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【政治評論】なぜ弁護士会はリベラルに傾くのか                          「人権」を政治化する日弁連の構造

芸能ライター・山本武彦

「弁護士にはリベラル派が多い」。この指摘に対して、必ず「思想調査の統計がない」と反論する人がいる。

全弁護士の政治思想を測った全国統計などはない。だから、左派ばかりだと言うのは乱暴だろう。

しかし、日弁連や各地の弁護士会で政策を主導し、声明を出し、会長や役員を送り出す層に限れば、リベラル派が多いと見るほかない。

死刑廃止、選択的夫婦別姓、安保法制反対、入管政策、刑事司法改革。日弁連が繰り返し前面に掲げてきたテーマは、保守とリベラルが正面から対立する政治争点ばかりである。

問題は、弁護士が政治的意見を持つことではない。強制加入の職能団体が、特定の政策的立場を「人権」「社会正義」という言葉で包み、あたかも法曹界の総意であるかのように国民へ示してきたことにある。

弁護士は、刑事事件では被疑者・被告人を、労働事件では解雇された労働者を、行政事件では処分を争う市民を支える。

国家権力や大企業の暴走を警戒する職業文化が生まれるのは当然だ。

だが、本来は個人の権利を守るための職業倫理が、いつしか特定の政策パッケージを正当化する政治思想へと変質してはいないか。

権力を疑うことと、国家の役割を過小評価することは違う。

刑事手続を適正化することと、被害者感情や治安維持への国民的要請を軽く扱うことも違う。

少数者を保護することと、反対論を「人権に鈍感な側」として退けることも違う。

しかし、日弁連の声明には、ときにこの境界が曖昧になる。

選択的夫婦別姓をめぐって日弁連は、現行制度を「人権侵害」と位置付け、全国の弁護士会・弁護士会連合会が導入を求める意思を示したと発信している。これは単なる法的論点の提示ではない。

制度選択をめぐる政治的対立の一方に、組織として明確に立ったということだ。

選択的夫婦別姓に賛成する弁護士は多いだろう。

だが、反対する弁護士、慎重な弁護士、旧姓使用の拡大で足りると考える弁護士も当然いるはずだ。

にもかかわらず、組織声明が「人権侵害」という強い言葉を使えば、異論は事実上、後ろ向きな立場として処理されかねない。

ここに、強制加入団体としての危うさがある。

死刑制度も同じだ。

日弁連は死刑廃止を含む刑罰制度改革を掲げ、実現へ向けた活動を続けている。

冤罪の危険、国家が生命を奪うことの重さを論じること自体は重要である。

だが、死刑制度は、凶悪犯罪の被害者遺族、治安、応報感情、国民の法感覚まで含む極めて重い政治・社会問題だ。

そこに専門家団体が踏み込むなら、「法曹だから正しい」という態度では足りない。

賛否が割れる政策問題を、人権の名の下に単線的な正解として発信する姿勢は、専門性ではなく政治性の表れである。

また弁護士会には会派という構造がある。

会派は親睦団体では終わらない。

人材育成、人事推薦、政策立案、選挙支援を通じ、会務を担う人物を継続的に送り出す。

日弁連会長は直接選挙で選ばれるが、候補者として名前が上がるまでには、委員会、会派、単位会、同期、事務所などで長年の信頼を築く必要がある。

つまり、選挙の前に人材の選抜は始まっている。

会議に出る。

声明を書く。

委員会を動かす。

後輩を育てる。

そうした会務に熱心な弁護士ほど、組織内で影響力を持つ。そして、憲法、人権、刑事司法、ジェンダー、労働政策に強い関心を持つ層ほど、その会務の中核に残りやすい。

これが、弁護士会におけるリベラル人材の再生産構造である。

本質は、誰が会務に入り、誰が声明を書き、誰が後進を育て、誰が役員候補になるのかという組織内の循環だ。

強制加入団体の政治的活動には、慎重さが求められる。

最高裁も、税理士会による政治献金をめぐる事件で、強制加入団体の会員に対する思想・信条の自由への配慮を重く見た。

弁護士会にその判決が直接適用されるわけではない。

だが、職能団体が会員の多様な政治意見を当然のように代表できるわけではない、という原則は見落とせないだろう。

弁護士自治は、国家から独立して人権を守るためにある。

政治的な自己正当化のためにあるのではない。

日弁連と弁護士会が問われるべきなのは、リベラルな政策を掲げる自由があるかどうかではなく、強制加入の組織として、異論をどう扱うのか。

声明の決定過程をどこまで透明にするのか。

会員の少数意見を公表する仕組みをつくるのか。

その説明責任である。

「人権」は議論を封じる切り札ではない。

権力を縛るための原理であり、職能団体が政治的偏りを免罪するための便利な看板でもない。

弁護士会がリベラルに傾く構造を見直さない限り、日弁連は法曹界の代表ではなく、特定の政治的価値観を強く代弁する圧力団体に近づいていくだろう。

Wikipedia・基礎情報

日本弁護士連合会

日弁連の沿革、組織、活動内容などを確認するための基礎資料です。

Wikipedia「日本弁護士連合会」

弁護士会

弁護士が所属する単位弁護士会や、弁護士会制度の概要を確認できます。

Wikipedia「弁護士会」

弁護士自治

国家から独立して弁護士資格や懲戒などを管理する「弁護士自治」の考え方に関する項目です。

Wikipedia「弁護士自治」

選択的夫婦別姓制度

制度の概要、法改正をめぐる議論、最高裁判決などを確認できます。

Wikipedia「選択的夫婦別姓制度」

日本の死刑制度

日本における死刑制度や、廃止・存置をめぐる論点の基礎資料です。

Wikipedia「日本における死刑」

南九州税理士会事件

強制加入団体が政治献金目的の特別会費を徴収したことの適法性が争われた最高裁判例です。

Wikipedia「南九州税理士会事件」

最高裁は、強制加入団体である税理士会が政党などへの政治献金を目的として会員から特別会費を徴収することについて、税理士会の目的の範囲外であり、決議は無効だと判断しました。本文の「会員の思想・信条への配慮」という論点に最も直接関係する判例です。

日弁連の公式資料

日弁連公式サイト

日弁連の組織、会長声明、意見書、決議、活動内容などを検索できます。

日本弁護士連合会公式サイト

選択的夫婦別姓制度の導入を求める意見書

日弁連が2021年8月に取りまとめた公式意見書です。民法750条を改正し、希望する夫婦が婚姻前の氏を維持できる制度の導入を求めています。

日弁連「選択的夫婦別姓制度の導入を求める意見書」

選択的夫婦別姓制度に関する日弁連の活動

日弁連が選択的夫婦別姓を、氏名や個人の尊厳に関わる人権問題として位置付けていることを確認できます。

日弁連「選択的夫婦別姓制度」

改めて選択的夫婦別姓制度の速やかな導入を求める会長声明

2025年10月15日の会長声明です。現行の夫婦同氏制について「憲法に違反する人権問題」とする日弁連の立場が示されています。

日弁連「改めて選択的夫婦別姓制度の速やかな導入を求める会長声明」

旧姓の通称使用の法制化に反対する会長声明

2026年3月26日の声明です。旧姓使用の拡大ではなく、選択的夫婦別姓制度そのものの導入を求める立場が示されています。本文の「旧姓使用の拡大で足りるという意見との対立」を示す資料として使えます。

日弁連「旧姓の通称使用の法制化に反対し、改めて選択的夫婦別姓制度の導入を求める会長声明」

死刑制度の廃止について

日弁連が死刑廃止と、死刑に代わる刑罰制度の検討を進めていることを確認するための公式ページです。

日弁連「死刑制度の廃止について」

安保法制に反対する日弁連の宣言

日弁連は2016年の宣言で、安全保障法制に反対し、立憲主義と民主主義の回復を求めました。本文で「保守とリベラルが対立する政治争点に組織として立場を示してきた」と論じる際の一次資料になります。

日弁連「安保法制に反対し、立憲主義・民主主義を回復するための宣言」

安保法制施行に抗議する会長声明

安保法制が憲法前文や憲法9条の恒久平和主義に反するなどとする、日弁連の公式見解です。

日弁連「安保法制施行に抗議しその適用・運用に反対する会長声明」

法令・判例資料

弁護士法

弁護士会と日弁連の法的根拠、弁護士登録、懲戒、会則などを確認できます。

e-Gov法令検索「弁護士法」

特に、弁護士会については第31条以下、日弁連については第45条以下が参考になります。

日本国憲法第19条

思想及び良心の自由を保障する条文です。強制加入団体が会員の政治的立場をどこまで代表できるのかという問題の基礎になります。

e-Gov法令検索「日本国憲法」

南九州税理士会政治献金事件

判決は1996年3月19日、最高裁第三小法廷によるものです。税理士会が政治団体への寄付を目的として特別会費を徴収した決議について、強制加入団体としての性格や会員の思想・信条との関係が問題となりました。

京都産業大学・判例資料「南九州税理士会事件上告審」

文末掲載用の短縮版

そのまま記事末尾へ掲載する場合は、次の8本程度に絞ると読みやすくなります。

参考資料・関連リンク

・日本弁護士連合会公式サイト

・Wikipedia「日本弁護士連合会」

・e-Gov法令検索「弁護士法」

・日弁連「選択的夫婦別姓制度の導入を求める意見書」

・日弁連「死刑制度の廃止について」

・日弁連「安保法制に反対し、立憲主義・民主主義を回復するための宣言」

・Wikipedia「南九州税理士会事件」

・京都産業大学「南九州税理士会事件上告審」

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