2024年9月13日、岐阜県大垣市などにおいて、愛知県名古屋市の中部電力子会社「シーテック」が計画した風力発電施設を巡り
県警大垣署が同社に個人情報を提供したことでプライバシーが侵害されたと訴える住民ら4人が国・県に計440万円の損害賠償と個人情報の抹消を求めた訴訟の控訴審判決で、名古屋高裁(長谷川恭弘裁判長)は、1審・岐阜地裁判決を覆し、情報収集に違法性が
あったとして岐阜県に計440万円の支払いを命じた。また、県に対し、保有している個人情報の一部抹消を命じた
保有しているとされる個人情報が載る議事録では大垣市民4人を名指ししていた。うち2人は建設予定地の上石津町に住み
風力発電所の勉強会を開いた松島勢至さんと三輪唯夫さん。さらに1990年代に「徳山ダム建設中止を求める会」を立ち上げ
事務局長を務めるなど市民運動に携わってきた近藤ゆり子さんに加え、船田伸子さん(60代)の名前もあった。
被害者の1人で岐阜県大垣市に住む船田さんは、中部電力子会社「シーテック」の議事録に自身の名前が記されていることを
朝日新聞記者から電話で告げられるまで、風力発電所建設計画についてほとんど知らなかった。
船田さんは14年までの24年間、弁護士法人「ぎふコラボ」で勤務し、事務局長も務めた。
〈なぜ関係の無い私の名前が名簿に載っているのか?〉
議事録の存在を知らされた当時、体調を崩して休職していたが、入院はしていなかった。三輪さんとも、ぎふコラボの催しなどで年に1、2回、顔を合わせる程度。東京電力福島第一原発事故後、「さよなら原発・ぎふ」の活動にも取り組んでいたが、風力発電所計画は耳にしたことはあったものの、大して関心を持っていなかった。
〈自身に対し耳を疑うようなとんでもない発言が!〉
名古屋地裁に証拠保全を申し立て、後の2014年5月26日、シーテックから受け取った4回分の議事録の3回目には、岐阜県警
大垣署警備課の警察官の発言として、以下のように記されていた。
【三輪唯夫は、岐阜コラボ法律事務所(原文ママ)の事務局長である「船田伸子」と強くつながっており、そこから全国に広がって
ゆくことを懸念している。現在、船田は気を病んでおり入院中であるので、速(同)、次の行動に移りにくいと考えられる。
今後、過激なメンバーが岐阜に応援に入ることが考えられる。身に危険を感じた場合はすぐに110番して下さい。】
話は、2013年に大垣市上石津町で、中部電力の子会社シーテックによって風力発電建設の計画が持ち上がったことに端を発する。
130m(京都タワーほどの高さ)の風車16基、羽根50m、それぞれの基盤100m。 四方の風力発電が及ぼす影響について
住民が心配し、中部電力の子会社「シーテック」と開いた「勉強会」と称する打ち合わせで、思いがけず名指しされていた岐阜県
大垣市の松島さん、三輪さん、近藤さん、そして船田さんの4名。
反対運動とは一切かかわりのない船田さん。
「将来、この勉強会が大きな市民運動にされかねない」ということで、警察の情報提供の対象にされた。反対住民でもないのになぜ監視対象になったのか?情報はどうやって収集したのか?情報提供は今回だけだったのか?自分が警察によって犯罪視されているということがショックで、自分の生き方を否定されたように感じた、と述懐した。
この問題が2015年6月の国会で取り上げられ、やれ法改正とやり玉に挙げられてしまった。警備局長は
「一般に警察は、管内における各種事情等に伴い、生じうるトラブルの可能性につきまして、公共の安全と秩序の維持の観点から関心を有しておりまして、そういう意味で、必要に応じて関係事業者と意見交換を行っている。そういうことが通常行っている警察の業務の一環だ。」と答弁した。
すでにこの時、共謀罪を通すという路線ができていたのではないかと船田さんは指摘した。そうであれば、今回に限らずどこで
どのように個人情報が使われるのかは、警察の胸の内である。でも、
「今聞いてもらっている人の中にもスパイがいるかもしれないと、ふと思う。そんな自分が嫌になる。これは自分の内面の問題でも
あるのです。この裁判には多くの人に共感して欲しい」
このような過度な監視社会の時代が表沙汰にならぬうちに既に押し寄せている。逮捕後、たとえ無罪や不起訴になってもDNAデータや、個人情報は警察に吸い上げられ監視対象リストに残る問題にも直結しており、これらの個人情報監理とプライバシーの問題も
新たな法案が早急に求められる。
岐阜地裁に起こした国家賠償請求訴訟は提訴から5年余りたった2022年2月21日、判決の日を迎えた。
鳥居俊一裁判長は「原告らのプライバシー情報を、必要がないのに、積極的、意図的に提供し、みだりに第三者に提供されない自由を侵害したもので違法だ」と、岐阜県に対し原告一人当たり55万円の支払いを命じた。山田秀樹弁護団長は「公安警察のやっている
ことを裁判所が違法と判断することはまれだし、非常にいい判断だ」と評価した。船田さんも「法律事務所に勤め、人権擁護に力を
注いできた。(情報提供が)思想信条の自由に関わる重大な問題だと認められ、私自身がやってきたことが間違っていなかった」と
判決に喜ぶが…
〈情報収集の違法性については却下〉
一方、情報収集について判決は「原告らの活動が市民運動に発展した場合、公共の安全と秩序の維持を害する事態に発展する危険性はないとはいえない」として「違法とまではいえない」と判断。原告は、収集した個人情報を岐阜県警と警察庁が保有しているとして
その抹消も求めていたが「情報が特定されていない」と退けられてしまった。
〈原告と岐阜県はお互い控訴へ踏み切る〉
原告と岐阜県は判決を不服として控訴。船田さんは控訴審で、「勉強会」に参加した当時の大垣署員の証人尋問の実現に強く期待していた。『なぜ自分が監視対象になったのか理由を知りたい。』このために意見陳述書を作成したりもしてきた。
県は「情報収集活動の個別具体的な内容が明らかとなれば、情報収集活動に支障が生じ、公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼす
おそれがある」と主張してきた。
証人として出廷したとしても証言できるのはそれぞれの経歴と所属する課の業務内容に限られ、「証人尋問の必要性は認められない」と拒み、一審にひき続き、それは実現できなかった。
2023年12月12日名古屋高等裁判所で行われた第7回口頭弁論では、南山大学大学院の實原隆志教授(憲法、情報法)が証人として
出廷し、警察等の機関が収集した情報を自由に分析・解析できる状況が続くと、個人の監視が進み、市民運動が萎縮すると述べ
そのための警察の情報収集や保有に関する法整備が必要であると強調する。
弁護団の中谷雄二弁護士が語るところによると、例えばドイツなど、欧州各国では重大なテロ組織活動の防止とし、一定の具体的な
組織や人物にこのような監視は法律上あるという。ところが日本は法的根拠もなし、テロ組織の疑いも何もなしに市民を無闇やたらに監視している現状がある。日本の警察法を調べている学者に言わせると「極めて規律密度が脆弱だ」と。言い方を変えてみれば「法的な規制が何もない」。
こういう状況がなぜ生まれたか?遡ること1960年、日米安保闘争の前の出来事、1955年からの砂川事件
「砂川紛争」で米軍の駐留が違憲だという第一審判決が1959年に出た。この後、最高裁はその年に大法廷判決を出す。その後
公安条例は違憲判決が続く。警察官職務執行法を改正しようとして強力な権限をつけようとしたが失敗に終わり結局、政府は
現在も安保闘争からの強行突破を強いているのだと述べた。
高裁はこの流れを断ち切るような判決を下した。これに対して、山田秀樹弁護団長は「目的が市民活動を監視するためならそもそも
違法だと、ずばり認めてくれた」と評価づけた。
情報を集めていたのは大垣署警備課の警察官らであった。船田さんは「情報収集の手が伸びることに恐怖を感じていた。公安警察に
よって住民を分断し、知らない間に孤立させるのが今の社会だ」と非難した。
岐阜県警は公共の安全と秩序の維持が職務だとして一貫して妥当性を主張。裁判でも警察官の証人尋問に応じず、原告側は企業が
作成した情報交換の議事録から、収集された個人情報を特定し抹消命令へと結びつけることに至った。
高裁判決は個人情報の収集、保有、提供の違法性を認め「『公共の安全と秩序の維持』を名目としてフリーハンドで活動することは
許されない」とこれらを厳しく指摘、今後警察の情報監視行為に歯止めがかけられるか期待する。
突然、警察の標的に 船田伸子さん(「大垣警察市民監視事件」原告)㊤
https://roukijp.jp/?p=9173
「監視社会」を超えて 船田伸子さん(「大垣警察市民監視事件」原告)㊦
https://roukijp.jp/?p=9578
風力発電めぐる警察の情報収集に「違法性」 名古屋高裁が認める
https://news.yahoo.co.jp/pickup/6513578
発電建設反対住民の個人情報、岐阜県警が収集「違憲」 名高裁が一部抹消命令「市民運動を危険視」
https://news.yahoo.co.jp/articles/ddb6107d9694dc8f3b233e1261bbf2e737f62410
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