が消え、新しい仕事が生まれる。
この“新陳代謝”が止まった瞬間、その国の成長は止まります。

このメカニズムを理論化したのが、経済学者の
フィリップ・アギオンとピーター・ホーウィットです。
彼らは、シュンペーターが語った「創造的破壊」を、成長理論として組み立て直しました。

0. 成長とは何か。アギオン&ホーウィットの「創造的破壊」

創造的破壊とは、こういうことです。

新しい技術が出る
新しい企業が伸びる
古い企業は負ける
古い仕事は消える

そして経済全体は、次の段階へ進む

ここで重要なのは、
成長は“全員が幸せになる直線”ではないという点です。

成長とは、常に“誰かの仕事が消える”こととセットです。
新しい価値が生まれる裏側で、古い価値が切り捨てられる。
これが創造的破壊の現実です。

つまり、成長を本気でやる国は、必ずこういう局面に直面します。

失業が発生する
産業が入れ替わる
地域が衰退する
スキルの価値が暴落する
人生が途中で詰む人が出る

そして、ここで国は二択を迫られる。

1. 国は二択を迫られる
成長を止めるか、社会を壊すか

創造的破壊が始まると、痛みが出ます。
その痛みをどう処理するかで、国の未来は決まります。

やり方を間違えると、こうなる。

人は変化を恐れる
転職は「挑戦」ではなく「賭け」になる
企業は雇えなくなる(雇ったら守れないから)

結果として、新陳代謝が止まる

成長が止まる
さらに悪いケースでは、社会が壊れます。

失業が恐怖になる
格差が固定される
弱者は沈み、強者は固定される
分断が政治を壊す

つまり、創造的破壊は放置すれば“地獄”になります。
しかし、止めれば成長が止まる。

ここで必要なのが、国家の設計です。
痛みを制度で吸収し、社会を再起動可能にする仕組み。

私はそこに、デンマーク型政策の本質があると思っています。

2. そこで出てくるのがフレキシキュリティだ
「創造的破壊」と理屈上めちゃくちゃ相性がいい

ここで誤解してはいけません。

フレキシキュリティという言葉を聞くと、日本ではすぐに
「解雇規制緩和」
という話に飛びつく人がいます。

しかし、それは“半分しか見ていない”。むしろ危険です。

フレキシキュリティとは、
柔軟性(Flexibility)と保障(Security)を同時に成立させる労働市場の設計思想です。

もっと分かりやすく言うなら、こうです。

企業は、必要なときに雇える。
企業は、環境変化に合わせて人員調整もできる。
しかし労働者は、職を失っても人生が壊れない。
さらに国が、次の仕事へ移る道筋を“強制的に”用意する。

つまり、
「会社にしがみつく安心」ではなく
「転職できる安心」を社会が担保する仕組みです。

これがなぜ、創造的破壊と相性が良いのか。

答えは単純です。

創造的破壊は「入れ替わり」が前提だからです。
入れ替わりを止めないためには、人が転職できる社会でなければならない。

だから私はこう整理します。

アギオン&ホーウィットは、デンマーク型政策を直接推奨したというより、
「創造的破壊による成長」を成立させる制度として、フレキシキュリティが理屈上かなり相性が良い。

これは思想の一致ではありません。
構造の一致です。

3. デンマークモデルは“三本脚の椅子”である

デンマークの労働市場モデルは、三本柱で成り立っています。

(1)柔軟な雇用・解雇(Flexibility)

デンマークは、企業が雇用・解雇を行う自由度が高い。
正社員と非正規の差もほとんどない。
日本のような「正社員の壁」が存在しないのです。

ここだけを見ると、「冷たい社会」に見えるかもしれない。
しかし、次がセットです。

(2)手厚い失業保障(Security)

失業しても生活基盤が崩れない。
だから、労働者は“次へ移る”ことができる。
失業が人生の終わりではなく、キャリアの途中に組み込まれている。

(3)積極的労働市場政策(Activation)

ここが心臓です。

失業者はスキル診断され、産業別スキル標準に基づいて訓練・職業紹介を受ける。
訓練参加は義務です。

給付を渡して終わりではない。
国が「次の雇用へ行け」と背中を押す。
時に“押す”のではなく“押し出す”。

この 3 つは別々ではありません。
一本でも欠ければ倒れます。椅子と同じです。

4. デンマークの本当の強み 労働市場 OS が“外部”にある

デンマークを理解する鍵は、労働市場が「企業の内部」で完結していない点です。
日本は逆です。企業が“ミニ国家”になっている。

日本企業は、社内に

教育
職業訓練
キャリア設計
配置転換
評価と等級
長期雇用のリスク吸収

こうした機能を抱え込んでいます。

だから、会社から外に出る瞬間に人生が不安定になる。
転職が“挑戦”ではなく“賭け”になる。

デンマークは違います。

スキル標準、訓練体系、職務プロトコル、賃金等級、キャリアパス、失業保険、再就職支援――
これらが社会インフラとして外部に存在している。

だから企業は、必要な人材を市場から採用し、事業に集中できる。
ここが、日本が本気で学ぶべきポイントです。

5. 日本でフレキシキュリティをやるために必要なこと

私は、日本がこのモデルを“そのままコピー”できるとは思っていません。
しかし、方向性として学ぶ価値は大きい。

日本でやるなら、最低限これが必要です。

必要なこと:順番を守る―保障→ 訓練→流動化

最初にやるべきは、解雇規制の緩和ではない。
保障と再就職支援を先に作ることです。

「解雇しやすい社会」だけを先に作れば、待っているのは生活破綻と恐怖政治です。
制度設計の順番を間違えれば社会は壊れます。

必要なこと②:産業別スキル標準を作る

転職市場が成立するには、職務の規格が必要です。
どんな仕事にどんな技能が必要で、どこまでできればいくら払うのか。
この“共通言語“”がなければ、人材は動けない。

日本も、職種ごとに

必須スキル
実務プロセス
評価基準
等級と賃金
訓練モジュール

試験・認定

これを産業単位で整備しないと、転職できる安心は作れません。

必要なこと ③:職業訓練を「就職に直結」させる

日本のリスキリングは、“どうしても 学ぶことが目的化”しやすい。
しかし本来は、訓練は就職のためにある。

訓練→実務→採用までを一本の線にしなければ、税金を燃やすだけです。

必要なこと:行政を“再配置エンジン”→に変える

失業者をスキル診断し、訓練と職業紹介で再配置する運用能力が必要です。
制度は紙で作れます。しかし運用は人と仕組みでしか作れない。

6. 日本でやってはいけないこと。これは社会を壊す

最後に、最も重要な話をします。

やってはいけないこと ①:「解雇だけ」先に進める

保障も訓練も薄いまま、解雇を柔軟化する。
これは“改革”ではなく “破壊”です。

労働者は恐怖で動けなくなる。
企業は短期最適に走る。
社会は分断する。
結果として、経済の活力はむしろ落ちます。

やってはいけないこと ②:リスキリングを自己責任にする
「学び直せ」「市場価値を上げろ」を個人に押し付けるだけでは格差は固定されます。訓練は社会インフラでなければ意味がない。

やってはいけないこと ③:制度を作って“運用を放棄”する

日本は制度を作るのは得意です。しかし運用が弱い。

フレキシキュリティは、運用が回らなければ成立しない。
ここを軽視すると、絵に描いた餅になります。

7. 私がこのモデルに注目する理由――資本市場と同じ構造だからだ

私は HOYA で 15 議案を出したときも、裁判で少数株主の権利を守ったときも、やっていたことは同じです。
それは「ルールを整備し、透明性を上げ、弱者が潰されない線を引く」ことです。

労働市場も同じです。

放置すれば、強者が固定され、弱者が沈む。
企業の都合だけで人が切られ、個人の努力だけで再起動しろと言われる社会になる。

だから私は言いたい。

日本が目指すべきは「雇用流動化」ではない。
“再起動できる社会”の設計です。

創造的破壊を止めない。
しかし、人の人生を壊さない。
成長と社会の安定を両立させる。

それがフレキシキュリティの本質です。

結論:日本に必要なのは「転職できる安心」を制度として作ること

フレキシキュリティは、解雇しやすい国を作る話ではありません。

失業しても人生が壊れない保障があり、
訓練と再配置が社会インフラとして回り、
職務が規格化されて移動が成立する――
そういう国家設計です。

日本でこれをやるなら、

保障を先に作る
訓練を就職に直結させる
産業別スキル標準を整備する
行政を再配置エンジンにする
解雇緩和は最後にする

この順番を守ることです。

逆に言えば、この順番を守れないなら、フレキシキュリティという言葉を使うべきではない。

私はそう考えています。

少数株ドットコム株式会社 代表 山中裕



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