「実体」ではなく、呼称の「拡大」
「しばき隊」という言葉をめぐる議論がいつも荒れるのは、同じ語が、時期によって違う対象を指すようになったからだ。
初期は具体的な運動体の固有名詞だったが現在では複数の行動様式を束ねるプラットフォームの呼称へ移った。反差別カウンターを一括りにする総称、そして敵対者をまとめて指すレッテルとして膨張した。
ここを切り分けない限り、「しばき隊とは」という論争は、最初から噛み合わない。言葉が膨らむことで、責任の帰属が雑になり、政治的対立が記号として暴走する、その構造を説明する。
創成期(2013年1月〜9月)
固有名詞としての「レイシストをしばき隊」
出発点として確認できるのは、野間易通氏が2013年1月に「レイシストをしばき隊」(現・C.R.A.C.)を結成したことだ。出版社の著者紹介および国会図書館の書誌情報にも同旨が載る。
この時期の特徴は、輪郭を意識的に狭めた運用にある。2014年の取材記事では、「隊員」を募集し「メンバーシップ制」を採り、目的を「非暴力でいちはやく止めに入ること」とし、プラカード持ち込みも認めない、といった説明が紹介されている。
つまり当初の「しばき隊」は、いわば現場で止めに入る部隊という自己定義が強い固有名詞だった。
改称・再編期(2013年10月〜)
C.R.A.C.旗揚げと「器」への転換
「しばき隊」という名は早い段階で政治的コストを生む。創始者の野間氏が「呼称は半分ふざけた感じがして、行政を相手に交渉するにも動きにくい」として、2013年9月30日に「しばき隊」を解散し、同年10月1日に新団体を旗揚げした経緯を伝える。
その新団体が、対レイシスト行動集団C.R.A.C.だ。C.R.A.C.の2013年10月1日付の告知は、C.R.A.C.を「反レイシズム・アクションをさまざまなレベルで実行するためのプラットフォーム」と位置づけ、街頭行動だけでなく言論・写真・アート・音楽・署名・ロビイング・学習会など「必要なあらゆる方法」を列挙し、「いわゆるしばき隊、プラカ隊、署名隊その他が渾然一体となったもの」としている。
本質は「組織が大きくなった」ことではない。「単体の隊」から「複数の手段を束ねる器」へ、設計思想が変わったことだ。器になれば境界は柔らかくなる。機動力は増すが、外から見たとき誰の責任かが曖昧になる。
認知拡大期(2014年前後〜)
「しばき隊」という総称が独り歩きする
C.R.A.C.が「器」として自らを定義した一方で、外部の認知は別方向に進む。2014年の取材記事は、カウンター全体が「しばき隊」と総称されるようになったことが本意ではなかった、という趣旨も載せている。この時点で、言葉は二重化した。
内部では「(C.R.A.C.という器の中の)一部としてのしばき隊」。
外部では「反ヘイト・カウンター一般の総称としてのしばき隊」。
同じ単語が、カウンター運動全体を指し始める。厄介なのは二重化した言葉は、対立が激しくなるほど、便利なまとめ語として濫用される。
支持側は連帯の旗にし、反対側は攻撃の的にする。その結果、個別事案の実体より先に、ラベルが結論を運んでしまう。「しばき隊」という名称がカウンター団体の総称の【ラベル】として定着し始めた。
炎上・帰属混線期(2015年頃〜)「周辺事案」がラベルに吸い込まれる
2015年前後から、政治的対立がSNSに強く持ち込まれ、個人情報や誹謗中傷をめぐる騒動が社会問題化していく。
しばき隊が関わったとされる事件が社会問題として取りだたされ始める。運動内部の資金管理をめぐっては、週刊金曜日が2013年の寄付金の扱いについて「着服」との関係者証言を含む形で報じ、運動から排除された経緯を掲載した。
これらの出来事を「しばき隊(あるいはC.R.A.C.)が組織として起こした」と雑に結びつけることは、情報として危険だという点だ。
つまり、「総称としてのしばき隊が固定化されるほど、周辺のトラブルや個人の逸脱までがラベルに吸い込まれ、責任の帰属が雑になる」という構造が見える。一部の過激派が「しばき隊」の相違としてイメージされ始めた。
記号衝突期(2020年代〜現在)
ラベルが暴力の理由になる
直近の象徴例が、参政党の街頭演説会場付近で発生した傷害事件だ。この事件が突きつけた論点は「しばき隊が存在するか」ではない。帽子の色という記号で敵味方を瞬時に分類し、ラベルを根拠に暴力が生まれうる政治環境そのものだ。
言葉は本来、現実を説明する道具である。だが総称化したラベルは、現実を説明する前に、相手を裁く結論を運ぶ。そして最悪の場合、裁きが暴力の免罪符になる。
コラムニスト:芸能ライター山本武彦
過去に夕刊フジで六本木パパラッチ日記、週刊実話にて六本木黒服の芸能界裏fileを連載。2024年からXで政治評論シリーズを投稿中。
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