西廣陽子弁護士は伊藤詩織氏の性被害に関する民事訴訟の元代理人である。
2025年2月20日の日本外国特派員協会FCCJにおける記者会見によると
伊藤氏が監督したドキュメンタリー映画『Black Box Diaries』(2024年制作、2025年日本公開)において、以下の問題を指摘し、主に映画の内容修正・削除を求めている。
西廣弁護士の代理人に佃克彦弁護士。
東電OL殺害事件ネパール人ゴビンダさんの弁護や
創価学会に著作権侵害と訴えられた“七ツ星”さんの弁護
柳美里氏小説「石に泳ぐ魚」出版差し止めなどの案件を手掛けている。
(佃克彦弁護士の公式note)
https://note.com/tsukuda_law/portal
映画『Black Box Diaries』の冒頭、ホテルの防犯カメラ映像の無断使用
民事訴訟で証拠として提出された映像を「裁判以外では使用しない」と誓約書に署名した上で入手したのに、実際は映画で使用されていた問題。
事実と異なる印象を与える編集も問題視
西廣弁護士との会話の無断録音
打ち合わせを無断で記録し、編集されて映画に使われた点。
西廣弁護士が映像を裁判に使うだけとホテル側に説明したにも関わらず伊藤氏が映画に使ったことにより、西廣弁護士の信頼関係が損なわれかねない状況になってしまった点。
これは誓約違反で、西廣弁護士が今後の性被害事件で同様の協力が得られなくなる恐れがある。
捜査官(公益通報者相当)の音声、タクシー運転手などの映像・音声が許諾なく使用され、取材源の秘匿や人権侵害につながる。
2024年7月24日に都内で行われた試写で
西廣弁護士は
「ホテルの映像が使用されていた。私の通話が無断で録音、収録されていることに気付いた」
という。
西廣弁護士は2024年10月と2025年2月の記者会見でこれを公に指摘し、
「許諾を得て再編集・修正すること」
「許諾が得られない部分は削除すること」
と求めた。一部修正された日本公開版についても
「問題が解決していない」
と主張。
伊藤氏側は、一部削除・加工で対応したとしつつ、公益性を強調。
西廣弁護士側に4回も電話しアクセスを求めたと記者会見の場でも話している。
双方の主張は平行線で、紛議調停(弁護士と依頼者のトラブル解決手続)も申し立てられている。
「公益性」より「守秘義務」が優先されがち
弁護士・医療・企業秘密など、 守秘義務との衝突が起きると 通報者が 責められる側に立たされる ことがしばしばある。
日本版マイケル・ムーア伊藤詩織氏の挑戦。ようやく待ちかねた日本公開だが、早速待ったをかけられる。
マイケル・ムーア、『華氏11/9』を巡り著作権侵害訴訟を起こされる
https://www.thewrap.com/michael-moore-hit-with-copyright-lawsuit-over-fahrenheit-11-9/
『ブラックボックス・ダイアリーズ』の公益性は?
伊藤氏自身の性被害については 極めて公益性がある。
伊藤氏に対する権力による隠蔽の告発も 公益性がある。
ところが他者被害の無断公開に、違法性が指摘される余地があった。
公益性が高いテーマであっても、他者の被害や個人情報が含まれる場合、匿名化や同意が伴わなければ、免責が認められにくい。
実は論点は、突き詰めればここに集約される。
つまり「公益性」と「守秘義務」の線引きを、当事者同士で丁寧に確認する必要があった、ということだけ。
佃弁護士「公益性はない」
集英社オンライン(ライター高橋ユキ氏)にこのシェラトン都ホテルの防犯カメラ映像を映画にして公開するのが「公益性」に値するか佃克彦弁護士に話を伺っている。
「裁判で防犯カメラ映像を用いたことにより、被害はすでに認められ、救済も得られた。『救済=公益』はもう達成済みだから、追加公開の正当化にはならない」
佃弁護士はこのように述べ公益性はないとしている。
いや、公益性はある!?
しかし、今回の伊藤氏のケースのように権力や人脈で捜査が止まるケースがある。泣き寝入りする人は現実に多い、構造を可視化すること自体が公益になる
とするならば
「個別事件の救済」よりも「社会構造の問題提起・再発防止」に重きを置く考え方に当てはめてみると「公益性」が発生する。
実際多くの女性被害者は、恥ずかしい、責められる、信じてもらえないと感じて、沈黙してしまう。山口氏もそれを計算していたかも知れない。
しかし、「自分だけじゃない」「あの人も闘った」
と見えることは、実際に相談件数や通報行動を増やす要因になる。
これは明確に「公益」。
伊藤氏は、西廣弁護士サイドに合計4回連絡を取ったとされるが、2025年12月15日のFCCJ記者会見の場では弁護士側の認識と食い違いがあり、伊藤氏自身が「Wow!」と反応を示す場面があった。
これは西廣弁護士側が、上記の佃弁護士の言う「公益性はない」理由で、映画配信の契約書について質問を求めたのに対して、伊藤氏は、「映像の再検討を求めたので見て下さい」というお互い内容が噛み合わないやり取りが続いたものとされる。
西廣弁護士サイド『映像が海外に流れている件を調査して』伊藤氏『映像を修正しましたから』すれ違う質問
集英社オンライン(ライター高橋ユキ氏)によれば、西廣弁護士サイドは
伊藤氏とともに「裁判以外に同映像を使用しない」と署名している。
しかし伊藤氏は映像を無断で映画に登用。
伊藤氏側は「新たな映像を制作し、ホテルからもらった映像ではないものを使用する」ことや「映画の中で『映像は防犯カメラを忠実に再現したものです』等の文を入れ、映像はオリジナルのものではないと注記し、公言する」ことを提案。
しかし西廣弁護士側は「この件についてもホテル側に承諾を取って下さい。」と返答。ホテル側は「裁判以外には使ってはいけない」との返答だったという。
2024年10月4日に、文藝春秋の代理人としても知られる喜田村洋一弁護士から「私が伊藤氏の代理人になった」「良案を模索中なのでしばらく待って欲しい」とのメールが届いたのだという。
しかし同年7月の協議から進展がないまま、“良案”の回答期日すら示さず、音沙汰がなくなった。
西廣弁護士側は海外に映像が流出していることを知る。ニュージーランド、オーストラリア等の映画祭で賞を授賞している。良案“の回答期日は答えぬままに。
伊藤氏は誓約書違反を犯して防犯カメラの映像をそのまま使い、映像を世界中に配信した。
記者会見や作品を通じて見る限り、伊藤氏側は、この度の事件を映像作品として公表することに強い意図を持っていたように捉えられる。
記者会見を見る限りでは伊藤氏サイドは映像的に「これがベスト」の状態で作品として早く世に出したかったのは否応がない。
その結果、『Black Box Diaries』は国内外で注目を集め2024年のサンダンス映画祭でプレミア上映、その後世界各国で公開。ピーボディ賞を受賞し、アカデミー賞およびBAFTAにノミネート、
20を超える国際的な賞を受賞。
これまでに60か国以上で上映されることとなった。
伊藤氏が映像制作を先行した結果、協力者の個別同意の調整を後景化させる構造を生んだ可能性がある。
ところで試写会で配った黒い封筒の意図とは?
『Black Box Diaries』試写会で貴方の体験を書いて欲しい、と手渡した黒い封筒。
「この映像を体験して、皆さんに自分たちの周りにあるブラック・ボックスをわかってもらいたかった。
このストーリーは私の事例ですが、皆さんに自分の中で何を感じたかということを書いてもらいたかったんです。
これは箱の形に組み立てることができるというコンセプトになっています。」
共感してくれる人、自分の体験を分かちあい傷を薄めたい、観客の皆さんに家に持って帰れるそんな気持ちを込めたプレゼントだ。
伊藤氏ならではの演出なのだが、これは
雨の日、雨に濡れている人に傘を差し出すより一緒に雨に濡れて欲しいまさに#Metoo運動の妙というところである。
性被害を扱うドキュメンタリーにおいて、賛同と共感はたしかに不可欠だ。
だが、伊藤氏のケースとは異なる他人の性被害や、批判的意見への応答がされると想定される場合、また別の配慮の問題が生じてくるのも確かだ。
アメリカにおける性被害を訴えたドキュメンタリー
『オードリーとデイジー』(原題: Audrie & Daisy)公開年: 2016年(Netflixオリジナルドキュメンタリー)
配給: Netflix
アメリカの10代少女オードリーとデイジーがパーティーで酔わされ性的暴行を受け、犯行が撮影・ネット拡散されたことで激しいサイバーいじめを受け、家族やコミュニティに及ぼした影響を描く。被害者への二次被害と社会の問題を追う。
すでにオードリーさんは事件後自殺していた。
もう一人の主人公であるデイジーさんは映画公開から4年後、23歳で自殺してしまった。ドキュメンタリー映画の公開による影響とは関係がないかも知れないが、このようなことからも、PTSDに尚困難をきたす被害者に充分な配慮が必要だ。性被害を訴える33%の女性が自殺を考え、13%が実際に自殺を試みるという。
『Black Box Diaries』の中で、伊藤氏自らも自殺を試みている。
協力者の背景はさまざまで、異なる背景の人たちの存在を前提に、映像づくりを考慮する働きかけが大切に思える。
西廣陽子(にしひろ ようこ)弁護士(東京弁護士会所属、本多・松尾・吉田法律事務所)。
主な経歴:成蹊大学大学院法務研究科修了。
犯罪被害者支援委員会、子どもの人権関連委員会などで活動。性暴力被害者支援に注力。
伊藤詩織氏の民事訴訟(2017~2022年)で代理人を務め、約8年半の間寄り添い、勝訴に貢献。
2024~2025年、伊藤さんの映画『Black Box Diaries』で自身の会話などが無断使用されたとして、倫理的・人権的問題を指摘。記者会見を開き、修正を要求。被害者支援の観点から、取材源秘匿や信頼関係の重要性を強調。
映画問題では「依頼者を守るために尽力したのに裏切られた 惨めな気持ち」との感情を吐露。
伊藤詩織(いとう しおり) 1989年生(神奈川県出身)。 映像作家 ジャーナリスト、ドキュメンタリー映画監督。アルジャジーラ、ロイターなど海外メディアで映像ニュースやドキュメンタリーの制作に携わる。
2015年に元TBS記者(山口敬之氏)から性被害を受けたと公表。刑事告訴は不起訴となったが、2017年に民事訴訟を提起し、2022年安倍晋三暗殺の日である7月8日に勝訴確定(不同意性交を認定、損害賠償命令)。
著書『Black Box』(2017年)で性被害と司法の問題を告発。#MeToo運動の象徴となり、2020年にTIME誌「世界で最も影響力のある100人」に選出。
初監督作『Black Box Diaries』(自身の被害調査過程を記録)は、米アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門ノミネート(日本人監督初)など国際的に高評価。日本では許諾問題で論争に。
伊藤詩織さんの元弁護士らが無許可映像の使用中止を申し入れ
hhttps://www.videonews.com/press-club/20250220
「伊藤詩織さんから1年たっても説明がない」弁護士らが批判コメント 映像無断使用「未修正の映画が流通」
https://www.tokyo-np.co.jp/article/445540
伊藤詩織さん元弁護士「彼女を守るため8年間…なんて惨めなんでしょう」映画に無断で音声使われ-社会 日刊スポーツ
https://www.nikkansports.com/general/nikkan/news/202502200000416.html
弁護士ら「取材源の秘匿や関係者の許諾がない」 映画監督「公益性を重視し、映像を使用」 伊藤詩織さんのドキュメンタリーめぐり会見と声明
https://s-newscommons.com/article/7002
『ブラックボックスダイアリーズ』ついに日本公開 伊藤詩織の賭け 映像のテロリズムに打って出た 権力社会と男尊女卑蔓延の日本既得権益社会に撃ち込むパワーボム
“伊藤詩織監督 ドキュメンタリー映画『Black Box Diaries』記者会見 主催:外国特派員協会 Press conference: BLACK BOX DIARIES, Shiori Ito” を YouTube で見る
https://www.youtube.com/live/H6Q0VEkdSvc?si=4ZQq0qKOZe1Ake7k
日本一高齢化した街「夕張」の映画を作る伊藤詩織さん「自分が失いかけていたホームを提供してくれた」
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