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ディスコは、砥石を売ったのではない。 半導体を“切る・削る・磨く”技術を、    世界最強級の利益に変えた会社だった                        創業家3代目・関家一馬が磨き上げた、超精密加工企業の経営モデル

日本企業の中には、一般消費者にはあまり知られていないにもかかわらず、世界の産業を根底から支えている会社がある。

その代表格が、ディスコである。

ディスコと聞くと、音楽のディスコや、コミュニケーションアプリのDiscordを思い浮かべる人もいるかもしれない。

しかし、ここでいうディスコは、半導体製造装置の世界で圧倒的な存在感を持つ日本企業である。

半導体を切る。

半導体を削る。

半導体を磨く。

この一見地味な工程を、世界最先端の技術領域にまで高めた会社がディスコである。

スマートフォン、パソコン、自動車、AIサーバー、データセンター、家電、産業機械。

現代社会のあらゆる場所に半導体が使われている。

その半導体は、ただ設計され、ただ製造されるだけでは完成しない。

ウェーハを薄く削り、精密に切断し、必要な形に加工し、微細なチップとして取り出す必要がある。

この工程でわずかなズレが起これば、製品は不良になる。

割れ、欠け、汚れ、歪み、厚さのばらつき。

そうした小さな誤差が、巨大な損失につながる。

だからこそ、半導体製造において「切る・削る・磨く」は、単なる周辺工程ではない。

むしろ、製品の歩留まり、性能、コスト、品質を左右する、極めて重要な工程である。

ディスコは、そこを握った。

そして、この会社を現在の姿へ進化させた中心人物の一人が、創業家3代目の関家一馬氏である。

## 創業は1937年、広島県呉市の砥石メーカーから始まった

ディスコの歴史は、半導体から始まったわけではない。

創業は1937年。

創業者は関家三男氏。

広島県呉市阿賀町で、第一製砥所としてスタートした。

当初の事業は、ビトリファイド研削砥石の製造販売だった。

砥石である。

今のディスコを知る人からすると、半導体製造装置の最先端企業が、砥石メーカーから始まったというのは意外に見えるかもしれない。

しかし、この「砥石」という原点こそ、ディスコの本質である。

砥石とは、ものを削るための道具である。

金属を削る。

形を整える。

表面を仕上げる。

精度を出す。

製造業において、削る、切る、磨くという工程は、極めて基本的でありながら、極めて奥が深い。

荒く削ればよいわけではない。

ただ切れればよいわけではない。

ただ表面をきれいにすればよいわけではない。

どの素材を、どの厚さで、どの速度で、どの精度で、どれだけダメージを少なく加工するか。

そこに技術がある。

ディスコの強さは、まさにこの「加工の精度」に対する執念から始まっている。

## 砥石から、超精密加工へ

ディスコは、創業当初からいきなり半導体企業だったわけではない。

戦前・戦後の日本の製造業の中で、砥石、切断、研削、加工の技術を磨いていった会社である。

その後、産業の高度化とともに、求められる加工精度はどんどん高くなっていく。

単に金属を切るだけではない。

より薄く、より小さく、より精密に、よりダメージを少なく加工する必要が出てくる。

この流れの中で、ディスコは「砥石の会社」から「精密加工の会社」へと進化していった。

そして、半導体産業の成長が、その技術を一気に重要なものにした。

半導体は、極めて微細な世界で作られる。

ウェーハと呼ばれる円盤状の基板の上に、微細な回路が形成される。

そのウェーハを、最終的には一つひとつのチップに切り分けなければならない。

さらに、用途によってはウェーハを薄く削る必要がある。

表面を高精度に磨く必要もある。

つまり、半導体製造では、「切る・削る・磨く」が避けて通れない。

しかも、その精度は極めて厳しい。

ただ切れればよいのではない。

割れてはいけない。

欠けてはいけない。

熱や応力でダメージを与えてはいけない。

薄くしすぎてもいけない。

厚さがばらついてもいけない。

ここでディスコの技術が生きる。

砥石から始まった会社が、半導体の超精密加工という最先端分野に接続されたのである。

## ディスコは「半導体の急所」を握った会社である

半導体業界では、設計や露光装置が注目されやすい。

たとえば、最先端半導体の回路設計。

EUV露光装置。

ファウンドリー。

AI半導体。

GPU。

先端パッケージング。

こうした言葉は、ニュースでもよく語られる。

しかし、半導体は設計しただけでは製品にならない。

露光しただけでも完成しない。

最後には、実際の物理的な加工が必要になる。

薄くする。

切り分ける。

磨く。

検査する。

壊さずに取り出す。

この工程は、非常に地味に見える。

だが、ここで失敗すれば、それまでの工程に投じた時間もコストも台無しになる。

つまり、ディスコが担う工程は、半導体製造の中でも「絶対に失敗できない工程」である。

最先端の半導体ほど、加工は難しくなる。

チップは小さくなる。

ウェーハは薄くなる。

素材は多様化する。

高性能化すればするほど、加工の難易度は上がる。

難しい加工ほど、付加価値は高くなる。

ここに、ディスコのビジネスモデルの強さがある。

ディスコは、単に装置を売っているのではない。

半導体メーカーが抱える「加工できない」「割れる」「薄くできない」「歩留まりが上がらない」という困りごとを解決している。

だから高い価値を持つ。

だから高い利益を生む。

だから世界の半導体産業に必要とされる。

## 関家一馬氏とは何者か

関家一馬氏は、ディスコ創業家の3代目にあたる人物である。

祖父は創業者の関家三男氏。

父はディスコの成長を支えた関家憲一氏。

そして関家一馬氏は、ディスコを現代の半導体時代にさらに適応させた経営者である。

関家一馬氏は1966年生まれ。

慶應義塾大学理工学部を卒業後、1989年にディスコへ入社したとされる。

その後、技術開発や経営に関わり、2009年に社長に就任した。

関家一馬氏の特徴は、単に創業家出身というだけではない。

ディスコという会社を、技術だけの会社ではなく、独自の価値観と経営システムを持つ会社へ進化させた点にある。

ディスコには、強い技術がある。

しかし、技術だけでは会社は強くならない。

技術をどう商品にするか。

顧客の困りごとをどう見つけるか。

社員の行動をどう変えるか。

部門間の壁をどうなくすか。

会社全体をどう強くするか。

関家一馬氏は、この「会社の動かし方」に強い関心を持った経営者である。

## ディスコの本質は「Kiru・Kezuru・Migaku」

ディスコを理解するうえで最も重要な言葉がある。

それが、

**Kiru・Kezuru・Migaku**

である。

切る。

削る。

磨く。

これがディスコの事業領域である。

非常にシンプルである。

しかし、このシンプルさが強い。

多くの会社は、成長しようとして事業領域を広げすぎる。

あれもやる。

これもやる。

流行の分野に入る。

本業と関係の薄い事業に手を出す。

その結果、何の会社なのか分からなくなる。

ディスコは違う。

自分たちは何をする会社なのか。

どこで価値を出す会社なのか。

どの技術を磨き続ける会社なのか。

それを「Kiru・Kezuru・Migaku」に絞っている。

この絞り込みが、ディスコの強さである。

半導体市場は大きい。

だが、すべての工程を取りに行くわけではない。

露光装置をやるわけではない。

設計をやるわけではない。

メモリを作るわけではない。

ロジック半導体を製造するわけでもない。

自分たちが勝てる領域に集中する。

切る。

削る。

磨く。

この領域を徹底的に深掘りする。

その結果、ディスコは、半導体製造工程の中で不可欠な存在になった。

## 「狭く深く」が、世界企業をつくった

ディスコの成功は、「狭く深く」の成功である。

広い市場を浅く取ったのではない。

狭い領域を極限まで深く掘った。

これは、キーエンスとも共通する。

キーエンスは、センサや測定器を通じて、製造現場の課題解決に集中した。

ディスコは、切断・研削・研磨という超精密加工に集中した。

どちらも、派手な消費者向けビジネスではない。

しかし、顧客にとっては絶対に必要な領域を握っている。

ディスコの場合、半導体メーカーが製造工程を高度化すればするほど、加工の難易度は上がる。

ウェーハが薄くなる。

チップが小さくなる。

素材が硬くなる。

パッケージが複雑になる。

歩留まりへの要求が高まる。

そのたびに、ディスコの技術の価値は上がる。

つまり、半導体産業が進化すればするほど、ディスコの存在感も高まる構造になっている。

これは非常に強い。

流行に乗った会社ではない。

産業の深部に入り込んだ会社である。

## Will会計という独自の経営システム

ディスコを語るうえで、技術と並んで重要なのが、独自の経営管理である。

その代表が、Will会計である。

Will会計とは、ディスコ独自の管理会計制度で、社内の活動や部門間のやり取りを見える化する仕組みとして知られている。

普通の会社では、部門間の協力や迷惑は、なかなか数字に表れない。

営業が急な納期変更をする。

製造部門がその対応に追われる。

開発部門が無理な仕様変更を受ける。

管理部門が見えないところで調整する。

こうした「誰かの負担」は、普通の会計では見えにくい。

その結果、ある部門だけが得をして、別の部門が苦しむことがある。

全体最適ではなく、部門最適になってしまう。

Will会計は、こうした問題を見える化しようとする仕組みである。

他部門に良い影響を与えた行動には価値がつく。

逆に、他部門に負担をかける行動にはコストが発生する。

つまり、社内に小さな市場のような仕組みを入れることで、社員一人ひとりが「自分の行動が会社全体にどんな影響を与えるのか」を意識するようにしている。

これは非常に面白い。

単に「協力しましょう」と言うだけでは、人は変わらない。

「全社最適で考えましょう」と言うだけでも、なかなか行動は変わらない。

ディスコは、それを制度にした。

行動が数字になる。

負担が見える。

貢献が見える。

だから、社員が自分で考える。

関家一馬氏の経営の特徴は、こうした「人の意識を変える仕組み」をつくるところにある。

## DISCO VALUESと価値観経営

ディスコには、DISCO VALUESという価値観の体系もある。

企業理念や価値観は、多くの会社に存在する。

しかし、問題は、それが本当に社員の行動に落ちているかである。

壁に貼られているだけ。

入社式で読むだけ。

ホームページに載っているだけ。

実際の仕事では使われていない。

そういう会社は少なくない。

ディスコの場合、価値観を単なる飾りにしない。

日々の仕事、評価、意思決定、社内制度と結びつける。

これが「価値観経営」である。

企業が強くなるには、戦略だけでは足りない。

技術だけでも足りない。

優秀な人材を採用するだけでも足りない。

社員が何を大切にし、どのように判断し、どう行動するか。

その基準が組織の中で共有されている必要がある。

ディスコは、この価値観を明文化し、制度化し、経営に組み込んでいる。

ここに、関家一馬氏の経営者としての個性がある。

## PIM活動と「会社を強くする」思想

ディスコには、PIM活動という取り組みもある。

PIMは、Performance Innovation Managementの略として知られる。

簡単に言えば、会社のパフォーマンスを高めるための改善活動である。

ただし、一般的な改善活動とは少し違う。

単なる現場改善ではない。

単なるコスト削減でもない。

単なる業務効率化でもない。

自分たちの仕事を見直し、より良いやり方を考え、会社全体を強くするための活動である。

製造業には、改善という文化がある。

トヨタ生産方式のように、現場改善を積み重ねる企業も多い。

ディスコのPIM活動も、その意味では日本的な改善文化に通じる部分がある。

しかし、ディスコの場合、それを自社独自の価値観やWill会計と結びつけている点が特徴である。

会社を強くする。

部門を強くする。

個人の仕事を強くする。

顧客への価値を高める。

こうした考えが、制度として組み込まれている。

つまり、ディスコは技術だけで勝っている会社ではない。

組織の動かし方でも勝っている会社である。

## 半導体ブームに乗っただけではない

近年、半導体関連企業は大きく注目されている。

AIブーム。

生成AI。

データセンター投資。

EV。

自動運転。

スマートフォン。

地政学リスク。

半導体サプライチェーンの再編。

こうした流れの中で、半導体製造装置メーカーの価値も高まっている。

しかし、ディスコを単なる「半導体ブーム銘柄」と見るのは浅い。

ディスコの強さは、短期的なブームに乗ったものではない。

長い年月をかけて、切る・削る・磨くという領域を磨き続けた結果である。

砥石から始まり、精密加工へ進み、半導体製造装置へ進化した。

その歴史があるから、現在の半導体時代に必要とされている。

つまり、時代がディスコに追いついた面もある。

AIが伸びる。

半導体需要が増える。

チップが高度化する。

パッケージが複雑化する。

加工の難易度が上がる。

そのたびに、ディスコの「Kiru・Kezuru・Migaku」の価値が高まる。

これは、非常に強いポジションである。

## 関家一馬氏から学べること

関家一馬氏の経営から学べることは多い。

第一に、事業領域を絞ることの強さである。

ディスコは、何でもやる会社ではない。

切る、削る、磨く。

この領域を徹底的に深めた。

第二に、地味な工程にこそ価値があるということである。

半導体業界では、設計や露光のような派手な領域が注目される。

しかし、実際には切断、研削、研磨のような工程が、品質と歩留まりを左右する。

地味でも、顧客にとって不可欠な領域を握れば、強い会社になれる。

第三に、技術と経営システムを両立させることである。

技術だけでは会社は強くならない。

制度だけでも勝てない。

技術、価値観、管理会計、改善活動、社員の行動が結びついて初めて、強い組織になる。

第四に、創業家経営の進化である。

創業家企業には、良い面も悪い面もある。

閉鎖的になれば、ガバナンス上の問題を抱える。

しかし、長期的な視点、技術への執念、企業文化の継承という点では強みもある。

関家一馬氏は、祖父から始まった砥石メーカーのDNAを、現代の半導体産業へ接続した経営者である。

## 結論――ディスコは「見えない加工工程」を利益に変えた会社だった

ディスコは、砥石を売ったのではない。

半導体を“切る・削る・磨く”技術を、世界最強級の利益に変えた会社だった。

この一文に、ディスコの本質がある。

ディスコの仕事は、一般消費者からは見えにくい。

スマホの中にも、AIサーバーの中にも、自動車の中にも、ディスコの名前は書かれていない。

しかし、その中に入っている半導体を作る過程で、ディスコの技術が使われている。

見えない工程。

しかし、絶対に必要な工程。

失敗すれば巨額の損失につながる工程。

そこに価値を見つけ、技術を磨き、事業を集中し、組織の仕組みを整えた。

創業者・関家三男氏が始めた砥石メーカーは、関家憲一氏の時代を経て、関家一馬氏のもとで、半導体時代の超高収益企業へと進化した。

キーエンスが、センサを売ったのではなく、製造現場の“困った”を利益に変えた会社だったとすれば、ディスコは、砥石を売ったのではなく、半導体製造の“絶対に失敗できない加工工程”を利益に変えた会社である。

派手な会社ではない。

しかし、強い会社である。

目立たない工程を、世界的な価値に変える。

地味な技術を、圧倒的な利益に変える。

創業家の技術DNAを、現代の半導体産業へつなげる。

それが、ディスコという会社であり、関家一馬氏が磨き上げてきた経営モデルなのである。

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