■はじめに:12月5日に提出された「定数削減法案」は何を意味するのか
12月5日午後、自民党と日本維新の会が合意した「定数削減法案」が国会に提出された。
この流れが一気に可視化されたのは10月、日本維新の会が連立の絶対条件として掲げた“議員定数1割削減”を、自民党が 「連立合意書」 に明記したことが発端である。
しかし、この「1割」という数字には、実は合理的な根拠がほとんどない。
国会質疑で高市首相(当時)はこう述べた。
高市首相
「なぜ1割か。日本維新の会から1割という提案をいただきました。
これが5割とか言われたら受け入れておりません」
公明党・石川博崇議員
「2割だったらどうでしたでしょうか」
高市首相
「1割という提案を確かに日本維新の会からいただいたものでございます」
石川議員
「1割という数字に具体的な根拠があまりないということがよくわかりました」
このやり取りは、
「1割削減」は政策というより“政治ゲームの産物” であることをはっきり示している。
しかし問題は「数字に根拠がない」ことだけではない。
この定数削減の背景には、
① 自民党と維新が 小選挙区で強い政党 であること
② れいわ新選組のように 比例代表で議席を得る政党を弱体化したい構造
③ 議員の総予算問題を「人数」だけで語る政治の欺瞞
④ 逆に議員報酬は引き上げられていく矛盾
⑤ 天下り官僚の利権構造、大企業・経済団体の組織票
⑥ 戦後一貫して形成されてきた“エセ保守”のネットワーク
(統一教会・勝共連合・日本会議)
⑦ メディアが批判しない構造
これらが複雑に絡み合っており、
単なる定数削減の話ではなく、日本政治の深層構造そのもの と関わっている。
以下、順を追って説明する。
■1 自民党と維新が「小選挙区で強い」ことが定数削減を後押しする
政治学者の松谷満(マツタニミツル)(米ハーバード大学)も述べているように、小選挙区制は 「大政党に圧倒的に有利」 な制度である。
日本の選挙制度は、1980年代の政治改革の流れの中で小選挙区比例並立制に切り替わったが、このとき大きな狙いがあった。
●小選挙区の狙い
大政党を固定化する(自民党の永続化)
少数政党を排除する
多様な民意を削り、2大政党制を人工的に作り出す
現実には自民党が一強化し、維新も小選挙区で勝てる地域が生まれた。
■2 天敵となる「れいわ新選組」を弱体化するため、比例を削りたい構図
れいわ新選組は、
・資金力なし
・組織票なし
・メディア露出も限られる
という不利な条件でも、比例代表で議席を拡大してきた。
実際に、2022年参院選でも比例で約250万票を獲得し、議席を拡大した。
つまり、れいわは 小選挙区削減に影響されず、比例代表こそが生命線 である。
■比例代表枠を減らせば、誰が不利になる?
れいわ新選組
共産党
社民党
無所属系の新勢力
都市部の小規模政党(新自由主義・排外主義に批判的)
逆に
自民・維新・国民民主 は小選挙区で強く、比例減少の影響を最小化できる。
したがって「1割削減」は、
大政党に有利で、少数政党・反体制政党を弱らせる効果 を狙ったものと理解するのが自然だ。
■3 定数削減より「議員総予算の見直し」のほうが本質的
政治学者の姜尚中(カン・サンジュン)氏は
「民主主義は“代表者の数を増やすこと”で質が上がる」
と述べている。
実際、国会議員の定数は人口比で見ると
OECDの平均より 日本はすでに少ない。
もっと言えば、
●人口1万人あたり議員数
日本:0.46人
ドイツ:0.74人
英国:0.91人
数を減らすのは逆行である。
本来やるべきは、
①議員の総予算はそのまま
②議員数を増やし
③1人あたりの報酬・秘書数を減らす
こうすれば、
多様な人材(女性・若者・障害者・シングルマザーなど) が議員になりやすくなる。
だが、日本の政治は逆をやっている。
●議員の数 → 減らす
●議員報酬 → 上げる
●議員に近い層 → 官僚・大企業・宗教団体に限定される
民主主義の劣化である。
■4 議員の給与が「5万円増」になる矛盾
2024年、国会議員の給与は月額 5万円の引き上げ が実施された。
しかし、最低賃金は依然として十分ではなく、物価高で国民生活は厳しい。
識者の間では岸政権以降、
「国会議員の待遇だけがインフレより早く上がっている」
との批判が相次いでいる。
政治資金パーティー問題で自民党の不記載が大炎上していた時期に、
議員報酬アップだけは粛々と決まった のも象徴的だ。
■5 天下り官僚と大企業の組織票 ― 本当の“利権構造”はここにある
政治学者の山口二郎(法政大学)が繰り返し述べているように、
日本政治の最大の問題は 「官僚—自民党—経済団体」 の三位一体構造である。
●官僚
→ 退職後、自民党系の公益法人・財団法人に天下り
→ 年収1200万円〜1800万円クラスが保証される
●経団連・大企業
→ 企業献金(事実上の政治献金)
→ 自民党への政策要求が通る
●自民党
→ 官僚の天下り先を確保
→ 経団連の要求(労働規制緩和、増税、移民促進)を反映
この巨大構造こそが、日本の政治を“国民のためではなく、上層階級のため”に動かしている。
定数削減は、この構造には 1ミリも影響しない。
むしろ、監視する国会議員が減ることで、官僚権力がより肥大化する。
■6 「保守」と名乗りながらアメリカの意向に従属するエセ保守
―統一教会、勝共連合、日本会議のネットワーク
政治思想家の内田樹(うちだ たつる)氏は、
日本の保守は「自主独立の精神を持たない、奇妙な保守」であると述べる。
本来、“保守”とは
・国家の独立
・文化の保全
・共同体の維持
を重視する思想だ。
しかし現代日本で“保守”を名乗る勢力の多くは、
■アメリカの軍事・経済政策に従属
■イスラエルの右派政策を無批判に支持
■統一教会・勝共連合の思想(反共産主義・新自由主義)を継承
■中国・韓国・北朝鮮を単純に敵視
自民党、維新、国民民主、参政党、日本保守党も、
それぞれ支持層は違えど、
共通してこの「エセ保守文化」の傘下にある。
●GHQ占領期から続く、対米従属の保守エリート教育
●CIAが支援した日本の“反共産主義運動”
●統一教会(現・家庭連合)と自民党の長年の関係
●日本会議がつくる“宗教右派—政治家”のネットワーク
これらはすべて歴史研究で明らかになっている。
ジャーナリストの青木理氏はこう述べている。
「日本の“保守”は、アメリカの保守思想を輸入し、宗教右派と結びついた不自然な形で成長してきた。
そのため本来の保守思想ではなく、単なる国際右派ネットワークの末端 になってしまっている」
参政党も“日本の伝統”を掲げながら、
外国の宗教右派と思想構造が一致する。
日本保守党も“保守”を掲げながら、
政策は対米追従で、宗教右派的な要素が濃い。
■7 メディアが逆らえない“構造上の理由”
なぜ新聞・テレビはこうした構造を批判できないのか。
■理由1:大企業の広告費に依存している
電通を通じた広告は、事実上の“政治的圧力装置”になりうる。
■理由2:政治部記者は大臣・官僚と記者クラブで一体化
批判的記事を書くと情報がもらえなくなる。
■理由3:宗教右派団体との摩擦を避ける
統一教会問題の報道が急に止まったのは象徴的である。
■理由4:アメリカの安全保障政策に逆らえない
「日米同盟の運用を妨げる報道は避ける」という不文律がある。
社会学者の白井聡(しらい さとし)氏は、
「日本のメディアは、自主規制によって“見えない占領状態”を維持している」
と指摘している。
■まとめ:定数削減は“民主主義の劣化”を加速させる
以上、見てきた通り、「1割削減」は単なる数字の問題ではない。
その背後には、
大政党を有利にし、少数政党を排除する選挙制度
・れいわなど反体制勢力の弱体化
・議員総予算を見直さず、国会の監視力を弱める構造
・議員だけが報酬を上げる政治的矛盾
・官僚と財界の三位一体構造
・アメリカ・宗教右派ネットワークに依存した“エセ保守”
・メディアが批判できない情報支配構造
これらが複合しており、
日本の民主主義を最も脅かす“政治の深層問題”が表面化した事件 といえる。
■結語:必要なのは「定数削減」ではなく「政治を開く改革」
本当に民主主義を強くするには、
●議員数を増やす
●議員報酬を下げる
●企業献金を全面禁止
●宗教団体の政治介入の監視
●官僚天下りの全面禁止
●比例枠を増やして多様な民意を反映
これこそが民主主義の強化につながる。定数削減という“分かりやすいポピュリズム”の裏には、
日本政治が抱える根深い問題が透けて見える。
この問題を正面から語ることこそ、
日本の政治を健全化する出発点となるはずである。
さくらフィナンシャルニュース
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