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【特集】イランの核は誰が育てたのかモサデックの石油国有化から、          シャー、ホメイニ、ハメネイ                           そして“プロジェクト・フラワー”まで                      反米国家イランを生んだ石油・核・帝国の100年

さくらフィナンシャル 編集部

イラン問題を語るとき、日本ではしばしば「危険な反米国家」「核開発を続ける中東の強硬国」という現在の姿だけが切り取られがちだ。だが、その現在像だけを見ていると、本質を見誤る。なぜならイランの現代史は、最初から一貫して「石油」と「外部大国の介入」、そして「主権をめぐる闘争」によって動いてきたからだ。しかも皮肉なことに、いま西側が強く警戒するイランの核開発の原点には、かつての米国の支援と、1970年代のイスラエルとの秘密協力まで重なっている。

話は20世紀初頭にさかのぼる。1901年、英国人実業家ウィリアム・ノックス・ダーシーが、当時のペルシャで広大な石油利権を取得した。1908年に油田が発見され、1909年にはアングロ・ペルシアン石油会社が設立される。後のBPにつながるこの会社は、イランの石油を事実上、英国の戦略資産へと変えていった。イランの側から見れば、自国の地下資源でありながら、利益も決定権も外国に握られていたのである。ここに、後の反英感情、反西側感情の原点がある。

この構造に真正面から挑んだのが、モハンマド・モサデックだった。彼は民族主義的な首相として1951年、英国系の石油支配に対抗し、イラン石油産業の国有化を進めた。モサデックにとって石油国有化は、単なる経済政策ではない。国家主権の回復であり、外国支配からの脱却であり、議会政治の正統性を示す行為だった。イラン国民の多くが彼を支持したのは当然だったと言える。

だが、英国はこれを受け入れなかった。石油利権を失うからだ。さらに冷戦下の米国は、イランの不安定化がソ連寄りの展開につながることを恐れた。こうして石油問題は、資源ナショナリズムと帝国利権、そして冷戦安全保障が重なる巨大な国際政治案件になった。米国務省の歴史文書でも、当時の米政府が国有化後のイラン情勢を、石油紛争だけでなく共産主義拡大のリスクとして捉えていたことが確認できる。

そして1953年、運命の政変が起きる。米英が支援したクーデターによってモサデックは失脚し、もともと国王だったモハンマド・レザー・シャー・パーレビの権力は一気に強化された。ここで重要なのは、「モサデックの後にシャーが出てきた」のではなく、「モサデック排除によってシャーが西側にとって都合のよい強力な支配者になった」ということだ。この政変は、イラン人にとって長く「民主的な資源主権の試みを、米英が潰した事件」として記憶されることになる。

クーデター後、石油支配は名目上こそイラン国営石油会社に残されたが、実態としては1954年のコンソーシアム体制のもとで、西側メジャーが再びイラン石油の開発と流通を主導した。つまり、完全な旧体制復活ではないにせよ、モサデックの目指した本当の意味での資源主権は骨抜きにされたのである。イラン側には「国有化したはずなのに、結局また外国が仕切っている」という屈辱感が残った。

その一方で、シャー政権は石油収入をてこに、近代化を推し進めた。教育、医療、インフラ、都市整備、女性の社会進出の一部促進など、表面的には“進歩的”に見える要素も確かにあった。しかし、その近代化は上からの近代化であり、同時に強権政治でもあった。秘密警察SAVAKは反体制派を監視し、言論と政治的自由は抑圧された。つまりシャー体制とは、「石油マネーで近代化する親米独裁」だったのである。

ここで見落としてはならないのが、イランの核開発の出発点も、実はこの親米シャー時代にあったという事実だ。イランの核計画は、1957年の米イラン民生用原子力協力協定を起点に、米国の「Atoms for Peace」政策のもとで育てられた。1967年にはテヘラン研究炉が導入され、1970年代にはシャーが野心的な原子力拡張計画を掲げ、1990年代前半までに23基の原発建設を構想していたことが記録されている。つまり、「イランに核技術を持たせた最初の後押し」は、今日の敵である米国自身だった。

そして1970年代後半には、さらに驚くべき事実が重なる。イランとイスラエルは当時、現在では想像しにくいほど深い安全保障協力関係にあり、秘密裏に共同軍事開発を進めていた。その象徴が1977年に始まったプロジェクト・フラワーだ。RANDの研究やCIA公開文書によれば、この計画はイランの資金と石油、イスラエルの技術を組み合わせた油と武器の大型契約群の一つで、先進ミサイル開発を目的としていた。しかも、関連文書ではそのミサイルが核弾頭搭載可能性を持つものとして語られている。ここで正確に言えば、プロジェクト・フラワーは原子炉建設そのものではなく、将来的に核兵器と結びつきうる運搬手段の共同開発という性格が強かった。だがそれでも、「イスラエルがかつてイランと、核搭載可能性をにらんだ軍事協力をしていた」という歴史的事実は重い。

ここに、現在の「イスラエルはイラン核を絶対に許さない」という構図の大きな皮肉がある。かつてイスラエルは、シャー体制下のイランを対アラブ包囲網の一部と見て、石油、諜報、軍事の面で深く協力していた。敵だったのは革命後のイランであって、革命前のイランではない。イラン核問題を単純に「狂信国家の暴走」とだけ見る議論は、この歴史を大きく省略している。

だが1979年、すべてがひっくり返る。ホメイニを象徴とするイラン革命によってシャー体制は崩壊し、親米王政は終わる。革命は宗教勢力だけでなく、反独裁、反腐敗、反米介入の怒りを束ねた巨大な噴火だった。1953年クーデターの記憶、石油支配への屈辱、SAVAKへの恐怖、格差への不満が、すべてここで結びついたのである。米大使館人質事件が象徴するように、革命後のイランは「反米」を体制の正統性の柱に据えた。

革命後、対イスラエル関係も完全に断絶した。プロジェクト・フラワーは終了し、かつての秘密協力は敵対へと転じる。同時に石油は、外国資本の利益源ではなく、革命国家を支える財源へと再編された。ここでイランは、ようやく「石油を自前の国家運営の中核に据える」体制を完成させたとも言える。しかしその代償は、欧米との長期対立、制裁、孤立だった。

ホメイニ後のハメネイ時代に入ると、イランはさらに別の段階に入る。石油は依然として命綱だが、もはや自由に売れるわけではない。核開発問題をめぐり、欧米の制裁は強まり、イランは「石油を持つが、制裁で正常に市場へ出せない国」になった。それでもEIAなどによれば、イランは近年も主要産油国の一角として生産を続け、主に中国向けを中心に輸出してきた。つまり現在のイランは、石油で繁栄する国家ではなく、石油で包囲網を耐え抜く国家なのである。

核問題もまた、完全に切り離しては見られない。シャー時代に米国の支援で始まった核技術基盤は、革命後も消えなかった。1990年代以降には秘密裏の濃縮計画や兵器化疑惑が問題化し、IAEAは長年にわたって未解明の点を追及してきた。イランは一貫して平和利用を主張してきたが、IAEAや軍備管理団体は、過去の未申告活動と兵器関連研究の疑惑を指摘している。つまり現在の核危機は、革命後だけの物語ではなく、シャー時代から引き継がれた技術基盤の上に築かれた長い連続体なのだ。

2026年3月時点では、イランは戦争と体制不安のただ中にある。ReutersやAPによれば、米・イスラエルとの軍事衝突が激化し、核施設の状態もなお不透明で、権力中枢にも大きな動揺が走っている。こうした今の混乱を、単に「イランが危険だから」で終わらせるなら、議論はあまりにも浅い。むしろ問うべきは、なぜここまでこじれたのか、である。そこをたどると、必ず石油に行き着き、1953年に行き着き、シャー体制に行き着き、さらに西側自身が育てた核の起源にまで行き着く。

要するに、イランの現在は突然生まれたものではない。モサデックの石油国有化を米英が潰し、シャーの親米独裁を支え、核技術の基盤を西側が提供し、1970年代にはイスラエルと秘密軍事協力まで行っていた。その後、革命によって関係が反転し、かつての同盟国は最大の敵になった。ここにあるのは単純な善悪ではなく、資源・覇権・恐怖・裏切りが積み重なってできた中東政治の凝縮である。イラン核問題を本当に理解したいなら、「今のイラン」だけでは足りない。「誰がその土台を作ったのか」まで見なければならない。

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