さくらフィナンシャルニュース 編集部
第1回から第20回まで、私たちは自民党の「成長志向型ガバナンス」を検証してきた。
そこで問うてきたのは、ただ一つである。
株主の権利は、誰のために奪われようとしているのか。
株主提案権を重くする。
臨時株主総会の請求権を重くする。
業務執行という広い言葉で、資本配分や政策保有株式に関する提案を制限する。
アクティビスト対策の名で、株主の制度的発言力を弱める。
これらの制度変更は、本当に企業価値を高めるのか。
それとも、経営者、創業家、支配株主、親会社、安定株主を守るだけなのか。
第20回までの結論は明確だった。
株主の声を弱める市場に、真の成長はない。
「物言う株主」を黙らせる国に、資本市場の未来はない。
しかし、ここで連載を終えてはいけない。
なぜなら、批判だけでは制度は変わらないからである。
第21回からは、議論を次の段階へ進める。
すなわち、批判から対案へである。
これから問うべきは、何をどう直すべきかである
自民党の「成長志向型コーポレートガバナンス改革」をめぐる議論は、単なる政治的スローガンではない。
会社法、金融商品取引法、東京証券取引所の上場制度、コーポレートガバナンス・コード、実質株主確認、株主総会、株主提案権、TOB、MBO、政策保有株式、少数株主保護に関わる問題である。
自民党は2026年7月、「企業価値を伸ばし続けるガバナンス改革への提言」を公表し、その目的を、日本企業が企業価値を伸ばし続けるための成長志向型ガバナンスの確立だとしている。提言では、コーポレートガバナンス改革をさらに進めるという建前が示されている。
だが、問題は名前ではない。
中身である。
成長志向という言葉を掲げながら、株主提案権を重くするのか。
企業価値向上を掲げながら、経営者に不都合な株主の声を制度で遠ざけるのか。
投資家との対話を語りながら、株主が正式に問いを出す入口を狭めるのか。
ここを見なければならない。
会社法改正は、誰のための改正なのか
第21回以降で最も重要になるのは、会社法改正の読み方である。
法務省は2026年3月18日、「会社法制(株式・株主総会等関係)の
見直しに関する中間試案」を取りまとめている。対象は、株式、株主総会、株主提案権など
会社と株主の関係を決める根幹部分である。
会社法は、経営者のためだけにある法律ではない。
会社側の事務負担を軽くするためだけの法律でもない。
会社法は、会社と株主の力関係を決める基本ルールである。
どの株主が、どのような条件で株主提案できるのか。
株主総会で、どのような議題を出せるのか。
会社側は、どのような提案を拒否できるのか。
少数株主は、会社にどう声を届けられるのか。
支配株主や親会社に有利な取引を、どう監視するのか。
これらは、すべて会社法の問題である。
だからこそ、会社法改正は、経営者側の都合だけで進めてはならない。
「株主提案が増えて大変だ」
「総会対応の負担が重い」
「アクティビストがうるさい」
このような会社側の不満だけで、少数株主の権利を狭めることは許されない。
株主提案が増えたのは、制度を壊す理由にならない
近年、日本企業への株主提案は増えている。
ロイターは、2026年の株主総会シーズンに、日本企業がアクティビスト株主から
過去最多規模の提案を受け、2026年6月3日時点で139件の提案が提出されたと報じている。
これを見て、「株主提案を制限しなければならない」と考えるのは、短絡的である。
株主提案が増えたこと自体が問題なのではない。
株主提案が増えるほど、日本企業に問われるべき問題が残っていることこそが問題なのである。
低PBRが放置されている。
資本効率が低い。
政策保有株式が多い。
株式持ち合いが残っている。
取締役会の独立性が弱い。
親子上場や支配株主取引に利益相反がある。
非公開化やTOBで、少数株主の退出価格が本当に公正なのか疑問が残る。
こうした問題があるから、株主提案が出る。
株主提案は、問題の原因ではない。
問題を可視化する手段である。
熱が出たから体温計を壊すような制度改革をしてはならない。
東証改革と会社法改正は、同じ方向を向いているのか
東京証券取引所は、上場会社に対して「資本コストや株価を意識した経営」を求めている。
東証は2023年3月から、プライム市場・スタンダード市場の上場会社に対し、資本コストや資本収益性の把握、市場評価の分析、改善方針の開示、投資家との対話を求めてきた。さらに2026年4月には、その要請のアップデートも公表している。
これは、日本市場にとって重要な改革である。
企業は、資本を預かっている。
預かった資本を、どこに投じるのか。
成長投資に使うのか。
研究開発に使うのか。
人的資本に使うのか。
政策保有株式として眠らせるのか。
株主還元に回すのか。
不採算事業に置き続けるのか。
これを説明する責任がある。
ところが、会社法改正や政治側の議論が、株主提案権や臨時株主総会請求権を
弱める方向へ進めば、東証改革と矛盾する。
一方では「投資家と対話せよ」と言う。
他方では「投資家が正式に問いを出す制度を重くする」と言う。
一方では「資本コストを意識せよ」と言う。
他方では「資本配分を問う株主提案を出しにくくする」と言う。
この二つは、本当に同時に成り立つのか。
第21回以降では、この矛盾を正面から問う。
本当に必要なのは、株主権制限ではない
では、本当に必要な制度改革とは何か。
それは、株主権を弱めることではない。
必要なのは、透明性の強化である。
必要なのは、違法行為の摘発である。
必要なのは、不透明な共同保有の開示である。
必要なのは、買収ファンドとの利益相反の検証である。
必要なのは、非公開化取引における少数株主保護である。
必要なのは、政策保有株式の合理性検証である。
必要なのは、取締役会の説明責任である。
必要なのは、一定の賛成率を得た株主提案に対する会社側の応答義務である。
アクティビストに問題行為があるなら、そこを取り締まればよい。
大量保有報告制度違反があるなら、摘発すればよい。
虚偽説明があるなら、処分すればよい。
市場操作があるなら、厳しく罰すればよい。
買収ファンドとの不透明な合意があるなら、開示させればよい。
それなのに、なぜ株主提案権そのものを重くするのか。
なぜ臨時株主総会の請求権を重くするのか。
なぜ政策保有株式や資本配分への提案まで、業務執行への干渉として排除しようとするのか。
ここに、制度改革のすり替えがある。
第21回以降で検証する論点
この続編では、以下の論点を順番に検証していく。
まず、法務省の会社法制見直し中間試案を読む。
株主総会と株主提案権は、誰のために見直されるのかを確認する。
次に、300個要件を取り上げる。
300個要件は、単なる技術的な数字ではない。
大企業において、少数株主が株主提案を出すための入口だった。
これを外し、1%要件だけに寄せるなら、少数株主の声は大きく狭められる。
次に、臨時株主総会の請求権を取り上げる。
不祥事、MBO、TOB、支配株主取引、経営トップの責任問題など、次の定時総会まで待てない局面は存在する。
臨時株主総会請求権は、会社を混乱させる制度ではない。
重大局面で、株主が経営者に説明を求める非常ブレーキである。
さらに、「業務執行への干渉」という言葉の危険を検証する。
この言葉が広く使われれば、政策保有株式、事業ポートフォリオ、不採算事業、資本配分、MBO価格、親子上場問題に関する提案まで排除されかねない。
そして、実質株主・共同保有規制、アクティビストと買収ファンドの関係、政策保有株式、東証改革との矛盾、本当に必要な会社法改正案へと進めていく。
最後は、小林ふみあき議員に問う。
これは成長戦略なのか。
それとも、経営者保護なのか。
批判から対案へ進む理由
この連載は、単なる反対論で終わるつもりはない。
もちろん、株主権制限には反対である。
しかし、それだけでは不十分である。
資本市場に本当に必要な改革を示さなければならない。
たとえば、株主提案者の背景開示は強化してよい。
提案者がどれだけ株を保有しているのか。
他の投資家とどのような関係にあるのか。
買収ファンドとの合意があるのか。
提案によって誰が経済的利益を得るのか。
こうした情報は、他の株主が判断するために重要である。
また、非公開化取引では、少数株主保護をさらに強化すべきである。
TOB価格は公正か。
特別委員会は独立しているか。
価格交渉過程は開示されているか。
マジョリティ・オブ・マイノリティは重視されているか。
フェアネス・オピニオンは形式ではなく実質を持っているか。
これらは、少数株主の退出価格を守るために必要である。
さらに、政策保有株式についても、保有合理性の検証と開示を強化すべきである。
本業投資より合理的なのか。
資本コストを上回るのか。
取引関係維持という説明だけで足りるのか。
議決権行使において、会社側を守る安定株主として機能していないか。
ここを問う必要がある。
つまり、本当に必要なのは、株主を黙らせる改革ではない。
市場を透明にする改革である。
経営者に説明させる改革である。
少数株主を守る改革である。
会社法は、経営者を守る盾ではない
会社法は、経営者を守る盾ではない。
会社法は、会社と株主の関係を公正にするための市場インフラである。
株主提案権があるから、株主は資本配分を問える。
臨時株主総会請求権があるから、重大局面で経営者に説明を求められる。
議決権行使があるから、取締役に信任と不信任を示せる。
少数株主保護があるから、投資家は安心して資本を入れられる。
これらを弱めれば、経営者は楽になる。
しかし、経営者が楽な市場に、成長はない。
あるのは、説明責任の後退である。
あるのは、政策保有株式の温存である。
あるのは、安定株主構造の維持である。
あるのは、少数株主保護の低下である。
あるのは、海外投資家から見た制度リスクの上昇である。
「会社のため」という言葉で、株主の声を消してはならない。
「長期成長」という言葉で、経営者の説明責任から逃げてはならない。
結論 会社法改正は、少数株主保護のために行え
第21回の結論は明確である。
これから問うべきは、株主をどう黙らせるかではない。
経営者にどう説明責任を果たさせるかである。
問うべきは、株主提案をどう減らすかではない。
不透明な市場行為をどう摘発するかである。
問うべきは、臨時株主総会の請求権をどう重くするかではない。
重大局面で少数株主がどう会社に説明を求められるかである。
問うべきは、政策保有株式への提案をどう排除するかではない。
政策保有株式の合理性をどう検証するかである。
問うべきは、アクティビストをどう締め出すかではない。
資本市場の透明性と公正性をどう高めるかである。
自民党が本当に「成長志向型ガバナンス」を掲げるなら、会社法改正は経営者保護のために行ってはならない。
会社法改正は、少数株主保護のために行え。
透明性のために行え。
市場規律のために行え。
資本コストを意識した経営を実効化するために行え。
株主の声を消すためではなく、会社に説明責任を果たさせるために行え。
第21回からの続編では、この一点を軸に、会社法改正と対案を検証していく。
株主の権利は、誰のために奪われるのか。
この問いは、まだ終わっていない。
むしろ、ここからが本番である。
【 関連URL・参考資料】
・自由民主党「企業価値を伸ばし続けるガバナンス改革への提言」
https://www.jimin.jp/policy/policy-related/strategic-investment-growth/corporate-governance-reform-proposal.html
※自民党の成長志向型ガバナンス改革の提言本文として使えます。
・法務省「会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する中間試案」
https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900001_00333.html
※会社法改正、株式・株主総会・株主提案権の見直しに関する公式資料として使えます。
・日本取引所グループ「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」
https://www.jpx.co.jp/equities/follow-up/02.html
※東証改革、資本コスト、投資家との対話、PBR改善の文脈で使えます。
・日本取引所グループ「『資本コストや株価を意識した経営』に関する要請のアップデートについて」https://www.jpx.co.jp/news/1020/20260428-01.html
※2026年4月の東証アップデート資料として使えます。
・Reuters「Japanese firms field record proposals from activists at this year’s shareholder meetings」https://www.reuters.com/legal/government/japanese-firms-field-record-proposals-activists-this-years-shareholder-meetings-2026-06-08
※2026年の日本企業の株主総会で、アクティビスト提案が過去最多規模になった流れの参考資料として使えます。
・Wikipedia「株主提案権」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A0%AA%E4%B8%BB%E6%8F%90%E6%A1%88%E6%A8%A9
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