第 1 章 序―世界が注目する「経済学の頭脳」
ロバート・J・シラーは、市場価格は常に合理的という通説に異議を唱え、期待・物語・心理 を 経 済 分 析 に 組 み 込 ん だ 先 駆 者 で あ る 。 株 式 ・ 住 宅 市 場 の 過 度 な 変 動 ( excess volatility)、長期リターンの予測可能性、そして世論や物語が投資行動を左右するナラティブ・エコノミクス シラーの仕事は、金融市場を「データ」だけでなく「人間らしさ」で読み解く学問を確立した。
代表作『Irrational Exuberance(根拠なき熱狂)』は 2000 年の IT バブル、2005 年版は住宅バブルの危うさをそれぞれ警告。S&P/ケース=シラー住宅価格指数は世界でもっとも参照される住宅価格ベンチマークの一つとなった。2013 年、ユージン・ファマ、ラース・ハンセンとともにノーベル経済学賞を受賞。「市場は賢いが、ときに物語で暴れる」——その二面性を測り、語る言語を作ったのがシラーである。
第 2 章 原点―幼少期と学問の出発点
1946 年生まれ。ミシガン大学を経て MIT で博士号を取得し、のちにイェール大学教授。若手期から資産価格の現在価値モデルに立ち返り、「配当(住宅なら帰属家賃)の将来割引現在価値」と株価の間の整合を厳密に検証した。ここで現れたのが過度な価格変動という事実である。シラーは、調整系列(CAPE=景気循環調整後 PER)や長期配当利回りといった低頻度の指標に目を向け、短期ノイズの背後にあるゆっくり動く期待を捉えようと
した。学問の出発点から終始一貫しているのは、「価格は人間の期待の器」という直感である。
第 3 章 核心―研究の中核理論と主張
(1) 過度な価格変動と長期予測可能性
シラーは、株価が配当の割引現在価値に比べて統計的に過剰に揺れていることを示した。
もし効率的市場の強い形が成立するなら、期待収益(割引率)の変動で説明しきれない超過ボラティリティは生じにくい。ところが実証は逆を語る。
さらに、配当利回りや CAPE などのバリュエーション指標は、長期(5~10 年)リターンを有意に予測することを提示。短期はランダムに見えても、長期では平均回帰(mean reversion)が働くという視座を与えた。
(2) 住宅市場の測定と先物化
カール・ケースとの共同研究で、米住宅市場の反復売買法(repeat-sales)によるケース=シラー指数を確立。地域別住宅価格の実勢を標準化して比較可能にし、CME での住宅価格先物・オプションの基盤を作った。自宅という非分割資産のリスク管理を理論から現実へと押し出した功績は大きい。
(3) 調査による期待の可視化
シラーは投資家サーベイを継続し、株価や住宅価格に対する期待・不安・情報源を計測。
「何を信じ、どう行動したか」を数量化する姿勢は、価格時系列だけに頼る従来研究に対する重要な補完となった。
(4) ナラティブ・エコノミクス
2010 年代に入り、拡散する物語(ストーリー)が感染症のように人から人へ伝播し、投資・消費・採用など実体経済の決定に影響を及ぼすという枠組みを提示。バブルや不況、投機的熱狂の背後で、魅力的で単純な物語が期待を同調させるプロセスを分析対象に引き上げた。
第 4 章 挑戦―既存理論との対立と革新
シラーは効率的市場仮説(EMH)への敬意ある異論の担い手である。彼は「市場はしばしば効率的に近い」と認めつつ、人々の心理・社会的相互作用が一時的な誤配分を生むと主張した。ファマらとの論争で有名な共同仮説問題(効率性テストは価格モデルの妥当性に依存)も踏まえ、シラーはバリュエーション指標の長期予測力やサーベイ証拠を重ね、多面的エビデンスで迫る研究スタイルを貫いた。
批判は少なくなかった。長期回帰の小標本問題、データマイニング、構造変化。それでも彼は、住宅・株式・債券・ビットコインまで対象を広げ、整合的な物語と堅実な統計の二本柱で議論を更新し続けた。
第 5 章 波及―政策・社会への影響
投資・資産運用では、CAPE などのバリュエーション指標が長期配分の指針となり、目標リスク配分の戦略的調整(バリュー志向の長期再配分)に理論的根拠を与えた。
住宅政策・金融安定では、ケース=シラー指数が地域別のバブル検知や逆担保ローン・保険料設定に活用され、家計バランスシートと景気循環の連関分析に欠かせない指標となった。
公共コミュニケーションでは、『根拠なき熱狂』『アニマル・スピリット』(アカロフと共著)、『ナラティブ・エコノミクス』が政策当局・ジャーナリズム・投資家教育に広く読まれ、「データと物語の両輪」という新たな実務規範を形成した。
第 6 章 展望―現在の研究と今後の課題
ナラティブ・エコノミクスは、SNS 時代にデータ化が急速に進む分野である。ニュース記事、検索トレンド、X(旧 Twitter)、掲示板のテキスト・ネットワークを用い、物語の拡散経路・感情極性・模倣の閾値を測る研究が進展。課題は三つ。
因果の特定:物語→価格か、価格→物語か。高頻度識別や自然実験で方向性を吟味。
国際比較・文化差:同じ物語でも制度・文化で効果が異なる。住宅金融制度や税制の違いを統合した設計が必要。
政策設計:マクロプルーデンスやコミュニケーション政策に、期待の分布や尾部リスクをどう織り込むか。
シラー的アプローチは、テキスト×時系列×調査を束ねる学際の舞台で、いっそうの威力を発揮するだろう。
第 7 章 結―「次のノーベル賞」に最も近い頭脳
シラーは、市場のデータと人間の物語を同じグラフに載せることを経済学に教えた。価格は情報の器であり、同時に物語の鏡でもある。
長期の予測可能性、過度なボラティリティ、住宅価格の測定革命、そしてナラティブの可視化。これらは、投資家の期待を測り、理解し、必要なら正しく恐れるための道具だ。
効率と非効率、理性と感情、データと物語。その境界に楔を打ち、「市場を人間的にす
る」言語を作ったこと—— それこそが、ロバート・J・シラーの最大の遺産である。
さくらフィナンシャルニュース
YouTube
https://www.youtube.com/@sakurafinancialnews
公式X
公式note





































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































-永井友理-190x190.jpg)
-永井友理-190x190.jpg)




参議院選挙立候補宣言-190x190.jpg)





























































































この記事へのコメントはありません。