「紀州のドン・ファン」として知られる和歌山県田辺市の資産家、故野崎幸助さんの遺言書が有効であるかどうかに関する訴訟で、和歌山地裁(高橋綾子裁判長)は2024年6月21日遺言書が有効であると判断しました。この遺言書では、野崎さんが全財産を田辺市に寄付する意志を示していました。
野崎さんが死亡したのは2018年5月。その後に野崎さんの知人が預かっていたという一枚の文書が見つかりました。遺言書は赤いペンで手書きされ、
「いごん 全財産を田辺市にキフする野崎幸助」
と記されていたとされます。2013年2月8日付で自身の名前も記載された、生前に書かれたとされる遺言があることがわかりました。
野崎さんの実兄らは遺言書について、本人以外が作成した可能性が高い、と2020年4月、遺族らが遺言執行者の弁護士を相手取り、提訴偽造だと主張していましたが、裁判所はこれを退け、遺言書を有効と認めました。
資産家・野崎さんの遺産総額は13億円を超えるとされていました。
〈争点の1つは『筆跡』主張は真っ向から対立〉
裁判で、親族側が証拠の一つとして出しているのが「筆跡鑑定」です。野崎幸助さんが書いたとされる手書きのメモや、公正証書へのサインなど、複数の筆跡から鑑定した結果が提出されています。
親族側は、野崎さんの「野」の文字に注目すると、「いごん」に書かれた文字と、別の資料の文字で、一画目と二画目の長さのバランスが違う点、形に違いが見られる点等があり、「遺言書は野崎さんが書いたものではない」と主張していました。
一方、田辺市側が出した資料では、「いごん」に書かれたフルネームと、野崎さんが営んでいた貸金業で、債務者に送った督促状の本人直筆によるフルネームを比較しています。
田辺市側は「全ての文字で、筆跡の特徴が一致している」と主張していて、特に『野』の字については、
左側の『里』が頭でっかちで、
右側の『予』の文字が続け字で記載され、
ひらがなの『ろ』の形状に似ているとしています。
こうした資料をもとに、田辺市側は、「遺言書は野崎さん本人によるもの」と主張しました。
和歌山地裁は21日に行われた判決で「筆跡の鑑定書などから筆跡には筆の癖など個人の変動は大きいものの、野崎さん固有の筆跡、資料に恒常的に表れている筆の癖などが認められることから、遺言書と対照資料と同一人物であると結論付けていて、野崎さんの筆跡とみて相違ない」などと指摘しました。
また、「野崎さんは長年に渡り、田辺市に対して1000万円を超える寄附を行っており、それを継続する意向を示す発言などをしていたことや、一連の言動は十数億円の資産すべてを最も近しい寄付先等であり、地元であった田辺市に遺贈するという内容とは矛盾しない」等として、原告の訴えを退ける判決を言い渡しました。
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