スウェーデン・ストックホルムの王立カロリンスカ研究所は6日、2025年のノーベル生理学・医学賞を大阪大学免疫学フロンティア研究センターの坂口志文特任教授(74)ら3人の研究者に授与すると発表した。
免疫系が体内の正常組織を誤って攻撃するのを防ぐ「末梢性免疫寛容」のメカニズムを解明した功績を称えられたこの発見は、自己免疫疾患やがん治療の新時代を切り開く基盤を提供するものだ。
○受賞の核心:免疫の「ブレーキ役」を特定
免疫システムは、細菌やウイルスといった外部の脅威から体を守る強力な防衛網だが、その過剰反応は逆に自己組織を攻撃する「自己免疫疾患」を引き起こす。
今回の受賞は、そんな免疫の暴走を抑える「守護者」として機能する制御性T細胞(regulatory T cells)の存在を明らかにした点に焦点を当てる。
坂口教授は1995年、マウス実験を通じてCD4陽性T細胞の一種が免疫反応を抑制する役割を果たすことを発見。この細胞は表面にCD25タンパク質(IL-2受容体のα鎖)を発現し、活性化T細胞を鎮静化させる「ブレーキ役」として機能することが判明した。
一方、アメリカの研究者であるメアリー・E・ブランコウ氏(63)とフレッド・ラムズデル氏(65)は、1990年代に「scurfy(スカーフィー)マウス」と呼ばれる突然変異マウスを解析。
1940年代のマンハッタン計画由来の放射線実験で生まれたこのマウスは、T細胞が制御不能に自己組織を攻撃し、皮膚炎やリンパ増殖を伴う致死的な症状を示す。
両氏はX染色体上のFOXP3遺伝子の変異が原因であることを突き止め、これが人間の希少疾患「IPEX症候群」(免疫不耐症、多内分泌異常、腸炎、X連鎖性)の引き金となることを証明した。
FOXP3は制御性T細胞の分化と機能を司る転写因子で、坂口教授の2003年の研究と組み合わせることで、免疫寛容の分子基盤が完全に解明された形だ。
○発見の軌跡:1980年代の「抑圧T細胞」仮説から現代へ
免疫学の歴史を振り返れば、1980年代に「抑圧T細胞」の存在が提唱されたが、証拠不足で一時忘れ去られた経緯がある。
坂口教授は京都大学医学部卒業後、1980年代後半からこの仮説に挑み、新生児マウスから胸腺を除去した実験で自己免疫の発生を観察。そこから、CD4+CD25+ T細胞を分離・同定し、1995年の論文で「免疫学的自己寛容は活性化T細胞によって維持される」と結論づけた。
これにより、胸腺内での「中央寛容」だけでは不十分で、体外周組織での「末梢寛容」が不可欠であることが明らかになった。
ブランコウ氏とラムズデル氏は、米ワシントン州のCelltech Chiroscience社でscurfyマウスの遺伝子マッピングに着手。数年にわたる地道な作業の末、FOXP3の変異を特定し、2001年のNature Genetics誌に掲載された論文でIPEX症候群との関連を報告。
この発見は、制御性T細胞の「マスターキー」であるFOXP3の役割を浮き彫りにし、坂口教授らの細胞生物学的アプローチと遺伝学的知見が融合するきっかけとなった。
○医療への革新:アレルギーからがんまで多角的影響
この研究の真価は、基礎科学を超えた臨床応用にある。制御性T細胞の機能不全は、多発性硬化症や1型糖尿病、関節リウマチなどの自己免疫疾患の原因の一つ。
逆に、がん腫瘍周囲ではこれらの細胞が「バリア」を形成し、免疫攻撃を阻害するため、腫瘍浸潤性リンパ球療法(TIL療法)との組み合わせが期待されている。
現在、インターロイキン-2(IL-2)を用いて制御性T細胞を増幅する治療が臨床試験中だ。
さらに、臓器移植後の拒絶反応抑制にも道を開く。遺伝子編集技術(CRISPRなど)でFOXP3を強化したT細胞を移植臓器に「アドレスラベル」として標的化する手法が開発されており、ステムセル移植の合併症軽減に寄与する可能性が高い。
ノーベル委員会は「これらの発見は、免疫システムの調節メカニズムに関する根本的知識を提供し、人類に最大の利益をもたらした」と評価している。
○日本科学界への波及:坂口教授の言葉と今後の展望
坂口教授は受賞直後、取材に対し「この発見が免疫学者や医師に、制御性T細胞を活用した免疫疾患治療への応用を促すことを願う」と語った。 大阪大学での長年の研究が国際的に認められたことで、日本発の免疫学が再び脚光を浴びる。
賞金総額1100万スウェーデンクローナ(約1億6000万円)は3人で均等に分けられ、さらなる研究推進に充てられる見込みだ。
この受賞は、免疫の「セキュリティガード」として制御性T細胞を位置づけ、10^15もの可能性を持つT細胞レセプターの乱れを防ぐメカニズムを解明した点で画期的。
パンデミック後の免疫研究ブームに乗り、2025年のノーベル賞は医療イノベーションの加速を象徴するものとなるだろう。
さくらフィナンシャルニュース
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