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見えなくされた抗議、強まる統治、鈍る報道緊急事態条項、スパイ防止法、NHK人事、中国大使館侵入事件―日本は「戦前回帰」を警戒すべき局面に入ったのか


さくらフィナンシャル編集部

3月28日、新宿駅東南口広場。

「#0328新宿平和フェス」と銘打たれた場で、音楽とスピーチのあいだを縫うように、政権批判のコールが広がっていった。レイバーネットの現地報告では、デモ終了後もしばらく「高市やめろ」の地声コールが続いたとされる。主催側発表では、現地参加は約1400人、配信視聴は5000人規模に達したという。少なくとも、これは“誰にも気づかれなかった小さな出来事”ではない。街頭で起き、ネットで可視化され、記録も残った抗議だった。

だが、その熱量に比べて、日本の大手テレビや全国紙は静かだった。

もちろん、すべての媒体が一切触れなかったとまでは言わない。だが、少なくとも「政権批判の空気が都心の一角に可視化された」という社会現象として、大きく報じられたとは言いがたい。この“温度差”こそが、いま多くの人が感じている違和感の核心だ。海外で起きた抗議なら、群衆、怒号、衝突、プラカードを何度も流す。ところが、国内で政権に向かう異議申し立てになると、急にカメラは引き、ニュースは小さくなる。

この違和感の出発点になったのが、中国大使館への自衛官侵入事件である。Reutersによれば、中国政府はこの事件を受けて日本に正式抗議し、調査と厳正な処分を要求した。APも、日本政府が中国側に遺憾の意を伝えたと報じている。つまりこの件は、単なる一個人の逸脱行為ではなく、国際的には外交問題として扱われた。にもかかわらず、その後に起きた国内の抗議行動まで含めた「一連の政治的文脈」は、主流報道では大きな物語にならない。ここに、いまの日本メディアの病理が凝縮している。

問題は、一つのデモを流したか流さなかったかではない。

もっと深い。日本のマスメディアは、国内で起きる権力への異議申し立てを、構造的に大きく扱いにくい体質になっている。その背景には、政治権力との距離の近さ、スポンサーや企業への経済的依存、記者クラブの閉鎖性、NHKの統治構造、そして新聞・テレビ業界の経営悪化が折り重なっている。国境なき記者団(RSF)は2025年、日本を報道自由度ランキングで180か国中66位、G7最下位としたうえで、日本では政治的圧力だけでなく「経済的要因」もジャーナリズムの独立を妨げていると明記している。

民放について言えば、その弱さは分かりやすい。

広告主は生命線だ。大企業との関係は経営の土台であり、スポンサーや取引先、政権に近い業界に深く切り込む報道は、どうしても編集段階で“温度を下げる力”を受けやすい。露骨な命令がなくても、「これは危ない」「長く追うとまずい」「絵だけで軽く流そう」という自己検閲が働く。Reutersは2015年の時点で、安倍政権下で日本メディアに自己検閲の傾向が強まっていると報じていた。これは一時の話ではなく、長く続く構造問題として見るべきだ。

しかも、日本のメディアは一社だけが弱いのではない。

国連の表現の自由特別報告者デイビッド・ケイ氏の報告書は、記者クラブが特定の大手メディアに情報アクセスを偏らせ、フリーやオンライン媒体、外国人ジャーナリストに不利益を与えていると指摘した。さらに、政府当局が記者クラブを通じて非公式かつ排他的なアクセスを維持できることが、公衆の知る権利を狭めているとも述べている。つまり、日本の報道空間は、表向き自由でも、制度として「既存大手が政府と近くなりやすい」ようにできている。これでは、国内の政権批判が一斉に薄くなるのも不思議ではない。

ここで「NHKならスポンサーに縛られないからまだましでは」と考える人もいる。

だが、それも半分しか当たっていない。放送法では、NHKの経営委員は両議院の同意を得たうえで内閣総理大臣が任命し、会長は経営委員会が任命する。つまりNHKは広告主に直接縛られにくい代わりに、人事の入口が政治権力に近い。しかも放送法は編集の自由も定めているが、現実には経営委員会と報道現場の緊張関係がたびたび問題になってきた。衆議院の議事録でも「NHKと経営委員会は、編集権に関する介入を許してはならない」という趣旨の議論が記録されている。これは裏返せば、その懸念が現実の問題として存在してきたことを意味する。

そして今、この「報道の劣化」と並行して進んでいるのが、国家権力をさらに強める制度論だ。

その象徴が、緊急事態条項入りの改憲論である。自民党の2012年改憲草案Q&Aでは、緊急事態の章を新設し、有事や大災害時に内閣総理大臣が一定の権限を行使できるようにし、国等の指示に対する国民の遵守義務を規定すると説明している。さらに2025年の自民党憲法改正マニュアルでも、「緊急事態対応」は今なお主要テーマの一つとして掲げられている。つまりこれは過去の一案ではなく、現在進行形の政治課題だ。

もちろん、災害大国である日本に非常時対応が必要だという議論自体は理解できる。

だが、本当に問うべきなのは、「非常時」を口実にどこまで権力集中を許すのかという点だ。緊急事態条項の怖さは、危機への対応という名目で、平時なら許されない行政権の拡大が正当化されやすいところにある。研究論文でも、日本の緊急事態法制は、内閣がどのような事象を緊急事態と判断し、その前後で国会がどの役割を果たすかが核心だと整理されている。要するに、危機のときほど、権力を広げる仕組みより、歯止めをどう設計するかが重要なのだ。

この点で、戦前・戦間期の歴史を想起する人がいるのは自然だ。

衆議院の質問主意書でも、ナチス政権下では国会炎上事件を口実に大統領緊急令が発動され、基本的人権を保障する条項が停止されたという歴史が言及されている。もちろん、現在の日本をそのまま当時のドイツと同一視するのは乱暴だ。だが、「危機」を理由に自由を制限し、例外を常態化させ、やがて強い国家権力が日常を覆う――この歴史的パターンへの警戒は、決して大げさではない。だからこそ、緊急事態条項をめぐる議論は、単なる災害対応論では済まされない。

そこに重なってくるのが、「スパイ防止法」を含むインテリジェンス強化の動きだ。

自民党の2025年10月の記者会見では、「いわゆるスパイ防止法含めたインテリジェンスの強化」が言及され、国家情報局への格上げなどが論点として語られている。国会の資料でも、スパイ防止法の必要性に対する首相見解が議題化されていることが確認できる。現時点で包括的な“スパイ防止法”が成立しているわけではないが、政治課題として浮上しているのは事実だ。

ここで大切なのは、「スパイ対策が必要か」という単純な賛否ではない。

本質は、そうした法制度が、どこまで曖昧な定義で、どこまで広く、市民社会や報道機関に作用しうるかである。国家安全保障、機密保護、諜報対策という言葉はもっともらしい。だが、監視と秘密の領域が拡大するとき、最初に萎縮するのはいつもジャーナリズムと市民の自由だ。国連のデイビッド・ケイ氏が、日本が盗聴法やサイバーセキュリティの新たな取り組みを検討する際には、表現の自由と通信の自由を最前線で守るべきだと警告したのは、そのためである。

だからこそ、緊急事態条項、スパイ防止法、弱るメディア、政治に近い公共放送人事、スポンサー依存の民放、この五つを別々に見てはいけない。

一つひとつだけを見れば、「災害対応のためだ」「安全保障上やむを得ない」「法律上は独立している」「スポンサーはどこの国でもいる」という説明は成り立つ。だが、それらが同時に進むとき、景色は変わる。権力は広がり、監視は強まり、報道は鈍り、異議申し立ては小さく扱われる。そして国民は、「誰も反対していない」「社会は静かだ」と思わされる。今回の新宿で起きたことは、その逆を示していた。声はあった。抗議もあった。だが、主流報道の中でそれは“なかったことに近い大きさ”に縮められた。

ここで「戦前回帰」「軍国主義」「ファシズム」「全体主義」という強い言葉をどう使うべきか。

断定は慎重であるべきだ。日本がすでにそうなったと言い切るのは正確ではない。だが、そうした方向に向かう危険を警戒する理由は十分にある。危機を口実にした権力集中、秘密と監視の拡大、批判報道の萎縮、異論の不可視化。これらは、歴史的に見て自由社会が壊れていくときの典型的な兆候だからだ。いま起きているのは、戦前そのものの再来ではない。だが、「戦前型の発想が入り込める土壌」が整いつつある、と見ることは十分可能だ。これは断定ではなく、制度と歴史から導かれる警告である。

結局、日本のマスメディアの堕落とは何か。

それは露骨に「政権の味方です」と名乗ることではない。

もっと静かで、もっと危険だ。

国内の政権批判だけを小さく扱う。

権力集中の制度論を深く掘らない。

監視強化を“必要な対策”として流しがちになる。

そして、その偏りを“中立”と呼ぶ。

その先にあるのは、ゆっくり進む全体主義である。

気づいたときには、自由は一気に奪われるのではなく、少しずつ「例外」の名で削られている。

いま問うべきなのは、デモがあったかどうかではない。

異議申し立てが見えなくされ、国家権力だけが見えやすくなっていないか、である。

中国大使館侵入事件、#0328新宿平和フェス、緊急事態条項入り改憲、スパイ防止法論、NHK人事、スポンサー依存。

これらはバラバラの話ではない。

一つの線でつながっている。

その線の名前を、私たちはまだ「ファシズム」と断定しなくてよい。

だが少なくとも、自由が後退し、権力が前に出る時代の入口に立っているという警戒だけは、もう持たなければ遅い。

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