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【司法の頽廃を撃つ】森まさこ元法務大臣に問われる政治責任            再審法を語るなら、まず検察行政をめぐる自らの在任期を総括せよ

近年、再審法改正をめぐる議論が活発化している。

袴田事件をはじめ、長年にわたり冤罪を訴え続けてきた人々の存在は、日本の刑事司法に重い問いを突きつけている。再審開始のハードル、証拠開示の不十分さ、検察官抗告のあり方、裁判所の消極姿勢。いずれも、日本の司法が避けて通れない制度課題である。

その再審制度改革について、元法務大臣の森まさこ氏も発言を重ねている。2024年5月の参議院法務委員会では、森氏が法務大臣当時に設置した「法務・検察行政刷新会議」に触れ、検察官の倫理、法務行政の透明化、刑事手続の国際的理解などについて質問している。

もちろん、再審法改正そのものは重要である。冤罪救済の制度を整えることは、国家の根幹に関わる課題だ。

しかし、森氏が司法改革を語るのであれば、避けて通れない問題がある。

それは、森氏自身が法務大臣だった時期に、検察行政をめぐる重大な混乱が起きたという事実である。

森氏は、2019年から2020年にかけて法務大臣を務めた。当時、日本の法務・検察行政は、黒川弘務・東京高検検事長の定年延長問題、検察庁法改正案への批判、黒川氏の賭けマージャン問題などを通じて、大きく揺れた。衆議院に提出された森法務大臣不信任決議案の理由にも、森氏の閣議請議に基づき、安倍内閣が黒川氏の定年延長を決定したことが明記されている。

この経緯を抜きにして、森氏が「司法改革」や「冤罪救済」を語ることはできない。

法務大臣には「検察を監督する権限」がある

法務大臣は、単なる法務官僚の代弁者ではない。

検察は強大な権限を持つ。捜査し、起訴し、個人の人生を大きく左右する。だからこそ、検察権力には統制が必要である。

その制度的な根拠の一つが、検察庁法第14条である。同条は、法務大臣が検察官の事務に関し、検察官を一般に指揮監督できると定めている。ただし、個々の事件の取調べまたは処分については、検事総長のみを指揮できるという制限も置かれている。

つまり、法務大臣には、検察行政全体を監督する政治的責任がある。

もちろん、指揮権は極めて重い権限である。戦後政治史においても、個別事件への指揮権発動は非常に慎重に扱われてきた。検察の独立を不当に侵害してはならないからだ。

しかし、それは法務大臣が何もしなくてよいという意味ではない。

検察行政の信頼が揺らいだとき、法務大臣は何を把握し、どのような説明をし、どのような制度的対応を取ったのか。そこが問われる。

森氏の在任期には、まさに検察行政の信頼が大きく揺らいだ。

黒川氏の定年延長問題では、検察官に国家公務員法上の定年延長規定を適用できるかどうかが争点となり、政府の解釈変更や手続きの透明性が厳しく批判された。法律家団体の抗議声明では、法務省・人事院の正規の決裁を経ないまま長年の法解釈を無視したのではないかという批判や、森氏の答弁との整合性をめぐる問題も指摘されている。

こうした重大局面で、法務大臣は単なる説明者ではなく、検察行政の信頼回復に責任を持つ立場だったはずである。

「指揮権不発動」をどう総括するのか

ここで問われるのは、森氏が指揮権を発動すべきだったかどうかという、単純な二択ではない。

個別事件に対する指揮権発動は、政治介入との紙一重であり、軽々に求めるべきものではない。むしろ、むやみな指揮権発動は、検察の独立性を損ないかねない。

しかし、それでもなお、森氏には説明責任がある。

なぜ、あの局面で法務大臣としてどのような監督権限を行使したのか。

なぜ、検察行政の透明性を確保するために、どのような調査や記録化を命じたのか。

なぜ、国民が納得できる形で、黒川氏の定年延長問題の経緯を説明できなかったのか。

なぜ、検察行政への信頼回復が後手に回ったのか。

森氏が現在、再審法や冤罪救済を語るのであれば、まずこの在任期の総括が必要である。

再審法改正を語ること自体は歓迎されるべきだ。

しかし、自らが法務大臣として直面した検察行政の危機について十分な反省と説明がないまま、制度改革の旗手のように振る舞うなら、その言葉は軽く見られてしまう。

政治家の言葉には、過去の行動がついて回る。

森氏が設置した刷新会議の限界

森氏は法務大臣在任中、法務・検察行政刷新会議を設置した。

同会議の報告書によれば、森前大臣は、会議の設置にあたり、①検察官の倫理、②未来志向での法務行政の透明化、③日本の刑事手続について国際的な理解が得られるようにするための方策、という三つの柱を示したとされている。

この点だけを見れば、森氏が何も対応しなかったとは言えない。

検察行政の信頼回復に向けた制度的な場を設けたことは、一定の対応ではあった。

しかし、その中身は十分だったのか。

弁護士ドットコムは、刷新会議の報告書について、検察官の倫理規範や文書管理、被疑者取調べへの弁護人立会いなどについて意見が盛り込まれた一方、取調べの弁護人立会いについては、刑事司法制度全体の在り方として今後の検討を求めるにとどまったと報じている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチも、日本の「人質司法」に関する報告で、森氏のもとで設置された会議は、刑事手続について両論併記にとどまり、改革を先送りする内容だったと批判的に評価している。

つまり、刷新会議は存在した。

だが、検察行政や刑事手続の根本改革に十分踏み込んだのかについては、強い疑問が残る。

森氏が今、再審法改正を語るならば、この会議の限界をどう見るのかも問われる。

自分が設置した会議は、何を変え、何を変えられなかったのか。

なぜ刑事手続改革は十分に進まなかったのか。

なぜ取調べの弁護人立会いや証拠開示の問題は、なお未解決のまま残ったのか。

この問いに答えずして、再審法改正の正義を語ることはできない。

司法改革を語る政治家に必要な「自己検証」

森氏に限らず、司法改革を語る政治家に必要なのは、制度論だけではない。

自己検証である。

法務大臣経験者が司法制度を語るなら、その発言には重みがある。

しかし同時に、その在任中に何をしたのか、何をしなかったのかも問われる。

再審法改正は必要である。

冤罪救済も必要である。

証拠開示の拡充も必要である。

検察官抗告の制限も重要な論点である。

だが、それらを語るなら、検察行政への政治的責任をどう考えるのかを避けてはならない。

森氏は、法務大臣時代に黒川氏の定年延長問題で強い批判を受けた。衆議院の不信任決議案では、森氏の閣議請議に基づき黒川氏の定年延長が決定されたことや、黒川氏を検事総長に任命することも可能とする答弁書が閣議決定されたことが問題視されている。

この経緯について、森氏がどこまで自らの政治責任を認めるのか。

何が適切で、何が不十分だったのか。

法務省と検察庁の関係を、どのように改革すべきだったのか。

ここを語らないまま「再審法が重要だ」と言っても、それは正しいが不十分である。

「制度の不備」だけに責任を押し込めてはならない

再審制度に不備があることは事実である。

再審請求審における証拠開示が不十分であれば、冤罪被害者は救済されにくい。

検察官抗告が再審開始を長期化させれば、救済はさらに遅れる。

裁判所が過去の有罪判断を覆すことに消極的であれば、制度は形骸化する。

しかし、冤罪や司法不信は、制度だけで起きるわけではない。

検察の証拠管理。

取調べの可視化。

弁護人立会い。

検察官の倫理。

公文書管理。

法務行政の透明性。

法務大臣による検察行政の監督。

裁判所の事実認定能力。

これらが複合的に関わっている。

したがって、再審法改正を語るなら、検察行政全体の統治構造にも踏み込まなければならない。

森氏の問題は、そこにある。

法務大臣として検察行政の危機に直面した人物が、のちに再審法改正を語ること自体はよい。

しかし、その場合、自らの在任期の問題を総括する責任が増す。

「制度が悪かった」と語るだけでは不十分である。

「自分はその制度を預かる立場で何をしたのか」まで語らなければならない。

指揮権は乱用すべきでない。だが、監督責任は消えない

改めて確認しておきたい。

本紙は、法務大臣が安易に個別事件へ指揮権を発動すべきだと主張するものではない。

検察の独立性は重要であり、政治権力による捜査介入は厳しく警戒されるべきである。

しかし、指揮権を発動しないことと、法務大臣が何もしないことは違う。

法務大臣には、検察行政を一般に指揮監督する権限がある。

個別事件への介入には慎重であるべきだとしても、制度、倫理、文書管理、透明性、説明責任については、政治責任をもって改革を進めるべき立場にある。

黒川氏の問題をめぐって国民の検察不信が高まった時期、森氏はその責任ある立場にいた。

その経験を踏まえて再審法改正を語るなら、森氏がまず行うべきは、在任期の検証である。

どの権限を行使したのか。

どの権限を行使しなかったのか。

なぜそう判断したのか。

その判断は今から見て正しかったのか。

不十分だった点は何か。

国民に対して何を説明し直すべきなのか。

これがなければ、森氏の司法改革論は、政治責任を欠いたものに見えてしまう。

結論 再審法を語る前に、検察行政危機の総括を

森まさこ氏が再審法改正や冤罪救済を語ること自体は、否定されるべきではない。

むしろ、元法務大臣として、刑事司法の制度改革に取り組む責任はある。

再審制度の改善に向けて、自民党内で議論を進めることも重要である。森氏自身も、再審制度改正をめぐる党内議論や論点について、SNSや動画で発信している。

しかし、森氏が司法改革を語るなら、まず自らの法務大臣在任期を総括すべきである。

黒川氏の定年延長問題をどう考えるのか。

検察庁法改正案をめぐる混乱をどう総括するのか。

法務・検察行政刷新会議は何を変え、何を変えられなかったのか。

人質司法、取調べの弁護人立会い、証拠開示、検察倫理について、なぜ十分な改革に踏み込めなかったのか。

法務大臣としての指揮監督責任を、今どう受け止めるのか。

この問いに正面から答えなければ、森氏の再審法論は、過去の責任を棚上げした政策論に見えてしまう。

司法改革に必要なのは、美しい言葉ではない。

権力を持っていた時に何をしたか、何をしなかったかの検証である。

森氏が本気で再審制度と司法改革を語るなら、まず国民に対して、法務大臣時代の検察行政危機について、率直な総括を示すべきである。

そのうえでこそ、再審法改正をめぐる言葉に、本当の重みが生まれる。

さくらフィナンシャルニュースは、再審法改正の行方とともに、司法改革を語る政治家自身の責任についても、引き続き厳しく検証していく。


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