日本を代表する飲料大手、アサヒグループホールディングスがランサムウェアによるサイバー攻撃の被害を受け、ビール生産や出荷業務が一時中断した事案で、ロシア系とされるハッカー集団「Qilin」がダークウェブ上のリークサイトで犯行を主張した。
集団は、約9300件以上のファイル、総計27ギガバイトに及ぶデータを盗み出したと公表。内容には財務資料、予算案、事業計画、従業員の個人情報などが含まれているとされる。
アサヒの幹部は8日、「主張の内容を確認しており、事実関係の検証を進めている」と述べた。
セキュリティ専門家によると、7日夜に公開された声明には、社内文書や従業員情報らしきサンプルのファイルが添付されていた。身代金額や交渉期限の詳細は現時点で明らかになっていない。
「Qilin」は2022年頃から活動を活発化させたRaaS（ランサムウェア・アズ・ア・サービス）型のグループで、日本企業を含む国内外の組織を繰り返し標的にしている。
Cisco Talosの調査によると、2025年上半期（1月～6月）だけで日本国内で確認された同グループの被害組織は8件に上り、全体の68件のランサムウェア事案で最多を記録。
前年比で被害が1.4倍に増加する中、製造業や中小企業が主な標的となっている。
専門家は「顧客データが含まれる可能性が高く、漏洩の拡散は企業信用の低下や法的責任を招く」と指摘し、SNSなどでのデータ共有を控えるよう呼びかけている。
アサヒは9月29日朝7時頃に攻撃を検知し、システム全体に障害が発生。10月3日には「データ流出の兆候を確認」と発表したが、被害範囲の詳細は調査中だ。
生産は10月2日から国内6工場で再開されたものの、注文受付や出荷は手作業中心で継続中であり、業務への影響が残っている。
類似事件の事例：Qilinの日本企業攻撃が急増
この事件は、Qilinによる日本企業への攻撃が2025年に加速する中で発生したもので、上半期だけで8件の確認被害を記録。
以下に主な類似事例を挙げる（Comparitech、Cisco Talos、Infosecurity Magazineの報告に基づく）。
- 新興プラスチック（Shinko Plastics） – 2025年6月：プラスチック製造大手がQilinの標的に。内部データの大規模流出が主張され、生産ラインの停止を招いた。サプライチェーンへの影響が懸念された。
- 日産クリエイティブボックス（Nissan Creative Box） – 2025年8月：日産の関連子会社が攻撃を受け、設計図や事業計画が盗まれたとQilinが公表。
自動車業界の機密情報漏洩として、業界全体のセキュリティ見直しを促す動きが広がった。 - 大崎医療機器（Osaki Medical） – 2025年8月：医療機器メーカーが被害に遭い、患者関連データを含むファイルの流出が懸念された。
プライバシー保護法違反のリスクが指摘され、医療分野の脆弱性が露呈した。 - 宇都宮セントラルクリニック – 2025年：がん治療専門の医療機関がQilinの攻撃で、最大30万人分の個人情報（患者の氏名、住所、病歴など）の漏洩可能性が浮上。診療システムのダウンが続き、患者対応に深刻な支障をきたした。
これらの事例から、Qilinは製造業や医療分野を重点的に狙い、データ窃取後の公開脅迫を武器に身代金を要求するパターンが顕著だ。
日本国内のランサムウェア被害は2025年上半期で前年比1.4倍（68件）に達し、中小企業が69%を占める。侵入経路の多くがVPNの脆弱性やフィッシングメールであるため、企業は多要素認証の導入や定期的なセキュリティパッチ適用を急ぐ必要がある。
この事件は、デジタル化が進む日本企業が直面するサイバーリスクの深刻さを象徴しており、業界全体での対策強化が求められている。
さくらフィナンシャルニュース
Youtubehttps://www.youtube.com/@sakurafinancialnews
この記事へのコメントはありません。