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 【特集】黒川あつひことプリベントメディカルの株式問題               未上場株は誰がどう値段を決めるのか                        東京地裁が「1株5万円」と判断した価格決定事件を読む

2026年3月、東京地方裁判所は、未上場会社であるプリベントメディカル株式会社のA種株式540株について、1株あたり5万円とする決定を出した。総額は2700万円である。

上場企業の株であれば、証券取引所で毎日売買が行われ、株価は市場が決める。だが、未上場会社の株には、そうした市場価格がない。

だからこそ、株を売りたい側と、買い取る側の評価が真っ向から対立したとき、最後は裁判所が「この株はいくらが相当か」を決める場面が出てくる。

今回の事件は、まさにその典型例だった。

しかも興味深いのは、裁判所が単に会計数字を機械的に当てはめたのではなく、

どの評価方法が本当に妥当なのか、

資料を十分に出さない当事者にどう向き合うのか、

過去の発行価格をどこまで重視するのか

といった、未上場株評価の実務上きわめて重要な論点に踏み込んでいる点である。

この記事では、この決定を「高校生でも流れがわかる」ように整理しながら、未上場株の値段がなぜ裁判になるのか、そして裁判所がなぜ最終的に「1株5万円」と決めたのかを、順を追って見ていく。

1 そもそも何が起きたのか

この事件は、法律上の名前でいうと株式売買価格決定申立事件である。

申立人は株式会社Q Technologies。

利害関係参加人は合同会社エバーライス。

対象になったのは、プリベントメディカル株式会社のA種株式540株だった。

決定謄本によれば、Q Technologiesは、タウンストーリー株式会社からこの540株の譲渡を受け、プリベントメディカルに対して株式譲渡承認請求を行った。

しかしプリベントメディカル側は譲渡を承認せず、代わりにエバーライスを指定買取人に指定した。

ここで問題になったのが、その売買価格である。

株の譲渡を承認しない以上、会社側または指定買取人は一定の条件のもとで株を買い取ることになる。だが、その値段で折り合いがつかなければどうするのか。

そのとき使われるのが、会社法144条に基づく売買価格決定の申立てだ。

つまり今回の事件は、

「この株を売ること自体が有効か」

「誰が悪いのか」

を争う訴訟ではなく、

『結局、この未上場株はいくらなのか』を裁判所に決めてもらう手続

だったのである。

2 なぜ未上場株は揉めやすいのか

この事件の核心を理解するには、まず未上場株の性質を押さえる必要がある。

上場株なら、株価ボードを見れば、だいたいの市場価格が分かる。もちろんその価格が絶対に正しいわけではないが、少なくとも市場参加者の売買によって一応の値段が形成されている。

ところが未上場株には、それがない。

毎日売買されるわけでもなく、出来高もなく、外部の人が「この会社の株は今いくら」と簡単に確認できる仕組みもない。

そのため、価格はどうしても評価方法次第になる。

たとえば、

今持っている資産を基準に考えるのか

将来どれくらい利益を生むかで考えるのか

過去に実際いくらで発行・譲渡されたかを見るのか

によって、数字は大きく変わる。

しかも、未上場会社は上場企業ほど情報開示が厚くない。

決算資料、事業計画、投資の中身、役員報酬の妥当性、関連会社との取引、将来の収益予測――こうした情報が十分に見えないことも多い。

だから未上場株の紛争では、しばしば

「会社の実態がよく見えないまま、価格だけが争われる」

という難しい状況が生まれる。

今回の事件も、まさにその典型だった。

3 当事者の主張はどう食い違ったのか

決定文によれば、まずQ Technologies側は、プリベントメディカルのA種株式はこれまで1株5万円で発行されてきたことを重視した。さらに、プリベントメディカルはコロナ禍でPCR検査事業を展開し、売上高や売上総利益を増加させていたとして、1株5万円を下回ることはないと主張した。

加えてQ Technologies側は、仮に単純な資産評価だけでなく会社の継続的価値を見るとしても、プリベントメディカルは設立から比較的若いベンチャー企業であり、DCF法などインカム・アプローチで評価すべきだとも主張した。

また、純資産の数字が時期によって大きく動いている点や、不自然に見える会計処理がある点、さらには株価を低く算定させるような取引活動や処理が疑われる点にも言及し、事業計画書や計算書類、「投資有価証券」「関係会社株式」の内訳が分かる資料の開示を求めた。

これに対してエバーライス側は、逆の立場を取った。

エバーライス側の主張はおおむねこうだ。

プリベントメディカルが最後に新株発行による増資をしたのは令和2年4月で、基準日から3年以上前の話であり、これをそのまま参照すべきではない。

また、主たる事業である会員向けのがんリスク検査サービスについて、将来の営業収益を見通せる状況にはなく、コロナ期のPCR検査受託で一時的に利益が出ていたとしても、それは特殊事情であって継続的な収益力を示すものではない。

したがって、将来利益を前提にするインカム・アプローチは妥当ではなく、純資産法で見るべきだというのである。

そしてエバーライス側は、基準日に近い令和5年9月末時点の純資産から算定し、

1株あたり1210円、

540株で65万3400円

が相当だと主張した。

ここに、この事件のインパクトがある。

片方は1株5万円。

もう片方は1株1210円。

同じ会社の同じ株なのに、評価額がここまで開いたのである。

4 裁判所はまず何を考えたのか

裁判所は、いきなり結論に飛んでいない。

まず、「そもそもこの会社はどんなタイプの会社なのか」を見ている。

決定文では、プリベントメディカルは高額の不動産などの資産を保有してその資産価値自体に意味がある会社ではなく、事業を行い、継続して収益を得ていく点に価値を見いだすべき会社だと整理している。

これは非常に重要な認定である。

もし会社が、ほとんど事業をしていない単なる資産保有会社なら、保有資産から純資産を基準に評価する発想が強くなる。

しかし、継続して事業を行う会社であれば、本来は

「将来どれだけ稼ぐのか」

を見るのが自然だ。

その意味で裁判所は、出発点としては

インカム・アプローチによる株価算定の可否をまず検討すべきだ

と考えた。

ここだけ切り取れば、Q Technologies側に一定程度沿う方向である。

5 それでもDCF法が採用されなかった理由

では、なぜそのままDCF法などによる高い評価に進まなかったのか。

答えは、資料不足である。

決定文によれば、プリベントメディカルには基準日に近い時期の事業計画が作成されておらず、さらに本件手続で参加人から提出された資料も限定的な範囲にとどまっていた。

そのため、裁判所は、基準日時点におけるプリベントメディカルのキャッシュフローを正確に見積もることが困難だと判断した。

つまり裁判所は、

「この会社は本来、将来収益を見て評価するのが筋だ」

とは考えたものの、

「そのために必要な材料が足りない」

と結論づけたのである。

この構図は実務上、とても重い意味を持つ。

なぜなら、会社側が「将来利益なんて読めない」「高い評価はおかしい」と言う一方で、必要資料の開示にも十分に応じない場合、裁判所は精密な将来収益評価をしようにもできないからだ。

そして今回、裁判所はその点をかなりはっきり書いている。

6 資料を出さないことの重み

この決定で特に注目すべきなのは、裁判所が資料不開示への対応を重く見ている点である。

Q Technologies側は、プリベントメディカルの財産状況を明らかにするため、求釈明や文書提出命令の申立てを行い、過去の増資時の事業計画、株価算定資料、令和6年3月期・令和7年3月期の計算書類、「投資有価証券」「関係会社株式」の内訳が分かる書類などの提出を求めた。

これに対し、裁判所は参加人に対して、少なくとも一部の資料について任意開示が相当であるとして対応を促した。

しかし、決定文によれば、参加人は最終的に資料の開示には応じられない旨を述べたため、裁判所は現状ある資料で判断するのが相当だとして審理を終結した。

この点は、単なる手続的なエピソードではない。

価格評価のロジックそのものに直結している。

裁判所は、参加人が十分な資料提出をしないことによって、基準日に近い時期の財産状況やキャッシュフロー見通しを正確に認定できなくなった以上、

その不利益を、参加人に有利な方向で働かせるべきではない

という考え方を事実上採っている。

これは、非常に常識的でありながら、実務上は重要なメッセージだ。

つまり、

「高い値段はおかしい」と言いながら、その根拠資料を自分で十分に出さないなら、裁判所はその主張に簡単には乗らない

ということである。

7 純資産の数字にも裁判所は違和感を持った

裁判所は、参加人側が主張する純資産ベースの評価にも、そのまま乗っていない。

決定文では、純資産の数字について、

令和5年3月末には2億3789万4000円だったものが、

令和5年9月末には1億2872万8439円へ減少し、

その一方で令和6年3月末の決算公告では4億5960万1000円に増加しているように見えるなど、

不自然な推移がみられると指摘している。

さらに損益計算書上の数字を見ても、売上が下がっているのに販管費が増加していたり、決算報告書上で高額の役員報酬や役員退職金が計上されていたりするなど、

会社の実際のキャッシュフロー獲得能力が素直に反映されているとは評価しにくい事情に言及している。

そのうえで裁判所は、過去に本件株式をQ Technologiesへ譲渡したタウンストーリー株式会社と対象会社との間で株式の買取交渉等が行われていたことにも触れ、

その頃以降、株価がなるべく低く算定されるように意図した取引活動や会計処理が行われていた疑いも相当にある

とまで述べている。

ここは決定文の中でもかなり強い部分だ。

もちろん、これは裁判所が最終的に不正を断定した、という意味ではない。

だが少なくとも、提出された資料の範囲だけでは、参加人側がいうほど「将来収益が見込めず、純資産評価で低く出すしかない会社」とは認めがたい、という判断である。

8 では、最終的に何を基準にしたのか

インカム・アプローチは、必要資料が足りず困難。

純資産法も、その前提数字に強い疑問が残る。

ではどうするのか。

ここで裁判所が重視したのが、過去の実際の発行価格だった。

決定文によれば、プリベントメディカルでは、株式分割後の平成30年11月9日から令和2年4月10日までの間に、14回にわたりA種株式合計6280株が1株あたり5万円で発行されていた。

裁判所は、このような実際の発行事例は、過去の取引事例としてマーケット・アプローチの観点から一定の参考価値があると述べる。

もちろん、基準日までには一定の時間が経っている。だから、本来ならその間の会社価値の変動をきちんと見たい。

しかし、すでに見たように、その変動を正確に認定するための十分な資料が提出されていない。

そうである以上、裁判所は

期間の経過を参加人に有利に斟酌すべきではない

とし、

本件株式の価格として、上記発行価額である1株あたり5万円を採用するのが相当

だと結論づけた。

そして最終的に、

540株×5万円=2700万円

と決定したのである。

9 この決定が示す教訓

この事件は、未上場株をめぐる価格紛争の本質をよく示している。

第一に、未上場株の価格は、言い張るだけでは決まらない。

「将来伸びる会社だから高いはずだ」と言っても、事業計画や収益予測がなければ難しい。

逆に「そんな価値はない、純資産で見れば安い」と言っても、その前提数字の信用性や資料の開示状況が問われる。

第二に、資料を出さないことには代償がある。

価格を低く見せたい側が、基準日に近い財産状況やキャッシュフロー見通しを明らかにする資料を十分に出さない場合、裁判所はその不透明さをその側に有利には扱わない。

今回の決定は、そのことをかなり鮮明に示している。

第三に、過去の実際の発行価格は強い。

もちろん、常にそのまま採用されるわけではない。だが、将来収益評価も純資産評価も十分に固まらないとき、現実にその価格で発行されてきたという事実は、裁判所にとって非常に重要な拠り所になる。

10 結論

今回の東京地裁決定は、未上場会社の株価をめぐる争いに対し、極めて実務的で、同時に示唆に富む答えを示した。

プリベントメディカルは、本来なら将来収益を見て評価すべき継続事業会社と考えられた。

しかし、基準日に近い事業計画や十分な資料開示がなかったため、精密なインカム・アプローチは困難となった。

他方で、純資産ベースの低い評価にも不自然さや疑問が残った。

その結果、裁判所は、過去に現実にA種株式が発行されてきた1株5万円という数字を重視し、これを売買価格として採用した。

一言でいえば、この決定は、

未上場株の値段は、恣意ではなく、資料と説明責任、そして客観的な取引実績によって決まる

ということを示している。

未上場会社の株は、市場が価格を教えてくれない。

だからこそ、最後にものをいうのは、

「どんな資料があり、何が開示され、どこまで客観的に説明できるか」

なのである。


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