元プロボクサー袴田巖さん(88歳)が逮捕されたのは1966年8月18日。静岡県清水市(現・静岡市清水区)で子ども2人を含むみそ製造会社専務一家4人を殺害した疑いなどで逮捕された。逮捕から18日後、自白。この2カ月後に始まった公判で、袴田さんは自白を撤回し無罪を訴えたが、死刑判決が確定されてしまう。袴田さんは1980年に死刑が確定したあとも無実を訴え続けてきた。
10年前の2014年には再審を認める決定が出されるも、検察の不服申し立てを受けて決定が取り消されるなど司法に翻弄され続けたが、2023年3月にようやく再審開始が決まる。
2023年10月から再審がはじまり、あわせて15回の審理が行われ、ついに来る2024年9月26日。事件の発生から60年近くがたち長く求め続けた無罪判決が言い渡された。
〈証拠については3件の捏造を認める〉
國井恒志裁判長は「1年以上みそに漬けられた場合に血痕に赤みが残るとは認められず、『5点の衣類』は事件から相当な期間がたった後、捜査機関によって血痕を付けるなど加工され、タンクの中に隠されたものだ」と指摘、警察の捏造を裏付けた。
袴田さんの実家で見つかった衣類の切れ端についても「捜査機関によって捏造された」と言及。
また、袴田さんが自白した調書は「捜査機関の連携により、肉体的・精神的苦痛を与えて供述を強制する非人道的な取り調べによって獲得され、虚偽の内容を含む」と認められた。
判決を言い渡した國井恒志裁判長は袴田さんの姉のひで子さん(91歳)に対し「ものすごく時間がかかっていて、裁判所として本当に申し訳なく思っています」と言葉をつまらせながら謝罪した。
そして「確定するにはもうしばらくお待ちいただきたい。真の自由までもう少し時間がかかりますが、ひで子さんも末永く心身ともに健康であることを願います」と述べた。
検察官には無罪判決を不服として控訴する権利があることを説明。「裁判所は自由の扉を開けた。しかし、この扉は閉まる可能性もある。健やかにお過ごしください」と語り掛けた。
ひで子さんは閉廷したあとにハンカチで涙をぬぐっていた。
死刑確定事件の再審無罪は「島田事件」以来35年ぶりで、戦後5例目となる。検察側が控訴しない場合、事件から58年を経て袴田さんの無罪がようやく確定する。尚これまでの4例は検察が控訴せず無罪が確定している。
〈取り調べの音声テープがユーチューブに〉
この度、逮捕当日の音声テープが朝日新聞より9月25日ユーチューブにアップされている。その生々しい取り調べの模様が明らかにされた。
■逮捕1日目〜
袴田「お前らどうしても犯人だって仕立ててんだから。俺を。」
取調官「そんなお前、不貞腐れたようなこと言うんじゃないよ。」
袴田「不貞腐れたくもなるよおめえだろ?おめえだろ?って。自分がやったなら俺だって言うよ、男だよ?何でそんな事して生きながらえようと思うだよ!」
取調官「お前さんの重点にやってるわけでも何でも無いじゃん警察は。」
袴田「さっきそう言ってたじゃないか!あんた方いっぺんにずーっと今までやってただと。」
取調官「おめぇに対してもやるよ。お?他のAと言う男にもやるよ。Cと言う男にもやるよ。そらおめぇ捜査官が大勢だもんで当然のことなんじゃないの?」
袴田「そんなものは人間、あらゆるもの見つけてね、でっち上げようと思えばすぐでっち上げれるぜ。冗談じゃない、いつまでもこんな事したらまた新聞に何書かれて、どんなだか分からんけど、本当に俺の人生を無茶苦茶にしたのはあんたらだよ!一生忘れんぞ。」
取調官「うん。」
袴田「よくもやったな俺を。何とか真面目にやろうと思っているのに。あんた方こそ人殺しだよ。こうやって、真面目に働くって言っている人間を片っ端から責めて。絶対に忘れんからな。」
逮捕1日目、気丈に振る舞う袴田さん。
■逮捕11日目〜
捜査官が煽るように責め立てている。
捜査官A「謝れ謝れ袴田。迷うじゃないよ袴田。」
捜査官B「謝らんじゃしょうがないじゃないか、な?謝りなさいお前。手を上げ、合わして。おお?4人に手を合わして謝りなさい。ん?申し訳ないって、謝んなさいよ。ん?お前も人間じゃないか袴田。」
袴田「とにかく知らないよ俺は。」
捜査官B「知らないじゃ済まされないじゃないか。知らないっちゅうバカなこと言えんじゃないかこの際。なぁ。お前さんもう覚悟が出来てるわけじゃないか。どうして謝らないんだ?それが。ちゃんと(手)合わせてな、謝る気持ち無いのか袴田。知らないじゃ通さない、今晩は、いいか?知らないじゃ通さんぞ?」
袴田さんは日に日にと口数が少なくなっていく。
■逮捕18日目〜
取調官「まだ娑婆に未練があんのかお前は。な?もう諦めなさい。娑婆に未練はもう諦めなさい。はっきり言っといてやるから。ね?」
ここで袴田さんは泣いているのだろうか。
捜査官「泣いて、泣いて結構。一番よわーい、一番よわーい、袴田になるだよ。お前は4人を殺して火をつけた。4人を殺したんだ。4人をお前は殺したんだぞ?ええか?4人を刺し殺したんだ。4人を殺したんだぞ、お前、4人を。お前は4人殺した。4人殺したんだぞ。お前は。ええか。しかも主人を。無抵抗な人を。それもそのまま死体を焼こうと…」
お前は4人を殺したんだぞ、と休みなく言い続ける捜査官。これが当時の取り調べ、取り調べと言えるものだろうか。
この翌日袴田さんは自白してしまったのだ。
逮捕以降、袴田さんは否定し続けた。だが、追及は体調を崩してもやまず、取調室で小便もさせられていたという。
これを聞いた視聴者は「なぜ朝日新聞はもっと早く音声テープを公開しなかったんだ」「これじゃ誘導尋問だ」「酷い、犯人と決めつけている」と反響が押し寄せている。
☆出稿資料☆
「お前が4人を殺した」無実訴える袴田さんを厳しく追及 当時の取り調べ音声
袴田巌さん 再審で無罪判決 裁判長“時間かかり申し訳ない”
連載:なぜ死刑囚にされたのか 袴田さん事件の58年
第1回「お前は犯人だ」 責め立てる刑事、人物像から疑われた袴田巌さん
袴田さん再審無罪、死刑事件で5例目 地裁「証拠は捏造」
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