前回、金井康雄元裁判官(司法修習30期)の事例で、最高裁事務総局の人事局が握るブラックボックス的な人事運用が、裁判官の判決に影を落とす現実を指摘した。国や行政に不利な判決を繰り返せば、出世が遅れ、地方の小規模裁判所へ回される冷遇が実際に起きている——SlowNewsの連載「不思議な裁判官人事」第4回が暴いたように、同期比較でジワジワと差がつく「裁判官村」の閉鎖社会では、出世を意識した「安全判決」が選ばれやすい仕組みが実在する。
参考記事:https://note.com/slownewsjp/n/n812260192271
そんな司法界の“天下り先”とも言われるのが、東京都中央区築地一丁目4番5号にある一般財団法人司法協会だ。裁判官の退官後ポストとして機能し、元高裁長官らが理事長・評議員に名を連ねる。そこに名を連ねる一人、大門匡(だいもん・たすく)元裁判官(司法修習34期、1955年生まれ)も、エリートコースを歩んだ典型例である。
京大法卒、東京地裁部総括判事(民事部)を長く務め、最高裁家庭局課長、千葉・横浜・東京の各家裁所長を経て、2018〜2020年に広島高裁長官。2020年定年退官後、司法協会の理事・評議員に就任した。
彼のキャリアは順風満帆だが、東京地裁民事第2部裁判長時代(2000年代中盤)に下した判決には、国・行政側に極めて有利なものが目立つ。「出世を気にした安全志向の判断では?」という疑念が浮上するのも無理はない。
老齢加算廃止関連生存権訴訟(いわゆる「21世紀の朝日訴訟」)
判決日:2008年6月26日、東京地裁民事第2部(大門匡裁判長、岩井伸晃裁判長代読)
内容:生活保護の老齢加算廃止(2005年改正)に対する国家賠償・差止請求。高齢生活保護受給者(原告)が憲法25条生存権違反を主張。
判決:請求棄却(国側完全勝訴)。
理由:「老齢加算は高齢者に『特別な需要』が存在することを根拠にしているが、生活条件を無視せず適法」「不利益変更禁止の原則(生活保護法56条)も適用外」など。
評価:完全に行政(厚生労働省)側有利。原告側・支援団体からは「貧困と格差を拡大する政府の不当な政策を是認した」「生存権軽視の不当判決」と強く批判された。赤旗など左派メディアでも「廃止は違憲」の訴えを退けた行政寄り判断として報じられた典型例。
在留外国人関連国家賠償請求事件(複数事例で国側有利)
例:2002年12月20日、東京地裁民事第16部(大門匡裁判官の一員)
内容:退去強制・収容処分に対する国家賠償請求。
判決:一部20万円の賠償を認めるが、その余棄却(国側大部分勝訴)。精神的損害を一部認めたものの、行政処分の違法性を大幅に否定。
評価:国に有利な部分が大きく、原告の全面勝訴を防いだ形。入管行政の裁量を広く認める保守的判断。
HOYA株主総会決議取消請求訴訟
判決日:2011年4月14日、東京地裁(大門匡裁判長)
内容:HOYA創業家一族で少数株主の山中裕氏が、2010年6月18日の株主総会での取締役8人選任議案などの決議取消しを求めた民事訴訟。
判決:山中氏の請求を退け、棄却(会社側勝訴)。
評価:企業側(HOYA)の主張を認め、株主提案側の請求を退けた。株主総会決議の有効性を広く認める判断で、会社法務界では標準的だが、株主側からは「少数株主保護の観点で不十分」との声もあった。
これらの判決後、大門氏は東京地裁部総括を継続し、家裁所長→高裁長官とエリートコースを着実に進んだ。司法協会への天下りも、その延長線上にある。
SlowNewsが指摘するように、同期や後輩との比較で冷遇がわかる「ジワジワ差別」は現実だ。国に不利な判決を連発した藤山雅行氏(30期)が部総括8年塩漬け→地方所長回り道で定年を迎えたのに対し、大門氏のような行政寄り判断を積み重ねた裁判官は、順調に出世する。
個別の因果関係を100%証明するのは難しいが、元裁判官・瀬木比呂志氏の「長期間ジワジワ、同期比較でわかる差別」や井戸謙一氏の証言から、人事局の恣意性が司法の独立を脅かしているのは明らかだ。
大門匡氏の判決とキャリアは、司法協会のような退官後ポストが待つ“成功モデル”の象徴なのかもしれない。しかし、それが本当に公正な司法の結果なのか。国民の信頼を維持するためにも、最高裁人事のブラックボックスを直視し、疑問を投げかけ続ける必要がある。
さくらフィナンシャルニュース
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