第 1 章 序―世界が注目する「経済学の頭脳」
クリストファー・A・シムズは、マクロ経済の事実と言語を作り変えた研究者である。彼が提唱した VAR(ベクトル自己回帰) は、物価・産出・金利・マネーといった主要変数を対等に扱い、因果をデータに語らせる実証の枠組みを与えた。
推定されたシステムから導かれる インパルス応答(IRF) と 分散分解 は、政策ショックが経済に与える時間的波及を可視化し、今日の中央銀行レポートや学術論文の共通語になっている。2011 年、トーマス・サージェントとともにノーベル経済学賞を受賞。
「仮定で因果を決め打ちしない」という姿勢で、巨大な同時方程式モデル全盛の時代に実証マクロの進路を切り開いた。
第 2 章 原点―幼少期と学問の出発点
1942 年生まれ。ハーバード大学で博士号を取得後、ミネソタ大学・エール大学などを経てプリンストン大学に拠点を置く。シムズの初期関心は、マクロ変数の共動をどう記述・識別するかに集中していた。1960~70 年代の政策現場は巨大な計量モデルに支配されていたが、ルーカス批判の提起により、政策の“ルール変更”で推定関係が崩れる脆さが露呈する。シムズはこの混乱期に、構造を強く仮定せずに動学的関係を整然と追跡できる方法を模索し、VAR という実務的で柔軟な枠組みに到達した。
第 3 章 核心―研究の中核理論と主張
シムズのコアは二本柱で整理できる。
(1) VAR と構造の識別
VAR は、複数の系列をラグだけで互いに説明し合う対称的な回帰で書き下す。ここからインパルス応答関数 を得れば、例えば金融政策ショックが産出・物価・為替にいつ・どれだけ効くかが時系列で分かる。鍵は識別(Identification)だ。
シムズは、短期の同時性制約(例:コレスキー分解)や長期制約、さらには物語的指標(Narrative)など、データと制度知識を組み合わせた控えめな仮定で構造ショックを抽出する方針を打ち出した。のちの SVAR、サイン制約、局所投影などは、この路線の拡張線上にある。
さらに彼はベイズ VAR(BVAR)の擁護者でもあり、縮小(シュリンケージ)により次元の呪いを和らげ、小標本でも頑健な推定を可能にした。
(2) ラショナル・イナテンション(合理的無注意)
2000 年代、シムズは情報取得・処理にコストがあるという現実を形式化し、経済主体が注意配分を最適化するという設定を示した。これにより、価格の粘着・予想の遅延・ニュースの選択的反応といった現象を、最適でありながら非即時的という形で理解できる 。
マクロ・ファイナンス・産業組織まで波及する新たなミクロ基礎である。
第 4 章 挑戦―既存理論との対立と革新
シムズは、旧来の巨大同時方程式モデルに対して、恣意的な排除制約や外生化の危うさを批判した。1980 年の代表的論文は、「識別はデータに対し透明で控えめであるべき」という規範を提案し、過剰な構造仮定に依存しない実証の道を開く。
同時に、ルーカス批判に応えて政策ショックの描き分けに注力し、 VAR の 政策分析/予測 の両輪を整備した。批判も受けた。VAR は因果を“発見”するのでなく“仮定に依存して識別”するという論点である。これに対してシムズは、仮定の明示性・検証可能性・頑健性検証を重視し、識別戦略を連続的に改善する研究文化を形成した。
第 5 章 波及―政策・社会への影響
今日、インパルス応答図は各国中銀の標準語である。金利ショックの物価・雇用へのタイムパターン、量的緩和(資産買入)のポートフォリオ経路、財政支出ショックの乗数など 、政策効果の 時間軸 を可視化するのに“ ” VAR は不可欠だ。危機期には、信用スプレッドや金融ストレス指数を組み込んだ拡張 VAR で、金融と実体の連関を定量化。さらに BVARは、短期予測(Nowcasting)やリスクシナリオで活用され、政策コミュニケーションの
裏付けとして機能する。
他方、合理的無注意は、インフレの期待形成の粘りやニュースの非対称的反応の説明力を持ち、物価目標の信認・ガイダンス設計に理論的基礎を与えている。
第 6 章 展望―現在の研究と今後の課題
現 代 の マ ク ロ は 、 高 頻 度 の 識 別 ( ハ イ フ リ ク 識 別 ) 、 大 規 模 デ ー タ の 縮 約 ( 因子BVAR)、異質性を持つ主体(HANK)、金融とマクロの同時推定などへ進む。シムズの系譜は、ナラティブ識別×高頻度識別×サイン制約のハイブリッドや、ベイズ的頑健化で深化している。課題は三つ。
制度変化・体制転換が頻発する環境での安定した識別、
機械学習による予測力と因果推定の説明可能性の両立、
情報制約(無注意)を埋め込んだミクロ基礎付き VAR/DSGE の接合。
いずれも、控えめな仮定で事実を引き出すというシムズ流の規範と相性がよい。
第 7 章 結―「次のノーベル賞」に最も近い頭脳
シムズが残した最大の教訓は、「因果は声高な仮定ではなく、データと慎ましい識別から立ち上がる」という態度だ。VAR は、政策議論を“どれだけ効くか”“いつ効くか”という時間軸で具体化し、合理的無注意は情報の限界を経済理論に根付かせた。
理論の透明性・実証の厳密性・政策の現実性——この三点を同時に追求する姿勢は、変化の激しい世界でなお通用する。彼の手法と言語は、これからも中央銀行・財政当局・研究者を結ぶ共通基盤として生き続けるだろう。
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