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株主の権利は、誰のために奪われるのか 自民党「成長志向型ガバナンス」を検証する 全20回 【第4回】3%から5%は「わずか2ポイント」ではない

さくらフィナンシャルニュース

大企業では数百億円増える株主権の行使コスト

「3%から5%へ」。

数字だけを見れば、わずか2ポイントの引き上げに見えるかもしれない。

しかし、資本市場において、この2ポイントは決して小さくない。

政府・自民党は、株主による臨時株主総会の招集請求要件を、現行の総議決権3%以上から5%以上へ引き上げる方向で議論していると報じられている。背景には、アクティビスト、いわゆる「物言う株主」による過度な経営介入を防ぐという問題意識がある。

自民党のコーポレートガバナンスに関するプロジェクトチームの提言案には、臨時株主総会の招集や株主提案の要件厳格化、業務執行に関する株主提案の制限などが含まれるとロイターは報じている。

だが、ここで冷静に考える必要がある。

3%を5%へ引き上げることは、単なる制度の微調整なのか。

それとも、株主が経営陣に異議を唱えるための実質的なハードルを、大きく引き上げるものなのか。

結論から言えば、これは単なる2ポイントの変更ではない。

必要な持株数は、約1.67倍になる。

そして、大企業であれば、その差は数十億円、数百億円、場合によっては1,000億円単位の負担増になる。

この現実を無視して、「主要国並みにする」「アクティビスト対策だ」と説明するだけでは、株主権の後退を正当化することはできない。

 現行制度の3%は、すでに低いハードルではない

現在の会社法では、一定の株主に対して、株主総会の招集請求権が認められている。

会社法297条は、総株主の議決権の3%以上を6か月前から継続して保有する株主が、取締役に対して、株主総会の目的事項と招集理由を示して、株主総会の招集を請求できると定めている。会社が請求に応じない場合などには、裁判所の許可を得て、請求株主が総会を招集できる仕組みもある。

つまり、現行制度でも、誰でも簡単に臨時株主総会を求められるわけではない。

3%の議決権を持つこと。

6か月前から継続して保有していること。

株主総会の目的事項と招集理由を示すこと。

会社が応じない場合には、裁判所の許可を得ること。

これだけでも、すでに相当なハードルがある。

とりわけ上場企業では、3%の株式を保有すること自体が容易ではない。

時価総額の大きい会社であれば、3%の保有には巨額の資金が必要になる。

それにもかかわらず、さらに5%へ引き上げるというのであれば、政府・自民党は、なぜ現行の3%では不十分なのかを具体的に説明しなければならない。

「アクティビストが増えている」

「企業が対応に追われている」

「短期主義を防ぐ」

こうした抽象的な説明だけで、株主の権利を重くしてよいはずがない。

 3%から5%で、必要資金は約1.67倍になる

3%から5%への変更がどれほど重いかは、単純な計算をすればすぐにわかる。

必要な保有割合は、3%から5%へ増える。

5÷3=1.666……

つまり、必要な株式保有量は約1.67倍になる。

たとえば、時価総額1,000億円の会社であれば、3%は約30億円である。5%なら約50億円になる。

時価総額5,000億円なら、3%は約150億円、5%は約250億円。

時価総額1兆円なら、3%は約300億円、5%は約500億円。

時価総額5兆円なら、3%は約1,500億円、5%は約2,500億円である。

もちろん、これは単純計算である。

実際には、株式を市場で取得すれば株価が上がる可能性がある。流動性の低い銘柄では、希望する株数を集めること自体が難しい。議決権の有無、浮動株比率、安定株主の存在、大量保有報告制度、資金調達コストも関係する。

そのため、実際のハードルは単純な時価総額計算よりもさらに高くなる場合がある。

それでも、この単純計算だけでも明らかである。

3%から5%への引き上げは、株主権の行使コストを大きく引き上げる。

これは、制度上の小さな調整ではない。

株主が臨時株主総会を求めるための入口を、実質的に狭める変更である。

 巨大ファンドより、中小投資家の方が苦しくなる

政府・自民党側は、アクティビスト対策を前面に出している。

しかし、5%要件によって本当に排除されるのは誰なのか。

巨大な海外ファンドだろうか。

もちろん、海外アクティビストにも影響はある。

しかし、資金力のある巨大ファンドであれば、5%まで買い増すことができる場合もある。あるいは、他の投資家と連携し、委任状勧誘や市場での影響力を通じて、会社に圧力をかける手段を持っている。

一方で、より深刻な影響を受けるのは、国内の独立系ファンド、中小規模の機関投資家、長期保有の個人株主、少数株主である。

3%なら何とか届くかもしれない。

しかし、5%には届かない。

こうした株主は少なくないはずである。

つまり、アクティビスト対策の名目で進む制度変更が、実際には巨大ファンドよりも、中小の投資家や少数株主の声を封じる結果になりかねない。

ここに大きな矛盾がある。

本当に問題のあるアクティビストを抑えるなら、不透明な共同保有、大量保有報告制度違反、虚偽説明、市場操作などを狙い撃ちすべきである。

ロイターによれば、自民党PTは、アクティビストによる開示ルール違反への執行強化や、証券取引等監視委員会の体制強化も検討している。

この方向は理解できる。

問題のある行為を取り締まることは必要である。

しかし、それを理由に、適法に株式を保有し、会社法に基づいて臨時株主総会を求める株主の権利まで重くする必要はない。

違法行為への規制と、株主権の制限は別である。

この切り分けを誤れば、企業統治は後退する。

 5%要件は、経営陣にとって都合がよい

臨時株主総会の招集請求要件が3%から5%へ引き上げられた場合、最も安心するのは誰か。

それは、株主から緊急に責任を問われる可能性のある経営陣である。

たとえば、巨額買収に失敗した経営陣。

不採算事業を温存している取締役会。

政策保有株式を抱え続け、資本効率の低さを問われたくない会社。

親会社や支配株主に有利な取引を進めたい企業。

少数株主に不利な条件で再編や非公開化を進めたい会社。

不祥事対応の遅れを総会で追及されたくない経営者。

こうした経営陣にとって、臨時総会のハードルが上がることは都合がよい。

なぜなら、株主が緊急に総会を求める可能性が低くなるからである。

逆に、損をするのは誰か。

会社に重大な問題があると考え、他の株主に判断を求めたい株主である。

経営陣に説明責任を果たさせたい株主である。

少数株主の利益を守りたい株主である。

つまり、5%要件への引き上げは、企業価値を守る制度というより、経営者に対する監視のハードルを上げる制度として機能する危険がある。

数字の引き上げは、心理的な抑止効果も持つ

3%から5%への引き上げは、単に必要資金を増やすだけではない。

株主が行動を起こす前の心理的なハードルも高める。

臨時株主総会の招集を求めるには、株式を取得するだけでは足りない。

議題を設計しなければならない。

他の株主への説明が必要になる。

会社側の反論に対応しなければならない。

法律専門家、財務アドバイザー、広報対応、委任状勧誘などにも費用がかかる。

さらに、会社側から強い反発を受ける可能性もある。

ここに5%という要件が加われば、行動を起こす前の段階で、多くの株主が諦める可能性がある。

「そこまで株式を買い増すのは難しい」

「資金的に割に合わない」

「会社側と争うには負担が大きすぎる」

そう考えて、問題提起を断念する株主が出てくる。

これは、法律上の権利が残っていても、実際には使われにくくなるということである。

制度は、条文に存在しているだけでは意味がない。

本当に必要なときに使えるかどうかが重要である。

5%への引き上げは、臨時株主総会の招集請求権を、法律上は残しながら、実務上は遠い権利に変えてしまう可能性がある。

「国際標準」という言葉だけでは説明にならない

今回の見直しでは、「国際標準」という言葉も使われている。

確かに、海外には日本よりも厳しい株主提案権や臨時総会の招集要件を採用している国もある。

しかし、制度を比較するときに、一部分だけを切り取ってはいけない。

各国の企業統治制度は、全体として設計されている。

取締役会の独立性。

社外取締役の実効性。

少数株主による訴訟制度。

証拠開示制度。

機関投資家の議決権行使。

勧告的決議の制度。

企業買収ルール。

支配株主との利益相反取引への規律。

これらを含めて、全体としてバランスが取られている。

もし日本が、海外の制度のうち、株主の権利を制限する部分だけを導入し、経営者の責任を厳しく問う制度や少数株主を守る制度を十分に強化しないのであれば、それは国際標準化ではない。

経営者に都合のよい部分だけを切り取った制度変更である。

日本企業では、長年、株式持ち合いや政策保有株式、安定株主構造によって、経営者が株主から厳しく責任を問われにくい状況があった。

その構造を十分に是正しないまま、株主権だけを重くするなら、企業統治のバランスはさらに経営者側へ傾く。

「国際標準」という言葉は便利である。

しかし、便利だからこそ注意が必要である。

何を海外に合わせるのか。

何を日本に残すのか。

誰にとって都合のよい国際標準なのか。

そこまで見なければならない。

 アクティビストが増えたことは、改革が進んだ証拠でもある

近年、日本市場ではアクティビストの活動が活発化している。

ロイターは、日本が米国以外で最も活発なアクティビスト市場の一つになっており、ヘッジファンドが株主還元の拡大、政策保有株式の解消、ガバナンス改善を求めていると報じている。

また、2026年の株主総会シーズンでは、アクティビスト投資家による株主提案が過去最多になったとも報じられている。

この動きを、単に「物言う株主が増えて困った」と見るべきではない。

むしろ、日本企業に対して、資本効率、政策保有株式、取締役会の責任、少数株主保護、情報開示が厳しく問われるようになったということである。

それは、日本市場がようやく変わり始めた証拠でもある。

もちろん、アクティビストの要求がすべて正しいわけではない。

短期的な利益だけを求める要求には、企業側も正面から反論すべきである。

しかし、株主の声が強くなったからといって、その声を制度で小さくするのは本末転倒である。

経営者は、株主提案を封じるのではなく、説得すべきである。

なぜその投資が必要なのか。

なぜその買収が企業価値を高めるのか。

なぜその政策保有株式を持ち続けるのか。

なぜその役員報酬が妥当なのか。

なぜその事業を続けるのか。

こうした説明を尽くし、株主の支持を得ることこそ、公開会社の経営者に求められる責任である。

5%要件は、問題を見えにくくする

臨時株主総会の招集請求要件を引き上げれば、問題のある株主行動は減るかもしれない。

しかし同時に、正当な問題提起も減る。

ここが重要である。

企業不祥事。

利益相反取引。

不採算事業の温存。

少数株主に不利な再編。

政策保有株式の過剰保有。

経営者の責任回避。

こうした問題は、会社の内部だけでは表に出にくいことがある。

取締役会が十分に機能していない場合、社外取締役が経営陣に遠慮している場合、安定株主が会社側に賛成し続ける場合、外部株主からの圧力がなければ問題は放置される。

臨時株主総会の招集請求権は、こうした問題を表に出すための制度である。

その要件を重くすれば、問題が解決するのではない。

問題が見えにくくなるだけである。

これは、警報装置の音がうるさいから、音量を下げるようなものである。

警報が鳴るのは、異常があるからかもしれない。

必要なのは、警報を止めることではない。

本当に異常があるのかを確認し、必要なら是正することである。

 株主権の行使コストを上げることは、企業統治の後退である

コーポレートガバナンスとは、経営者を守る制度ではない。

経営者が会社を適切に運営しているかを監視し、誤りがあれば修正するための制度である。

その意味で、株主の権利は企業統治の重要な柱である。

臨時株主総会の招集請求権は、日常的に使われる権利ではない。

しかし、重大な問題が起きたときには、使えなければならない権利である。

その権利のハードルを3%から5%へ引き上げることは、企業統治の非常装置を重くすることである。

それによって経営者は安心するかもしれない。

しかし、会社が強くなるとは限らない。

むしろ、経営者への監視が弱まり、問題が表面化しにくくなり、企業価値の毀損が放置される危険がある。

「3%から5%」は、わずか2ポイントではない。

株主権の行使コストを約1.67倍にする変更である。

大企業では、数百億円単位の追加負担を生む変更である。

少数株主や中小投資家の声を遠ざける変更である。

そして、経営者にとって不都合な臨時総会を開きにくくする変更である。

政府・自民党が本当に企業の成長を考えるなら、株主の権利を狭める前に、経営者の説明責任を強化すべきである。

不透明な共同保有や大量保有報告制度違反を取り締まることは必要である。

しかし、それは株主権の一般的な制限とは別の問題である。

違法行為は厳しく規制する。

正当な株主権は守る。

この区別を守らなければ、企業統治は経営者保護へと変質する。

株主にとって使えない権利は、権利とは言えない。

臨時株主総会の招集請求権を守ることは、物言う株主だけを守ることではない。

日本市場における監視機能を守ることである。

企業に必要なのは、耳障りのよい賛成意見だけではない。

必要なときに警鐘を鳴らす株主の存在である。

その声を制度で遠ざけるなら、「成長志向型ガバナンス」は、成長ではなく、経営者保護の看板にすぎない。

 関連URL・参考資料

・e-Gov法令検索「会社法」
https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086

・会社法 第297条「株主による招集の請求」解説
https://www.zeiken.co.jp/hourei/HHKAI000000/297.html

・ロイター「Japan’s ruling party warns about suspected collusion between activist investors and private equity」https://www.reuters.com/legal/government/japans-ruling-party-warns-about-suspected-collusion-between-activist-investors-2026-07-17

・ロイター「Japan’s ruling party plans tighter oversight of disclosures by activist investors」
https://www.reuters.com/legal/government/japans-ruling-party-plans-tighter-oversight-disclosures-by-activist-investors-2026-07-08

・ロイター「Japanese firms field record proposals from activists at this year’s shareholder meetings」https://www.reuters.com/legal/government/japanese-firms-field-record-proposals-activists-this-years-shareholder-meetings-2026-06-08

・法務省「会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する中間試案」https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900001_00333.html

・法務省「法制審議会 会社法制(株式・株主総会等関係)部会」
https://www.moj.go.jp/shingi1/housei02_003007_00014.html

・Wikipedia「株主総会」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A0%AA%E4%B8%BB%E7%B7%8F%E4%BC%9A

・Wikipedia「株主」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A0%AA%E4%B8%BB

・Wikipedia「会社法」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BC%9A%E7%A4%BE%E6%B3%95

・Wikipedia「コーポレート・ガバナンス」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%9D%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%AC%E3%83%90%E3%83%8A%E3%83%B3%E3%82%B9

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