先日、スイスを訪れ、同国の社会制度や産業構造、教育政策などを視察する機会を得た。
現地で見聞きした現実は、日本の将来を考えるうえで、多くの示唆を与えてくれた。
本稿では、その経験をもとに、スイスの制度設計の特徴を、日本との比較を交えながら整理してみたい。
小さな国に集積する世界企業
スイスの国土は九州とほぼ同規模で、人口は約870万人にすぎない。
それにもかかわらず、ネスレ、UBS、クレディ・スイス、ノバルティスなど、世界的企業が数多く存在している。さらに、国際決済銀行(BIS)の本拠地も置かれ、金融面でも世界の中枢に位置している。国の規模と経済力は必ずしも比例しない。その現実を、現地で改めて実感した。
税制と社会保障の合理的な設計
スイスには26の州があり、税率は州ごとに異なる。企業は税制環境を考慮しながら、本社の所在地を選択している。
社会制度の面では、高速道路の年額定額制(約40フランで1年間利用可能)、充実した子育て支援、義務教育費の低負担、消費税率は7.7%(今後8.1%へ引き上げ予定)など、生活に直結する制度が現実的に設計されている。
また、鉄道に改札がない点も象徴的である。制度は「管理」ではなく「信用」を前提として成り立っている。ただし、これは放任ではない。無賃乗車に対しては、1回目は罰金、2回目も罰金、さらに繰り返せば警察対応となり、最終的には犯罪として扱われる。信用を前提にしつつ、違反には明確なコストを課す設計がなされている。
動物福祉を制度に組み込む社会
スイスでは、動物福祉に関する規制が非常に厳しい。犬には登録制度があり、「犬税」を支払うことで公共交通機関にも同伴できる。猫には個体識別の仕組みがあり、飼育環境によっては虐待と判断される場合もある。オウムやウサギなどの小動物についても、単独飼育は避けるべきとされ、複数飼育が求められるケースがあるという。ペットショップでの生体販売は行われておらず、主にブリーダーや動物保護施設を通じて譲渡される
動物を「商品」ではなく、「社会の一員」として扱う思想が制度の根底にあると感じた。
14歳で分かれる進路と職業教育
私が最も注目したのは、職業教育制度である
スイスでは14歳前後で進路が分かれ、大学進学コース、職業訓練コースのいずれかを選択する。
職業訓練を選んだ若者は、18歳の時点で実務能力を身につけ、安定した収入を得ている。大学に進学するよりも、職業訓練を経た人材のほうが高い賃金を得るケースも少なくない。また、教育の早い段階から「お金の流れ」を学ぶ点も特徴的だ。買い物の支払いが、従業員の賃金、企業の利益、配当、投資家への還元につながるという経済循環を、学校で学ぶ機会があるという。
「とりあえず大学へ進む」という日本型進路とは、根本的に異なる発想である。
移民政策と政治制度の現実性
スイスは移民を受け入れているが、その条件は明確である。公用語の習得が義務づけられ、一定期間内に達成できなければ滞在が制限される。低賃金労働力として無制限に受け入れる制度ではない。
また、土地については、所有よりも使用権を重視する仕組みがあるという指摘もあった。詳細は慎重な検証が必要だが、土地制度の考え方が日本と異なる可能性は示唆的である。
政治制度では、国民発議や国民投票が活発に行われ、直接民主制が実質的に機能している。 これらは制度として存在するだけでなく、実務として頻繁に運用されている。政治家は兼業が一般的で、議員報酬も高くない。任期も比較的短く、政治の職業化や癒着を防ぐ制度設計となっている。
エネルギー転換と電気自動車の普及
エネルギー政策では、原発の段階的縮小、水力・風力・太陽光の推進が進められている。
電気自動車の普及率も高く、テスラを中心にEVが広く利用されている。
観光地では、ガソリン車の進入を制限する地域もある。
エネルギー転換は理念ではなく、金融投資や産業構造と連動した現実の政策として進められている点が印象的だった。
日本への示唆
スイスの制度を、そのまま日本に導入できるわけではない。国土、人口、歴史的背景は大きく異なる。しかし、職業教育の充実、明確な移民政策、現実的なエネルギー転換、市民参加型の政治制度、信用と制裁を組み合わせた社会設計といった点は、日本にとって重要な示唆を含んでいる。
特に、教育と職業訓練の連携は、日本の将来競争力を左右する重要なテーマになるだろう。
スイスを訪れて最も強く感じたのは、「制度を長期的視点で設計する姿勢」である。
場当たり的な政策ではなく、数十年単位で社会のあり方を考え、制度を整えている。信用、教育、福祉、エネルギー、政治参加。これらが個別に存在するのではなく、一つの設計思想として統合されている。
日本もまた、短期的な人気取りではなく、次世代を見据えた制度改革に本気で取り組む時期に来ている。
今回の視察で得た経験を、今後の政策提言や議論に生かしていきたい。
関連リンク
スイス連邦統計局(人口・経済データ)
Bundesamt für Statistik | Bundesamt für Statistik – BFSwww.bfs.admin.ch
スイス連邦税務庁(税制情報)
Die ESTV ─ für Bundessteuern und BundesabgabenDie Eidgenössische Steuerverwaltung ESTV ist zuständig für diwww.estv.admin.ch
スイス職業教育・研修制度(SVEB)
Hier entsteht eine neue Website!www.sveb.ch
スイス連邦移民庁
スイス連邦エネルギー庁
国際エネルギー機関(IEA)
国際決済銀行(BIS)
Bank for International SettlementsBank for International Settlementswww.bis.org
スイスの教育制度が示す未来
文/山中裕
プロフィール
山中 裕(やまなか・ゆたか)
1976年東京都生まれ。HOYA株式会社の前身・保谷硝子創業家の孫。私立武蔵中高を経て、東京大学経済学部を総代卒業。 コロンビア大学大学院(金融工学専攻)修了。 ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス・アンド・ポリティカル・サイエンス(LSE)などに留学。
2007年以降、HOYAに対する株主提案を通じて、役員報酬開示や社外取締役強化などのガバナンス改革を主導。ISS・Glass Lewisから賛成推奨を獲得し、日本の株主運動の先駆者として評価される。
現在は国内外企業へ投資するアクティビスト投資家。企業統治・株主権保護に取り組んでいる。
関連リンク
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2010-05-27/L320RT0D9L3501?utm_source=chatgpt.com
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2010-06-18/L46VP21A74E901?utm_source=chatgpt.com
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2010-06-17/L454710D9L3501?utm_source=chatgpt.com
https://facta.co.jp/article/201104039.html?utm_source=chatgpt.com







































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































-永井友理-190x190.jpg)
-永井友理-190x190.jpg)




参議院選挙立候補宣言-190x190.jpg)





























































































この記事へのコメントはありません。