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大川原化工機えん罪事件を読み解く

――なぜ起き、何が問題で、どう直すのか

  1. 何が起きたのか

2020年3月

警視庁公安部が「大川原化工機(横浜)」の社長ら3人を逮捕。容疑は、生物兵器に転用可能な「噴霧乾燥機(スプレードライヤ)」を許可なく輸出したという外為法違反でした。のちに、警察・検察の主張は根本から揺らぎます。

2021年7月

初公判直前、検察が異例の“起訴取消し”。逮捕から約11か月の身柄拘束の末に事件は終了します(勾留中に元顧問・相嶋静夫さんが胃がんで亡くなるという深刻な結果も)。

2023年12月27日(地裁)→ 2025年5月28日(高裁)

東京地裁が「捜査・逮捕・起訴はいずれも違法」と認定、東京高裁もこれを支持し、都と国に約1億6600万円の賠償を命じました。判決は「そもそも事件を構成できるだけの合理的な根拠がない」と、構図の根本を否定しています。

2025年6月11日

都と国が上告を断念し、賠償命令が確定。「警察と検察は高裁判決を受け入れる」と公表。


2025年8月7日

警視庁と最高検が検証報告書を公表。指揮命令系統の機能不全や、法解釈・技術検証の不備を認めました(「公安部の指揮が実質機能せず」「捜査方針に合わない結果への追加捜査をしなかった」等)。


2025年8月25日(きょう)

警視庁と検察の幹部が相嶋さんのお墓を訪れ、遺族に謝罪。
同日に各局が速報。

事件の本質:

捜査機関は「噴霧乾燥機=規制対象」という前提で突き進みましたが、技術的根拠・官庁見解・実験検証のどれもが脆弱(あるいは無視)だった、というのが裁判所と検証報告の結論です。

  • なぜ冤罪は起きるのか

日本の構造的な要因

有罪率の異常な高さ(約99%)

起訴されたらほぼ有罪になる構造。国際人権団体は、起訴前23日間の身柄拘束(繰り返しによる長期化も)と自白偏重が背景にあると批判しています。

「人質司法」

否認すると保釈が通りにくく、長い勾留による心理的圧迫が自白を誘発する――という指摘が繰り返されています。

証拠開示が不十分

弁護側が全証拠にアクセスできないため、反証が難しい。日弁連は全面的な証拠開示を一貫して求めています。

この事件で具体的に何が悪かったか

技術解釈と科学検証の欠落

規制対象かどうかの判断で、経産省が示した疑義を十分に踏まえず、実験結果が方針に合わなくても深掘りしなかった――と後日の検証で認定。

指揮命令系統の機能不全

幹部への報告が形式化し、現場の「事件化ありき」が暴走。

参照例:袴田事件(1966年発生)

密室取調べでの自白、捏造された証拠が後に争点となり、2024年9月に再審無罪。2024年10月、検察が控訴断念で無罪確定。昭和期から続いた死刑冤罪の“象徴”です。

3) 世界から見た日本の裁判(返還拒否の現実も)

国連や人権団体は、長期拘束・弁護人立会い不在・自白依存を繰り返し問題視。有罪率99.8%(最高裁統計)という数字自体が「公平な防御機会が十分か」の疑念を生む、と指摘。

英国のウェストミンスター治安判事裁判所(2023年)は、日本への身柄引き渡し(宝飾店強盗容疑の被疑者)を人権上の懸念から拒否。取調べへの弁護人立会い不在、拘禁環境、接見制限などが「公正な裁判保障の旗色が悪い」と判断されました(英判事ポール・ゴールドスプリング決定)。

※その後、日本側の上訴も行われていますが、「日本では公正な裁判が担保されるか」をめぐる国際的な視線が厳しいことは、既に司法判断として示されています。

4) なぜ裁判は“検察が圧倒的に有利に見えるのか

起訴=ほぼ有罪という実態

99%超の有罪率は、起訴段階で検察が勝ち筋だけを選別している事情に加え、証拠開示の狭さや長期勾留による同意調書の蓄積が影響していると分析されています。

保釈が出にくい(とくに否認事件)

否認事件の保釈は低水準。統計でも自白事件より否認事件の保釈率が著しく低いことが可視化されています。

取調べの可視化が“限定的”

2019年施行の録音録画義務化は、対象事件が限定(裁判員裁判対象など)され、全事件・全過程の録画には至っていません。

5) どうすれば冤罪の再発を防げるか

証拠の全面開示(フル・ディスカバリー)を法制化

検察の手持ち証拠(有利・不利を問わず)を原則すべて弁護側に開示。特に再審段階の証拠開示は法定化が急務。

取調べ全事件・全過程の録音録画+弁護人立会い

現在の部分的可視化を全事件に拡張し、弁護人同席を制度化。録画は違法取調べの抑止と事後検証の双方に有効。


保釈の原則自由化・起訴前身柄拘束の厳格化

無罪推定の徹底。起訴前拘束は厳格に短期・例外化し、代替措置(GPS、出頭保証、接触禁止等)を拡充。

専門性の担保(技術・医療・経済安保)

今回のような技術規制の解釈は、所管省庁(経産省等)と実験検証を前提にした複線チェックを義務化。指揮命令系統の検証も定期監査に。


独立した外部検証機関

冤罪疑惑が出た段階で、警察・検察から独立した第三者委員会が証拠・手続・指揮を点検。自浄作用まかせをやめる。

再審法の整備

現行の再審規定は古く、運用もバラつく。再審請求での証拠開示の明文化、検察不服申立ての制限などを含む包括的な法改正を。


6) 事件から見えた“具体的な教訓”

技術論争は「検察官の物語」ではなく「検証」で決着を

裁判所は「事件を組み立てる決定に根本的欠陥」と述べ、技術的合理性の欠如を指摘しました。物証→実験→所管省庁見解という“当たり前”の順番を外すと、人は簡単に巻き込まれます。


指揮は“形式”では機能しない

報告が形骸化すると、現場の思い込みが増幅されます。ダブルチェックと異論提示の仕組みが欠かせません。

被疑者の健康と人権は「結果責任」

相嶋さんは勾留中に胃がんが見つかり死亡。国家賠償確定と謝罪は、命の重さに釣り合う回答ではないことを強く突きつけます。


7)
袴田事件が示す長期拘禁+自白偏重の危うさ

2024年9月 無罪判決、10月 検察控訴断念で確定。

証拠ねつ造・取調べの問題が正面から認定されました。半世紀超の拘禁という現実は、制度の遅さと硬直性そのものです。

8) 国際社会の視線と日本の課題

「人質司法」批判は恒常化:23日ルール、弁護人立会い不在、高有罪率――国際人権基準とのギャップが繰り返し指摘されています。

英国での“返還拒否”判断:日本に送れば人権侵害のリスクと裁判所が明言したことの重みは大きい(2023年・英治安判事裁判所)。


まとめ

この事件は「一社の不運」ではありません。

技術の誤読

指揮の機能不全

取調べ偏重と証拠開示の弱さ

長期拘禁と保釈の狭さ

――これらが一列に並んだとき、誰でも冤罪に巻き込まれる可能性があります。

警察・検察の謝罪や検証で終わらせず、上に挙げた制度改革を“当たり前”にすること。そこから初めて、第二・第三の相嶋さんを防げます。

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